放浪
迷子になってからどれ程経っただろうか。
どこまで歩いても変わり映えのしない森の風景。
なんだか同じところをぐるぐる回っている気がしてきたな。
「ここ来るの、9回目……」
「……だよな」
うん。間違いなく同じところをぐるぐる回ってる。
魔物もなんか弱いのばっかりだしなぁ。
これじゃ修行にならねぇ。
それに……
そろそろ空腹感がヤバい。
もうすっかり日が暮れている。
朝に出発して歩き続けているから疲労もしてる。
せめて、水場を見つけて水分補給をしたい。
持ってきていた水も飲みきったし……
そこでふと気づいた。
なんかさっきから咀嚼音が聞こえる。
後ろを振り返ると……
イリスが赤い果実を食ってた。
「……イリス。それどこから取ってきたの?」
「……ん」
イリスはすっと真上を指さした。
そこにはいくつかの赤い果実がなっていた。
「……それ、もう少し早く教えて欲しかったな」
赤い果実はヤーブラの実というこの世界では結構メジャーな果物らしい。
サイズも味も食感も見た目すらもリンゴ。
リンゴとの違いは芯まで真っ赤なことぐらいだ。
果汁も豊富で超うまい。
こんな風に実がなってるとは知らなかったけど。
俺は適当に木によじ登ってヤーブラの実を取ってかぶりつく。
甘い果汁が渇いた喉に流れ込む。
……少しはマシになったな。
しかし、これからどうするか。
とりあえず水場を見つけたい。
が、さっきから周回しているこ?の周辺には水場はなかった。
「どうすべきかな……」
「……それの逆に行けば?」
イリスがすっと俺の腰に下がっている皮袋を指さす。
……そうじゃん。
これの逆にひたすら歩けば城とは逆の方向に行くし、ぐるぐる回ることもない。
ただ、それももう少し早く言って欲しかった。
そうして歩いて10分ほどであっさり俺達は森から出た。
この周辺はあまり起伏のない平野らしく、辺りを容易に見渡すことが出来た。
「こんなにあっさり出られるとか……さっきまでの努力はいったい……」
「……てっきりあの狼を狩るためだと思ってた」
「あんなの倒しても大して経験値手に入ってないだろ。効率悪いにも程がある。……さて、と。多分この森がヌーゼの森ってやつだよな。これでようやく母さんの領土を出たわけだ」
「これからどうするの?」
「そうだなぁ……」
このヌーゼの森は魔王の領土とこの先の人間の国々の領土との境目らしい。
魔王領は経験値の入手に手頃な魔物が少ない。
基本的に魔王領にいる魔物の殆どは魔族だが、魔王領での魔族の殺害は犯罪になるし、魔獣も少しは居るが非常に危険で修行の相手にするには強すぎる奴が多いらしい。
逆に人間の国々の領土は魔族は殆どおらず、そんなに強くない魔獣が多いらしい。
アンナのおすすめ修行先だ。
俺達は以前、修行に行くことをアンナに相談してある。
その時、いくつかのおすすめの場所と、絶対やめておいた方がいい場所を教わった。
その中でアンナのイチオシは人間の国々の魔獣狩り。
逆にやめておいた方がいい所は他の魔王の領土と、大陸の東の端にある国。
この世界には母さんの他にも魔王と呼ばれる奴がいるらしく勢力争いをしている。
他の魔王に捕まって母さんの迷惑になる様なことは無いようにするためにも他の魔王の領土は修行場所として論外だった。
一方、大陸の東の端にある国は人間が治める国なのだが、アンナは魔王の領土よりも危険だと言っていた。
その国は人間が頂点に君臨していて、領内の魔物は全て問答無用で討伐されるらしい。
しかもその国を治めている人物は人間でありながら、並の魔王よりも強いのだとか。
ところで並の魔王って何だろう?
まぁそれはともかく、俺達はこんな感じのアンナのアドバイスに従って東の端の国より手前の人間の国々で修行をすることにしたのだ。
だが、食料や飲料、寝床とかの問題点は考えてなかった。
まぁ1日あれば人間の国の街に着くだろ、とか楽観視してたおかげで対処方を考えていなかったのだ。
「とりあえず、水場を探すか」
俺は暫く悩んでから、目標を決めた。
とにかく、池か川を探す。
なぜなら喉が干からびているから。
そうして俺達は水を求めてさまようことになったのだった。