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誕生

 ついさっき俺は死んだ。

 だが、これは一体どういうことだ?

 目の前にはとんでもなく美人な女性。

 肌は白く、髪は吸い込まれそうなほど黒い。

 目は紫がかった色をしている。

 その顔は非常に嬉しそうな笑みを浮かべている。

 俺を両手で抱きかかえている。


 そこで俺はふと気づいた。

 どう考えても大きいのだ。

 いや、女性の胸の事じゃなくて。

 どう考えても俺の体のサイズに比べて、大きすぎる。

 まるで赤ん坊と大人の体格差ほどの差がある。


 ……待て、落ち着こう。

 冷静に思い出せばこうなった原因が分かるはずだ。


 たしか、俺はさっきまで自宅のアパートでカップ麺を啜っていた。

 けど途中でなんだか焦げ臭い匂いがしてきて……。

 外に出ようとして携帯の充電器に絡まってズッコケて……。

 カップ麺がひっくり返ってきて、頭から被って……。

 そんなことしてる間に火がどこからかまわってきて……。

 うーん。そこから先が思い出せん。

 それにそこからどうしたらこんなことになるんだ?

 こんな美人に抱かれるとかそんな幸せイベントに出会う過程をこの俺が忘れるはずがないのだが。

 俺なら間違いなく脳内メモリーに徹底的に焼き付けるはずだしなぁ……。

 それにしてもなんだか意識がフワフワしてきたなぁ……。


 Zzz……ハッ!

 いつの間にか眠っていたようだ。

 さて、ここは……。

 何処だ?

 あの女性はいない。

 というか周りに誰もいない。

 なんか、カゴみたいなものに入ってるみたいだ。

 しかし、なぜ立つことも出来ないのだろうか。

 うまく力が入らない。

 少し首を動かすことは出来たのでとりあえず辺りを見回す。

 すると、部屋の隅に大きな鏡があった。

 そこに写っていたのは……


 赤ん坊?

 あれ?おかしいな、何故か俺の姿が横たわった赤ん坊に見える。

 ……そんな馬鹿な!?

 俺は学生で断じて赤ん坊ではない。

 だが、この姿はどう見ても布にくるまった赤ん坊だ。

 俺はその事を認められず、呆然とした。



 ……どうやら、俺は転生をしたらしい。

 もう認めるしかない。

 多分、俺はあの火事で死んだのだろう。

 そしてここに赤ん坊として産まれた。

 そういうことだろう。

 さっき見たあの女性は俺の母親のようだ。

 あれから幾日か過ぎたが未だに3人しか俺は見かけていない。

 その3人の中で最も母親らしいのはあの女性だ。

 1番よく見かけるし。

 残り2人は何度か見かけたが俺の父親ではなさそうだ。

 片方はメイド服を着ており、明るい茶色の髪をした若い女性。

 もう1人は執事服を着た白髪の老人。たぶん見た目通り執事だろう。

 だが、この3人のうち俺に触れたのは母親らしき女性とメイドだけで、執事はいつも母親と思われる女性のそばに控えているだけだった。


 ところで俺には1つ不満がある。

 食事だ。

 赤ん坊の食事といえば母乳。

 ということで期待していたのだが……。

 全て哺乳瓶で飲まされた。

 あの美人の生乳が見れるともう大興奮で構えていたらこれだ。

 しかも飲まされるのがなんか不味い。

 形容し難いがとにかく美味しくないのだ。

 美女の生乳は諦めがつくのだがこの不味さは耐えられない。

 耐えるしかないんだけどね。


 そうしてまた幾日か経った。

 そろそろ生まれて1ヶ月ほどだろうか。

 最近気づいたのだけどこの人達の言語は日本語じゃない。

 一体何語なのか見当もつかない。

 聞いていても一体何を話しているのかさっぱりわからん。

 とりあえず、英語とかでもないのは確かだ。

 その辺りからなんとなく予感がしていたのだが、今日確信に変わった。

 ここ、異世界だ。


 今この部屋に入ってきてマイマザーと話している奴。

 背中からコウモリの羽みたいなのがはえていて、尻尾もついている。

 見るからに悪魔っぽい奴だ。

 そして、跪いている。

 臣下の礼というやつだろうか?

 思わず2度見した。

 マイマザーはそちらを見ることはなく俺を抱き哺乳瓶でクソまずいミルクを飲ませている。

 俺としては悪魔の来訪の方に注意を向けてほしいのだがマザーの中の優先順位は俺の方が上らしい。

 何者だ、この人。

 悪魔はなんか報告しているらしく、それをマザーはガン無視してミルクをやり続けている。

 まあ、執事の人が全部聴いているのでいいと判断しているのかもしれない。



 さてそれから月日は流れた。

 最近ようやくこの人たちの言葉がわかるようになってきた。

「あー」とかぐらいなら話せるようにもなったし、ハイハイができるようにもなった。

 だが、これは大したことじゃない。

 1番重要なのは、あのクソ不味いミルクが何かの果物をすりおろしたものになった事だ。

 この果物がとても美味い。

 感動的なまでに美味い。

 俺はようやくあのクソ不味いミルク地獄から脱することが出来たのだ。


 ある日のことだ。

 やっと簡単な単語ぐらいが話せるようになったころ、立てるようになった。

 アンバランスだが歩けるようにもなった。

 食事は離乳食っぽいものから柔らかめの料理に変わった。

 この間から起きているあいだは子供部屋らしい場所で過ごすようになった。

 母さんは忙しいのか見守っているのは俺が生まれてすぐに見かけたメイドさんだ。

 この家……というか屋敷と思われる場所には他にもメイドさんがいるが俺の世話をするのはいつもこのメイドさんだ。

 今日もいつものように部屋にあるおもちゃで遊んでるフリをして部屋の外から聞こえる言語の学習やメイドさんの行動の観察をしていたら、急にすごい揺れを感じた。

 それと物凄い怒鳴り声。

 何があったのかと混乱するがどうしようもない。

 メイドさんが大慌てで俺を抱きかかえて身を呈して守る。

 地震だろうか?

 だがあの怒鳴り声はなんなのか。

 それがわからない。

 揺れはすぐに収まり、怒鳴り声もやんだ。

 結局なんだったのかわからず仕舞いだった。


 さて、これが俺の誕生の記録のプロローグだ。

 これから先どうなるのか?

 それを語ろうと思う。

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