聖女様御一行 ~でも嘘くさい~
「……だから、ちゃんと帰れますから……」
「遠慮は無用だよ、可愛い子!女の子だけで帰るなんて危険だ。モンスターも出るし盗賊だっている。私が守ってあげるよっ」
…あう………。
「……えっーと、一応、大人の男の人もいるし、大丈夫ですっ…」
「え?まさか、その冴えないヤツの事?そんなカッコ良くもない、足も短い弱そうな男、頼りになるわけないじゃん?ほら、俺を見なよ?どっちが素敵か、一目瞭然でしょう?」
………………あ…う…。
「……まだ合流していない人がいますので…待ってないといけないんです……」
「はぁ?なにそれ。なんでこんな所で待ち合わせしてるの?あっ!あれ?税が払えなくて逃げ出してきたとか?はっー、情けないっ。納税も出来ないなんて、平民でも最低な部類だね、君達。僕の領地にもそんなヤツがいたけど、天候とかのせいにしないでちゃんと働きなよ!泥仕事しか出来ないのに怠けて税を払わずに、挙げ句逃げ出すなんてクズだよ!」
…………………………………う………。
「……いえ、あの……」
「あらあら?…まさかっ、この私、『聖女』が施しを授けようと手を差しのべてるのに拒否するのかしらっ?……。まぁまぁっ、なんて不心得者なんでしょうっ!貴女達、どこの生まれなのかしら?親族集落一同、キツく神の裁きを与えねばなりませんわねっ!」
………イラッ……。
あ、なんかムカッとしてしまいした。
《…ハハッ…お前は気が長いなー……。俺なんか既にコイツらの殺人計画を立ち上げてやったぞっ!》
(うえっ!?赤様っ、何する気ですかっ!?)
《安心しろっ!証拠も死体も隠蔽するから完全犯罪っ!…さあヘタレ、ちょっと俺と代わろうじゃないか…?…》
そんな凶悪な声音の赤様を出すなんて出来ませんよッ!
どっから出してるんですか、そのおどろおどろしい声っ。
赤様を宥めている間も彼等は好き勝手な事を言ってるみたいです。
内容は
『ここはダンジョン付近で危険だから、自分達が街まで護衛してあげよう』
という、とても親切な話しなのですが。
如何せん、彼等の話しにはそれ以上に
『自分はスゴイ。自分は美しい。自分は強い。自分は偉い。そんな自分に従え』
という、自己中心的な意思があからさまに盛り込まれているので、聞いていて不快になります。
読書をしていたシャピ様に彼等はこの調子で騒ぎ立て、不興を買ってしまったのにも気付いていません。
僕の後ろに隠れてしまったシャピ様ですが、無表情ながら射殺すような暗い目で彼等を睨んでいるのに、なんで気づかないんでしょう。
赤様も怒ってるし、もう帰りたいし、走って逃げようかな?
馬で追われても逃げきれる自信もあるし、シャピ様も速いし、勇者さんは引きずって行けば……、あ、タンポポさんがまだでした。
「聖女様、彼女達は遠慮しているんですよっ。神聖なる貴女や高貴な私達がいきなり現れたのですから仕方ないでしょう?罰するなんてお考え直し下さい」
金髪蒼眼の大剣を背負った男の人が、馬上の『聖女』に言っています。
(遠慮じゃないんですけど…)
《神聖?高貴…?……は?》
言われた『聖女』はちょっと不機嫌そうに紅い唇を萎めました。
それを見た槍を持った人が剣士に追従するように『聖女』の前に出ました。
「俺もそうだと思うなー。本来俺達って雲の上の人間じゃん?一般人からしたら、畏れ多くて萎縮しちゃうよ。だから大目に見てやってよー」
軽薄そうな見た目の槍使いにも言われて、『聖女』は益々面白くなさそうにしています。
「そうだね。平民は礼儀がなってないから、僕達に迷惑をかけたら大変だと遠慮することもあるし。ここは寛大に、聖女様が許してあげたほうが良いんじゃないかな?足元を這う虫にだって慈悲を持って接した、ただ、その善意を矮小な虫は理解出来なかった。それだけだよ」
でも最期の一人、魔法使いらしい男の人がそう言って続くと、しぶしぶながらも表情を繕って笑顔になりました。
……うわぁ…嫌な感じの笑顔…。
気持ち悪いっ。
「……分かりました。貴方達に免じてその者達の罪は問いません」
「聖女様、ありがとうございます」
「さすが聖女様っ!」
「聖女様に感謝しなよ、平民っ!」
(……?え?僕何か悪い事しました?)
《……何もしてないのに勝手に無罪にしてくれたみたいだな》
感謝しろと言わんばかりに僕達を見下してくる一行に、唖然です。
なんでしょう、この人達…。
話しが通じてないですね。自分達以外の話を聞く気はないんでしょうか。
「キノコ……。もう、行こう?」
「あ、シャピ様。でもタンポポさんが……」
「…アイツなら森に行けばすぐに見つか…」
僕の手を引いて一行から離れようとしたシャピ様の前に、剣士が素早く回り込みます。
キラッと歯を輝かせて髪を掻き上げながらシャピ様を阻んで、自信に溢れたスマイルをしながらシャピ様の手を取ろうとしました。
「さぁ、聖女様も許してくれたし私達と行こうか、美しい人。君は私の馬に乗せてあげようっ。ああ、光栄だと泣かなくてもいいんだよっ?私は君のような美しい人の味方……」
取ろうとした手はシャピ様が見事にかわして空を切りました。
「そんなに照れなくてもいいんだよ?」
「……」
「俯いて恥ずかしがらなくても大丈夫っ!私は優しいからねっ」
「……」
いえ、照れてませんよシャピ様は。
イライラが酷くて頭から湯気が出そうになってるだけです。
かく言う僕も、そろそろ嫌になってきましたね。
話しを聞いてくれないし、自分達のいいようになんでも解釈してるし。
なんて面倒な人達でしょう。
下手に逃げても追っかけて来そうだし、『毒』で大人しくなってもらいましょうか?
ああ、でも『聖女』って言ってましたよね。
『聖女』がどんな人かは知りませんが、名前からして偉い人なんでしょうし、そんな人に『毒』はさすがに…。
(赤様、『聖女』ってなんですか?)
《……さあな?字面だけなら『聖なる女』だから、どっかの宗教の役職じゃないか?気になるならステータス探れ》
ああ、あまりに自分達だけで話しを進めるこの人達のせいでその事忘れてました…。
でもなぁ、あんな上辺だけの笑顔の人を覗きたくないなぁ…。
まぁでも、ステータス見たら実は良い人かもしれないし…。ステータスは嘘つけないですしねっ!?
名前: トリスレリア・カンバーネ・ドル・アルレア (ドリス)
種族: 人間
クラス: 聖女 (詐欺師)
レベル: 38 (41)
体力: 600 (800)
心力: 1300 (2000)
技力: 1000 (1500)
能力: 神聖祈祷 神聖魔法 慈悲之技 身体強化 神聖威光 (口手八丁) (強奪奪取) (仮面演技) (色欲之技) (楽聖之声) (悪運内包) (偽装模倣) (神聖之技)
称号: 神徒 敬虔者 愛を説く者 認定者 聖選者 聖なる矜持 (捨て子) (浮浪者) (奪われる者) (成り上がり) (勉強家) (奸計者) (奪う者) (殺人教唆) (侍らす者) (嫌悪の的)
あれ?
あれれ?
( )がありますよ?なんで?
しかも( )の内容が悪そう……。
《……うわっ!信じらんねー、この女っ!『偽装模倣』持ちの犯罪者じゃねーか!》
(うぇっ?赤様、この人のステータスの事ですか?なんか変ですよね?)
《あ?ああ、そうか、お前は分からないか。この女『偽装模倣』でステータスを隠蔽捏造してんだよ。( )に記してあるのが本当のステータスだ》
では( )がないのは嘘のステータスなんですね。
(……うぇっ?じゃ、『聖女』じゃなくて『詐欺師』で『信徒』じゃなくて『捨て子』なんですか!?)
《そういうことだ。しかも本当の能力や称号が犯罪関連だらけで後ろ暗い能力を隠して三人の男を侍らすなんて、『ビッチ』だっ『ビッチ』!!》
びっち?
《『偽装模倣』は『虚偽虚構』の上位能力で鑑定魔法すら騙すし、模倣はほぼ完璧っていうふざけた能力だ。お前の"見透かし"には通じないし、真似出来るだけでものには出来ないって言っても厄介な事には変わりない。しかもビッチが所持してるって時点でろくな使い方をしてないだろっ》
(き、決めつけは良くないんじゃ…)
《バカヤロー!!コイツラの言動が物語ってるだろうがっ!現に隠蔽してんだぞっ!》
……赤様…イラついてますね…。
ついでに分からなかった『聖女』ってのを調べて見ましょうか。
《聖女》
アルレア聖教により聖選された特別な存在。位階第三位。
教会の教義を広め、民を助け人心を安らげる為の旗頭としての役割が多いが、神聖魔法の使い手としての活躍も期待出来る。
慈悲と癒し、正義と愛の使者。
かつて魔王を倒した一団にも聖女はいたという。
おおうっ!
あらやだ、スゴイ人だった!
……あ、でも嘘なんですよね。
で、嘘ついてさっきから『聖女』『聖女』って威張りちらして……。
「フフッ、そろそろ諦めて私達に従ってもらうよ?」
「あ、そこの短足はいらないよな?置いていこうぜー?」
「あー、ヤダヤダっ。平民と同行なんて聖女様が許さなきゃ絶対に御免だよね」
「『聖女』は救う者ですからね、我慢してちょうだい。そうね、その男はたしかに私には相応しくないし、好きにしなさい」
……。………。これが『聖女』と仲間達?
《ヘタレー、殺してもいいけど遺体は残すなよー。全部腐らせろー!》
赤様が野次を飛ばしてきて、それに従ってしまいそうになりますが、それはダメでしょう。
標的確認、距離OK、分量OK。
はい発射。
……バタッ。
バタバタバタッ!
剣士、槍使い、魔法使い、聖女が『毒』にやられて倒れました。
眠り毒と麻痺毒を使いましたから、しばらくは意識も身体も動きませんよっ!
《神経毒も打っとけっ。前後不覚になってた方が追っかけられなくて済む》
ではそれも打ちましょう!
……結構な量になりましたが、ま、死にはしないですよねっ。
うるさく騒ぐ人かいなくなって清々しいです。ああ、空気が美味しいっ!
「……キノコ?……ありがとう…」
「いえいえ、僕もちょっと煩わしかったですし」
「…そう。…じゃ、後は私が始末しとくね?……首だけ残してそこらの木に晒してやるから、待ってて……」
「っ!?いえいえっ、そこまでしなくてもっ!」
《いやいや、屋敷に連れ込んで執事達に飼って貰おうっ。簡単に殺したら詰まらないだろっ?》
(いえ、こんな人達を魔女さんのお屋敷に入れたくないです)
鬱憤を晴らそうとするシャピ様と赤様を抑えて、四人は放置していく事にしました。
日が暮れる前には目覚めるでしょうし、少し『毒』を撒いてモンスターが来ないようにしましたから大丈夫でしょう。
質の良い防具も着てるし、最悪痛みで起きるから平気ですよね。
多分。
やっぱり気が晴れないシャピ様が剣士の頭髪を火でチリチリにしてましたが、そのくらいなら良いんじゃないでしょうか?
艶々サラサラの金髪がチリチリに焦げてます。
ププッ!変なのっ!
あ、勇者さんも槍使いさんに何かしてますね。
眉毛剃ってる?しかも師匠のナイフで?
あら、師匠も一緒になってやってますね。
短足って言われたのが腹立たしかったんですか?
へー、眉毛無くなるとこんな風になるんですねー。
僕は、まぁ……。しなくてもいいかな。
赤様が殺れ殺れ言ってますが、実質的な被害は受けてないし。
さ、嫌な事がありましたが……気持ちを切り替えていきましょうっ。
タンポポさんと合流して帰りましょうね。
……これが『聖女様御一行』との因縁の出会いでした…………。
~聖女様御一行~
聖女⏩美人だが性格悪し。自分が一番。色男、美少年を侍らすのが大好き。女の羨望と嫉妬で自分を磨く。美ッチ。
剣士⏩美丈夫で騎士道精神がありそうだが、女は自分のハーレム要員としか見ていない。聖女には洗脳に近いことされている。クズ。
槍使い⏩プロポーション抜群の色男。自信家。自分が全てにおいて一番だと思っている。女はアクセサリー。消耗品。下半身と頭がユルイ。聖女は美人でブレンド名があるから従っているだけ。クズ。
魔法使い⏩貴族の三男で優男。選民思考で男尊女卑。実家も最悪な貴族支配一族なので修正不可能。聖女一行に選ばれた自分は正に貴族のなかの貴族、魔法使いのなかの魔法使いと勘違いをしてるイタイヤツ。聖女には心から心酔している哀れなヤツ。でもクズ。
クズ御一行!なのですっ!




