ある朝の話
ある寒い朝のことでした。私はいつものように部活動の朝練習へ行こうと、準備をしていました。私の部屋がある二階から降りれば、いつものように母が台所で朝食の仕度をしています。今日は目玉焼きでしょうか、目玉が三つ、フライパンの中にありました。
「おはよう」
キャベツを黙々と刻む母にそう投げ掛けても、返事はありません。きっといつものように長い髪にはイヤホンが隠れており、朝のラジオを聴いているのでしょう。
居間へ足を運ぶと、いつものように父がコーヒーを飲みながら胡座をかき、新聞を読んでいます。
「おはよう」
返事はありません。きっといつものように新聞に夢中で私の声が届いていないのでしょう。興味のないはずの競馬のページを眺める父の眉間は、いつも以上に険しく見えました。
更に私は庭先に出て、愛犬のポチに会いに行きました。
「おはよう」
ポチは私を見ると、急に唸りだし、更には吠え始めました。私はポチを宥めようと手を近づけましたが、尻尾を巻いて小屋の中へ駆け込んでしまいます。 いつもはこんなことなかったのに、どうしたと言うのでしょう。
しばらくして、妹も寝ぼけ眼で居間へ降りてきました。目が赤く腫れており、少し心配です。
「おはよう」
妹はいつものようにふにゃふにゃと返事をしました。しかし次の瞬間、妹はみるみる内に青ざめて、終には泣き出してしまいました。どうしたと言うのでしょう。
そして私は気付いたのです。
居間の向こうにある和室、そこで私がとても明るい笑顔でいることに。