暗殺者集団ロード
時は深夜まで進み屋敷の明かりは全て消灯していた。
メイド含め全ての住人は寝静まっており、エデル達が今も食事が来ずお喋りで暇をつぶしている中、ゲールハルト低の門前に長身のメイドが一人佇んでいた。
手元の懐中時計を見つめ、彼女は時が来るのを待つ。
――時計の針はまもなく一時へとさす。
「……時間です」
その一言が合図となり、彼女の周りに仮面を被った四人の集団が集まる。
全員が黒装束を身にまとい、メイドが彼らの存在を確認すると長いスカートの中から犬の仮面を取り出し自らの顔にはめる。
「ニュー、状況はどうだ」
切り出すは男とも女ともとれる中世的な声の梟の仮面をつけた者。
「アルファ様……。それが、少し予定外のことが起きまして……」
「……もしかして、黒髪の青年か?」
「はい。名前はエデル。どうやら何でも屋らしくゲールハルトにリヒヴァスに関する依頼をされたと思われます。側近のバトラから催眠魔法で聞き出したので間違いないかと……」
「そうか……。はぁ……」
少しばかりの溜息。
アルファは何か思うところがあるのか、そんな様子の彼女に猿の仮面をつけた大柄な男が口を出す。
「おいリーダー。まさかここで計画を変更するなんてことはねえよな?」
「落ち着けイプシロン。不穏分子がある以上、ここで撤退するのも一つの手だ……」
明らかに気が立っているイプシロンをなだめるは、兎の仮面をつけた小柄の少年。
あくまで冷静に分析し、意見を出す。
「おい、シータ。何事にも引きたがるのはお前の悪い癖だ。いつもはいいが今日ばかりはその意見には賛成できねえな」
「僕はあくまでこのロードのために意見を出しているだけだ。それに、決めるのはお前じゃない。リーダーであるアルファだ」
「ちっ……」
シータの言葉に、全員がアルファに視線を向ける。
「……」
しかし、皆がアルファの言葉を待つが何か思い耽る彼女から言葉が出てくることはない。
「おい、黙ってねえで早く――」
「アルファ。指示を」
沈黙に苛立つイプシロンを手で制止し、鷲の仮面を被った男は端的にアルファを促す。
場のピリっとした雰囲気に、アルファはハッとなる。
「す、すまないベータ」
「いや、いい。それより、指示を」
ベータの言葉にアルファは気を引き締める。
一度深呼吸をし、一同を見つめ指示を出す。
「……計画は変更しない。ニューはゲールハルト・ロタールの殺害を。ベータ、イプシロン、シータは各部屋へ行き証拠の回収に動け。ワタシは最重要対象、ヘレイナ・ロタールの殺害に動く」
アルファの指示に、全員が頷く。
失敗は許されない。至極当たり前のことだが、今日ばかりはよりいっそうこの思いを引き締めなければならない。
暗殺集団ロードは、今から世界を救いに行くのだから。
「……散開!」
アルファの言葉を皮切りに皆が自分の使命に準じ、成すべきことをしに動く。
□
殺害の指示を受けた犬面のニューは、ゲールハルトが眠る寝室の前へ到着する。
扉に聞き耳を当て、経験によって研ぎ澄まされた感覚で中の様子をうかがう。
「……おかしい」
中から寝息が全くしないのだ。
ニューは不審に思い、すぐさま扉を開ける。
「これは、いったい……」
中からは鼻を強く刺激するほどの異臭がしており、肝心のゲールハルト本人は目を引ん剝くほどの驚愕な表情で横に倒れていた。
しかも肩から下の右腕が引きちぎられたかのように無くなっており、明らかに中で異常なことがあったことが見て取れた。
「……状況を知らせないと」
深く考えることよりもすぐに部屋を出て、他の仲間を探しに屋敷の中を走り回る。
仲間たちの詳しい場所を知らないため、目に入る全ての扉を一つずつ開けていくが、どの部屋にも人っ子一人見当たらない。
寝ているはずの、他のメイドすら……。
「まずい……。まずいぞ!」
焦燥感がニューを襲う。何より彼女が心配しているのは、仲間たちの安否だ。
最悪、証拠が見つからなくても撤退したほうがいいと考えていた。
そう結論づけていた時だった。
「……ぁ……っぐ……」
「!」
次の扉を開ける前に、部屋の中から誰かの呻き声が聞こえくる。
こういう時、すぐに冷静になれるのはニューのいいとこだ。すぐさま聞き耳を立て中の様子をうかがう。
「……ニュ……にげ……」
「……っ!?」
だがこういう時、冷静になれないのはニューの悪い癖だった。
中から仲間の声が聞こえると、すぐさま扉を開けてしまった。
「おや、もう一匹釣れましたな」
そこにいたのは、余裕な顔で傷だらけのベータの首を右手で絞め上げるバトラの姿だった。
ニューの姿を確認し用済みになったのか、手首を少し動かすだけでベータは宙へ放り投げられ異常な速度で顔面から壁へ衝突する。
そのまま地面へずるずると落ちていき、下にできていた血だまりの中に浸っていった。
イプシロンとシータもいる、その血だまりの中に……。
「あ、あぁ……」
「やぁ、ニューさんでしたっけ? わたくしめの意見は参考になりましたか?」
「……クソッ。自分のせいだ」
「えー、そうです。あなたのせいです」
「……自分はまんまと踊らされたってわけですか」
「えぇ。いい踊りっぷりでしたよ」
バトラはひたすらニューへ煽り続けるも、仮面越しでは表情は分からないためすぐにつまらなさそうな顔へと変化する。
しかし、バトラはすぐに見抜く。ニューの体が小刻みに震えているのを。
「……自分の失敗で仲間を死なせてしまった……」
「……ん?」
「不甲斐ない自分が許せませんよほんと。そもそも元から自分には不相応だったんですよ暗殺業なんて。だからこうして取り返しのつかないことになる。あの頃のように大人しくメイド業をやってれば良かったんですよ本当に……」
ぶつぐさ文句を言うニューだが、喋りながらも仮面の位置を整え前傾姿勢になり、次第に呼吸を殺しはじめる。
そして……。
「なのでコレが最後の仕事です。メイドの土産としてあなたを仲間たちの下へ贈りたいと思います」
次の瞬間には既にニューは動いていた。アルファには劣るもその速さは常人には見ることすらできない速さだ。
あくまで、常人にはの話だが。
「いい事を思いつきました」
バトラは見えていた。しかし動こうとはしない。
笑みを浮かべまっすぐ来るニューへ向かい、ただ掌を向けるのみ。
「グッドラック」
嘲るようにバトラが呟く。
この言葉の意味を知るのは、きっと先の話だ。
少なくとも今ではない。
元々ストックを作ってないのと忙しさで毎日投稿無理そうです。あとこの回はいつか改稿するかもしれません