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シタ  作者: air
2/5

チョコっとした話

前回からだいぶ日数が経った、番外編です。

シリーズ物ですが、どれも番外編になる予定です。お気をつけください。

前回の暗い話とは違い、明るい話です。お気をつけください。

 デューは皿を洗っていた。

 赤黒い長髪を後ろで一本にしばり、その長身に似合う黒のエプロンを身にまとい、黙々と皿を洗っていた。

 だが、皿を洗い終わると一つのため息とともに、「主」に話しかけた。

「シタよ。我らに命令はしないのか?」

「べつに?」

 シタと呼ばれた少年は、デューほどではないにしても、少し伸びた黄金色の髪を、横たわらせているベッドにだらしなく広げ、寝そべっていた。

 そしてそのまま、おざなりに返事を返した。

 返事を返されたデューは不服そうに、しかし黙り込んだ。

「お前には、野望はないのか?」

「ねぇよ。今いいところなんだから邪魔すんな」

 シタがページを読み進める。その表情は至って真剣そのものだ。

 だが、時々垂れてくる黄金色のさらさらした髪を鬱陶しそうにしながら、乱暴に書き上げていく。

 デューへの返事もいい加減なものだった。

「あ、そんなに命令が欲しいなら、そうだな、あー、じゃあ近くのコンビニで冬季限定チョコ一箱と、アイスのストレートティー買ってきて。お前の金で」

 目を合わせることもなく、本を読みながら淡々と答えるシタに、赤い瞳の色を、やや曇らせながら、デューは困ったように問いかけた。

「それはたしかに命令だが、それは世界とは関係のないことでは?」

「関係ないが、オレには関係ある。腹が満ちるか否かの大事な問題だ」

 そういってまた一ページ、シタは本をめくる。

 デューはあきれ果てたように、再びため息をつき、キッチンへと向かった。

「腹が満ちたりないのなら食事を作ろう。何がいい?」

「いらねぇ。チョコ買ってこいよ」

「……紅茶も茶葉があったな。アイスが良いんだな。少し待っていてくれ」

「聴く気がねえなら最初から問いかけるなよ」

ぼそりとつぶやき、シタは本を読んだ。

 時計の針が、夜中の11時をさした。

部屋の中では、時計の針の音、時々ページのめくれる音、お湯が沸騰する音が混ざり合っていた。

その中でまず、お湯が沸騰する音が消えた。

そして、お湯が継ぎ足される音が、シュワシュワと響く。

カップに注ぎいれたのであろう、カップの中をスプーンでお湯をかき混ぜる音が響く。

そして。

「シタ。ホットレモンティーが出来たぞ。飲め」

「何一つオレの意見なんか取り入れる気ねえんだなてめえは!!!」

 思わず突っ込みを入れてシタは叫んでいたが、デューは気に留める様子でもなく、紅茶に添えて、数枚のビターチョコレートの包みが入った小さな容器をテーブルに置いた。

「冬季限定はどこいった」

「買い置きで悪かったな。ほら、お前の命令どおり、茶と茶菓子は用意したぞ」

「何一つ要求に沿えてねえじゃねえか」

 ぶつぶつ文句を言いながら、シタはそれでも本を閉じ、テーブルに座った。

 デューは少し嬉しそうに微笑んだ。

「んだよ、ニタニタ気持ち悪い」

「いや。食べてくれるんだなと、少し嬉しかっただけだ」

「うるせぇ」

 シタは、四角く紙に包まれていた包みをはがし、表面に描かれた模様を少しだけ見てから、それを一口で食べた。

 バリボリと口の中で音を立てながら、何回も咀嚼した。

「……冬季限定のチョコってどんな味がするんだろうな」

 シタは咀嚼したチョコを飲み込むと、ぽつりとつぶやいた。

「そんなに食べたかったのか?」

 デューの返事に、ホットレモンティーの入ったティーカップに伸ばしかけた手を、引っ込めた。

「別に」

「そんなに気になるなら明日買って……」

「保護者面はすんなって、前に言ったよな」

「……過保護になりすぎたか?」

 デューが、寂しそうに眉を下げ、しかし無理に微笑んだ表情を作った。

「なりすぎだ。オレに媚びようとするのだけはやめろ。反吐がでる」

「媚びられるのが嫌いなのか?」

「大嫌いだね」

「……そうか」

 デューはそういうと、また嬉しそうに微笑んだ。

「んだよ、またニタニタと。なんなんだ? さっきから」

「いや、べつに」

 今度は、その笑みの理由を答えようとはしなかった。

 デューは、少し嬉しかったのだ。

 シタがおざなりとは言え、出した要求をデューが聞き入れ、要求されたものをテーブルに出していたら、シタはそれに手をつけることもなく、今もベッドの上に寝転がり、本を読み続けていただろう。

 シタが本当に欲しかったものを与えることが出来て、デューは嬉しかったのだ。

 シタがどうして自分の要求どおりに動くものが嫌いなのか、その理由はわからないし、きっと、シタは教えてくれないだろう。

 だがしかし、それでもよかったし、理由はデューにもどうでもよかった。

 ただ少しだけ、シタのことを知ることができた気がして、嬉しかったから。


ホモエロ書きたい。

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