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なかったことにしましょう。



「…『聖女』…、ですか?名前だけなら知っています、トリスレリア様ですね。アルレア教会の使いとして祭事や神事を行ったり、布教活動やモンスター退治もしたりと有名ですね。人気は上々で実力もあり、護衛の騎士達も美しくてそれは絵になる一団だとか…。それがどうかしましたか?」


お屋敷での夕食後、お茶を頂きながら『聖女』の事をタンポポさんに聞いてみました。


『聖女』は有名みたいですね。

慈善活動や救済に奔走しているらしく、それによりアルレア教会ってとこの支持率も高いらしいです。


……てことは、僕達が会ったのはやはり偽者さんですねっ!

ステータス隠蔽してましたしっ。

慈善とかしそうにないですよ、あの人!


やたらと見下してくる『聖女』に会ったのだと話すと、タンポポさんは少し思案してから口を開きました。


「…確かに『聖女』の名を騙る偽者と見れますが…。ひょっとしたら本物という事もありますね……」

「うぇっ?だって『聖女』って優しいんでしょ?あの人は……」

「『聖女』を演じている、本性を隠しているのかもしれません。キノコさんが出会ったのはダンジョン近辺で目撃者も少ない。そういう場所では本来の人格で過ごしているのかもしれません。逆に人目が多い場所では慈愛に溢れている、とか」

「な、なんでそんな事…」

「保身と実益の為、でしょうか。組織というのは大きくなるにつれて本来の主義主張から外れる者が出てきます。神聖である教会でもそれにより派閥争いが苛烈で、利益主義に走る者もいるとか。『聖女』という名前を利用して出世したいのかもしれません」

「嘘ついて善人のふりして、人気取りをしているって事ですか?」

「かもしれない、という憶測ですけど」


他にも推論だけなら色々と立てられる、それだけの利用価値があるんだそうです。


「ステータスを誤魔化していてしかも『詐欺師』なんですから、ろくな人間ではありません。今後は接触しないようにした方が賢明でしょうね」


《毒姫に賛成っ。っつーか、次に会ったら俺は自分を抑える自信が無いな……》


抑えてませんでしたよねっ!?

隙あらば僕を押し退けて排除しようとしてましたよねっ!!


幸い僕達はしばらくダンジョンを巡る事になりそうなので、あの人達の事は気にしないでも大丈夫だろうとなりました。


「…うん、あれ(・・)はなかったことにしましょうっ!」

「…そう…その方が良いかも…。思い出すだけで不快…ッチ!…」

【不遜な輩達だったな…。確かにあまり会いたくないっ…】

「『聖女』ってさ…もっと、清廉でおしとやかで……あんな男を値踏みしてるような…」

「……ろくでもなさそうですね」


むしろ忘れようという事で一致団結しました!




で、次のダンジョンなのですが。


何処に行こうかと話し合おうとしたら、シャピ様が手を挙げていました。


「…キノコ…。私、これが欲しい…」


シャピ様が『錬成素材 ~磨けば玉~』という本のある1ページを開いて、そうお願いしてきたので話を聞きましょう。


「なんでしょう?…えっと、『グラネカラの青鱗』ですか?」

「そう…。レア素材なんだけど…敏捷と反応が上がるし…、これ自体がレベルアップするの…。頑張って上げれば☆5の武具の材料になるから…。この大陸はグラネカラが結構居るんだって……」


ふんふん、☆5ですか。


シャピ様ならそのくらいの武具じゃないと確かに物足りないでしょうね。


「シャピ様の探し物ですね。僕も手伝いますよっ!」

「うん…ありがとう…」


すると、飲めないのでお茶の匂いを堪能していた師匠が会話に加わって来ました。


【…グラネカラ?…竜と狼の混血の魔物か?…確かレベル50程度であろう?☆5になるほどの希少性があったか?】

「レアだから…。灰色の普通のグラネカラしゃなくて、青いグラネカラを探さなきゃならない…。そっちはレベル100前後だって…」

【ほう、興味深いな…。そこまでレベルが上がるとは、変異体か?……鬼姫よ、青いグラネカラ以外は必要無かろう?この小僧を鍛練に連れて行っても良いか?】


部屋の隅で腕立て伏せをしていた勇者さんが『!!?』って顔をしました。


僕達はお茶していますが、勇者さんには常日頃からの筋力トレーニングが課されているので休む暇は寝るときだけなんです。大変です。


【…コヤツはそこそこ動けるし一応剣も扱える…。塔のダンジョンではワシの妖気で敵が来ず、実戦にはならなんだ…。グラネカラなら半分竜だから頭もいいし根性も据わっておるし、敵を見極める能力もある。ワシが手出ししないなら、充分コイツを襲ってくれるだろう…】

「お、お師匠様!?なんでいきなりそんな大物なんですかっ!ゴブリンとかオークとかいるでしょっ!?」


慌てて騒ぐ勇者さんをマントでひっぱたいて黙らせる師匠。

生傷が絶えませんね勇者さんも。

うーん…あの一撃に耐えるんですから、何気に凄いのかな勇者さん…。


【…お主…この屋敷に滞在するにあたって代価を用意しているのか?タンポポは鹿を捕獲してきて夕食に提供していたな…。ワシにも弟子入りしたなら代価を払うのが普通だ…。お主には何がある?】

「っ!?…っあ…その…」

【…グラネカラは捨てる部分が無い素材の宝庫だ。牙、爪、皮、目玉、肉、骨…全てが金になる。…死ぬ気で倒せばレベルアップはするし金になる…、文句はあるまい?】


おお、勇者さんがみるみる小さくなっていきますね。

稼ぎが悪くて肩身が狭いっていう旦那さん、こんな感じ?


そうなんですよね無料(タダ)なんて無いんですよね。世の中お金ですから。


勇者さんは起きてる間は"修行"ですから、稼ぐ暇がありません。

なら売れる物を狩る、というのは理にかなっていますね。


でもなぁ、まだ弱いのに大丈夫でしょうか?


「カエンさん、お屋敷の財産とか食料は勇者さん一人くらいなら養えるんですよね?」

「可能でございます」

「それなら師匠、無理に危ない事させなくても…」

【…キノコ、そなたの優しさは分かるが、今のそれは堕落への誘いだ…。心配せずとも死なせる事はない…】


死ななくても"死ぬような目"には会わせるんですね?


勇者さんを連れていくとなり、シャピ様は面倒そうな顔をしていましたが、師匠には敬意を払っているので断るのも難しいみたいです。

シャピ様、認めた人には寛容なんですよね。


「……邪魔しないなら……構わないけど…」

【そうか、有り難い。…して、グラネカラはこの辺りなら何処に棲息しておるのか?】

「失礼します、こちらが地図になります」


カエンさんが皆に見えるように地図を広げてくれました。


マランダの街から北上してきて、今は大きな山がある場所の近くです。


『ノロル山』とその手前の『ノロルへの道』という森がどちらもダンジョンですね。


また東には『開拓跡地』という場所があり、そこの地下に『埋められた歴史』というダンジョンがあります。


……ダンジョン、多くないですか?え?こんなものなんですか? 


「この辺りは100年程前まで戦争を繰り返しておりました。そういった経緯で土地は荒れ、人心も神意も薄れ、結果モンスターや魔物の徘徊が増えてダンジョン化する場所が多くなったのだと推測出来ます」

【…ふむ…なるほど。しかし…毎度感心するが…素晴らしく詳細な地図だな…。魔女殿が制作したのか?】

「左様でございます。ここまで緻密な地図は他に存在しないと思われます」


確かに、世界地図から各地の縮小地図までありますからね。

スゴイの作ってますよね、魔女さん。


シャピ様は本と地図を見比べながらポツポツ話します。


「…グラネカラは…森にいるものだけど…。青いグラネカラは『ノロルへの道』で他のグラネカラを纏めているか、『ノロル山』に入っているかも……」

【…その青いグラネカラとはどの程度の発生率なのだ?】

「見つからなかったらどうしましょう?絶滅させる勢いで狩ってもいいんですかね?」

「…キノコさん…モンスターといえど絶滅させては生態系が狂うので…」

「…グラネカラ?グラネカラって、俺、倒せるのかっ?」


その後も『青いグラネカラ捕獲作戦』の話し合いは続き、夜はふけていきました。







◇◇◇






夜の闇より濃い暗さに沈む真夜中の『魔女屋敷』。


屋敷の主であるキノコは自室で就寝し、それを見届けた執事のカエンは静かに廊下を進む。


すると廊下の先にタンポポが佇んでいた。


「どうなさいました?タンポポさん」

「少し伺いたいことがあるんですが、よろしいですか?」


なんだろうと先を促すカエンにタンポポは言い辛そうに聞いてきた。


「カエンさん、アルレア教会に何かしらの因縁がありますね?」

「……はて、なんの事でしょう?」

「すいません。私、暗殺なんて事をしていたから人の顔色を読むのが得意なんです…。いえ…隠しておくのは構いません。私も詮索しませんし」


キノコがアルレア教会の『聖女』について話をした時、本当にほんの少しだけ、カエン達使用人が動じたのをタンポポは見抜いていた。


執事やメイドは常に冷静沈着を求められる。


これだけ完璧な仕事をする彼らが動揺するとなると、余程の曰くがあるのだろうとタンポポは考察した。

それこそ彼等が『悪霊』に成った原因に関係するかもしれない。


「……ですが、どうかそれをキノコさんに気取られないようにして頂きたいのです。キノコさんはああいう方ですから、カエンさん達の為に教会に接触しかねません。『教会』は表の世界では国家権力よりも(たち)が悪い。動き辛くなると面倒です」

「…………」

「『聖女』に顔を見られた時点で既に手遅れな勘もありますが……。それでもキノコさん自身が動くよりマシです」

「タンポポさんは、今日坊ちゃまが会った『聖女』を本物だと思うのですか?」

「可能性は高いです。『晒された悪塔』は死霊の巣窟。そこの近くにいたなら、塔を浄化に来たとも考えられますから」


『聖女』が死霊を退治する。

確かに納得のいく、民衆受けの良い討伐だとカエンは頷いた。


なんとも『教会』らしいパフォーマンスだと内心皮肉り。


「お話しは分かりました。しかし私共が坊ちゃまに何かを頼むような事は決してございません。御安心下さい」


カエンのしっかりした否定に、タンポポは自嘲ぎみに微笑み、頭を下げた。


「ありがとうございます。それに、本当に失礼しました。プロである皆さんの自制心を疑うような事を言って」

「いえ、それも坊ちゃまを守る為でしょう?正直、坊ちゃまは素直過ぎますから私としても不安はあります。我々は屋敷を出られませんし、騎士様も自由とは言いがたい。鬼姫様は人間社会に精通しておりませんし、タンポポさんのような方が外で坊ちゃまをサポートして下さると安心です」

「……はい、私に出来ることはそのくらいですから…。それではお休みなさい…」


陰のある笑顔でその場を去っていくタンポポを見送って、カエンは知らず詰めていた息を吐き出した。


幽霊なので呼吸などしていないのだが、生前の癖が抜けないようだとほくそ笑む。


「まさかあのような少女に指摘されるとは…。思った以上に我々の怨みは深いらしい…」


誰とも無しに呟いた独り言のはずなのに、カエンの背後から声がかかった。


「仕方ありません」

「それが私達の存在意義です」

「それとキノコ様にお仕えすることも」


メイドの三人がいつの間にか立っていたがカエンは驚く事もなくそのまま話す。


「怨みを晴らせず悪霊になり、晴らしてしまったら使用人として働けなくなる…。さて、相反する葛藤を抱える我々が救われる日は果たしてくるだろうか」


カエン達は"主人"に満足な奉公が出来ないまま死んだ。


怨みは晴らしたいが"仕える"という喜びを思い出した今、下手に成仏してしまうのも惜しい。

あれもこれもと"欲"に忠実に生きる、人間の部分は死んでも健在らしい。


「…お前達、怨みは深いか?」

「「「深いです」」」

「『聖女』が憎いか?」

「「「憎いです」」」

「『アルレア』が憎いか?」

「「「滅ぼしたいです」」」


この怨みがカエン達の存在を象っている。


欲しがって怨んで、消えたくないと足掻く愚かな四人は顔をつき合わせた。


「私もこれをなかった事(・・・・・)には出来ない。だが、坊ちゃまに負担をかけるなどあってはならない。幸い坊ちゃまはこちらから言い出さなければ我々の過去を詮索するような方ではない。魔女様の御元に帰り着くまで決して気付かれないよう注意するように」

「「「心得ました」」」


メイド達に言い聞かせながら、それでももしかしたらとカエンは考える。


もしかしたらキノコなら。


キノコならこの濁った怨恨を払う機会を与えてくれるのではないだろうか、と。


「…まさか…」


都合の良いことを考えてしまい、有り得ないと頭を振るカエンをメイド達は不思議そうに眺めていた。











そんな会話に聞き耳を立てている者は苦虫を噛み潰していた。


《…なんでビッチ共と因縁があるんだよヒゲ執事っ…!面倒事のフラグじゃねーかっ!!》
















 

執事が何かしなくてもビッチが何かしてくると思います。

ビッチですから。

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