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第25話 終わる噂話

 夜明け前、廃墟の広がるこの一帯では、今や数名の人物の喋り声とその者達の立てる物音のみが聞こえるだけであった。


「殺さなくて良かったのかねぇ、あの女を。あの女もエンジェルの能力を持ってんだから」


 天笠は手に持ったボーガンの矢を仕舞いながら不満そうに言った。片腕が折れているため、矢をバッグに仕舞うのにも非常に苦労しているようであった。

 あの時、瓦礫に押し潰されたかに思われた天笠だったが力の発動により身を守ることに成功していた。

 運良く砂埃や瓦礫で光が遮られていたため、生存に気づかれなかった天笠は、むしろこれはチャンスだと身を隠し、万が一エンジェルが空を飛んで逃げた時の事を考え物陰からボーガンを構えていたのだった。


「仕事の内容に、彼女の殺害は含まれていませんでしたから。身勝手な殺人は、我々の組織からの処罰の対象になります」


「とはいえそれは屁理屈でしょうに。『彼女は化け物じゃなく人間だ。肉体は他の個体と違って存在するから。化け物でない以上、今回の殺害対象ではない』なんてのは。あの女を殺したって、実際問題処罰されっこないですって。そもそも報告もちゃんとしないんだから。なあ、黒明彰くん」


「え、あぁ……でも殺人を犯さなくて済んだ。良かったじゃないですか」


「良かった……ねぇ。あいつはハッサンを殺してんだぜ? 確かに無意味な殺人は俺らも処罰されるからとはいえ、あまりに非情ってもんでしょう? 仲間を差し置いて、その仲間を殺した犯人に同情するなんて」


「ならば、お好きにどうぞ。私は殺人がバレた時の処罰が恐ろしいので、何もできません。もう少し生きていたいですから」


 天笠は大いに不満そうであった。

 あの後、意識を取り戻した彰は怜から事の顛末を聞かされていた。彼女は見逃す、怜たちの組織に彼女の事は報告しない。そういう事であった。

 彼女に生きてほしいという想いは彰も同じであったためその結論には納得していた。

 また襲われるのでは? という不安も無いわけでは無かったが、何故だかそんなことはしてこないだろうという確信めいた思いの方が強かった。

 司はその後、一人で何処かへ行ってしまったとのことであった。恐らく方角からして、昔の自宅があった場所へと向かったのだろうと怜は言っていた。


「それでは我々はこれで。車が破壊されてしまい、送迎が出来ないのが申し訳ないですが」


 怜と天笠の二人と別れた彰は自宅へと向かって歩き始めた。

 丘の上にある住宅街。もはや人々に見捨てられ、廃墟ばかりとなったこの街に、先ほどから雪がちらつき始めていた。

 だが、あまり寂しさなどは感じなかった。

 遠方に見える海の向こうが、僅かに白んできているのが分かった。


「あぁ……寒いなぁ」


 丘を下ったその向こう、人々の営みが生み出す街明かりを遠目に見下ろしながら、彰は一人坂道を下っていった。


読んでくださった方がおられましたら、貴重なお時間をいただき誠にありがとうございました。

至らぬ点が多々あったと思います。楽しんでいただけたのなら幸いです。

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