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グラネカラの贈り物

 


朝靄が色濃い山道を狩人は慎重に登っていた。


早朝、明るくなってきたとはいえ、繁った木々に靄のせいで見通しがかなり悪く、慣れた狩人でも油断は出来ない。

一歩踏み間違えたり、一つ分岐を誤れば、この山では死に直結する。


しっとりとする靄を掻き分け、狩人にしか分からない道標を探し、それを頼りに山を登っていく。


高い梢の上の方が白く照らされているのを靄の下から確認して、天候に不安がなさそうなのに安心していると、奇妙な胸騒ぎがした。


ゾワゾワするような不快感、ザワザワするような焦燥感。


日々の糧の為に山に入った狩人は、山を知っているぶん山を畏れている。

危険だと感じる前に、危険かも?と思ったら引き返す事が重要だと身を以って知っている。


しかもここは『ノロル山』。

『グラネカラ』の縄張りだ。


"引き返そう"と来た道を振り返った狩人の視界に、靄に霞む木立の向こうが朝日に照らされ映し出された。


白い光の中、列を成して進む巨体の狼の群れがいる。


『グラネカラ』だ。


狼と竜の間のモンスター、それが何頭、何十頭と歩いている。


素材の宝庫といわれる『グラネカラ』がこんなに沢山。

思わず現金な考えに走った狩人は、叫んでしまいそうになるのを必死に堪えた。


『グラネカラ』は狩人に気づいているはず。だが、無視されている。

見逃されているのだ。


そうだ、下手に叫んで不興を買ったり、刺激して興味を持たれたりしてはいけない。

狩人とてそこそこの強さを持つが、流石にあの群れを相手には出来ない。無謀に挑んでも死ぬだけだ。


そうだ、冷静になれ。

一獲千金なんて夢を見るなと自分を叱責する狩人。


『グラネカラ』の列に一際大きな影が見えたのは、狩人が緊張のあまり忘れていた呼吸を再開した時だった。


狼より巨体の『グラネカラ』。

その灰色の『グラネカラ』達よりも更に巨大な『グラネカラ』が、列に混じって歩いていく。


硬化したような皮膚に白髪になった体毛から、かなりの年配者だと思われる『グラネカラ』は、威風堂々とした脚取りで進む。


あれはもしや、伝説といわれる『グラネカラの王』ではないかと狩人は目を瞠る。


ノロル山のどこかで暮らす『グラネカラの王』は山の『守り神』なんだと、狩人は祖父母や両親に聞かされてきた。




『守り神』には手を出してはいけない。

『守り神』に会ったら礼儀を尽くせ。

『守り神』を見たらその日の狩りはやめろ。




狩人はその場で膝を折り、自然と頭を下げていた。


お伽話や迷信だと馬鹿にしていたわけではないが、実在するとは思っていなかった『守り神』を目の当たりにして、その威厳溢れる姿を感じて、心から平伏してしまったのだ。


山で生きているから分かる。

山に生かされているから分かる。


あれが尊いモノだと、魂が理解する。



狩人の心は崇拝者のように歓喜で満たされていった。

知らず知らず祈りの形に手を合わせていく。


もう一度だけ、あの神々しい姿を拝んでおこうと顔を上げた狩人は、『守り神』の足元をピョコピョコ動く妙なモノを見た。

思わず二度見するほど、妙なモノ。




白く大きな『お化けキノコ』が歩いていた。








◇◇◇












『……さて。名残惜しいが、そろそろお別れだな』


グラネカラの長老様が念話でそう切り出してきました。


山を下りる僕たちを見送るため、こんな場所まで来てくれたのです。


『そなたらには本当に世話になった。改めて、礼を言わせておくれ。グラネカラを助けてくれて…ありがとう、異邦の子供達よ』


頭を下げていく長老様に倣って、次々と顔を伏せていくグラネカラさん達。

沢山のグラネカラさん達が僕達を囲んで行うそれは、朝露が光る場所のせいかとても荘厳で。

あまりに仰々しい気がして、僕は恥ずかしくなって止めて欲しいと言いたくなりました。

でも赤様が、


《気の済むようにやらせてやれ。あっちにだって面子があるんだ》


そう言うので我慢することにしました。

む、むずかゆい…けど。


やがてゆっくりと頭を上げた長老様と目が合いました。

長老様はしっかりと僕を見ている気がします。なんで?


……なんでしょう?何か話した方がいいんですよね?


「…えっと…あの、こちらこそ沢山お土産を貰っちゃって…すいません…」

『正当な報酬だ、気にしないで欲しい。旅の役に立つなら、こちらとしても渡したかいがあるというものだ』


長老様から頂いた報酬はかなりの量になりました。


鉱石、宝石、魔力石、蜂蜜に薬草、あとグラネカラさん達の牙や爪ですね。

毛皮は流石に生え変わったりしないので無理ですが、先祖の方々の骨も頂きました。


シャピ様は長老様の青銀の鱗を何枚か貰っていましたね。

これで目的だった素材は手に入りましたよ。


勇者さんも、倒したグラネカラさんの遺骸を受けとるはずだったんですが頑なに拒否していました。


まぁ、殺した理由が"お金"と"レベルアップ"ですからね。


遺族を前に気まずくなるのもわかりますが、何かの糧に倒されたのなら、グラネカラさん達だって納得するんじゃないでしょうか。

ただ、なんとなく、楽しいから、むかつくから、で殺された訳じゃないんです。

勇者さんもすごくボロボロになって、いまでも包帯だらけで、そうまでして勝てたのに卑屈になったら、死んだ方に失礼なんじゃないでしょうか?


僕はそう考えたので、勇者さんにも伝えたら、すごく泣きそうになってました。


今も泣きそうになりながらなんとか立ってます。

全身包帯だらけで悲壮感が漂っていますが、容赦しない師匠が必要最低限の治療だけで無理矢理歩かせているのです。

普通なら起き上がるのも辛いでしょうに、やっぱり勇者さん、実はスゴイ?


勇者さんに視線を流していたからか、長老様も勇者さんに目をやります。


『……。小さな人間よ、何を嘆く?殺した者の遺族に囲まれ、居心地が悪いというのか?』

「…っ、ち、違っ」 


長老様に語りかけられ勇者さんが慌てて姿勢を正しますが、痛さで直ぐにへたり込んでしまいます。

長老様はそんな勇者さんを気にすることなく続けて語ります。


『…では、なんだ?殺したくなかった、とでも言うのか?』

「…そ、そう…。言い訳でしかないけど…出来ればあのグラネカラを救いたかったんだ…。死にたがっているのは分かったけど、死ぬのを止めたかった…」

『くくっ、随分とまぁ、傲慢な人間だ。お前如きがグラネカラの戦士を止められると思うな。あれ(・・)は自殺したのだ。お前という小さな刃物を利用してな』


勇者さんをバカにするような口調ですが、長老様が言外に"勇者さんのせいではない"と言っているのがわかります。


『思い上がるな、人間。お前に憐れまれるような生き方も死に方も、あの子(・・・)はしていない。死んで尚、その身は山の糧となり生き様は一族の励みになるのだ。戦士として死ぬ事を選んだあの子を蔑むような言動は許さん』


河原で会ったグラネカラさんは死に場所、というか死ぬ機会を探していたと言うことでしょうか?一度しか見ていないので詳しくはわかりませんが。

確かに、レベルが下の勇者さんがあのグラネカラさんに勝ったのは、グラネカラさんがもともと死ぬ気だったんだと言われた方がしっくりきますね。


なんにせよ長老様は"気に病むな"と言っているのでしょう。


勇者さんも長老様の意図が分かったのか、反論はしません。


『弱いそなたには殺した相手を憐れむ事すら侮辱に当たるのだと、肝に銘じておけ。悔しいなら見返す程の戦士になるがいい。そうでなくば、死んでそなたの(経験値)になったあの子が浮かばれない』

「……はい」

『心せよ、小さな戦士よ。命を喰らって強くなるとは、相手の全てを喰らうと言うこと。そなたのこれからで、喰われた者らの評価も変わるのだ』


…そうですね。

仕方ないとはいえ、僕も青いグラネカラさんを殺してレベルアップしました。

彼女が悲しむような行動は慎まなければいけませんね。

ね?赤様?


《…はぁ?なんだ、ヘタレ。お前俺に自重しろとか言うのか?……誰がするかっ!汚い事も非道な事もするに決まってんだろっ!やられたらやり返すっ、地獄みせてやるっ!》


……………………そ、そうですか…。



赤様の非道宣言に悲しくなってると、勇者さんが幾分かすっきりした顔をして長老様に向き直っていました。


「……あ、あの…。やっぱり、俺が殺したグラネカラの遺体…。貰っても良いですか?」

『…よかろう。そなたを傷つけた牙と毛皮を持っていくがいい』

「ありがとうございます…」


頭を下げた勇者さんに二頭のグラネカラが近寄り、物品を渡しています。


貰った素材をどうするかは僕が干渉する事じゃないけど、出来るだけ有効活用してほしいですね。


長老様は次にシャピ様に声をかけました。


「……鱗、ありがとう…」

『それで武器を作ると言っていたな?良い武器が出来るのは保証しよう、私の鱗だからな』

「…そう…そうだね…。…ねぇ、もしかしてあんた…」

『何を聞きたいかは分かるが、知らぬ方がいい。『鬼』よ、誇り高く強くあれ』

「……うん。わかった……」


?はて?

何を話してたんでしょう?


《まぁ多分……長老ジジイの正体…かな?》

(正体?グラネカラさんでしょ?……はっ?まさか長老様も『変身』してるとか?)


そうじゃない、お前は知らなくていいんだと赤様が嘆息しています。


知らなくていいなら追及はしませんけど気になりますね。

いつか教えてくれるんですかね?


《そうだな。いつかな》


じゃ、待ってます。


気付けば長老様がまた僕を見ていました。


優しい色合いの、年老いて薄くなってしまった青い眼が僕を見透かすように見ています。

僕は『万能結界』があるから『鑑定』はされないはずなのに、なんだか調べられている感じがするのは何故でしょう?


『…キノコよ。最後にそなたに受け取って欲しい物がある』

「お礼は貰いましたよ?」

『礼ではない。そうだな、預かって欲しい…いや、そなたに持っていて欲しいという私の我が儘だ。拒否しても構わないが、出来れば受け取っておくれ』

「…えっと、なんですか?」

『私の『目』だ』


そういった長老様の大きな瞳から、ゴロンと二つの塊が地面に落下しました。


目。目玉。

目玉ですよね、今落ちたの。


……痛くないのかな?


長老様の顔は痛みに苦しむでもなく至って平然としていますが、目玉のあった場所は黒い穴になっています。

血が出ることもなく平気そうですけど、びっくりしましたよ?


地面に落ちた目玉は"目玉"というより丸い石に見えました。

薄かった青が濃くなり、少し銀が混じって輝く様子は宝石みたいです。


どうすればいいのか戸惑っていると、長老様が何も無くなった瞼を閉じてからゆっくり話し出しました。


『私が生まれた時からグラネカラとして生きてきた今まで、その全てを見ていた目玉だ。もう視力も落ちてしまってほとんど見えてはいなかったがな。これを持っていってはくれまいか?』

「……な、なんで?」

『…昔…大昔、私には母親違いの"兄"がいた。兄者は世界を見ると言って旅に出た。私も誘われたが、勇気がなくてな…兄者は一人で行ってしまった…。安住を選んで一族を守った事に悔いはないはずなのに、今頃になってその事が心残りでな』

「…えっと?」

『強く逞しい兄者だったが、一人にすべきではなかったのではないか?一人が嫌だから私を誘ったのではないか?……そう、考える事が多くなった。私に家族が増えたせいか、それとも死期が近いか。両方かもしれぬがな…』

「……」

『兄者は私の瞳を好いていてくれた。空と同じだと可愛がってくれた。……だから、どこかで兄者に会ったら、私の目玉を渡してはくれぬか?…世界を見てきた兄者に私が見てきた物を伝えたいのだ。兄者の弟は、空の下でしっかりと生きたと伝えたいのだ』

「…あの、でも、お兄さん、僕知らないですよ?それに失礼ですけど死んでいるかも…」

『兄者に近づけば目玉が知らせる、心配はない。死んでいたら目玉は土に還しておくれ。ただ持ち歩くだけで構わないのだが、負担になるようなら諦めよう。どうだ?』


長老様のお兄さん、ですか。

ちょっと興味ありますね。


正直、持ち歩くだけでいいなら僕は構いません。鞄は容量がありすぎるから重たくもないし。


「あの、会えたらでいいんですよね?僕達がお家に帰るまでに会えなかったら?」

『その時も土に還してくれてよい。無理に旅に出ることもない。持っていってくれるのか?』

「持ってるだけでいいなら、いいですよ?」

『おお、おお、ありがとうキノコ!。では、目玉の一つはそなたにあげよう。私の目玉は素材として使うもよし、魔法の媒介にするもよしの逸品なのだ。なに、伝えるのは一つあれば充分だろう。一応保険として二つ渡すがな』


落ち葉がついてしまった"目玉"を拾ってみると、僕の頭くらい大きいのに重さはそれほどでもありません。

石のような、硬いお肉のような不思議な感触です。

目玉らしく全体が白く、真ん中に青銀の瞳孔があります。うん、目玉ですね。


『道中、モンスターと揉める事があればそれを出してみなさい。私もそれなりに名が通った者だ。牽制にはなるだろう』


そんなことにならないのが一番いいんですけどね…。


「ありがとうございます長老様。それじゃ僕達はこれで…」

『いや、待ちなさい』

「はい?何かくれるんですか?」

『そうではなく……。他の者が言っているのだが……その姿で大丈夫なのか?と。大丈夫なのか?』


その姿って……。



あ、そうでした。





レベル上昇が済んだ僕は、ちょっとだけ伸びた背と、恐ろしいほど伸びた髪の毛に埋もれて目覚めたのです。


ベッドから床に滴り、寝室を埋め尽くそうとする髪の毛に執事のカエンさんは表情を変えずに固まり、すぐさま復活するとメイドさん達を呼んで四人掛かりで髪の毛をまとめあげてくれました。


結果、縄のような太さの三つ編みがビローンと出来上がりました。

長さが僕の身長の三倍くらいにはなったでしょうか?


とりあえず頭の上でぐるぐるととぐろを巻くようにしてみたら、なんというか"きの傘"のようになって、僕のテンションが上がりました。


スライム変身はダメだと言われましたが、キノコ変身ならいいですよね?良いはずですよね、だって僕キノコだし!


『スライムがダメなんだから、スライムがダメなんだから…キノコくらいはー!』

《っ、バカ、やめろヘタレ!…》






……そうして『肉体改造』で"キノコ変身"をしたんでした。




で、そのまま懐かしい身体でここまで来たんでした。


ですから今の僕は"服を来た巨大白キノコ"なのです。心なしか馴染み深い身体のせいで軽快な歩みだったんですよ。


ええ、つまり化けキノコの格好で山を徘徊してましたよ、僕っ!


「……忘れてました…」


いえ、忘れてこの姿でうろうろしてた僕が悪いんですけど、最初から見てたカエンさん達はまだしも、なんでシャピ様達は何も突っ込んでくれなかったんですかっ!?


「……キノコなら、どんな格好でも可愛い…」

「…私…てっきり新しい服装だと…」

「…俺、幻覚見えてるんだと思ってた…」


僕もバカですけど三人も可笑しくないですかっ!?

レベルアップしたらキノコに変身してたら、びっくりするでしょ、普通っ!

特に勇者さんっ、幻覚見えそうなくらいヤバいなら休んで下さいっ!無理でしょうけどねっ!


《一番バカなのはテメェだ糞菌類っ!キノコに化けるってテンションが俺はわかんねぇよっ!!》

(あ、赤様がスライム禁止したからじゃないですかー!?スライムさんになったわけじゃないから、お仕置きは受け付けませんからねー!!) 

《て、てめっ!"心力"アップしたからって変なところまで強く…》


名残惜しい定着感なんですけど、流石に化けキノコのままで山から出るわけにはいかないのはわかってます。

モンスターとして追われてしまいます。


仕方ないから人型に戻りましょう、残念ですけど。


《残念ってお前…》


「………ふぅ。さて、これで人の形になってますよね?」


手の平を確認して体をあちこち触ってみて、いつも通りなのを確かめます。

あ、今までよりも少し大きくなってたんでしたね。


「……キノコ?」

「はい?」

「キノコ……さん?ですか?…」

「はい」

「…っへ?っえ、キノコ…?」

「そうですよ?」


不思議そうな声を出すシャピ様達に返事を返したんですけど、僕も不思議な者を見るような顔をしていたと思います。


だってシャピ様達、小さくなってません?


《なってるだろうよ…。お前、"大男"サイズになってるぞ》

(……ああ、だから見下ろすかたちに…)


ポカーンと口を開けた三人が小さいのは、僕が大きくなりすぎたからでしたかっ。



……赤様、『肉体改造』って調節が難しいですね?












◇◇◇










ふらりとやってきた来訪者達が去った。



グラネカラを襲った"悪夢"を消し去って。



本当に天の采配というものだろう。そう思わずにはいられない。


『聖樹』から作られた『堕悪』。

『聖樹』にノロルの地を与えられたグラネカラ。


そして。


微かに感じた『聖樹』の気配。

それを持つ『キノコ』。


これが運命といわずになにをいうのか。




狼にも竜にもなれない出来損ないとして産まれた私に、迫害を受けずにすむよう知恵と土地を与えてくれたのは『聖樹』である。


遠く離れていようとも、大地に満ちる彼の方の恩恵をいつでも感じていた。


父に捨てられ母に疎まれ、兄者についていく力もない自分を支えてくれたのは間違いなく『聖樹』である。


そうして、今また、『奇跡』はグラネカラを救ってくれた。



姿を隠してしまったと聞いて幾星霜、けれど貴方は来てくれた。




この恩をどう返せばいいのか、何をすればいいのか。




急遽、目玉にありったけの"力"を潜ませ渡したのだが、おかげで身体はスカスカになってしまった。

どうせ老い先短いのだ。構いはしない。

それより、ちゃんと"力"に気づいてくれるだろうか。

気づいて役立ててくれればいいのだが。


キノコが気づかなくとも兄者に会えば彼が気づくだろう。


そうしたら兄者がキノコの味方になってくれるはずだ。

寧ろそうなった方が安心かもしれない。




『雷王』となった兄者が味方になれば、恐れるものなどないだろう。








さあ、見送りも済んだ。


帰ろう我が子達。


恐ろしい出来事だった。

戦士が死んだ。青い子も死んだ。悲しい、辛い事ばかりだった。



もうこんな事が無いように、祈ろう。強くなろう。


誰にも泣かされないように、強くなろう。




『聖樹』。


貴方と約束しましたね。

"強く"なると。

強くなってノロル()を守ると。


兄者とは違う"力"ですが、私も強くなったでしょうか?

家族を守れているでしょうか?




『聖樹』。


貴方の落とし子は。


とてもとても強いけれど。とてもとても、清いけれど。


とても……脆く危うい。





私の目玉が、私の兄者が、支えるものとなればいいのですが。


























狩人は『ノロルの守り神』の事を自分の子供に話した。


子供は友達に自慢し、それを聞いていた通りすがりの者が噂を広めた。


噂は尾ひれを付ける。


『ノロルにグラネカラの化物がでた』

『普通より巨大で狂暴らしい』

『何人もやられた。魔法も使うらしい』

『キノコの魔物を従える、魔王だそうだ』


噂は風よりも早く広まる。


曲解と誤報を織り交ぜ、国王まで届く。


『悪魔のグラネカラ』

『人喰いグラネカラ』


真偽を確かめるよりも早く討伐隊が組まれノロルは火を放たれた。


"疑わしきは滅っせよ"という苛烈な進軍には、『聖女』の姿もあった。


グラネカラの宝に目が眩んだのか、討伐は残虐極まりない有様になったという。




グラネカラの最期は地底湖に追い詰められ、人間を巻き添えにした生き埋めだった。






それから。


ノロル山には水が湧き出なくなり。

木々は枯れ、動物は去り。



ある日。



かつてノロル山を狩り場にしていた狩人の男が、山の入口で首を吊っているのを最後に。



ノロル山は誰も立ち入らない、死んだ山になってしまった。
















 

グラネカラという種族は他の場所にもいます。

滅んだのはノロル山にいる一族だけです。


雷王と長老は父親が同じ竜で、母親がそれぞれ違います。異母兄弟ですね。

二人とも悲惨な環境で産まれたのです。

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