暗い部屋で 2
短いですが、重要ですよ。多分ね。
  
 
蝋燭がジリッと燃える。
揺らめく灯りが葡萄酒の入ったグラスに煌めく。
「……どういうことだ?」
「どうもこうも、一つ潰れた。マランダにいた奴等だ」
「だから、どういうことだ?!あの魔法使いまで派遣したのだろうが!死んだのか!?」
「騒ぐな。魔法使いは回収してある。死んではいないが、酷い有り様だ。……本部の魔法使いを態々借りて、この失態だ。なんとかしなければならないがな」
ジリリッと火が揺れる。
「……俺は知らんぞ。罠を張ると言ったお前が用意した駒だ。関係ないからなっ」
「…なんだと…。本部に要請したのはお前だろうがっ!?」
ガタンと机に拳が降ろされ、グラスが倒れた。
葡萄酒が零れ、床に滴る中で二人の男は互いの言い分に眉をしかめる。
「なんの事だ?俺はお前が呼んだんだと……」
「こっちにはお前の方から申請されたんだと話が来たぞ?……おい、まて、まさか……」
「……」
どちらも知らぬと言う。
嘘をついているのか、本当なのか。
どちらも本当なら、誰が魔法使いを呼んだのか?
厳重に厳重を重ねた裏にいる自分達を出し抜いて本部に干渉したのか?
部屋に沈黙が落ちる。
「…ま、魔法使いは…死んではいないんだな?なら、まだ、なんとかなるだろう……」
「確かに…。これで死んでいたら言い訳もできなかった」
疑心暗鬼に曇りそうになった自身を即座に立ち直らせ、本部お抱えの魔法使いの重要性を思い出した男に、もう一人も同意した。
「もう一度聞くぞ?お前が申請したんじゃないんだな?」
「違う。お前でもないんだな?」
「俺も違う。……早急に調べよう。奴隷市の件と平行して……後『雷王』が降臨した方もこちらで当たる」
「分かった。捕まった奴等と奴隷の補充は引き受けよう。保安院も抑える」
「では、『例え四肢が崩れても』」
「『啜る悪意は最後まで』。では早速取り掛かるか……」
各々自分のするべき事の為に席を立とうとしたのだが、背筋が凍るような寒気を感じて躊躇した。
「……?」
「な、なんだ?」
『失敗。したのか』
突如響いた声に男達は目線だけで確認し合い、緊急用の魔法を発動しようとした。
しかし、その前に声が割り込んでくる。
『魔法は使えない。逃げるのは無理。慌てなくても姿を見せる』
そういって暗がりから歩み出てきたのは見たこともない青年だった。
水色の髪に病的に白い肌。
仕立ては良さそうだがこれといって特徴のない服、地味な印象の青年は両目を閉じていた。
けれど迷うことなく歩を進める。
「と、止まれ!」
男が叫び青年は足を止めた。
「何者だ?」
『答えない。必要がない』
独特の話し方をする奇妙な青年。
『『魔法使い』。出したのに。失敗。情けない。名ばかり。『啜る悪意』なのに。その程度』
「っ?!お前がっ?」
『次は成功させる。失敗した奴。不要。無用。処理』
「!!!?」
『処理完了。消化完了』
物音一つさせずに青年は乏しい灯りの中、一人で立っている。
零れた葡萄酒は乾かず、椅子にはまだ温もりが残っているが。
部屋には青年の影しかない。
『次の計画。選択。選択。確認』
青年の瞼がゆっくり上がる。
濁った水色の瞳が見えたが、また直ぐにも閉じられた。
『『聖樹の落とし子』。必ず。捕まえる』
 
この濁ったヤツ、分かりますかね?




