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無茶する菌類

相互理解に一番大切なのは対話だろうか?


話さなければ分からないし、話して拗れる事もあるだろうが、だからこそ話して拗れを解す必要があるから会話をしていくのだろう。


しかしだ、相手を理解するなんてとんでもない傲慢だ。


本人じゃないんだからどんなに詳細に心情や生い立ちを話しても他人が完全に理解をするなんて無理だし、結局はわかった気でいるだけ、自己満足だ。


それでも話さなければ分からない。


分からないから上辺だけで判断してしまうのは仕方ない。

判断した結果『チンピラ』だったのも仕方ない。

……誰の事って『偽勇者』の事だ。


けれど『チンピラ』だったのが、生い立ちを聞いたら『自己犠牲のチンピラ』にレベルアップしたみたいだ。

キノコの中でだが。


ここで『偽勇者』が、『自分()助けて』と都合のいいことを言ったならまた違っただろう。


誰かの為に自分を捨てる。

それはキノコにとって自分を守っていってしまった『聖樹(ははおや)』を連想させる行為である。


何も出来ずに泣くしかなかったキノコは、そんな自分を恥じている。

なのでキノコは同情する。

同情して『偽勇者』を助けようとする。

あの時動けなかった自分を取り返すように感情移入を簡単に行い涙する。


『無闇矢鱈に信じるな』とは約束させたが、散々汚い所を見せてきたヤツが急に善人ぶったら普通の人間でも(ほだ)される。



キノコは見事に絆された。






◇◇◇





何か熱くなった?と感じた。


寄りかかった木製の扉が不思議な熱を持ち出したようで、少し離れたらそれ(・・)は起こった。


まるで湯が沸くようにプツプツと扉の表面に気泡のようなものが生まれた。はじめは一つ二つ、徐々に広がってグツグツ煮えるように泡立っていく。

最初は不思議に思い顔を近付けて見ていたが、考えれば異様な光景だ。

泡立つ度に尻を引きずって後退した。

ひきつる顔に見開く眼。

瞬きすら忘れて凝視しているうちに。


始めに気泡が生まれた扉の中央部分がドプリととろけた。

クリームが垂れるようにドロドロと崩れて穴が開き、溶けた木材が床に滴る。

溶ける?木が?

ありえない。アーゼスは血の味がする口内で舌が震えるのを自覚した。


けれど木製の扉は溶け、開いた穴が広がり隔たれていた境は繋がった。

何が起きたのかわからないまま呆然と扉を見つめるしかないアーゼス。


滴る木が炭のように黒くなり灰のように空気に乗る中、穴を潜って『キノコ』が現れた。


小さな革靴が床を踏めば灰が舞い上がり渦を巻く。

舞った灰のカーテンを引き裂くように身体を滑らせ、白い髪を靡かせフワリと境を渡る。

扉を溶かしたのはキノコなのだろうかと聞こうとして、出来なかった。

震えすぎて歯が上手く噛み合わず、カチカチと耳障りに鳴る。鳴る度に背筋が寒くなる。

聞かなくてもわかるはずだ。

溶かした穴から出てきたのはキノコだ。キノコしか、こんなことは出来ない。

どうやったのかもアーゼスには分からない事をしたキノコは、灰を払うようにフゥと息を吐き。


そして紫水晶のように煌めいた瞳がアーゼスを捉えた。


相も変わらず現実味が無いくらいに整った(かんばせ)は何故か泣きそうになっている。


(……まさか……同情してくれたのか?……)


唇を噛み締めて我慢している様も愛らしい。

同情を誘う話をしろとキノコから言われて話したが、僅かでもキノコの琴線に触れたのだろうか?


「……偽者さん、今の話は本当ですよね?」


霧散していく灰の中で白い子供は呟いた。


「もし、また僕を謀ったなら今度こそ生き地獄に落とすそうです(・・・・)。それでいいなら、僕が協力するのを許してくれる(・・・・・・)って。今ならまだ間に合いますよ?騙しているなら言ってください。ナナさんを助けたい、本心ですか?」


アーゼスの顔を、瞳を、心を真っ直ぐ見つめてくるキノコ。


思わず目をそらしてしまいそうになりアーゼスは自分を叱責した。

嘘などついていない。

ナナに関しては嘘を言うつもりもない。

恥じる事も後ろめたい事もしてきたが、これについては一切ない。

嘘だと言われるのは心外だ。


なにやら不思議な言い回しがあったが、それには気づかず紫の瞳を睨み返す。


薄暗い石廊下にあっても宝石のように光る紫の瞳がアーゼスの真意を探るかのように煌めく。

逃げるばかりだったが、ここで逃げるわけにはいかないとアーゼスも腹に力を入れたのだが、顔を殴られ腹を蹴られ、石床に叩きつけられたアーゼスは裂傷と腫れでかなりボロボロだ。

途端に殴られた箇所が痛んで歪む顔にキノコが憐憫の眼差しを向ける。


「…痛いですか?それに関しては自業自得ですから助ける事はしませんので、存分に痛がって下さい」

「…っぐっ……、……え?…それ(・・)に関して?」


じくじくと痛む腹を庇ってうずくまるアーゼスを見下ろすキノコに思わず聞き返す。


「はい。といっても僕に病気を治すのは無理だし、薬も知らないですし、それは自分でやってください。誘拐の報酬で貰えるはずだったなら、請求しに行きましょう」

「い、行きましょう?」

「この建物の構造も立地も僕、分からないですから。案内してくれるなら寄り道してもいいですし、悪者は僕で対処してあげます。僕が助けられるのはそのくらいですね」


そこでキノコは心底嫌そうに顔を歪めてこう言った。


「…なので悲惨な死に様を晒すくらいなら、自分でナナさんを助けてあげて下さい」


ポトリとキノコの涙が落ちた。


「生かすために死ぬ、なんて、簡単に言わないで」








この離れ小島は地下道で大陸と繋がっていて、昔の大戦時に使われた石作りの砦がある。

年月が経って大半が瓦解しているが、奴隷商人達は使える部分を補修してアジトとして使用していた。


「ここには一味の人間しかいない…誘拐された子供はここにはいないようだった……。他所に集めてるんだろうな」


ヨタヨタ歩くアーゼスの説明を聞きながらキノコはキョロキョロと通路を確認している。

もちろんキノコはアーゼスに手を貸したりしない。

だが、キノコが手伝ってくれると言ってくれたので幾分か余裕が生まれたのか、痛みが和らいだように感じている。

痛みに慣れただけかもしれないが。



閉じ込められていた部屋から伸びる細い通路を足音に気をつけながら進む。


見張りとして置かれていたのはアーゼスだけだが、何処に誰がいるか分からないので慎重にいかねばならない。

隙間が多いからか声が響く事がないのが幸いだ。二人はひそひそと情報交換しながら進んでいく。


傷んだ壁に雑草が生え出した床、蜘蛛やトカゲがチョロチョロしている廃墟だがキノコは怖がる素振りもなくアーゼスの説明を聞いていた。


「砦、ですか。だから窓も小さい明かり取りくらいしかないんですね」

「俺も部外者だから、詳しくないが…奴らは大体広間に集まっていると思う。こっちだ」

「いるのが悪者だけなら、多少は無茶をしても構いませんよね?」


崩れた壁から出た石屑をひょいと拾ってキノコはアーゼスに問うてきた。


どう答えるべきかアーゼスは一瞬固まる。


『ドラゴン』を圧倒したキノコ。


海上であれだけ動き、しかも余裕が見て取れたキノコが『無茶』をする。

何が起こるのか見たいような見たくないような…。


「…て、手加減出来るなら、したほうが…。お前だって殺人は嫌だろ?」

「そうですね…でも、いざとなったら殺生もしなければいけないのも分かってますよ。…まぁ、加減はしますが…」


ポンポンと手の平で石を玩び溜め息混じりに呟くキノコにアーゼスは頬が引き攣る。


誘拐されて、奴隷商人達と対峙するというのに気負うどころかこの態度。

アーゼスの胸までしかない細身の子供、普通なら大人の影に隠れて泣いているであろうはずなのに。

まるで気の乗らない遊びに付き合うかのような渋り顔で歩いている。

小さなモンスターが隣にいる恐怖をアーゼスはひしひしと感じていた。


キノコが監禁されていた場所は広間のある場所から離れている。

細い石床の通路を歩き、比較的広い通路に出ると空気の流れを感じた。

この先に広間があったとアーゼスは記憶している。


「薬にしろ金にしろ、元締めが管理してるからそいつを探さなきゃな…」

「…広間にいますかね?」

「そろそろ夕飯時だから…酒盛りも兼ねて集まっていると思うんだ」

「まぁ、居なかったら誰かに聞けばいいですかね?じゃ、行きましょうか。遅れないで下さい」


通路から首だけ出して様子を伺っていたアーゼスの横をひょいとキノコは通り過ぎた。


「っ?ま、まてっ!」

「元締めさんならタンポポさんの行方不明についても知ってますかね?…知ってるとしたら、犯人さんって事でしょうか…」


ぶつぶつ言うキノコは広間らしき場所に足を向けるが、ふと立ち止まり通路の奥を見据えた。


寒々しい通路の奥から賑やかな声が響いてくる。


もとは大きな扉でもあったのだろうが取っ払われたようで、アーゼス達からは広間の入口から向こうが見える。

距離があるのであちらからは気づきにくいだろうし、何より酒盛りが始まっているようで、ますます注意力散漫になっているのだろう。


「盛り上がってるようですね。皆集まってるんでしょうか?」

「多分。さっきも言ったがここは離れ小島だ。地下道に見張りを付けておけば事は足りるからな。お前に関しちゃ魔法の手枷してたからより安心して…」


そこまで言ってアーゼスはギョッとなった。


キノコが右腕を高く振り上げ、手の平に収まるほどの石を確かめるようにくりくりと手首を動かしている。


「…えっ?…ち、ちょっと、な…」


そのまま右手を振り下ろすキノコ。


ビュンッ!


風を切る音がして石礫が真っ直ぐ広間に吸い込まれ。


ボガァーン!


爆発するような音と共に酒樽が破裂する。


「…?…?!」 


キノコの動作から破裂音は石礫が当たったからだとわかったが、なんでそんな事をしたのか分からない。


(い、石で樽が?この距離を?命中?なんで樽を?)


急に破裂した樽を囲んで騒ぐ声が届くが、それよりも頭に浮かぶ疑問を解決しなければとアーゼスはキノコに詰め寄る。


「な、なにしてんだっ!?せっかくあいつら油断してっ」

「いえ、犯罪起こしてるのに盛り上がってるのが腹立たしくて…つい」

「え?八つ当たり?」

「いやぁ、誘拐された身としては正当な応酬ではないでしょうか?」


何でもないことのように歩きだし、いまだに騒いでいる広間にキノコは指を向けた。

何か甘い匂いがするとアーゼスは思った。


「偽者さん。僕の前には出ないようにしてください」








奴隷商人一味の男は気分良く酔っていた。


自分の役目は街で見目良い娘を拐うこと。

役目を果たし仕事終わりの酒が振る舞われ、皆で騒ぐこの時間が男は好きだった。


飲んで食べて笑う仲間を少し離れて眺める。

悪党の集団故に、何時捕縛されて皆と別れるか分からない。だからこそこの一時を楽しむのだ。


けれどその楽しみは酒樽がいきなり壊れた事で中断した。


なんの前触れもなく壊れたのは酒樽の一つ、大した被害ではないが、何だなんだと皆がざわつく。


男も何故壊れたのか気になり、樽に近づこうとして寄り掛かっていた壁から体を離したのだが、不意に覗いた出入口の向こう、通路に白く浮かび上がる人影にギョッとなった。


ランプで明るい広間とは違い通路は暗くヒンヤリとした冷気に沈んでいた。

そこに霧のようにぼんやりと現れた"影"。


このアジトは昔の砦、戦死者の霊が出たのかと鳥肌が立つ男は、怖いもの見たさで更に目を凝らす。

酔っているからこその大胆さで足も通路に向かっていた。


白いモノは『子供』に見えた。

まさか"商品"が逃げた?または本当に幽霊?

男は『子供』が手招くように差し出した手に引かれるように、とうとう通路に足を踏み出した。


甘い香りが鼻につき、酔った頭が更にぶれた感覚がした。


おや?と思った時には何故か男は通路の床に倒れていた。


視界を埋める石床の冷たさも、倒れた痛みも感じないまま、男の酔いは急速にさめるのに身体が動かない。

ゾワッと鳥肌が増す。

何が起きたか分からないが異常事態だとは理解出来る。

酔いのせいだとは言いきれない寒気が男を包む。

なんだ、なぜだ?どういう事だ!?

混乱する頭に自分を呼ぶ仲間の声が聞こえ、駆け寄ってくる足音も届いた。


ダメだ、来るな、こっちに来るな!

来たら自分のようになる。それだけは確信出来る、来るな!

そう叫びたいのに舌すら動かせない。


動かせない視界にバタンと誰かの腕が入り込んできた。間に合わなかったのだ。

ピクリとも動かない誰かの毛深い腕に、死んだのかと錯覚してしまう。

自分もこんな風に倒れているのかと自覚すると恐ろしくなる。

意識があるのに、死んでいる自分。


また鼻につく甘い香り。


なんの匂いなのか、ゾワゾワと怖気が駆け巡り男は吐きそうになったが動けない。

待つしかない、次に何が起きるのか、このままで。







広間から出てきた男達が次から次に倒れて動かなくなる。

あっという間に出来た人の山にアーゼスは冷や汗をかく。


「…な、何したんだ?」

「身体を麻痺させただけです。意識はありますから死んでませんよ。大丈夫大丈夫!」

「ど、どうやって?薬か、魔法?!」

「…まぁ、そんなものですかね」


アーゼスの質問にキノコは詳しくは答えずに広間の入口を塞ぐように出来た人山に歩みを進める。


「流石に全員は出てきてくれませんね。広間まで浸蝕してもいいんですけど、万一民間人がいたら大変だし…仕方ない、乗り込みますか」


倒れた男達は確かに死んではいないようだが全く動かない。

意識を失った身体は重さが増すというが、それでなくても子供に動かせる体重ではない。

てっきり人垣を乗り越えるのかとキノコに続いたアーゼスは目を見張る。


キノコは倒れた一人を蹴り飛ばした。


自分の倍はあるだろう大人の身体を一つ、二つと壁に蹴り寄せて道を作っている。

蹴られた男達は苦悶の声さえ上げずに壁にぶつかりゴロゴロと転がる。

最後の男は広間に蹴り入れ、それを追うようにキノコは入口を潜った。


「何だお前っ!?」

「どっから入った!」

「まて、あいつさっき入った"商品"じゃないか?」

「は?動けないようにしてたはずだろ!?」


広間にはまだ十人程が残って事態を見守っていたようで、明らかな侵入者のキノコに怒気を当ててきてた。

けれど吠えながらもキノコを遠巻きに威嚇するだけで近寄ってはこない。


次々に倒れた仲間を掻き分けて現れた『子供』だ、不審に思うのは仕方ない。


キノコにとっては遠巻きとはいえ包囲された状況なのだが、やはり平然と見回すだけで怯えもしない。

キノコの後から広間に入ったアーゼスは雑多な物で溢れる広間をザッと確認した。


「っ!テメェ、見張りはどうした!」

「裏切りやがったな!」


アーゼスを殴ってキノコの見張りとして放置していった数人が騒ぐ。

それを無視して人員を確かめていたアーゼスは一番奥に座っている"中年男"と目があって苦い顔になる。

目当ての人物ではなく、厄介な奴がいる。


「…キノコ、まずいぞ…元締めがいない代わりに『魔法使い』がいるっ」

「魔法使い?…おおっ!カッコイイですね」

「かっ?お、お前の手枷の魔法もあいつの力なんだぞ!?」


『魔法』は一般人には使えない"力"だ。


殴る蹴るという肉体を使う"力"ではなく、訓練しなければ扱えない"力"。

小さな魔法しか使えない者でも、戦士何人分もの戦力になる。


元締めとは違う命令系統で動いているらしく、急遽派遣された彼はキノコを拘束する仕事を終えて帰ったはずだった。


「なんだぞ、と言われても…。手枷は外しましたし。どんな魔法を使うか知りませんけど、魔女さんよりは凄くないでしょう?平気ですよ」

「平気って…え?……『魔女』?」


聞き捨てならない単語にアーゼスがキノコを二度見すると、突如広間に笑い声が木霊した。


中年魔法使いが良く響く声で笑っていた。


人差し指でチャリチャリと鍵を回しながら、魔法使いは楽しそうにキノコ達に話しかける。


「おかしいなぁ?なんでその子供が動いてるんだろうなぁ?鍵がなきゃ手枷は外せないのになぁ?壊すのも無理なはずなんだがなぁ~」


ねっとりと絡み付くような喋り方で魔法使いは立ち上がり、笑っていない目でアーゼスを眺めた。


「そっちの小僧が裏切ってもさぁ、手枷を外すのは無理なんだよなぁ?なんでだろぉ?……おい、お前。ちゃんと鍵掛けたぁ?」

「は、はい?はい、ちゃんと掛けて確かめました!」


魔法使いの近くにいた小太りの男は顔を上下させて間違いないと答えた。


「…そっかぁ、じゃ、鍵じゃなくて、俺の魔法が失敗したって事かぁ?」

「え?いえ、そんな」

「やだなぁ、俺のせい?ヒドイなぁ、お前ひどくない?」

「す、すいません…」

「いやいや、謝るなよぉ。そんなんで俺の傷付いた心は癒せないなぁ~……」


小太りの男はダラダラと冷や汗をかきはじめ、他の人間も彼から距離を取る。どう見ても魔法使いは機嫌を損ねた。

何とか弁明しようと小太りの男は下げていた目線を魔法使いに戻したが、急に息苦しくなり胸を押さえた。


「仕方ないから死んで詫びてくれるかなぁ?」


魔法使いがのんびりと発した言葉は小太りの男に聞こえただろうか?

ハァハァと荒い呼吸をしていた小太りの男は膝をつき、もう一度魔法使いをみようとして顔を上げた途端に"血"を垂らした。


穴と言う穴から、血をたらたらと。


口、鼻、目、耳、毛穴。全部の穴から垂らした。


「…え、…あ、れ?…」


男は鼻血が出たのかと手を顔に持っていこうとして、ゴボッと血を吐きそのまま倒れた。

そして動かなくなり、血だけが流れ出る。


自分の血の海に沈んだ男に周りは息を呑む。


どうみても男は死んでしまっただろう。あんなに血を出して平気なわけがない。


『魔法使い』に殺されたのだ。


ただ少しだけ否定的な意見を述べただけで殺された…、いや、魔法使いが曲解しただけで、男に非は無かった。

理不尽だ。

理不尽で殺された。


喉まで出かかった悲鳴は誰も上げなかった。

魔法使いがニコニコと小太りを眺めていたから。

楽しそうに細められた目は次の獲物を探しているように見受けられた。

下手に騒いで魔法使いを刺激したら、次は自分かもしれない。

そんな危ない真似は出来ない。

仲間が殺された事を批難するより、所詮は自分が助かる事しか考えられない者ばかりなのだ。


真っ赤に塗れた小太りがゴトリと倒れるのを見ていたアーゼスは、一連のやり取りの危うさに手に汗をかく。


ごく自然に小太りを殺した魔法使いにとって、ここにいる一味は仲間ではないのだろう。

大切にする意味も守る価値もない人間だけなら、魔法使いは『魔法』に制限を持たないかもしれない。

一味を巻き込んでの広範囲魔法を使われたら逃げ場がない。


(…逃げ場?…まだ、逃げるつもりなのか、俺は?)


魔法使いの外道さに後退りしかかっていた足を無理矢理前に向ける。

勢いでそのままもう一歩踏み出した時、キノコがアーゼスを振り返って睨んできた。


「偽者さん、前に出ないで下さいと言ったでしょう?」

「い、いや、でも。魔法使いだぞ?今の見たろ?あんな奴をお前一人でなんて…」

「ああ、今のは非道いですね。あの人死んじゃいましたよ。しかも言い掛かりで殺すなんて…何様のつもりなんでしょうか?」


「『魔法使い』様だよ!!」


キノコに答えるように魔法使いが叫ぶ。


いきなりの大声量にキノコは目をむいて魔法使いに向き直った。


「『魔法』が使えるんだよぉ?それだけで偉いんだよ~凄いんだよぉー!何したっていいんだよぉー!?」


学校にいた貴族のような傲慢発言にアーゼスは辟易した。


確かに『魔法』は個人の才能と努力の結果だから天狗になるのも仕方ないが、別に『偉い』わけじゃない。

『魔法使い』を『選ばれた人間』として崇拝するような風潮もあるが、それは未開発の地域等に限る。


だが、この中年がここまで言うのは余程の実力者だからかもしれない。


さっきの男を殺したのも『魔法』なのだろうが、アーゼスにはどうやったかも分からないし、更に多種多様な技を持つのかもしれない。

マズイ、もうダメかもしれない。


…と、焦り出したアーゼスは気づかなかった。


自分の前に立つ、自分より小さな子供が。



全ての感情をそげ落とした平淡な顔で『魔法使い』を見ている事に。




















アーゼスはボコボコにされましたが回復が速いです。

学校での耐性と経験で防御力が優秀なせいです。 

あと称号の『不屈の子』は立ち向かう心があるほど全能力が一時的に上がります。

追い込まれるほど強くなるわけです。

キノコはホントに助けてません。まだちょっと嫌いですから。

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