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訓練

 少女と約束をとりつけた翌日の授業を俺は何とかこなして自室に戻った。

 俺の自室はベッド、机、椅子ぐらいしかない質素な部屋だ。

 さほど大きい訳ではなく、部屋の飾りもない。

 唯一、部屋の奥にはバルコニーに出ることが出来る大きな窓がある。

 そこからの景色はなかなかいい。

 西側に面しており、正面にある大きな山々に夕陽が沈んで行く光景はまさに絶景で、俺の日々の楽しみでもある。


 さて、俺はその後夕食を終えて中庭に出た。

 昨日と同じように少女はそこにいるのではと考えたのだ。

 案の定、彼女は中庭の池の前にいた。

 彼女はこちらに気付くと、手招きをしてきた。

 彼女のそばまで行くと、無言のまま、木刀を手渡して庭に生えている木の枝に紐でぶら下げた布の塊を指さした。

「あれを的にして剣を触れってことか?」

 確認すると少女は頷いた。

 こんなものは、さっきまでなかったことから少女がわざわざ用意してくれたということだろう。

 なんだか嬉しいな。

 とりあえず、いつも通りに木刀をかまえる。

 すると少女は俺の身体に覆いかぶさるようにして構えの修正を行い始めた。

 やがて少女の納得のいく構えになったのか、そっと離れていった。

 凄いいい香りがしたので離れていったことを少し残念に思いながら、俺は布の塊目掛けて木刀を振るった。

 すると、いつもよりも力強く振るうことが出来た。

 昨日見た少女の素振りよりかはぎこちないが、今までよりも明らかに武器を振るいやすい。

 それを見て少女は俺の隣に立ち、同じように武器を振るった。

 見て学べということなのだろうか?

 真似をして武器を振る。

 すると少女は首を横に振り、もう一度武器を振るった。

 どうやら今のはダメだったらしい。


 こんな感じで俺と少女の訓練は続いた。

 そして夜も更けてきた頃、少女は武器をおろして木によじ登り、

 布の塊を吊るしていた紐をほどいた。

 今日はこれで終わりらしい。

「ありがとう。付き合ってくれて」

 木刀を返しながら感謝を伝えると、少女は無言のままだが少し照れくさそうにしながら木刀を受け取り、自分の部屋に戻っていった。

 俺はしばらくそこに佇んでいた。

 理由?

 少女の照れた顔がとんでもなく可愛かったからだ。

 その顔は俺の脳内メモリーにきっちり焼き付けられた。


 さて、それから幾日か経った。

 あの日から俺と少女の訓練は毎日行われた。

 おかげで俺の剣術も結構様になってきた。

 まあ、まだまだ少女には及ばないのだが。

 というか少女は剣術の技術だけならアルフレッドよりも上だ。

 あの年で一体どれだけの鍛錬を行えばあのレベルの剣術が身につくのだろう?

 まあそれでも、少女はアルフレッドに勝つことは出来ないだろうが。

 身体能力のレベルが違うのだ。

 俺が見た中で母さんの次に馬鹿力なのはアルフレッドだ。

 それに、アルフレッドの専門は徒手空拳であって剣術ではない。

 母さんが異常すぎる力を持っているせいで分かりづらいがアルフレッドも大概化け物だな。

 そんなこんなで過ごしていたある日のことだ。

 その日、俺達は地下室で魔術の訓練を行った。

 魔術は少女よりも俺の方が得意だ。

 数少なく少女に勝てる部門なのでこの訓練の時はいつも俺のテンションは高い。

 今では手から雷を出すことや、岩の塊を生成して打ち出すとかができるようになった。

 特に闇属性魔法は闇エネルギーを圧縮した弾を打ち出すだけでなく、膜のように展開して結界を張ることも出来るようになった。


 逆に少女の方は難航しているようだ。

 光の玉を打ち出すことはできるのだが、威力が低いのだ。

 アルフレッドによると少女は魔力の総量が少ないらしい。

 つまり、少女は魔法は向いていないということらしい。

 しかし、少女の魔法は十分ヤバい。

 夜の訓練の時に見せられたのだが、少女は剣に光属性魔法を纏わせて切ることでとんでもない威力の一撃を振るうことが出来るのだ。

 俺も同じようなことができはするが剣術の腕は鈍いので全然使いこなせない。

 やっぱり一芸を極めるとそれだけで強力無比な技になるんだなぁ。


 そして訓練を終え、俺達は上に戻ろうとした。

 次はアンナの授業だ。

 アンナは時間に厳しく、遅刻すると怖い。

 なので急いで戻ろうとしたのだが……。

 ふと俺は立ち止まった。

 アルフレッドは先に上に戻っており、地下には俺と少女しかいない。

 そのはずだ。

 なのに何故かひとつの部屋から話し声のような音が聞こえた気がした。

 地下の殆どは物置で普段人は立ち入らない。

 なのに話し声がしたことに疑問を抱いたのだ。

 立ち止まった俺に疑問を抱いたのか少女も立ち止まり俺の方を見ている。

 俺は好奇心から声のした方に向かってみることにした。

 少女は俺のあとをついてくる。

 別にちょっと気になるだけだからついてこなくてもいいのだが……。


 俺はある部屋の前についた。

 俺達が魔術の訓練をしていた部屋の隣の部屋だ。

 木製の扉があり中の様子は伺えない。

 俺は意を決して扉を開けた。

 部屋は暗いが俺達魔族は暗闇でも目が見えるらしく、部屋の様子がはっきり伺える。

 部屋は壁が石レンガ、床は木製で一歩踏み出すごとにギィ、というきしんだ音がする。

 中に入ると少女も俺のあとから部屋に入ってくる。

 俺は一通り部屋を見渡したが何も変わったものは発見できなかった。

 ただの物置部屋のようだ。

「気のせいか……」

 そう思って1歩踏み出した時だった。

 部屋の床が崩れ落ちた。

 そして俺と少女は二人揃って落っこちることになったのだった。

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