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化物と暗殺者

「なんで監禁なんかしたんだろうね……」

「……わからない……」


 一方そのころ、エデルはヘレイナからなぜ監禁されているのか等の話を聞いていた。

 だが収穫はゼロ。ある日急にゲールハルトの様子がおかしくなったのをきっかけにヘレイナはこの檻に閉じ込められていたと言う。

 そのおかしくなった理由も、ヘレイナは知らない。


「もし仮に外に出れたらどうする?」

「……外に?」


 ふと、唐突に気になった質問を投げかける。

 普通ならお盛んで多感な時期な年頃であるヘレイナ。エデルはそんな少女が何を以って外への思いを吐くのか純粋に気になっていた。


「……邪神さまに会ってみたい」

「えっ、邪神?」

「そう。外に出れたら会えるってあの人が言ってたから……」


 外に邪神は果たしていただろうか。見てないだけで実は近くにいたのかもしれないし、もしかしたら住人の中にいたのか知れないし、ヘレイナが外に出たときにだけ邪神が現れるのかもしれない。

 だがエデルは心の中で断言する。邪神などこの世には存在しないと。

 そもそも邪神という存在をエデルは信じていない。エデルだけではない。この世界の人間は魔王という存在は認識していても、邪神などと呼ばれるものは空想上のラスボスってのが常識となっている。

 しかし常識が通じないのがヘレイナだ。

 監禁されてもう二年は経ったのではないかとヘレイナは話した。そのせいか、12歳ながらにして教養がどうとか言えるレベルではないほどに酷くなっている。

 空想上の怪物が本当に実在すると思い込むほどに……。


「いいか? 君に本当のことを――ん?」


 だがここで何か察知したのか、会話の途中だがエデルは急に立ち上がり牢から出たかと思うと、自分たちが入ってきた入口の扉を何故か見つめていた。

 唐突な行動に、ヘレイナは首をかしげる。


「どう……した?」

「……来る。耳を塞げ」


 意図は分からないが、ヘレイナはとりあえず言う通りにする。

 その瞬間――入口の扉が大きな音をたて、爆発したかのようにあらぬ方向へ飛んでいった。

 土煙が巻い上がり、向こう側から雷を帯びた人型のシルエットが現れる。


「……だれ」

「さぁ? しかし、穏やかではなさそうだ」


 次第に土煙は晴れ、影だったシルエットはその姿を現した。

 全身を黒装束で固め、その顔は梟の仮面で隠され性別すら分からない。

 異質だったこの空間にさらに危険を匂わせる者が現れ、エデルは警戒心を高める。


「……やはり貴様だったか」

「ん? どこかでお会いましたか?」

「いや、これが最初の出会いだよ。まぁ……最後でもあるがな!」


 そう言うと、仮面の者は自分の胸が地面とスレスレになるほどに姿勢を低くし梟越しでエデルを睨む。


「創るは閃光の如く――。《ア・モーメント》」


 これは詠唱。魔法を使うに必要な文言。

 エデルは詠唱する声を聞き、初めて対峙している者が自分へと敵意が向いたのを知った。

 知ったのち、エデルの首は飛んだ。

 一瞬のことだった。ヘレイナから見れば仮面の女が何か詠唱したかと思えば、いつの間にかエデルの背後に現れ、首を飛ばしていた。

 その証拠に、仮面の女の右手には雷の残滓と共に大量の血が付着していた。


「君が悪いんだ」


 仮面の女はヘレイナへ視線を向け、深淵から響くようた冷たい声で言い放った。


「君に同情する気はない。ワタシはこの任務を最優先するし、感情を優先する。この心に他を入れる余裕はない」

「……そう」


 ヘレイナはそれ以上思うことはないのか、もう言葉は発さず黙って梟の仮面を見つめる。

 お互いが見つめる形になる。仮面の女もこれ以上話すことはないのか、すぐに行動を移そうと鉄格子の扉に手をかけようとする。


「いやぁ、いいですねぇ。あなたの発する一言一言はとても人の心に刺さる。是非とも私も真似してみたいものです」

「!?」


 あるはずがない男の声が聞こえ、仮面の女はすぐさま振り返る。

 視線の先には首から上のない体が仁王立ちしており、その右手にはエデルの頭を掴んで持っていた。


「あぁ、このままじゃ気持ち悪いですよね。よっと……」


 声は首だけとなったエデルから発せられていた。死体だったはずの体はひとりでに両手で頭を掴み、エデル自らのあるべき場所にその首をくっつけた。


「化物が……っ!」


 仮面の女はすぐに行動に移した。

 先ほどのように体を低くし、今度は心臓を奪いに雷光の如きスピードでエデルを殺そうと詠唱を開始する。

 しかし……。


「見えてるよ」

「なっ!?」


 仮面の女の詠唱は成功し、エデルの心臓を狙える距離まで近づくも突如魔法の効力は切れ、勢いを失っていた。

 その隙を見逃さず、エデルは女の右手を掴み背負い投げの形で彼女を背中から地に強く打ちつけた。

 仮面の女はそのまま天井を見上げる形で倒れ、起き上がるのが難しいほどの呼吸困難に陥る。


「どうですか? 化物渾身の背負い投げは? 呼吸が難しいと思いますが一時的なものですのでご安心を」

「……どういう……ことだ……」

「ん?」

「どうしてお前は生きている……。それにワタシの身に一体……」

「あー、それなら話は簡単ですよ」


 そう言うとエデルは見下す形で仮面の女を見る。


「それ……は……」


 エデルの双瞳を見て、仮面の女は驚愕の声を上げた。

 魔方陣だった。

 先ほどまで黒かった瞳は禍々しいほどに朱く輝き、中から六芒星が浮かび上がらせていた。

 到底人間には到達できない領域が、仮面の女を戦慄させていた。


「この目は魔眼。どんな魔法も打ち消す人間には創造することは叶わなかった神の領域。それが何故私に宿っているのか? 理由はただ一つ、それは私が――」

「英雄殺し」

「って……え?」


 エデルがどこか自慢げに需要なことを語ろうとするが、仮面の女の一言でその誇らしげな顔は崩れた。


「お前……が……」


 仮面の女は他にも何か言い残そうとするが、魔眼の瘴気に当てられたのか倒れたまま気絶してしまった。


「あれ? なんでここで気絶? そんなに背負い投げが効きましたか?」


 当の本人であるエデルは、仮面の女が何故気絶したのか分かっていなかった。

 思わずため息を吐き、すぐさま頭にある疑問が浮かんでくる。


「……ねぇ、ヘレイナちゃんは英雄殺しって知ってる?」

「……知らない」


 エデルは振り返り、黙って見ていたヘレイナへ率直な疑問をぶつけるも首を横に振られる。


「まぁ、知らないものは仕方ない。しっかし……どうしようか?」

「……何か、起きてる?」

「かもしれないね。ちょっと外の様子でも見て来るか」


 突然の不審者の襲撃。狙いはおそらくヘレイナで自分への攻撃はその過程に過ぎないとエデルは推測する。

 エデルは部屋を出てゲールハルトにこのことを知らせようと足を進めようとする。


「待って……ぐっ!」


 だが、ヘレイナの一言で足は止まる。

 振り返るとヘレイナは立ち上がろうとしながらも、脚に力が入らないのか膝が震え次には前に四つん這いに倒れる。

 それを何回も繰り返すヘレイナが見ていられなくなり、エデルは彼女の近くに寄り落ち着かせる。


「いきなりどうした?」

「……わたしも連れてって」


 相変わらず虚ろな瞳だが、その声はこれまで聞いたどの言葉よりも感情が乗っていた。

 無機質に聞こえるが、エデルにはしっかり伝わっている。


「でもここから出したら怒られるのでは? 主に自分が」

「大丈夫。今は異常事態。あなたがちゃんと説得すれば問題ない。お願い、おんぶして」

「急に饒舌な上にちゃっかりおんぶを要求してらぁ……」

「お願い」

「……まぁ、この仮面の者がいつ起きるか分かんないし、ここで一人にするのはむしろ愚策かもしれないな」

「うん」


 エデルの言葉に満足したのか、ヘレイナは両手を挙げておんぶ待ちを示す。

 やれやれと思いエデルはヘレイナの手を首の前に持っていき、12歳にしては軽すぎるその体をおんぶする。


「腹減ったなぁ」

「……同じく」


 お腹を空かせた二人は、異常事態を知らせるついでにご飯をもらうことをここに決めた。


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