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第15話 襲撃を終えての気づき

 どうやら怜は窓から室内へ戻って来たらしい。

 手からは鋼線が伸びており、その先に繋がったアンプは先ほどのエンジェルの頭部を貫き壁へと突き刺さっていた。

 怜は戦闘直後ということもあってかいつもよりも饒舌なように思えた。


「誰でもできるとは言ったものの、いきなり二体を同時に相手するなんて。それも更には一体を倒すとは」


「守ってくれる気……本当にあったんですか……?」


 灰となり消えていくエンジェルを横目に、彰は力なく愚痴をこぼした。


「ハハハ。いやあ難しいものですね。でもちゃんと守ったでしょう? 私」


 悪びれる様子もない怜を見て、彰は体中から力が抜けるような気がした。

 そんな彰の気も知らず、怜はそのまま携帯を取り出しどこかへ連絡を始めた。

 会話の内容から仲間に現状報告をしているのだと分かった。

 彰はしばらくそのまま床に座り、ぼんやりと息を整えながら耳を傾けていた。

 その時、ふとした考えが彰に浮かんだ。


「すこし……思ったことがあるんだが――」


 ちょうど怜は電話を切り終えたところであり、彰の方へと振り返った。


「なんでしょうか?」


「戦いが始まる数分前……仲間から連絡を受けていましたよね?」


「ええ」


「その連絡があったとき、あのエンジェル達や、電話の向こう側の仲間達はどこにいたんですか?」


 その質問に、怜は口をつぐんだ。何かを隠しているようなその様子に彰は怒りを覚え、語気が荒くなっていった。


「実はもう既に親玉の場所は突き止めていて、そいつの周辺であなたの仲間は見張っていた! そして襲撃に立ったエンジェル達が現れるのを見て、貴方に連絡した! そうなんじゃないですか⁉」


 そう言い終わると彰の息は荒くなっていた。

 再びどっと押し寄せる疲労感に大きく息を吐き出した。

 暫しの空白の後、怜は穏やかな口調で話し始めた。


「確証が無かったので、このような作戦となりました」


「……確証?」


「今まで我々が集めた情報……貴方が最初に襲われた際、逃げ延びた個体の追跡などもそうですが、それらだけでは、親玉がどこにいるのかということは大凡しか分からなかった」


「それで俺を囮にしたと?」


「大凡わかった場所周辺に我々の仲間を配置し、エンジェル達が姿を現すのを待つ。そういう作戦でした。結果、あまり上手くいかなかったわけですが……他に方法は考え付きませんでした――虱潰しにしていくという案もありましたが」


「虱潰し?」


「我々が怪しいと思う人物数名をピックアップし、殺害。その後事件が起こらなければ無事解決」


「ふざけてんのか……魔女狩りにも程があるじゃないか!」


「あくまで一例……ですが必要とあれば、行うでしょう。『仕事って奴だから』ですね」


 余りにも常識から外れた考えに彰は怜を睨みつけた。

 だが怜は平然とした様子であった。

 これ以上の議論は無駄だと悟り、彰は怒りを抑えて体を休めることとした。


「窓や壁。修繕費はこちらで持ちますよ」


 怜はそういうと甘い缶ジュースを飲み始め、彰にも一本差し出した。

 彰もそれを飲みながら一息ついた。


「あの……」


 気分も落ち着いてきた彰は、前から気になっていたことを聞くことにした。


「……なんでこんな仕事してるんですか? こんな、いつ死んでもおかしくない」


 怜は缶を置き、いつもと変わらぬ様子で答えた。


「なんで……かと言いますと、稼ぎが良くて誰にでもできる、時間や場所に縛られることもないような、そんな仕事だからですよ」


 彰は驚き思わず「それだけの理由ですか……?」と聞き返したが、怜には寧ろそれが不思議なようであった。


「十分な理由……ではないんですかね? まあ誰かを救っているんだと……悦に入ることが出来るという理由もありますが。それに強くもなれますしね」


「えっ……だって死ぬんですよ? ある日突然、あんな化け物に殺される。それを……」


「怖いと思うこともありますよ。ですが、世の中にはもっと嫌な死に方をした人もたくさんいるでしょうし、いつ死ぬか分からないのも、皆同じでしょう。貴方はどうやって死にたいか、その考えがおありですか?」


 唐突な質問に、彰はすぐに返答することが出来なかった。

 少し考えた後、彰は「苦しまないで、眠るように……とかですかね」と答えたが、怜に「田舎の介護施設の一室で孤独死したりして」と笑われた。

 根本的に価値観が違うのだろうかと、彰はそれ以上の詮索は止めることにした。


 戦闘から随分と時間が経過したため、温まっていた二人の体も寒さを感じるようになっていた。窓のあった箇所が破壊されており、そこから冬の夜の寒風が容赦なく吹き込んできていた。

 彰は一階にあった段ボールで穴を塞ぐことにした。

 ガムテープでべたべたと張り合わせていると、遠くの方から暴走族のバイク音が聞こえてきた。


「人知れずこんな大変な思いをしたのに、町はいつも通りなんですね」


 彰は皮肉まじりに呟いた。

 怜は小さく笑うと、本日三本目になる甘い缶ジュースを飲んだ。

 どうやら彼女もまたいつも通りといった様子である。

 遠方のバイク音が耳に残る中、彰はぼんやりと考え事をしながら作業を進めていた。


――そういえば逢斗が言ってたっけな。暴走族が消えたのは去年の冬、ちょうど一年前か……そういえば、なんで消えたんだっけ? 


 その時、彰は司のことを思い出した。

 昨日、学校を終え彼女を駅まで送り届ける際に見た、彼女のあの目が鮮明に思い浮かんだ。


「まさかな……」


 一人呟き、笑ってみせた。

 だが、彰はどうしても笑い飛ばすことは出来なかった。

 すぐさま彰は携帯に保存した新聞縮小版の写真に目を通した。


「あった……」


 偶然にも、彰はすぐにその記事を見つけることが出来た。

 去年のクリスマスから三日後、十二月二十八日の記事。

 内容はバイク乗りがガードレールを突き破り崖から転落、行方不明となっているというものであった。被害者の名前は現場に残された遺留品から判明しており、現在も調査が進められているとのことであった。

 一見どこにでもありそうな内容ではあったが、記事の最後の辺りに、彼が暴走族であったこと、そしてその現場近くには、彼の仲間の物と思われる数台のバイクや血痕等が残されていたことから、彼が何らかのトラブルに巻き込まれたのではないかと、事件性も含めて捜査が進められているとの旨が記されていた。

 記事を読み終えた時、彰は手が震えていることに気が付いた。

 まるで空中に放り出されたかのような不安感の中、彰はあの時見た司の冷たい目の意味が何なのか理解した気がした。

 もしかしたら、あのエンジェル達を裏で操っているのは、彼女かもしれない。


「どうしました?」


 彰の様子に気が付いた怜が声をかけた。

 彰は暴走族が行方不明となった新聞記事のこと、そして怜が犯人なのではないかという推測について説明した。彼女はそれを聞き終えると、ニヤリと笑って言った。


「では、埒が明かないんで直接聞きましょう」


「ちょ……直接?」


「近日中に、貴方のご家族は旅行から帰ってくるのでしょう? 時間がありませんよね?」

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