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白い惑星  作者: みくに葉月
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プロローグ 被子植物と裸子植物

  

 僕は窓から季節を見る。

季節を見るとはすなわち、四季を読み取れる物を見るということだ。

そして僕は初めて季節を感じ、時の流れに気づき、彼らの表情を垣間見る。

 外でピンク色の花びらが舞っていた。

それらはまるでこの世界で一番輝いている、と主張しているかのようだった。

 対象的に、冬の寒さを懸命に生きた果てに生みだされた枯れ葉は地面の端に追いやられ、静かにその生命を終えようとしていた。

 

 僕は窓から季節を見る。人はあまり見ない。どうしてだろう。

季節から読み取れるものは多いが、人から読み取れるものは少ないからだろうか。

 理由はどうであれ、今の僕が季節を見るためにこの窓際の、そして更に中庭の桜並木が全て一望できるこの席で居られることは至高の喜びだった。

 ここは三階。その至高の席で見る景色はため息が出るほどの和みを僕に与えてくれた。

 

 「高木ぃ。ここの空欄何が入るか分かるか?」と先生が言った。

 そうだ、ここは学校。今は理科の授業だった。忘れていた。

呼ばれたのは僕。ではなく隣の席の高木轟だった。身長は多分学年トップクラス。

坊主頭で肌は良い具合に日焼けしていて、いかにも健康的な感じがした。

 「合弁花と離弁花です。」と高木は答えた。

 「正解。」と先生が棒読みで言った。

 

 今は生物の授業だった。僕は小学校時代から理科系は大の苦手だったし、大嫌いだった。

今の時代、若者の理系嫌いが進み、新人の理系の先生の数も年々減少傾向にあるらしい。

 今、しゃがれた声で生徒を一人ひとり指名し、小テストの答えを答えさせている白髪の先生もとっくに定年を超えても尚、先生の不足で退職に足止めがかかっているのだろうか。

 

 「じゃあ次、近江。」と生物の先生は言った。

 僕の名前だ。僕の名前は近江木葉。近江という名字はどこにでもあるだろう。

しかし、名前の方は結構珍しいのではないだろうか。僕は木葉という名前をとても気に入っている。

 なぜかは上手く説明することはできないが、一つ考えるとすれば一本の木には何千何万の葉っぱがぶら下がっているように、僕も社会にぶら下がる人間のうちの一人であることを思い知らしてくれるからだろう。それのお陰で僕は自分の生き方について物思いに耽る必要もないのだ。

僕はこの日本、あるいは地球という惑星にぶら下がる一つの葉っぱなのだ。

それ以上でもそれ以下でもない。ただそこにあるだけの存在なのだ。

 

 外の中庭の花壇に生えているサクラソウの落書きが余白いっぱいに描かれたノートをめくり小テストの答えを探す。

 「被子植物と裸子植物です。」と僕は答えた。

 「正解。」と先生が言った。

「まあどれも中学で習ったものばかりだから当たり前だけどな。」と付け加えた。

 確かにこの問題は片目をつぶっても出来そうなくらい簡単だった。

どれも中学で習った内容ばかりだ。高校入学後の新学期早々、中学時代の知識のおさらいだ。

 

 

 被子植物と裸子植物。それは中学でも嫌という程聞かされた単語だった。

 被子植物は子房の中に胚珠を持ち、それが成長し、果実ができる。

おしべとめしべの先が触れ合うことで受粉し、新しい種子が出来ていく。

アサガオ、タンポポなどが例として挙げられる。

彼らは仲間を増やす機能を持つと同時に花びらという美しい部分も併せ持つ。

その花と、それから分泌される花粉がハチなどの「お客さん」を呼び寄せる。

 

 一方、裸子植物は子房を持たず、胚珠はむき出しという特徴を持つ。

それは花粉を運んでくれる「お客さん」が必要ないため花びらを持たない。裸子植物はマツやスギ、ソテツなどが当てはまる。何ともまあどれも寂しい見た目だ。


 被子植物は生殖と言う生態系に必須の役割を成し遂げるために花びらや花粉などあれこれ使うのだ。

 対照的に裸子植物は何も持たない。

何もなくても己の身一つで生きていけるというのか。

裸子植物は花びらや花粉が無くとも生きていける何かがあるのだろうか。


どちらにしても僕が輪廻の輪に還ることになり、どちらかに転生するとしたら被子植物を選ぶだろう。だって、そっちの方がちやほやされて退屈しないだろうから。

 

 あれこれと思案を重ねていると歯が抜けそうなくらい嫌いな生物の時間がやっとおわった。嫌いな授業は時間が永遠のように長く感じるものなのだ。



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