第22話 最後の殺し合い
四方八方から一度に襲い掛かられた彰は、咄嗟にアンプから力を放出し強く赤い光を放ち身構えた。
とにかく近づいてきたエンジェルを順に消し飛ばそうとそう考えていた。
「……予想以上に数が多すぎますね。こっちです」
彰は駆け出す怜に袖を引かれ、一緒に走り出した。
怜はアンプの柄についた鋼線を手に巻きつけると、アンプを勢いよく前方のエンジェル達の群れに目がけて放った。
瞬時に青い閃光が鋼線を伝わりアンプを輝かせ、それに触れたエンジェル達を粉砕していった。
「道が出来ましたので……予定通り例の高層ビル前へ行きましょう」
「あ、ああ……」
包囲網を抜けて走る二人の背後からはけたたましい金切声、悲鳴、そして膨大な量の翼の羽ばたく音が迫ってきていた。
「包囲網は抜けたがこれじゃあすぐに追いつかれる!」
「……そこ、入りましょう」
怜は彰の服を強引に引っ張ると、すぐ脇にあった廃教会の壁を吹き飛ばし中へと入った。
礼拝堂の椅子はほとんど朽ち果てており、物陰に隠れることなどは出来そうにもなかった。
「これじゃあどこかに隠れようにも――」
――キンッ
軽い金属音が屋内に響いたかと思うと、怜はスプレー缶の様な物を数本宙に放り投げていた。
クルクルと宙を舞うその缶の一つをただ訳も分からず目で追っていた彰の頭を、怜はぐいっと押さえつけた。
「伏せたら、力を放出して!」
怜の大声に驚き、すぐに彰は赤い光を放出し身体を覆った。
その瞬間、大きな音と共に缶から噴出した大量の煙で部屋は満たされ視界はゼロとなった。
それと同時にエンジェルの翼音と金切り声で激しく振動していた四方の壁は黒く灰と化し崩壊し、一斉にエンジェル達が部屋へと流れ込んできた。
「消し飛べ!」
それを見計らったかのように、怜は気合と共に青い光を放った。
その光は今までのようにアンプや身体周辺を覆う程度の微弱なものではなく、礼拝堂一面を真っ青に覆い、一部の壁や柱を吹き飛ばすほどの激しいものであった。
「これは⁉」
廃病院上空を飛んでいた司はその光を見て驚きの声を上げた。
それと同時に、今度は廃教会から遠く離れた場所でも激しい赤い光が見えた。
そちらの様子を見ると、やはり廃教会から発せられた光と同様に一帯を覆っていた煙を伝うようにして光が広がり、その光に触れたエンジェル達の身体が消し飛んでいくのが見えた。
「そういうこと……みんな、そいつらから距離を取りなさい! 煙から離れて!」
司の指示を聞き、エンジェル達は一斉に後退し怜たちから一定の距離を保ち、取り囲む形となった。
そのころ、同じく遠方にて一人行動していた天笠もまた二つの光を見ていた。
「あいつら、ガスを使ったのか?」
天笠は頬についた灰を拭いながら言った。
周囲一帯はエンジェルの残骸である黒い灰で染まっていた。
「まあ、おかげでこっちは動きやすくなったわけだが」
天笠はコートの胸元からガスの入った缶を取り出し、エンジェル達に見せつけた。
「ハハッ、俺もガスを持ってんだ! 近づくんじゃねえぞ!」
天笠はエンジェル達に向かって缶を放り投げた。地面を転がる缶からは勢いよく煙が放出され、辺りを白く包み込んだ。
エンジェル達はすぐさま煙を避けるため後退し、しばらく様子を伺った。
だが、光が放たれることはなく、煙が晴れた頃には既に天笠の姿は無かった。
逃げられたことに気が付いたエンジェル達は奇声を上げ、散り散りになって辺りを捜索し始めた。
一方天笠はというと、近くにあった廃ビルの一室からエンジェル達の様子を覗き見ながら肩に担いでいた大量の鋼線の束を床に下ろし、作戦の準備を進めていた。
「こいつを辺りに張り巡らせれば、一旦俺の仕事は終了だが……他の奴らはちゃんと仕事をしてんだろうな」
天笠はそう呟くと各鋼線の端を持って部屋の外へと駈け出して行った。
そのころ、司もまた怜と彰の姿を探していた。
あの強烈な光と建物の崩壊による粉塵に紛れ二人は姿をくらましていた。
「不用意に近づけないってのは厄介ね。碌に捜索も出来ないじゃない」
周囲の瓦礫を灰に変えながら司は愚痴をこぼした。
「一人ずつ戦うのも、こちらに分が悪いでしょうしね。今まで戦いなんてやったことないもの。いつもいつも、嫌な思いをするのは私たちの方で、こうして安らかに暮らすために力をつけても、また邪魔をしに来る存在がいて……ああ鬱陶しいわね!」
苛立ちを隠せない司は、その背中に生えた翼を細かな塵状の灰に変え、手当たり次第に周囲の瓦礫を包み込み灰へと変えていった。
そうこうしている内に、周囲を探索してきたエンジェル達が続々と司の元へと集まってきた。
そのうちの一体が怜たちを見つけたようであり、報告を受けた司は我に返りそして礼を言った。
司はエンジェル達を見渡すと、しばらく考え込んだのち唇を噛みしめて言った。
「……犠牲はもっと出るかもしれないけど、最後まで付き合ってもらうわね」
〇
「なんだってそんな状態に……」
息苦しそうに短い呼吸を繰り返す怜を背負いながら、彰は指定された場所へと走っていた。
「ガスを吸ったからです……あなたは大丈夫そうでなによりです」
「そりゃあんたが、ローブで守ってくれたから!」
先ほど煙を充満させた教会で、怜は光を発し周囲を吹き飛ばす直前、自分のローブを彰へと被せていた。そして光を煙へと伝達させると同時にローブにも光を伝達させることで、彰が煙を吸うことのないよう煙を打ち消していた。
「ガスには人を激しく高揚させる効果がありまして……我々の持つアンプと同じ物質なんです。だからこそ我々の光は、このガス状の物体を伝って伝播するし、ガスに接触すれば我々の能力は一気に引き出される。ただそれが強力で、長時間続くものですから……力が暴走しないように抑えるのが……大変なんです。そしてなにより精神的に……非常に疲れます」
「クッソ!」
二人の周囲には既に数体のエンジェルがまとわりついており、攻撃の瞬間を伺っていた。
「私を置いて行って下さい……数体くらい、すぐに倒して向かいますので」
「持久戦になったら勝ち目は無いって、あんたが最初に言ってただろ。まだ大量に敵がいるんだ。次はどんな手で仕掛けてくるのか分からない以上、あんたには休んでいてもらったほうが良い。俺がなんとか目的地まで背負って連れて行く」
「……まあ、ではお言葉に甘えて」
「あと少し、あと少しで目的地に着くんだ!」
その時、彰は道に転がるコンクリートの破片を踏みバランスを崩してしまった。
「やっべ……!」
なんとか踏みとどまった彰であったが、その瞬間にエンジェル達は一気に襲い掛かってきていた。
彰はすぐさまアンプを振るいエンジェルを一体消し飛ばした。
だが、足を止めた彰達をエンジェルの集団はすぐさま取り囲んだ。
エンジェル達はまるで獲物を狙うサメのように周囲を旋回しながら、飛びかかる様子を伺っていた。
彰は背負っていた怜をその場に下すと、背後から襲い掛かられないように何度も何度も背後を振り返り警戒した。
暫く膠着状態が続いた後、突如、前方にいたエンジェルが奇声を発したかと思うと、それとは反対方向、頭上後方にいたエンジェルが彰目掛けて突進してきた。
エンジェル達の連携により一瞬反応が遅れることとなったが、それでも彰はそれに素早く反応でき、突進してくるエンジェルの首元目掛けてアンプを振るいその首を消し飛ばした。
彰はすぐさま振り返り次の攻撃に備えようとした。だが、既に別のエンジェルが間合いの中に飛び込んできており、今にもその右腕が彰の腰元に触れようとしていた。
「うらあああ!」
彰の気合と共に、彰の身体は赤い光に包まれ、エンジェルの右腕が先端から塵と化していった。
慌てて攻撃を止めたエンジェルは肘先まで消し飛んだ右腕を見て、悲痛な叫びをあげながら後方へと飛び去ろうとした。
その隙を見逃さなかった彰はアンプの根本についた鋼線を持つと、アンプをエンジェル目がけて放ち赤い光を放った。
エンジェルの胸元を捉えたアンプは、エンジェルの身体を木端微塵に吹き飛ばし、更に後方にいた別のエンジェルの左肩を吹き飛ばした。
「はぁ……はぁ……きついな」
力を無駄に使いすぎてしまった彰は一気に息が上がってしまった。
残る数体のエンジェルはなおも彰達の周囲をぐるぐると飛び回り続けていた。
だが、それらエンジェル達の表情にも余裕などは見られずむしろ恐怖で強張っているようにも思えた。
「はっ、ビビってんだろう?」
彰は強がりながら再びアンプを構えた。
だが、今にも襲い掛かってくるかと思われたが、突如エンジェル達は上空で旋回するのをやめ一斉に同じ方向、彰達が先ほど走ってきた方角を見た。
不思議に思った彰達も同様にそちらを見た。
そして、すぐにエンジェル達の行動の理由を理解することとなった。
「なんだ……あれ」
目を疑うほどの巨大な黒い塊、周囲の高層団地など簡単に覆い尽くしてしまいそうなほどの黒い灰の塊が、まるで竜巻のように渦を巻きながら徐々に彰達の方へと迫ってきていた。
言葉を失ってしまった彰を尻目に、エンジェル達は次々と灰へと姿を変えその黒い竜巻の方へと吸い込まれるようにして飛んで行った。
「灰……ですね。一気にケリをつける気なんじゃないですか?」
怜がフラフラと立ち上がりながら言った。
「周囲の物体を全て灰へと変えながら、こちらへ向かってきています。おそらく……残されたエンジェル達が一斉に姿を変え集合したものなのでしょう。こちらも急ぎましょう」
「ああ、まじでヤバいだろこれは! 巻き込まれたら死ぬ!」
彰は怜を抱きかかえると、全力で走り出した。
「確かに、巻き込まれれば……たとえ光をまとい身を守ろうとも、こちらの体力が先に尽きてしまいますね」
轟音が背後から迫り来る中、彰は全力で目的地である高層ビル前へと走った。




