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ダンジョンにいこう  ~晒された悪塔・2~

 

 

 

唸るように、地の底から這い上がるように響く骸骨の咆哮に、キノコの戦闘スイッチが入った。


『樹之護法』が守るようにキノコの心を包む。


赤の座する場所では芝生がユラユラ揺れてキノコを鼓舞するかのようだ。


広い屋上を覆うような巨体の『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』の敵意と瘴気の圧力を受けてもキノコが平気なのは、このスイッチのお陰とも言える。


でなくば、キャンキャン騒いで泣き散らして赤に叱責されてまた泣いて……。


(……うん、赤様に怒られるのは嫌ですからね。有り難いですスイッチ!)


随分敵意や悪意を浴びてきたが、未だに苦手意識が払拭されないので『樹之護法』のサポートは本当に助かるとキノコは思う。


ズシンと床が揺れて意識を骸骨に戻す。


骨を無数に使用して象った人形である『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』。

指先にも頭蓋骨が埋まっている事から分かるように、かなり巨大だ。


子供の背丈しかないキノコの5、6倍はありそうな体に妙に長い腕、けれど足は短く太い。

その全てが骨で出来ているので白い巨人に見える。


「「ガアァァーッ!!」」


顔の部分ももちろん細かい骨で出来ており、穴が空いたように目と口を象っている。


その穴口が、充満する瘴気が震えるような吠え声を上げて長腕を振り上げた。

両手を祈るように組んだまま、空高くに振りかぶりキノコ目掛けて降り下ろす。


大岩のような両拳がカタカタと骨を笑わせながらキノコを圧死させようとしてきた。


結構な速さだが充分対処可能だとキノコは紙一重で避けようとした。


《ヘタレ、距離をとれ》


けれども赤が進言してきたので後ろに飛び跳ね、骸骨の拳が床を鳴らすのを離れて見た。


床はしなるほど凹んだにも関わらず些かも壊れもせず、代わりに衝撃に耐えられなかったのか『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』の腕からボロボロと骨が落ちる。

もっとも落ちた先から吸い寄せられるように骨は補充されていくが。


「「ガアァ……」」


潰したと思ったキノコが離れた場所で平気そうにしているのが分かった『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』が唸る。


(赤様、僕、避けられましたよ?)

《ステータスで見ただろ?接触注意って。こいつ『瘴気之技』と『精神汚染』で近づいただけでヤバイ空気を出してるんだよ。お前『瘴気無効』とか持ってないんだから、精神攻撃は喰らわないようにしないと、魔法使いの時みたいにグダグダになるぞ》


キノコはパチクリと瞬きして赤の言葉を咀嚼した。


魔法使いの時は『呪い』ではなく『聖樹』の扱いに衝撃を受けてしまっただけだが、それも自分の精神が未熟だからだと理解している。

あの時と同じようになって狂気に走ってしまうのはキノコ自身も避けたい。


ぐるぐると渦巻き『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』が纏うようにしている瘴気は、確かに近寄って触れるのを躊躇う陰気さを放っている。


となれば『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』には接近せずに倒さなければならないのだが、生憎キノコに中遠距離攻撃の手段はない。


(…えっーと、そこらの白骨さんの骨を投げつける…で、骸骨さんは倒せますか?)

《…『属性付与』とかあればな…聖属性の頭蓋骨として攻撃出来るだろうけど。そんなことに必死になるより、お前『妖気切断』と『瘴気切断』、『絶ち切る』があるんだから斬り込めば良いんだよ。短剣は使うなよ》

(た、短剣が使えないのに斬るんですか?)

《…ヘタレ、能力と称号は把握しとけっつったろ》


若干苛ついた赤の言葉にキノコは慌てて確認を始める。




《妖気切断》

妖気を切る事が可能。

武器道具を使用したほうが確実だが、生身でも可能。



《瘴気切断》

瘴気を切る事が可能。

武器道具を使用したほうが確実だが、生身でも可能。



《絶ち切る》

切って、絶つ。唯、それだけ。

何を切るか、何を絶つか、それだけの事。それだけだから、考えろ。

切ったモノは全て断たれる名称の通り、その流れを回復させる事は不可能。

『切断』系能力に大幅補正。





なんとも都合がよい能力を獲得しているとキノコは自分にビックリした。


これも赤が武器使用禁止したり気配の隙を衝けと助言したからだろうと思えば、彼はこの展開を予見していたのではと恐ろしくなる。


生身でも斬れる、という能力だが、まだやり方が分からないキノコは取り合えず手刀を作って『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』に対峙した。


唸りながらキノコを見下ろす『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』の瘴気は要所要所で濃くなっている。


頭と両肘、腹の辺りが特に濃い。


ステータスで見た核となる死霊があそこら辺に溜まっているのだろう。


(合計四ヶ所……。あれを『断ち切れ』ば他の死霊さんはまとまっていられませんよね)


接触注意だとしても、リーチがないぶんどうしても相手の懐まで入り込まなければいけない。

胸元、というか足元に入ってしまえばパンチもキックも届くだろうと、キノコはダッシュするため腰を下げて足裏に力を込めた。


するとその気配を察したのか『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』が長腕を伸ばしてキノコを捕まえようとしてきた。


普通であればなす術も無くその手に捕獲され全身を砕かれただろうが、キノコはすばしっこい。

難無く避ける、と見せ掛け逆に突進し、両腕の間を駆けた。


そして駆けながら手刀を振るう。


両肘の核から糸のような瘴気で繋がる骨達を『瘴気切断』で絶ち斬っていった。


キノコが走る風圧と『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』の突き出す腕の圧力で吹き飛ばされていく白骨達。


雨霰と屋上に降ってくる骨。

進むキノコ。進む『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』。


(おおおっ!切れてる?斬れてますか赤様っ?斬れてますよー!!)

《そうだな。これでお前の身体は刃物にすら成るって証明された訳だ。『一撃必殺』の称号も補正かけてるし、まさしく"歩く凶器"だな!》

(…っえ?)


キノコは自分のヤバさに一瞬気を散らしてしまった。


だが先に引いたのは『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』だった。


右肘の核がキノコに斬られ、肩部分まで一気に砂のように舞った瞬間、『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』は後ろに飛びすさりキノコから距離をとった。


キノコも深追いせずに、まずは右肘の核が復活するかどうかを見ようとその場に留まる。


(……核となる死霊さんが他にいるなら、肘も復活するでしょうけどね…)

《どうやら核になれるのはあの4体だけみたいだな》


赤の言う通り、これだけ妖気が漂う場所なのに右肘部分を代わりに担おうとする死霊はいないようだった。


「「…グルオォォッ…」」


骸骨操者(マリオル・ゴースト)』が這うように唸り声を出す。


すると今度はキノコの周りの瘴気が一段重くなったように感じ、次いでキノコをなんとも言えない不快感が襲う。


焦燥と嫌悪と虚脱が一気に吹き荒れるような気持ちになり、キノコは眉をしかめた。


(…あ、赤様っ)

《『精神汚染』を使ったな。『樹之護法』があってもこのぐらい感じるなら、やっぱりまだまだお前の精神じゃ抗えなかったな。どうだ?始めての精神攻撃は》

(む、ムカムカして…考えが、めちゃめちゃにっ…)

《ふんふん、狂暴性が増すのは死霊の影響か。身体はまだ動かせるな?なら一気に片を付けろ》


赤の下では芝生がますます頑張っている。

後ろに生えている三本花もユラユラ揺れながら見守っている。

『樹之護法』が頑張っている証だろう。


この場所がうるさいのは赤には迷惑だ。

なのでさっさと終わらせてしまおうとキノコをけしかける事にした。


《一番デカイ核は頭だな。左、腹、頭で斬ってやれ》


ムカムカする気持ちを抑えてキノコは走った。

ムカムカするのが苛々して、無性に暴れたくなってしまう。

それを払うように足を動かした。


当然『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』は接近させまいとして妨害してくる。


屋上に散らばっていた骨達が吊り上げらるように浮遊して、キノコに向かってくる。


避けてかわして斬って蹴り飛ばしてキノコは走る。


雪のように白骨達が塵舞っていく中をキノコは蝶のように踊った。


骸骨操者(マリオル・ゴースト)』が左腕を床スレスレになぎ払ってきたのを跳躍でかわすついでに斬って霧散させておく。


「「ガオアァァァー!!!」」


両腕の無くなった『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』が咆哮を上げるのを空中で聞き、飛んでくる白骨達を斬り伏せながら、たまに足場にしてキノコは更に飛距離を伸ばして『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』の背後をとった。


雪骨が散る下、白髪の子供は紅毛の間から目の前の死霊を見上げた。


巨体故にキノコにはちょっとした山にも見える背中を駆け上がる。


腰に手刀を叩き込み腹まで『瘴気切断』を行き渡らせ、そのまま登る。

絶ち斬ったまま、駆け上がる。


腹が裂け、胸が裂け、首が裂けた『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』。


「「グオォォーッ!!!」」


真っ二つに別れていく骨の巨体が傾く前に、キノコは頭蓋骨を割り開いていた。


パリパリッと見た目にそぐわない軽い音がして、結束していた骨達が解けていく。


砂と散っていく骨の中、最後の死霊が裂けていった。

パリンパリンと別れていく。


黒紫の瘴気の靄も晴れるように裂けていった。

千に万に別れて、塵となって。

漸く逝けた。


…グオォォー…ン……


微かに聞こえた最期の咆哮が泣いているように鳴って逝った。



クルクルと体勢を整え着地したキノコは息も乱していなかった。

ただ苦悶の表情で睨みつけるように散っていく骸骨を見つめており、足元に転がってきた普通サイズの頭蓋骨を踏み抜いた。


バリンッ!


割れた骨をグリグリと踏み付けてもキノコの鬱屈したような気は晴れなかった。


《ヘタレ、おい、落ち着けヘタレ!》


赤が声をかけても返事をしない。

『精神汚染』が抜けていないせいで荒ぶったままのようだ。


芝生と三本花が騒ぎ立てて赤の神経に障る。


《ヘタレ!落ち着けっ。もう終わった!》

(……)

《おい、ヘタレ!》


赤を無視して骨を荒らしだしたキノコに、赤の頬がピクリとひくついた。


《…………無視とはいい度胸だな、ヘタレ菌類…》


「っ!!?」


キノコがビクンッと震えて硬直した。

赤の声に一瞬で正気に戻ったのだが、自分を戻した声の低さと静かさに改めて蒼白になっていく。


《俺を無視するほど偉くなったのか、そうか、凄いな菌類…》

(っ…あ、赤様……)

《…ハハハ……》


乾いた赤の笑い声がキノコの中で木霊した。


『精神汚染』で苛立っていたモノが急速に冷えて行くのを感じて、泣きそうになっているキノコ。

足元には『骸骨操者(マリオル・ゴースト)』以外の骨が散らばり、それは自分が踏みた散らかした名も無き骨だ。

術から抜け出せなかったキノコが意味もなく壊した誰かの遺骨。


こんな非道な事をした自分にキノコは怯えた。


自分の意思ではないのにしてしまう、そうさせる技がある。


しかし。



《…帰ったら説教だからな……アホ菌類》



骸骨操者(マリオル・ゴースト)』が消えて少しずつ晴れていく瘴気の中、瘴気より骸骨より恐いのは自分の中に座っているのだとキノコは怯えていた。









 




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