ダンジョンにいこう ~晒された悪塔・1~
崩れた天井。
崩れた壁、床、階段。
荒廃した建物は足を進める度に軋む音がして、何時崩れるのかと不安になります。
崩れたせいで柱が剥き出しになった外壁からは外の景色が良く見えます。
けっこう高いところまで登ったんですね、地上が遠いです。
何処を登ったかというと"塔"です。
ダンジョン『晒された悪塔』。
森を抜けた先、平地との境にドーンと建つ8階建ての塔は、昔の軍事施設にモンスターが棲みついてダンジョン化したんだそうです。
そこを僕は登っています。
今はね、6階まで上がってきたんです。
階段崩れて登れないとことかありましたけど頑張りました!
ジャンプしたり壁をよじ登ったり床が抜けたり天井が落ちてきたり……。
色々あったけど僕、無事ですよー!
◇◇◇
「ガアァァー!!」
崩れた足場に注意して歩いていたら前方からモンスターさんが向かって来ましたね。
まぁ感知してましたからビックリはしないんですけど、なんで吠えるんでしょう?
威嚇?
声出して威嚇するより、不意打ちの方が効率良くないですかね?
名前: ソルゴースト
種族: 兵士型死霊モンスター
レベル: 30
能力: 戦士之技 身体強化 憎悪之技
《生きてるモノを恨む死んだ兵士の骸。怨念で動き能力は生前より上がっている。これに殺されると怨念に引きずられて仲間になってしまうので注意》
鎧を着た骸骨さんを鑑定した結果、嫌な説明が出てきました。
「仲間にはなりたくないですね…」
仲間になっても楽しくなさそうですし、見るからに。
錆びてボロボロの剣を振り回して来るソルゴーストさんの剣筋はデタラメなので避けるのは簡単です。
力はあるようですけどスピードは遅いかな?
でも、死んでいるモンスターを殺す?というのはどうしたらいいのか分からなくて最初は戸惑いました。
心臓とか喉とか急所が骨だから無いんですよね。
鎧も壊れていて隙間だらけだから、逆にどこを狙ったらいいのか迷うんですよ。
「ガアァァ!」
「おっと」
骸骨さんの剣が上段から振り下ろされるのを上体を逸らして避け、そのまま肘を突き出して胸元を打ちます。
その部分だけに力を込めましたから、胸の辺りだけ吹き飛んだ骸骨さんに続けて一打。
骸骨さんの頭が吹き飛びます。
更に残った下半身を『剛力健脚』で砕くと、さすがに脚の部分だけでは何とも出来ないのか、骸骨さんは動かなくなります。
僕の骸骨さんに対する対処は、つまり動かなくなるまで"壊す"です。
結構慣れてきましたね、壊すの。
ちゃんと倒すと鎧や武器を残して骨が砂のようになってしまうんです。そうなってやっと"死ねる"のか、経験値が入ります。
今も砂になった骸骨さんの経験値が入ってきましたね。
ところが赤様から待ったが入りました。
《ヘタレ、今のまんまじゃ手数がかかりすぎる。一発で殺せるようにしろ》
(うえ?だ、だって一撃じゃ全身壊せないんですよ?頑張って二撃です)
シャピ様みたいに力持ちなら出来るかもしれませんが…。
《鬼姫か…。そうだな、あいつの攻撃は"面"だ。広く厚く、力が強いから重い。対してお前の攻撃は"点"だ。鋭く細く、どんなとこにも入り込む。ここまではいいか?》
(はあ、何となく…)
《"面"でも"点"でも利点はあるからそこはいい。だが、打ち込む場所を考えなきゃ意味が無いんだ》
(?)
《お前、魔力や気の流れが分かるだろ?それの隙を狙え。魔法使いの時、奴の魔法の隙を斬っただろ?あれと同じだ》
ああ、あれですか?
まぁ確かに生きてはいなくても何らかのエネルギーで動いているなら、見えるかなー?
あ、丁度いい時に骸骨さんの気配がします。
そっか、この気配の隙をねらうんですね?
(うん、わかりました赤様!やれそうです)
《よしよし。相手は集団のようだからな、練習にはもってこいだ》
…?
あ、あれ?集団?
ガシャンガシャン。カチャカチャ。カタカタ…。
鎧が擦れる音、骨が触れ合う音、歯が鳴る音。
えっーと、1、2、3……10、もっと?
外からの光が漏れて来る荒れた通路の先から、濁ったような妖気を纏った一団がいらっしゃいます…。
ああ、皆さん殺気立ってますね。
妖気が踊るように燃え上がってます。
あの…。…僕、こんなに沢山の方に迫られた経験無いので………怖っ!
敵意が怖っ!
(……あ、赤様っ…あの…)
《短剣と毒は使用禁止。相手の武器もダメ。地形利用は可》
このダンジョンに入る際に赤様から言われた決まりを再度告げられてしまいました。
解禁してほしかったのにっ。
でもこんな団体さんに素手で突っ込むのは無謀じゃないですか?ねぇ?
短剣くらいは良いんじゃないですか?赤様?
ダメですかそうですか。
「ガッアァァー!」
「ガガーッ!!」
あらやだ、あっちが突っ込んできました。
そんな一気にこなくても逃げませんよ、赤様が許さないから。
僕は防御と回避の修業をしていたので、向こうから来てくれた方が実はやりやすいですから有り難いですけどね。
剣だったり槍だったり斧だったりを各々構えて攻めてくる骸骨さん達の妖気の隙を見定める為、僕は目を凝らしました。
◇◇◇
ピロリローン♪
(うぇっ?)
《レベルが上がったな》
骸骨さんの頭蓋骨を踏み砕いた時に、その音が鳴りました。
『レベルが上がりました。新能力を獲得しました。新能力は『妖気切断』『瘴気切断』です。新称号を獲得しました。新称号は『十人力』『幽霊狩り』『絶ち切る』です』
塔を登ってから順調にレベルが上がってますね。
よしよしっ、強くなってますよー!
まだカクカクして挑んでくる骸骨さんを掌底と蹴りで粉々にしてからレベルの確認をします。
名前: キノコ
種族: ロムスーキノコ 造られた入れ物
職業: 無し
レベル: 21
体力: 42000
心力: 36000
技力: 80000
能力: 自給自足 毒性無効 状態異常無効 身体制御 魔力制御 疾風走行 万能結界 自覚無毒 万能毒成 這寄毒成 毒性支配 剛力健脚 臭気追跡 剛力腕白 妖気切断 瘴気切断
称号: 聖樹の落とし子 魔女の養い子 人造人間 妖精の友 幽霊の友 荊騎士の弟子 全てを毒す 一撃必殺 矛盾の暴力 開き直り 十人力 幽霊狩り 絶ち切る
いやぁ、スゴいですねダンジョン!
レベルが上がる上がる!
二時間位で11も上がりましたよ?
しかもこのダンジョン死霊系ばっかり出てくるから、"殺す"というより"成仏"という感じがして気も楽ですからガンガン行けます。
《……でもまあ、そろそろ頭打ちだろう。ボスを狩って帰るか》
(え?もうですか?見てない部屋とかありますよ?)
《敵とのレベル差がなくなると経験値の入りが悪くなるから長居は無用だ。部屋ったって宝箱があるくらいだろうし、この程度のダンジョンじゃ中身も知れてるし》
(シャピ様にお土産になりませんか?)
《ならないな。お粗末過ぎるだろ》
シャピ様達にはこの塔の入口で待っていてもらっています。
僕が一人でどの程度戦えるのか知る為、というのもありますが、皆はそれぞれやりたいことがあるから別行動になったんです。
シャピ様はお屋敷から借りてきた『結構深いよ?武器の世界 ~ぶきを作っちゃおう~』という本を読む為塔の入口で待機。
塔をじっと観察したあと、『この程度ならキノコ一人でも大丈夫……妻は夫の帰りを待つもの…』と言って、いってらっしゃいをしてくれました。
武器の素材があったら持ってきてとお願いされたんですが、確かにこのダンジョンじゃシャピ様に合ったモノはないかもしれないですね。
タンポポさんは小銭を稼ぐ為に森に入って行きました。
借金は、『啜る悪意』の情報提供料金としてチャラにしたんですが、イマイチ納得出来ないみたいで『…では、せめてお屋敷にお世話になる分を少しでも稼いで参ります』と走って行っちゃいました。
何を狩ってくるのか楽しみですね。
勇者さんは師匠と訓練です。
【実戦に勝るもの無し!】と言った師匠に取り憑かれてダンジョンの最初の部屋に篭っています。
素振りや筋力アップの訓練をしながらたまに現れる骸骨さん達と戦闘してるみたいです。
すぐそこが入口だし、師匠も憑いてるからいきなり死んだりはしないでしょう。
《レベルがバラバラだからな、お前達。鬼姫に合わせたら毒姫達は死ぬし、毒姫に合わせたら鬼姫の欲しがる素材が手に入らない。勇者に合わせたらストレスが溜まる。せめてお前が毒姫達をフォロー出来るようにならなきゃ全員でダンジョン突入は控えた方がいい》
赤様もそう言うので、ここは僕だけで登る事になり、おかげでいろいろと勉強になりました。
登る事と戦闘だけに集中していたのであっという間に最上階に来てしまいましたし、レベルは上がったし能力も増えたし!
(じゃ、赤様、ボスさんのとこに行きますけど、ボスさんって強いんですよね?)
《ああ、まあな。といっても、そこのダンジョンの雑魚より強いだけだからピンキリだ。ここならレベル30か40くらいだろうし、ドロップアイテムも期待できないし、変に怖がる必要はないからな》
レベル40ですか。
タンポポさんでもなんとかなるくらいのボスさんですね。多分。
赤様は怖がって身体を固くするなと言いますが、僕の嫌いな"火"とか使われたら嫌だし、やっぱり緊張はしますよ。
最上階の8階は通路の他に一部屋しかなく、今までで一番大きな部屋はモンスターじゃないホントの白骨死体だらけでした。
古いモノから新しいモノまで、中にはまだお肉が着いてる死体もありますよ。
腐乱していて臭っているのに蝿がたかったりしてないのは、このダンジョンが生き物を拒絶するような瘴気に溢れているからでしょうか。
壁にかかる梯子を登った先から益々濃い瘴気が下りてきていますし、ボスさんはこの上、屋上にいるんでしょうね。
よし、行きますか!
年代物のわりにしっかりした梯子を登ると、青空が僕を迎えて…、くれませんでした。
今日は晴れていて気持ちのいい風が吹いていたから、ダンジョンの暗い空気に憂鬱だった気分が屋上なら晴れると思ったのにっ。
どす黒い暗雲が立ち込めているんですが、なぜ?
おかしいですね、瘴気で黒紫に染まった空気まで充満してますよ。
なのに塔から外れた向こうの空は真っ青。
流れる白雲に羽ばたく鳥の群れ。
まるで透明の箱が屋上に被さっているみたいです。
《ボスの居る場所はある種の結界が張ってある。その影響だろうな》
(へー、そうなんですか。ありゃ、ここも白骨死体だらけ?ボスさんも骸骨さんなんでしょうか)
《そうだな、兵士じゃなくて将軍かもな……。お、お出ましみたいだぞ》
充満していた瘴気が一カ所に集まりだし、それとともに白骨死体達がガタガタと奮え、引きずられるように同じ場所に集まりだしました。
ガシャガシャと操り人形みたいに吊り上げられ、固められて瘴気に覆われて、何かを形作っていく白骨達。
やがて屋上を圧迫するような大きさに積み上がった骨が、人間の上半身に見える事に気づきました。
頭蓋骨や様々な骨がひしめき合って出来た腕、身体、頭を持つ巨体の骸骨さん。
普通の骸骨さんの三倍はありそうな大きさの骸骨さんが出てきましたよ。
「「……グオォォーッ!!!…」」
(…赤様っ、骨で出来た骸骨さんですよ!スゴイ、大きいだけじゃなくて骨使用率がスゴイですね!骨だらけ、骨に隙無し!あの骨全部で吠えてるんでしょうか!?どうやってるんでしょうね!?)
《…誉めるとこ違うんじゃねぇ?ってか、なんか大物出てきたような…》
巨大骸骨さんのビリビリくる咆哮に感心していたら赤様が何やら不審な事を…。
す、ステータスステータス!
名前: 骸骨操者
種族: 瘴気型死霊モンスター
レベル: 65
能力: 骸骨之技 瘴気制御 瘴気之技 怨念之技 精神汚染
《骨と怨念渦巻く場所に稀に産まれる実体の無いモンスター。死霊モンスターの王である『骸骨霊主』すら操ることもあるという、極めて危険な死霊。核となる死霊が複数存在し、それ故になまなかな事では倒せない。接触注意》
……。
?え?65?
だ、だってレベル40くらいだって……。
あっ、赤様ー!!?
《……あれー?……》
 




