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白い惑星  作者: みくに葉月
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第七章 再生


 僕が亜実の家に着いたのはとっくに太陽が沈んでからのことだった。

今日は彼女にノートを渡すだけではない。きちんと話し合うのだ。

もう僕たち二人の関係はそれ以上のものになっていた。


 家の鍵は開いていた。僕は彼女の部屋に入ると彼女はベッドに横たえていた。顔は向うに向けられていたので眠っているのかは見ることが出来なかった。僕は傍にある椅子に座って外の景色を眺めた。

外で小さい子どもたちがシャボン玉を吹かして遊んでいる。

そのシャボン玉は大小さまざまで遠くに飛んでいくものもあったしすぐ近くに墜落してしまうものもあった。僕はそのシャボン玉が何故か気に入ったのでしばらくの間じっと見つめていた。

亜実の部屋は沈黙に包まれているが外は賑やかな子供たちの声が響いているのでとても対照的に感じられた。しかしその沈黙は突然破られた。


 「木葉、おかえり。」と亜実は言った。

 「ただいま。もう全て終わらせてきたよ。それで、亜実の言う世界はどんなところなのかな。」と僕は言った。

 「少なくとも木葉の想像をはるかに超える世界だよ。学校もカーストもない。何もないけれど完全な世界。そこで私と木葉は幸せになるの」

 「分からないな。でも、もうこの世界に用はないのは変わらない。僕は君を信じるよ。君が僕を信じてくれたように。」


 亜実はこっちを向いて起き上がった。彼女は半袖半パンの部屋着に着替えていて、コンタクトも眼鏡に変わっていた。


 「ねえ木葉。もし私が高校一年から学校に通っていたらもっと別の人生を歩めていたのかな。もっとたくさんの友達に囲まれて幸せに暮らしていたのかな。」と亜実は言った。

 「何も変わらないよ。結局は僕たち自身が変わらないと何も変わらないんだよ。あとはそれが遅いか早いかの違いだけさ。」と僕は答えた。


 亜実は僕の首に手を回して抱き着いた。彼女の温もりは顕著に感じられ、それと同時にまるでお互いの意識を共有しているような感覚が舞い込んできた。


 「木葉、ありがとう。私を助けてくれて。今度は私が助けるってさっき言ったけど実はどうしたらいいかなんてわからなかったんだ。私は誰にも助けられたことはないし、誰も助けたことがないんだ。でも傷ついた木葉を見ていると居てもたってもいられなくなったの。でももう大丈夫だから。君はきちんと助ける。」

 そういうと亜実は僕と口づけを交わした。


亜実の瞳はもう純粋さを失っていた。

しかし、それは完全性を失ったわけではない。

この世の悪を僕という媒体を通して再認識することでこの世をまっすぐ見つめることが出来るようになっただけだ。亜実はもう何もかも見通しているのだろう。

彼女の混濁した瞳はそう訴えていたように感じた。


 「こちらこそありがとう。僕はもうとっくに救われていたよ。僕は真琴が居なくなっていてから心の中で何かを失っていたような気がしていた。でも、わずかな時間だけど毎日亜実と会える時間が貴重だと思っていた。君の顔を見るだけで僕は救われた気持ちになった。その時間に僕の心の穴は埋められていたんだよ。」


 「私も。」と亜実は言った。彼女の瞳からは大粒の涙がこぼれていた。

 「私は部屋から出ることにさえおびえていた。けれど木葉は私を玄関の外まで導いてくれた。ちょっとの違いかもしれないけれど私にとっては大きいことだった。木葉は私にたくさんのことを教えてくれた。語らなくても色んなものをやりとりしてたと思う。」


 「もう終わりにしよう。」

 そう言って亜実は僕と一緒に床に倒れこんだ。

それと同時に僕の意識は天井の木板に刻まれた木目に吸い込まれていった。

その間、僕の感覚器官はわずかな時間だがまだ体の赤で機能していた。

僕の体は彼女の温もりを感じていた。それともう一つ感じる物があった。それは鋭くて冷たい物だった。その鋭い物は僕の体に刺さっていた。しかし、血は出ない。それでいて激痛も感じない。ただただ僕の意識と感覚が離されていくだけだった。


 「ごめんね。」と言う声が聞こえた。謝る必要はない。

それは僕が望んだ世界に連れて行ってくれるということなのだから。



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