鬼姫の一歩
悔しい……。
悔しい……。情けない……。
情けないし、悔しいし、イライラするし……。
全部、全部アイツが悪いんだ。
全部アイツのせいだ。
手加減されて悔しい。
見逃されて情けない。
弱いと……突きつけられて……。
キノコを守れなくて。
目の前でキノコを虐められて、助けられなくて。
情けなくて悔しくて、何も出来なかった自分にイライラする。
アイツが悪いんだ。
『雷王』。
人と竜の間の子のくせに、『王』になった異常者。
純血でもないくせに『王』になった異端児。
親を喰ってまで『王』になった狂い子。
アイツがキノコを虐めた。
目を抉った。
地面に叩きつけた。
踏みつけて尻尾で叩いて。
笑ってた。
……ずっと、笑ってた……。
許せない。
殺してやる。壊してやる。砕いてやる。潰してやる。
私は怒った。
でも歯が立たなかった。
全然、相手にされなかった。
悔しい。
泣きたいのに泣けないくらい悔しい。
こんな風にイライラするしか出来ない自分に腹が立つ。
キノコのやられた分、万返しで痛め付けてやりたいのに。
私じゃ、無理だ。
『鬼』だけど、『純血種』だから『竜』より強くなれるけど。
『王』には敵わない。
ずっと前にいた『鬼王』なら、なんとかなっただろうけど、私は『鬼姫』だから。
『王』にはなれない。
歯痒い。イライラする。
どうしよう、どうしたらいい?
考えよう。
ちゃんと考えよう。
まず…。
『雷王』に私は敵わなかった。
キノコも無理だった。
……。
あれ?
本当?キノコは無理だった?
……違う。
……うん、……確か、違う。
だから『雷王』はキノコに目をつけたんだ。
だから約束をしていった。
だからキノコは言っていた。
『強く、ならなくちゃ……』
そう言っていた。
ボロボロの体で言っていた。
そうだ、キノコは一矢報いた。
尻尾を切ってやったんだ。
あの『雷王』を傷つけた。
流石キノコ!
可愛くて強い、なんて凄い子!
…………そう、それでアイツは驚いてた。
『王』に敵う武器に驚いてた。
☆6でも難しいのに、★か、と笑ってた。
キノコの短剣が凄いのは見たら分かる。
存在しているのに、いないような。全てに溶けるような短剣。
全て溶けているから、全てに入り込める。
全てに斬り込める、短剣。
そんな武器。
☆6のアイテムなんて父様の宝具しか見たことなかった。
★級なんて、語り部の話に出てくるような物。
空想の物なんだと思ってた。
ほんとにあるなんて知らなかった。
流石キノコ、そんなのを持ってる。
多分魔女が拵えてキノコに渡したんだろうけど、使ってるのはキノコだし、キノコが凄い。
キノコが凄いの。
そう、だから……だからえっと。
『雷王』に★級なら傷がつけられるという事。
そうだ、そういうことだ。
武器だ。
足りないなら補えばいいんだ。
体だけで戦うのが私には合ってるけど、武器があれば攻撃力が増す。
それだけで『雷王』に敵うかと言われたら難しいから、レベルも上げて鍛えよう。
武器、武器だ。
武器は力だ、力をつけよう。
力を振るうために自分も鍛えよう。
それでアイツをぶっ飛ばす!!
……あ、少しイライラが治まった。
ああでも、さすがに★は無理だろうな。
在りかも作り方も分からない。
魔女なら知ってるだろうけどいないし、あの年増に頼むのも嫌。
この前会った亀甲竜のボケジジイなら知ってるかな?
無駄に年とってないだろうし、海は宝が眠ってるって聞いたことある。
★級が無くても、☆6級ならあるかな?
もしくは材料を集めたら☆6級、作れないかな?
☆6で難しいってアイツ言ったもの。
☆6で頑張ればなんとかいけないかな?
いけるよね?
……うん、そう信じよう。
このままイライラするより、信じて武器を探そう。
それか作ろう。
……作るのって…鍛冶、かな?裁縫?
私……火は好きだけど、鍛冶は出来ない…。
あれ、あれ?どうしよう?
あ、そうかっ。
鍛冶師に頼めばいいのか!
………★級を打てる鍛冶師って、いるの?……。
ドワーフが鍛冶得意だけど…アイツらでも無理じゃない?
…どうしよう…。
それに、武器っていっても、どんな?
剣?槍?弓?
私に扱える?
私、武器って使わないから…振り回すくらいしか出来ないよ?…。
……どうしよう……。
……………。
……………うん、これは作るってなったら考えよう。
まずは出来る事から始めよう…。
なんにしてもアイツをぶっ飛ばすにはレベルを上げなきゃ。
レベルを上げるには戦うのが一番早い。
ダンジョンに潜ればレベルが上がるし材料も手に入りやすい。
うん、一石二鳥?だよね?
あ、楽しくなってきた。
キノコも強くならなくちゃって言ってた。
一緒にダンジョンに行けば強くなれるし武器も手に入いる。
それに閉鎖空間であるダンジョンなら人目を気にせずキノコと……。
あんなこともこんなことも、それからこんなことまで……。
え?
一石三鳥、やだ、四鳥くらい?
これは直ぐにもキノコに相談しなくちゃ!
……私、自分を過信してた。
人間相手ならもちろん負けない。
キノコ自身が強いし、私が守るんだから大丈夫だって。
でも、世界にはもっと凄い奴がいるんだって、忘れてた…。
亀甲竜のボケジジイも言ってたのに、『雷王』の島があるって、言ってたのに。
『王』に勝てるはずないのに、忘れてた…。
ゴメンなさい、キノコ。
私が油断したから、弱かったから、あなたが傷ついた。
キノコばっかりヒドイ目に合う。
何もしてないキノコがいつも虐められる。
もう、そんな事させないから。
私……強くなる。
強くなって武器を持って戦う。
キノコを助けて戦う。
キノコと一緒に戦う。
『雷王』をぶっ飛ばす!
覚えていろ『雷王』。
いや、どうせ私の事なんか忘れただろう。
それでいい、忘れていろ。
忘れるほど脆弱だった私が、お前をぶっ飛ばすから。
覚えてもいない、誰だか分からない私に潰されて悔しがれ。
フフッ……。
さあ、まずはキノコに相談だ。
勝手には動かない。
私は妻だもの。
フフッ……、フフフフッ。
だけど私の歩みは止まらない。
お前の尻尾を踏みつけるまで止まらない。
さあさ、一歩、踏み出そう。
足音高く、アイツに届くように。
一歩、一歩。確実に行こう。
許さない。
許さない、許さない、許さない。
怨嗟を込めて、踏みしめ行こう。
「…………ぶっ飛ばしてやるっ…」
あれ?
……それなら武器はハンマーがいいかな?
キノコ、どう思う?
そんなわけでシャピも武器、というか装備を固める決意をしました。
剣とか槍とかもいいけど、鬼だから金棒かな?
鉄球とかモーニングスターもいいかな?
あともちろん、☆6はドワーフでも作れません。★なんて無理無理!




