出会い
唐突だがこの世界は剣と魔法のファンタジー世界らしい。
とりあえず魔法があるのは間違いない。
実際に目にしたからね。
メイドさんがろうそくに火を灯すのに使っていた。
指から火がポっと出ていた。
これは使えるようにならなくては!
と思って色々試したのだが……。
全く何も起こらん。
手順が悪いのか、それとも俺に才能がないのか……まあ見様見真似だし仕方が無いか。
ところで俺の母さんは魔王らしい。
ある日のことだ。
母さんは俺を抱っこして庭を散歩していた。
そのとき俺は母さんの豊満な胸にうもれてこの世の至福を味わっていたのだが……。
これまで屋敷だと思ってた建物が見えたのだ。
城だ。
馬鹿でかい黒い城だ。
どうやら俺は今その城の中庭にいるらしい。
城に住むとか一体どんな身分なのだろうかと俺は驚愕していた。
だが、そこで話は終わらない。
母さんは庭の池の側にある岩に座って俺に頬ずりしていたのだが……。
いつぞやの悪魔が母さんのもとに来て跪き、なにかの報告をした。
「魔王陛下。レクサ様との散歩中失礼致します。人間どもから使いが来ております。謝罪するので再び契約してほしいだとか。条件は悪くありませんし、受けた方がよろしいのでは?」
ああ、ちなみにレクサというのが俺の名前らしい。
それはともかく、その報告を受けて母さんはブチ切れたらしい。
適当に落ちていた石を拾って悪魔の顔の側を通るように投げて一言、「追い返せ!」と怒鳴った。
問題はその投げた石の威力だ。
投げた石は城にあたり、壁に直径1m程の穴を開けていた。
悪魔は、「御意!」とだけ言って去っていった。
な…なにを言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった……。
とりあえずわかるのは母さんをキレさせるのはヤバいということだけだ。
さて、俺は現在5歳だ。
この世界に来てもう5年も経つのかと思うと感慨深い。
この頃はいつも世話してくれているメイドさん――――アンナに文字の読み書きやら一般教養を教わっている。
正直算数とかは教わらなくてもできるのだが、文字の読み書きはありがたい。
生前の俺は勉強嫌いだったが、アンナの教え方がいいのかいつも楽しんで教わっている。
……決して、メイド服を見て眼福を得ている訳では無い。断じてない。
逆に地獄なのが執事のアルフレッドに教わっている戦闘技術だ。
アルフレッドは母さんの執事なのだが戦闘技術を教える時だけは母さんのそばを離れて俺の教育……というか訓練を行う。
恐ろしいほどのスパルタで筋トレに始まり、剣術、徒手空拳、弓術などを叩き込まれる。
人間なら死んでた。
俺は母さんの血を引いているからなのか、普通の人より身体能力が高い。
母さんほどバカげてはないけど。
怪我もしにくいし、怪我をしてもすぐ治る。
便利なものである。
だが地獄であることには変わりない。
寧ろ頑丈だから余計に無茶ができてしまうので辛い。
まあ、最近は段々慣れてきてそこまでしんどくなくなってきたんだけどね。
そんな日々を過ごしていて俺が6歳になった日だった。
おれがアンナの授業を受けていると部屋にアルフレッドが入ってきた。
まだスパルタ教室の時間ではないのにアルフレッドが母さんのそばを離れるなんて初めてのことで俺は驚いたのだが……。
その後さらに驚くことになった。
アルフレッドの後に入ってきた少女。
年は俺と同じぐらい。
特徴的なのは物凄く白いことだ。
髪も肌も雪のように白く、目だけは虹色という幻想的な見た目をした美少女だ。
俺は思わず息を呑んだ。
「おや?その娘は?」
とアンナも疑問に思ったのかアルフレッドにたずねる。
「コレは先日拾ったモノです。陛下はコレをレクサ様の護衛にせよと仰っております。まあ、護衛とは名ばかりの肉壁ですが」
「はぁ、陛下の気まぐれですか。それで、その娘の名前は?」
「さあ?一切口を聞かないのでそもそも名があるのかどうかもわかりません。まあ、どうでもいいでしょう」
アルフレッド。いいのかそれで。
最近知ったことなのだけれどこの城にいるやつは殆どが自分達以外のものを見下しているらしい。
特に人間は最も見下されているようだ。
元人間としては複雑である。
ちなみに俺もアルフレッドもアンナもこの城にいるものは全て人間ではない、らしい。
アルフレッドもアンナもどう見ても人間なのだが……。
何が違うのかは知らん。
まあそれはともかく、その日から白い少女は俺と共に教育を受け、生活するようになった。
しかし、共に教育を受け始めてからもう1ヶ月ほど経つのだが未だに少女は一言も喋らず、話しかけても一切返事をしない。
ことある事に話しかけているのだがいつもスルーされてしまう。
それでも話しかけ続けたら迷惑そうな顔をされた。
それだけならただシャイなのか?とも思うのだが……。
戦闘訓練で怪我をしても一切声を出さないのは、さすがに異常だろう。
まるで人形のようだ。
まあそれでも懲りずに話しかけるんだけどね。
理由?可愛いから!
こんな美少女をほっとける訳が無い。
とりあえずは会話することを目標にして今日も俺は少女に話しかけるのだった。