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キノコの観察

ちょっと長くなりました。




秋の終わりにキノコが毒の制御に成功した。


余程嬉しかったのかワァワァ泣いて、乾いて死にそうになった。おバカなキノコだ。

まぁ、おバカ故に可愛いのだが。


外は雪がちらつき本格的な冬の訪れを告げている。

動物も植物も活動が鈍る季節だが、キノコは今日もコンカッタと外で修行している。キノコのくせに元気だ。


この家は木造で古いが魔女である私の結界により快適な室温を実現している。

なので暖房も要らないのだが、気分は大事だ。暖炉に火を炒れる。


気分は大事だからだ。


雪の降る景色が見える暖炉のある部屋、いいじゃない?


次の気分としては、お茶を飲みながら暖炉の前でまったり読書なんてどうだろう?あら、いいじゃない?


というわけで小物を揃えて暖炉前を飾ってみる。なかなかだ。

さて、では何の本を読もう?


まあ、持っている本は全て暗記しているし、処分した物ももちろん覚えている。魔法本から歴史本、地図に政治文学娯楽小説教育読本……。


うーん、ざっと振り返っても読みたい本がないな。


『師匠っ!雪だるまって、こんな感じですか?』


キノコが騒いでいる。修行しているんじゃなかったのか?


ああ、キノコで思い出した。


出来ている分のキノコ観察結果を纏めよう。

この頃は私もキノコについて制御法に集中していたから、走り書きやらが溜まっている。


といっても私の走り書きは『万知万能(ホボスベテ)』に管理されている意識領域の中にあるので、それを拾うだけなのだが。


椅子に座り暖炉を眺めながら、『作業』を開始する。


私の研究は全て頭の中に有る。必要な者は私だけ。


キノコとの出会いから今日までを高速で纏めあげ、補足を加えていく。


日時に天気気温、世界情勢に私の主観と客観的感想。キノコの特徴、変化、成長。走り書きの補填。

ここまでで一分弱。


お茶が蒸れたのでカップに注ぐ。

いい香りが漂う。


次はキノコの成長に重点を置いて意識内を整理する。今現在のキノコのステータスは…





名前: キノコ

種族: ロムスーキノコ  造られた入れ物

職業: 無し

レベル: 6

体力: 30000

心力: 21000

技力: 50000

能力: 自給自足  毒性無効  状態異常無効  身体制御  魔力制御  疾風走行  万能結界  自覚無毒  万能毒成  這寄毒成  毒性支配

称号: 聖樹の落とし子  魔女の養い子  人造人間  妖精の友  幽霊の友  荊騎士の弟子  全てを毒す







である。


この頃の日課はキノコのステータス閲覧なので、毎朝キノコに報告させている。

私の『見透かし』でも見れない結界を持つキノコは嘘をつくようなキノコではない。ステータス改竄はないだろう。


する意味すら理解してないだろうし、おバカだから。


さて、キノコのレベルは6になった。


レベルとは経験であり、規準でもある。


種族に左右されたりするが、概ね年齢=レベルとみて間違いなく高いレベルの方が強いし長生きしたことになる。


更に職業でもレベルに差がつく。希少職や上級職は就く事が困難でレベルが上がり辛くなるが、体・心・技が大幅にアップするし能力も段違いに上がる。


で、キノコのレベル6ステータスだが。


色々おかしい。


レベルが6なのはいい。キノコ自体の年齢はしらないが、人造人間になって3年程経つし修業もしている。レベル6の三歳児、まあいい。


でも体・心・技の数値はおかしいと思うんだ。うん、ヤバイ数値だ、これ。


レベル249のコンカッタと遜色ないよ、レベル6。

職業は無しだから、種族の補正かとも思ったのだが、





ロムスーキノコ

《千年に一度と言われる幻のキノコ。毒性のあるロムーキノコと間違われるが、その毒は天と地の差。接触までなら危険ではないが、食べる等は決してしてはいけない。取り扱い禁止》


造られた入れ物

《魔女により造られた人型。自我はなく吸収するだけの入れ物》







補正、しているのだろうか?


してるようなの毒しかないんじゃない?補正してたとしても、レベル5からレベル6への上がり幅がとんでもない。


千単位で上がるステータスってなんだろう?


考えられる他の原因は、間違いなく私の『実験』だろう。


キノコには色々した。


最終的には、とんでもないモノまで飲み込ませた。だって飲むんだものキノコったら。


えーと、なんだっけかな?確か、竜関係に天界の秘宝に、星の核に連なる神話の………。魔神の遺物もそういえば…………。

………。


……………うん。


補正アイテムとかレベル関係の希少アイテムかなり使ってたな。


私には必要ないものだからガラクタ処理の感覚で水槽に入れてたけど、ばれたら各方面から苦情くるな、これ。


いやいや、悪いのはキノコだ。キノコが何でも食べるから悪い。


どうやって吸収してたのか謎だがキノコが悪い。菌類恐るべし!



………まぁいい。今は結果を考察するべきだ。


レベルのわりに高過ぎる体力等だが、先の原因を考えると能力が足りないように思う。


食べさせたアイテムから得た能力は『万能結界』くらいじゃないだろうか。他にもレア能力のアイテムがあったはずたが、何処に消えたのだろう?


それに『ロムスーキノコ』としての能力が多い。

体の『人造人間』の方にも手を加えているのだが、見当たらない。


考えられる原因は3つ。


1つ目は能力が消失、または併合されている場合。


本人に合わない能力は必然的に消えるものだ。


また似たような能力は併合され統括される。この場合キノコがもとから持っていた『毒』関係の能力は併合され、キノコに合わないであろう『火』関係は消えてしまっている事になる。


2つ目は単に能力の解放条件を満たしてない場合。


レベルが上がっただけでは手に入らない能力もある。洗礼を受けるとか魔獣単独撃破が条件とかあったりする。


だが、『万能結界』をキノコは取得している。これは確実に私のアイテムからの能力である。なら他のアイテムの能力が無いのはおかしい。


なのでこれは除外してもいい原因かもしれない。


3つ目はキノコ本人が無意識に『封印』している場合。


キノコは成熟した精神ではない。

また身体も本来のものでは無く全てがアンバランスなのだ。そこに大量のステータス補正と能力が加わると最悪『キノコ(中身)』も『人造人間(からだ)』も崩壊するだろう。容量以上に詰め込んで、袋が破れるように。


だから『封印』して見えないようにしている。

見えなければ意識に上がらないので使う事も発動する事もない。自己防衛だ。


生存本能に従った結果なら『人造人間(からだ)』も邪魔しないだろうし、そう考えると寧ろ『人造人間(からだ)』が封印しているのかもしれない。


憶測に過ぎないが私はこれが当たりじゃないかと思う。


『……はい!寒くないです』

【…しかし結構な時間……外に居るぞ?……雪も止まんしな……】


能力といえば、キノコの新能力があった。





毒性支配

《自己の体内における毒の支配が可能。停滞、活性、移動、排出が基本。他の能力との合わせ技により他人にも干渉可能》






簡単に言うと、毒の管理が出来る力だ。


管理人となってキノコという家に住む毒達を時に叱って閉じ込めて、時に煽って移動させ、ダメな毒は強制退去させる。

無尽蔵に毒を作り出すキノコには有り難い能力だろう。


【それに……そなたの事情も分かるが…やはり娘が体を冷やすのは……良くないぞ?……】

『そうなんですか?女の子って大変で………あれ?』


ただ、この能力も凶悪ではある。


停滞、活性、移動、排出ができるとなると、殺人等が簡単に行える。

弱い毒を飲んで全身に廻らないように停滞させた暗殺者が、ターゲットに活性化した毒を盛って逃げる。例え捕まっても証拠は体の中で、後で移動させて排出すればいいだけ。


裏仕事向きだ。


というか、キノコの毒能力で一国くらい滅亡させられるな。いや、大陸沈められる。


おバカだからやらないだろうけど。





ドタドタとおバカが家に入ってきた音がする。


外でドタドタしてればいいのに、うるさいキノコだ。


「魔女さん!魔女さん!僕って『女の子』なんですか?!」

「…………はあーー??」


部屋に入ってきたキノコがいきなり聞いてきた。女の子?キノコが?


「……なにー?いきなりー?」

「あ、すみません。実は前にも師匠に言われて、聞くの忘れてたんです。さっきまた言われたから思い出して」

「コンカッタにー?」

「はい。師匠が言うには僕『女の子』だって。キノコだから性別無いのかなとも思ったんですけど、この体は魔女さんの『お肉』だから……」

「………ふーん、そうなんだ~?」

「あの、魔女さん。『女の子』なら僕、もっと女の子らしくしたほうが良いって師匠が…」

「うんうん、待ってねキノコー?」


キノコを撫でて落ち着かせながら、コンカッタのナイフを手元に召喚する。

コンカッタはこのナイフに憑いているので、自由には動けないのだ。


いつものようにキノコが外で呼びだし、先程まで修業と言って遊んでいたであろう幽霊を引っ張り出す。


【…おお?魔女殿か……そうだキノコに聞いたか?……やはり若い娘に寒さは大敵……冬は室内での修業を……】

「いやいやー待ちなさいなコンカッター?あんたー何言ってるかわかってるー?」

【……?いや、何か……おかしな事でも……?】

「……キノコは『男の子』よー?」

【……】

「………」

【……………いやいや……娘であろう?どう見ても……】

「『男の子』ですー!!」


何を言っているのだ!この耄碌幽霊ジジイはっ!


三十才も年下の小さな嫁さんを溺愛していたからって、小さな子は皆女に見えるのか!?変態めっ!


キノコのどこが『女の子』だと言うのだ!


長い睫毛の下の葡萄色の大きな瞳にツルツルの白い肌、ほんのり赤い頬っぺたに小さな唇。

ようやく肩より下になったサラサラの髪は私が毎日結って飾り付け、今日は三つ編みにして右側に垂らしている。

万一の為、と手袋を常時着用しているが、細い指先には小さな貝殻のような爪がある。勿論磨くのは私だ。


全体的に華奢だが姿勢が良いので弱々しくはなく、大体十才前後の見た目のバツグンに可愛いキノコ。


全く、これのどこが『女の子』だ?


「どっから見ても可愛い『男の子』でしょうがー!?」

【異議ありっ!…可愛いのは否定しないが、少女にしか見えんっ!…】

「キノコの体を造ったのは私ー!私が言うんだから男の子ー!!大体、格好だって男の子でしょうー?ドレスなんて着せた事ないわよー、私ー」


確実に似合う事は分かっているが。


【…それは修業があるから…動きやすいようにだと……随所に凝った刺繍やレースもついているし…リボンも…】

「なにー?男は可愛い小物を持っちゃいけないのー?キノコに似合うんだから問題ないのよー!凝り固まった固定概念捨てなさいー!!」

【……むむっむ……男?……いや、だが………む、む…】


余計な事をキノコに吹き込んだコイツにはお仕置きが必要だな。


キノコは悪くない。おバカだから何でも信じてしまうだけだ。素直とおバカのコンボだ。


キノコの頭をなでなですると不思議といい香りがする。


そういえば匂いで餌をおびき寄せる植物とかあったな。あれも実験に使ってたような……。


「僕、男の子なんですか?」

「そうよー?このジジイの馬鹿な発言なんて気にしないのよー?」

【男の子……男……む、むむむっ?……】

「……じゃあ、男の子なら、もう旅に出てもいいですか?」

「んー??」


キノコがキラキラした目で意気込んで聞いてくる。


旅。


旅というと、あれか。キノコの『家族』を探す旅。


別に私はキノコを束縛する気は無い。


キノコを拾って人造人間にして毒の制御法を教えたが、それをキノコが恩に感じる必要は無いと思っている。

私は出会った当初のウジウジしたこの子を矯正したかっただけだ。流れで人造人間にしてしまったが、それこそキノコは巻き込まれたようなもの。


キノコに何か見返りを求る考えなんかは無い。


キノコは『家族』を探すという目標が出来てから格段に安定してきている。

精神と肉体の結び付きも強くなった。


だからこそ『毒性支配』も取得出来たのだ。


なので旅に出たいというキノコの自立心は、微笑ましくもあり、応援したいものでもある。


だが、旅と行っても当てはないし、私は事情により同行できない。


ならキノコの一人旅となるのだが、いかんせん見た目が子供だ。せめて護身術程度は身に付けないと危険だと、コンカッタに教えさせていた。


その時コンカッタは


【…うむ、キノコは強いが、やはり婦女子の旅となると……それだけでは心配だな……】


と、漏らしていたのキノコは『男の子なら女の子より早く旅立てる』と曲解解釈したらしい。


ただ間抜けなキノコなので、修行修行の毎日に自分の性別を確かめる機会を忘れていたようだ。


しかし、男の子だとしてもキノコな容姿はバツグンに可愛い。危険度は変わらない。


盗賊、誘拐、人拐い、魔獣、変質者……。キノコは直ぐに毒牙にかかり、相手は嫌がるキノコに触れた瞬間に毒により………。


うん、キノコは危険だ。


「あのねーキノコー?世の中にはケンカとか暴力以外の力を使ってくる、怖い奴らもいるのよー?」

「はい、見たことないけど…知ってます」

「そういう奴らはねー上手く立ち回らないと面倒なのー。だからねー、少しずつ世間に慣れてー……」

「…………」


キノコが俯いてしまった。

ああ、小さくなっていて可愛い。


旅立てるかも、という予感を潰されて落ち込んだのだろう。泣かないだけ強くなったものだ。


現実的にキノコが誘拐されたりしても被害者は犯人になるだろうとは思う。


万単位のステータスに毒能力。

隠蔽出来る能力だし外見が子供だから犯人とは思われない。凄いなキノコ。


あれ?一人旅しても安全?


【……悲観するなキノコ……魔女殿は反対している訳ではない……実際…そなたは世の中を知らないだろう?……よし、明日からは……お使いも修行に取り入れよう!……】


耄碌ジジイが孫を甘やかすような提案をしてキノコの機嫌を取ろうとしている。

なんだ、お使いって。


キノコに町まで買い物させてくるのか?旅立つ前に誘拐されてしまうだろうが。


いや、まてよ。

町まで行かないなら……。


少し顔をあげたキノコは唇を噛んで恨めしげにしている。可愛いだけだ。


仕方ないな。


「…そうねー。じゃあ、お使いしてー、色々勉強しましょうかー?」


現在、私達がいるこの場所は『魔女の掌』と呼ばれる最高難易度ダンジョンの最深部だ。


辿り着くまでには大陸横断山脈に口開く『飲み込む大蛇』から入り、様々な危険をかい潜る必要がある、今だ未踏破のダンジョン。


古い上に余りに広大なダンジョンには住み着いた部族なんてのもいる。人間に迫害された者、魔族のはみ出し者、混血故に追われた者、多種多様だがキノコがお使いするにはいいかもしれない。


彼らは偏見が無いし、このダンジョンの主である私に逆らう愚かさもない。

また場所柄、強さを見誤る事もないからキノコが舐められる事もないだろう。


「……お使い、ですか?」

「ほらーキノコも私達以外と話したことないでしょー?コミュニケーション不足は情報収集にも致命的だしー?余所の人がどんな生活してるか知るのも大切よー?旅に出てー町に行って、とりあえず何したらいいか、キノコ分かるー?」

「…わかりません……」

「そうでしょー?そういう勉強の為にーお使いして勉強しましょうー?」

「……はいっ!お願いします!」


すぐに自分の不足分を理解して納得する柔軟さはキノコの美点だ。


新しい課題に意欲を燃やしたキノコは明るい返事を返してきた。


「よしよし、頑張りなさいねー?」

「はいっ!」

【……これが……男?………むぅ……】


ジジイは放っておこう。


さて、では準備だ。


この家からダンジョンに潜るとなると、逆にダンジョンを巡るということだ。

つまり最高難易度の最高レベルの奥地から、入口に向かうという事。魔物もハンパないレベルが群れている。


キノコのステータスなら平気だろうが、戦闘は初心者なのだ。装備とか調えてやらなければ。


後はお使いの目的地である、集落に連絡しないといけない。


万一キノコに被害を与えたら、殲滅だ。


……お使いの中身はどうするかも考えなければ。金銭で買い物させてもいいかも知れないな。


「じゃ、準備しなきゃねー?勿論修業もするのよキノコー?」

「はいっ!わかってます!師匠、よろしくお願いします!」

【……おっ?……おお、そうだな、キノコはキノコだ……】


だからジジイ、なんで照れるんだ。キノコは孫じゃないぞ。




こうしてキノコの新しい訓練が始まった。


これが間違いではなかったと、キノコに必要な要素だったのだと今でも信じている。


だが、所詮私は『万知万能(ホボスベテ)』でしかないのだ。


予測や予言は出来ても、『後一つ』足りない。


全知全能(カミノミワザ)』には、成り得ない。





だからキノコに起こる不幸を回避出来なかったのだ。












キノコはまだ毒の生成、種類分けは出来ません。体外に出さないようにしているだけで、毒を体の一カ所に溜めています。そう、溜めているだけなのです……。

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