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第7話 変容する日常の雰囲気

 会計を済ませ店を出た後、二人はしばらく街中をふらふらと歩きまわっていた。

 道中、互いの携帯番号や家の場所、最近あった出来事など他愛のない話をしていると、辺りはすっかり暗くなってきていた。


「そろそろ帰ろっか」


 駅前まで戻ってくると、司はそう提案した。


「そうだな。日が暮れるのもすっかり早くなったもんだ」


 二人は駅の入り口で歩みを止めた。


「今日は本当にゴメンネ。あんまり楽しくなかったでしょ?」


 司は笑顔で手を合わせながら言った。


「いやいや、買い物も楽しかったし、料理も良かったよ、なかなか」


「本当にー?」


 司は上目遣いに彰を見上げながら悪戯っぽい笑顔を浮かべると、笑いながら背を向けた。


「でもよかった。彰君になら、話してもいいかなって思ったんだ」


「送っていこうか?」


「ありがとう。でもいいよ。もう遅いし。私は電車だけど、彰君は自転車でしょ?」


 司は振り返ってそう言うと、笑顔で手を振りながら駅の人混みの中へと消えていった。


 ○


 それから月日は流れ、十二月になっていた。

 朝、通学途中の街路樹はすっかりと葉を落としきっており、彰は冷たい風に涙を浮かべながら学校へと登校した。

 道行く人々は皆防寒着を着込んで身を縮ませており、マスクをしている者も多くなっていた。

 冬服の落ち着いた色のせいなのか、それともこのどんよりとした曇り空のせいなのか、周囲からは活気というものが感じられなくなり、彰はここ数日憂鬱な気持ちが晴れないでいた。


 あれからもう探索へは行っていない。

 彼女と約束をしたからというのもあったが、ここ最近はメンバーの集まりも芳しくなく、行く機会も無かったというのが大きな理由である。

 また、ここ最近周囲の様子が徐々に変わってきており、なにやら不穏な空気を感じるようになっていた。

 

 彰は教室へと入ると、いつものように教材を机に入れ始業の鐘を待った。

 教室から聞こえてくるのは生徒の雑談、笑い声、そして物騒な内容へと変遷した例の噂話であった。


「こないだよお、あの外れにある、ヤクザがいるって建物。そう、あのいつも黒い車が何台も止まってるあそこ。あそこの前を通ったんだけどさあ、あれもう誰も住んでねえんじゃねえの? 車とかも無くなってたし、カーテンなんかも無くなってて、部屋の中見えてんの。家具も何も無かったぜ」


「へー、じゃあ警察が力入れて働いてんのかね。つか最近行方不明のニュース多すぎっしょ。地元新聞ヤベーじゃん。警察、力入れどころ間違ってんじゃねえの? ヤクザ追い出すのも良いけど行方不明者も見つけろっての」


「私この前、友達から聞いたんだけどさー、友達の近所のアパートに集まってた怖そうな人達がいたんだけど、ある日突然いなくなったんだってー」


「何それ? 夜逃げ?」


「わかんない。で、大家さんが部屋に入ったら、部屋に血痕とかが付いてたんだって」


「マジ? それ完全に事件じゃん。警察来た?」


「うん、今も捜査中だって。なんかー、大家さんは『家賃は払ってもらえなかったし部屋は汚されるし最悪』なんて愚痴ってたみたい」


「ハハハッ、ついてないねー。でも良かったじゃん。不良がいなくなったんだから。つーか、あっしの家の近所の不良も消えてくんないかなー」


「あれじゃん? 最近もまたあったでしょ。死人に襲われるなんて話。この間なんか悲鳴を聞いた人がいるんでしょ? 全員ゾンビに襲われてんでしょ」


「ウケルー。超正義じゃんそのゾンビ。あっし今彼捨ててゾンビ彼氏にしたいなー。最近現国の田中が鬱陶しいからぶっ殺して欲しいんだよね」


 彰は窓の外を眺めながらそれらの会話に耳を傾けていた。

 以前のようにオカルト話を楽しんでいるといった様子はそこにはなく、あるのは不穏な事件や愚痴、そしてそれらに加えて、申し訳程度に残された死者が蘇っているというネタ、ただそれだけであった。

 彰は今なおその様子の変わったオカルト話について興味が無いわけではなかった。だが、それらの話の中にはロマンが感じられなかった。

 生徒たちが人の死を願い、それを笑い話にしている。駅前のファストフード店でも、電車の中でも、そういった話を耳にする機会は増えていた。


――確かに、嫌な奴が消えてくれれば、自分も喜ぶ気持ちはあるだろう。


 そう考えながらも、どこかもやもやとしたものを抱えて気が滅入っていた。

 朝のチャイムと同時に、教員が入ってきて教卓の前に立った。

 彰ははため息をつきながら前を向いた。

 その時、ふと視界の中に司の姿を捕えた。

 机に突っ伏していた彼女は眠たそうに小さく伸びをすると、号令をかけた。


――そういえば最近、眠たそうにしていることが多いっけな。


 始業の挨拶をしながら彰は思った。

 だが、特に気に留めることなく着席すると、椅子の音が教室に響く中ノートを開き授業に集中した。


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