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第18話 アンジェラ

 深夜、丘の下にある大型スーパーの駐車場。そこではいつものように若い暴走族たちが集まっていた。

 営業時間外で本来真っ暗なはずの場所が、今やバイクの明かりとけたたましいエンジン音とで埋め尽くされていた。

 その集まりの中央部では、暴走族の中心人物たちが談笑をしていた。


「いやあ、あそこまで燃えるとは思わなかったっすわ」


「ホントよくやるねえ」


 おどけた調子で煙草を吸いながら彼らは続けた。


「いやいや、俺はちょろっと火つけただけだからね。それで全部燃えましたなんて言われても、俺ら知らねえよなあ? そんな燃えやすい欠陥住宅なんかに住んでんじゃねえっての。それに良いんだよ。先に警察にチクったあいつらが悪いべ? 燃やされてもしょうがないでしょ」


「ひゅぅー言うねえ」


 周囲の仲間ははやし立てるように笑った。

 バイクのコールが鳴り響き、それに合わせて男は誇らしげに両手を広げて立ち上がると、全身で喝采を浴びた。


 傍で煙草をふかし笑っていた男がアスファルトの窪みに煙草を投げ捨てた。

 その時、男はふと周囲の異変に気が付いた。


「なんだ? 霧か?」


 見ればヘッドライトの明かりをもや状の影が遮り始めていた。

 騒いでいた人々もその異変に気が付いたようで、次第に辺りは静かになっていった。

 そのうちの何人かがそのもや状の物体に触れ、ヘッドライトの明かりで指を照らして確認した。


「黒い……灰じゃねえのかこれ」


「灰? 近くで火事でも起こってんのか?」


 次第に辺りからはざわざわと不安の声が上がっていった。

 地面の下方に漂っていたそのもやは、見る見るうちに辺りを覆い、視界を悪くしていった。

 只事でないこの状況に、体格の良い暴走族のリーダーは大声を張り上げた。


「全員注目! 今日のところはこれで解散だ! 散れ散れ!」


 視界が悪くなってしまえばバイクで帰ることも出来なくなってしまう。彼のアナウンスを聞き、皆は不満を漏らしながらも各自バイクの元へゆっくりと戻っていった。


「早くしろお前ら! 舐めた態度とってんじゃ……ウッ!」


 突如途切れた怒声に、皆の視線は彼に集まった。

 震える彼の背後には、髪の長い女の姿があった。

 全身灰色をした女――アンジェラと呼ばれたその個体は両腕でがっしりと男を捉えており、振り返る男を見てニヤリと笑っていた。

 一瞬の静寂。

 黒い灰が周囲を覆い視界が悪い中、その様子をハッキリと捉えることの出来ない人々は事態を飲み込もうと一心に目を凝らした。


「……誰ぁ……助け……」


 男が声を振り絞ったと同時に、男の身体は砂のように崩落し、地面に散らばり黒い灰の山と化した。

 気が付けばそこにはアンジェラの姿もなく、静寂に包まれた周囲一帯に男の持っていたヘルメットの落下した音が響き渡っていた。


「は? ちょ……え? 何だよおい……」


 数人の男が強張った笑顔で辺りを見回した。

 この場にいる誰もが状況を理解できておらず、その場から動けないでいた。


 不意に一人の男が、視線の先に少女の姿があることに気が付いた。

 明らかに場違いな存在であったにも関わらず、いつからそこにいたのか誰も分からなかった。


「おい……何だテメエ!」


 男は震える声で、精一杯の虚勢を張って問いかけた。


「いつからそこに居やがった! お前か! 何をしやがった⁉」


 皆の視線がその少女――月森司に集まった。


「聞いてんのかテメエ!」


「……こんな」


 俯いた司はポツリと呟いた。


「……こんな屑どもに……私は!」


 司の感情の爆発に呼応したかのように、周囲の灰は一斉に舞い上がると辺り一帯を黒く覆っていった。

 その後、辺り一帯を覆った黒い灰の中からは、しばらくの間大勢の人間の悲鳴が絶え間なく発せられていた。


 〇


 司が目を覚ますと既に日は落ちており、学生の声も聞こえぬ薄暗い図書館の中、一人机に伏せっていた。

 司は涙の跡を拭いながら携帯電話で時刻を確認すると、すぐに帰り支度を始めた。

 あの日、司はその場にいた全ての人間を灰へと変えた。

 数人いた女たちも、バイクで逃亡を図った者も、皆見逃すことなく殺していった。


「……久しぶりに……いい夢を見させてくれるわね」


 司は鞄を肩にかけながら司は小さく笑うと、一件の着信メールに目を通した。

 送り主は――


「でも、せっかくの日になんで邪魔をするのかしらね――彰君は」


 司は携帯電話を鞄にしまうと、図書館を出て行った。


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