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入りたいのに入れない…

 


 

今、キノコ達は『ガマタ大陸』から次の大陸に渡る為の船が出ている港街にやって来ていた。


マランダの街より更に大きく高い塀に囲まれ、その塀が海まで突き出ているので街中を伺い知る事は出来ないが、この大きさこそが『港街ソレッグ』が大陸の玄関口となる由縁だろう。


大型船も停泊できるソレッグは大陸間の輸出入の要所として栄え、物資も人も様々な物が行き交い流れる。

流れがあるということはチャンスがあるということ。

一旗揚げようとする者。新天地を目指すもの。夢を抱く者が集まり、流れ流され、一攫千金を狙いソレッグは今日も賑わう。





「『港街ソレッグ』にようこそ!」


そう言って歓迎してくれるのは街に入る関所の門番だ。


長い列をなして街に入る審査を待つ人々は、けれど次いで語られる内容に落胆して、去る者がほとんどだった。


「『秋終祭』が近い為、街への入場は制限させていただいております!お一人様1万Gの寄付金をお支払い下さいっ!」


通常なら100G程度の関所代で済むのを、1万Gも払って入る者はいないだろう。

だが、1万G払ってでも入りたいとする者もいるのだ。


『秋終祭』は豊穣祭の後に開かれる、ソレッグ独自の祭だ。


秋の実りで懐が暖まった他大陸の富裕層やガマタ大陸の貴族が、冬で海が荒れる前にバカンス感覚でやって来て金を落としていく。


商売人には起死回生の市場になるので、遠方からわざわざこの日の為にやってきた者達は列から外れる事はない。

貴族に取り立てられる機会も増えるので、立身出世を狙う無頼漢も列をなす。


せっかく来たのにタイミングが合わないばかりに街に入れない旅人の為に、街壁の周囲には出店が立ち並び人々の無聊を慰める。

商魂逞しい旅人は簡易テントで商いを始めたりもするので、街に入らずともすでに祭のような賑わいを見せていた。


そんな中キノコは。



「…え?本当ですか?8000Gでいいんですか?」

「おうっ!特別にな?いいか、お前だけに話してるんだからな、秘密だぞ?」

「ど、どうしましょうっ?お得ですね、それで街に入れたら、すごくお得ですね?!」

「だろ?俺な、門番にちょっとしたツテがあるから、それだけ預けてもらえれば話をつけてきてやるよ。さ、どうする?こっちも都合があるから早く決めてくれよっ?」

「あ、ああ…、でもでも、どうしましょうっ。それってズルイような…。どうしましょう、シャピ様?」

「……私、キノコが決めた事に従うから…」

「ほら、そっちの美人さんも言ってるし、決めちゃいなゃよ!」


《……おいおいっ、待て待てヘタレっ!毒姫が帰るまで変な事するなっ!》

(だ、だって赤様っ!急がないとチャンスがっ…)



タンポポが目を離した隙に、詐欺に合いそうになっていた。






◇◇◇








「………それは胡散臭いですね。止めて正解だと思います…」

「うぇっ?でも、8000Gですよ?騙すならもっと高く言って来るんじゃ…」

「そういう場合もあるでしょうね。なんにせよ"うまい話には裏がある"ものです。…キノコさんなら、ステータスを見れば何かしら分かるのではないでしょうか?迷ったら相手をよくよく見て下さい…」


情報収集に行っていたタンポポさんにさっきの仲介人さんの話をすると、困った顔をされて諭されました。


うう…。僕、騙されるところだったんでしょうか?

でも、なんで僕なんか騙すんですか?


背が伸びて可笑しいから?

伸び過ぎた髪の毛をクルクル首や腰にまいて、最後は尻尾みたいに垂らしてるのが変だから?

髪の毛の洋服着てるみたいでへんてこだから?

でも、ズルズル引きずるよりこの方がいいと皆言ってくれたんですよ。


タンポポさんは言いずらそうにしながらもちゃんと教えてくれました。


「…キノコさんは、その…"騙されやすい"雰囲気がありますから…」

「うぇっ?!雰囲気?…え?分かるんですか、そんなのっ」

「…失礼を承知で言いますが、キョロキョロしたりはしゃいだり落ち着きがない上に、服は上等ですからね…。田舎から出てきた小金持ちに見えて、都会の詐欺師にはカモでしょう」


……なんてことでしょうっ。


確かに大きな壁や行列に並ぶ人達が珍しくてうろうろしましたよ?

マランダの街にはなかった食べ物や品物を売ってる出店にも興味をひかれました。

タンポポさんにあれは何?これは何?と聞きました。

田舎者、どころか菌類だったので、人間世界の全てが珍しいからはしゃいじゃいましたよ?


それが"騙されやすい"ように見えてたなんて…。

チョロいキノコに、弱そうなキノコに見えていたなんて!


(大変ですよ赤様!『不可死戯』がレベル200を隠すだけじゃなく、異常作用しているみたいですっ!)

《…んなわけあるかっ!『不可死戯』はちゃんと仕事してるっての!単にお前の言動が残念なだけだっ!》

(うぇ?あれ?じゃ、『不可死戯』が僕をチョロキノコに見せてるわけじゃないんですか?)

《人のせいにしてんじゃねぇよっ!…ん?人?能力か?…とにかく、お前がおのぼりさん感丸出しだから悪いっ!》


ぼ、僕がやっぱり悪かったんでしょうかっ!?

騙される方が悪いんですか?


「そんな顔をしなくてもキノコさんが悪いのではありませんよ?騙す方が悪いのですから」

「で、でも」

「…キノコ…大丈夫だよ?…騙されても、私が騙した奴らを捻り潰すから…」

「い、いえっ!違いますよシャピ様、騙されなければいいんですよっ!」


うっかり僕が騙されたら、シャピ様が地の雨を降らせる事態になってしまいます。危険です。


「…騙されないように心掛けるだけでもある程度は効果がありますから、気をつけるようにすればいいと思いますよ?…それとシャピ様。こんなに大きな街ではご不快な事も多々あるでしょうが、できれば抑えて下さい。『秋終祭』とやらで街の警備も厚くなっていますが、どうやらそれは"安全"の為だけではないみたいなんです」

「…なにかあるの?」

「他国の貴族や金持ちがこんなに集まるのは『秋終祭』の裏で行われる『本祭』が目当てらしいのです。そこでは殺人を見世物にしたり、違法の奴隷市も開かれるらしく…」


声を潜めて語るタンポポさんの眉間には嫌悪のシワが出来ています。


「危険な催しですから当然腕の立つ者が警備に立つのですが、それは『本祭』の事を隠す為というのが本当らしいです。1万Gを取るのも入ってくる人間を制限して露呈を防ぐ為。貴族の護衛等も油断出来ません。奴隷市に出ていない一般人を貴族が無理矢理に奴隷として連れていく、なんて事もあるそうです。キノコさん達なら逃げられるでしょうが、騒ぎは起こさない方が無難でしょう。それに…」

「それに?」

「……」


シャピ様が唇を噛み締めるタンポポさんに先を促します。


瞼を震わせながら深く息を吸ったタンポポさんは、視線を地面に留めたまま先を言葉にしました。


「……『本祭』には間違いなく…」


--ガラガラガラガラッ!!


タンポポさんの声を掻き消す騒音が近づいてきて、僕達は知らず知らずつき合わせていた顔を上げて音のする方を見ました。


街に続く街道を何台もの荷馬車が通って行くところでした。


荷馬車には木や鉄で出来た檻が乗せられ、中には沢山の人間が入っています。皆、首輪や手枷を付けられ、沈んだ表情で馬車に揺られているのです。


砂埃を上げて横切っていく荷馬車を僕と同じように見送っていたおじさん達が噂を始めました。


「今年も沢山来たな」

「そういやお前、今年こそ奴隷買うのか?」

「いやー、俺に買えるのは下級奴隷ぐらいだからなぁ。そうすると今の荷馬車に乗ってた奴らくらいだろ?あんなんじゃ買わない方がましだろ?」

「まあなぁ。冒険者なら"盾役"や"荷物持ち"として買うだけだからかまわないんだろうけど、やっぱり買うからには質が良い者が欲しいよな」

「貴族が行ける奴隷市なら、もっと美人で肉付きのいいのがうじゃうじゃいるんだろうなー」

「貴族といえばさ、どうやら大物が…」


歩きながら話すおじさん達はそのまま行ってしまいました。


僕は不思議に思った事をタンポポさんに聞いてみます。


「…タンポポさん、奴隷市って『本祭』にひらかれるんですよね?あんな一般人の方々が知ってるような物が違法なんですか?」

「ええと、奴隷市は『秋終祭』でもあるのです。そちらは違法でない借金奴隷や犯罪奴隷を売りさばく市ですね。『本祭』の奴隷市は、誘拐されたり身分の高い家から放逐されたりした、あまり世間に公表出来ない奴隷を扱うのです。後は、"亜人"といわれる人達も出るそうです」

「亜人?」

「ドワーフやニンフ、獣人といった方々です。人間に似ているけど違う部分がある人種を総じて"亜人"というのです」

「ドワーフ………。プランお婆ちゃんの仲間ですか?」

「…そうです。"亜人"というのは人間とは違う国と法律で守られているので、人間の奴隷市ではまず出てこない商品です。それを扱うというのですから、ひょっとしたらここの『本祭』はかなりの支援をうけているのかもしれません」


国家間で争いになるようなモノを扱うのですから、下手をしたら"亜人"の国も一枚噛んでいる祭なのかもしれないとタンポポさんは言います。


奴隷というのはあまり気分のよいものではないと、何となくでしか僕は理解していませんでしたが、誘拐した人を売買するのはいかがなものでしょう?

借金や犯罪を犯して奴隷として自分を売る事を納得しているならいざ知らず、わけもわからぬ内に奴隷にされるなんて可笑しいです。


僕も誘拐された事があるので人事ではないのですよっ。


《…おーい、ヘタレ?『本祭』の奴隷市に何かしようなんて考えるなよー?》

(でも赤様っ!誘拐はダメでしょう?!)

《ダメでもなんでも、権力者がゾロゾロ群がってるようなモノに首突っ込むな。国が関わってるなら国家間、大陸間の問題に発展するかもしれない。お前、それをどうにか出来るの?》

(…うぇっ?……発展、するんですか?)

《するね。確実だね。取り引きは規模がデカイ程関係者が増える。面倒な事には手を出すな》


そ、それなら首は引っ込めておきます。

理不尽だな、とか、悪い事してるな、とか思いますけど、人間世界を下手に荒らしてもいけませんしね。


《そうそう。ただでさえお前は『魔女の養い子』でレベル200で『雷王』にも唾付けられてる面倒菌類なんだから、目立つ事はするな》


わかりました、僕に関係ないならそういった事には関わらないようにします。出来るだけ。


そうなると。


いかにも怪しげな『本祭』が行われる今の期間はソレッグには入らない方がいいかもしれないですね。


そもそもこの壁も僕とシャピ様なら飛び越えられるし、ルールだからと1万G払って安全に入る必要もなくなったわけです。


「……なら、違うとこに行く?」

「うーん…。ソレッグに来たのは海を渡る為ですからね…。他に船が出てる町とかないのかな?それかやっぱり僕が泳いで…」

「大陸間の海には海賊も魔物も出ますから泳ぐのは止めて下さい…。近くの漁村等に行ってみましょうか?」

「そうですね…。……あれ?勇者さんは何処に行ったんですか?」


そういえば勇者さんをしばらく見てません。


師匠と一緒に走り込みをすると言ってたのですが、いつのまにか辺りにはいませんね。

グラネカラさんにやられて間もないのに、もう走れるなんて、やはり勇者さんは地味に優秀です。


「……あちこち、走ってた…。今は、ほら、あそこで変な動きをしてる…」


シャピ様が指差した方向には屋台の裏の方で妙な動きをしている勇者さんがいます。


まだぎこちないせいで奇妙な体操に見えますが、あれは師匠が教える足運びを取り入れた戦闘時の防御運動ですね。

おお、ぎこちないながらも綺麗に型をとれてますよ。

師匠の教えがいいのか勇者さんが優秀なのか。


あ、躓いた。

うーん、まだ足運びがダメですね。


《…ヘタレ。勇者に目をつけてる奴がいるぞ》

(うぇっ?誰だれ?)


見れば屋台から買った串焼きを食べながらお酒を飲んでいる旅人さんがさりげなさを装って勇者さんを観察していました。

あら、あの串焼き美味しそうですね。

何処で売ってる………わかってますよ赤様、勇者さんを回収しますから。


街に入れない武芸者の方があちこちで運動しているから、さほど勇者さんは目立つわけでもないのに、なんで見てるんでしょう?


と、その前に"見透かし"ておきましょうか。









名前: タログ・エイバース

種族: 人間

クラス: 諜報工作員

レベル: 49

体力: 1000

心力: 800

技力: 1300

能力: 身体制御  身体強化  武器之技  精神制御  精神之技  諜報之技  工作之技

称号: 誠心誠意  自尊自戒  暗躍者  忠義者  







………。

…諜報工作員?

はぁ?!なに、この人っ!


《……うわっ!面倒な臭いしかしねぇっ!ヘタレ、直ぐに勇者を回収してずらかるぞっ!》

(ずらかるって…悪者みたいな…)


といっても僕も危ない気配を感じるので赤様に従わせてもらいますが。


「ゆ、勇者さーん!」

「……ん?な、なんだ?どうした?」

【…キノコ、ちょうどよい。そなたも一緒に…】

「師匠、ごめんなさい!急いでますからまた後でっ」


素早く勇者さんを捕獲してダッシュで諜報工作員の方から距離を取ります。もちろん本気で走ったりはしませんが。


「っな、なんだよ、いきなり!?」

「え、えーと、あれですっ!あれを食べましょうっ!」

「はあっ?」


まさか諜報工作員さんがいるなんて話せませんから、目に付いた屋台に勇者さんを連れていきます。

無理矢理ですけど構いませんよね?

後ろからシャピ様とタンポポさんもついて来ています。

すいません、いきなり走ったり屋台に行ったり挙動不審で…。変なキノコですみません…。


「いらっしゃい!グズル村の蜂蜜が入った餅菓子だよっ!」


勢いで入った屋台は丸いお菓子を売っているお店でした。

甘くて香ばしい匂いにタンポポさんが頬を緩ませています。


「あの、四ツ下さい」

「はいよ!熱いから気をつけなっ」

「なぁキノコ?なんでいきなり…」

「はい!シャピ様、どうぞ?」

「……ありがとう…」

「あ、美味しい」

「美味しいですかタンポポさん?シャピ様、次はお肉を食べましょうか?」

「…肉……肉が好き…」

「ちょっと、キノコ?なんで俺…」

「あ、ホントに美味しいですねっ?蜂蜜が入ってるからまろやかですよっ」


勇者さんがしつこく聞いてくるのを無視させていただきます。


諜報工作員なんて訳が分からない方に観察されてたなんて、勇者さんも知りたくないでしょうし。


(それにしてもなんで勇者さんを見てたんでしょう?)

《……騎士の教える動きは独特だからな…。勘のいい手練だと何かしら気づくかも知れない…》

(…そうなんですか?それを探る為に来てるわけじゃないですよね?あの人)

《諜報員はあらゆる情報を集めなきゃならないからな。胡散臭い祭を探りにきているついでに、人間観察してたんじゃないか?ああいうのが紛れてるんじゃ、やっぱり今はソレッグに入るのは止めといた方が無難だな》


シャピ様に肉串焼きを20本買ってあげてから、僕は皆に余所に行きましょうと伝えました。


勇者さんはまだ難しい顔をして僕をみていましたが、師匠に言われて足運びを再開させています。

師匠は何も言わないのでひょっとしたら諜報工作員さんに気づいていたかもしれませんね。


シャピ様はお肉を頬張りながらも了解してくれましたし、タンポポさんもホッとしたような顔で従ってくれます。




ガラガラと奴隷を運ぶ荷馬車に逆らうように、僕達は『港街ソレッグ』をあとにしました。  













「……さっき、何を言おうとしたの?」

「…あの……。…いえ……シャピ様にはお伝えしておきます…」

「…うん………なに?」

「『本祭』には間違いなく、…『啜る悪意』が関係しています」

「……闇組織、だっけ?……そう…奴隷市なんてするんだから、寧ろ当然か…」

「はい。キノコさんは『啜る悪意』に干渉したいようですが、やむを得ずの場合以外は接触するべきではないと思いまして…」

「…奴隷は主人に従ってればいいのに、考えすぎ……。でも、キノコを思っての事でしょ?…仕方ない…」

「………」

「……キノコ、厄介事を引き付けるし……。知らせない方がいいかも…」

「…ですよね…」





















 


大イベント(?)をスルーするキノコ一行です。


キノコはアーゼスの『勇者』呼びを止めませんが、そのせいでアーゼスはクスクス笑われたりしています。恥ずかしいです。

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