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走れキノコ

湿気は好きです。

濡れるのも好きです。お風呂も好きです。

菌類ですから!


でもシャピ様が『風邪ひかないようにね?濡れないようにね?』と言ったので気をつけなければいけません。

服も乾かさなきゃいけなくなるし、泥がついたら大変ですからね。

……まぁ、魔女さんの服なので平気なような気もするんですが、回避出来るなら回避しなきゃです。


なのに雨は上がる気配もなくバシャバシャ降ってます。


タンポポさんを探しに行きたいのに、濡れるわけにはいかない僕は立ち往生です。


「……そういえば……」


雨が降っているとき、人間はどうやって雨をよけているんでしょう?


ギルドの入口で雨の街角を眺めると、やはり人通りは少なく、皆さん足早に駆けて行きます。軒下から軒下に、雨を避けながら。

やっぱり濡れてしまって服を叩いて雨粒を落としていますね。

何人かはローブを頭から被って歩いているのですが、あれは濡れても大丈夫なローブなんでしょうか?


僕も何か被れば…。ローブはありませんし…買いに行くのも…無駄遣いになるのかな?

お金はいくらあったでしょうか?


鞄を探ると財布のそばに小さな包みがあります。


畳んだハンカチみたいな布。最初に鞄をひっくり返した時にもありましたね。これなんでしょう?広げてローブになるなら有りがたいんですけど…。




《魔女屋敷・携帯版》

☆☆☆☆☆☆

魔女謹製特殊道具。キノコ専用。

千年寝かせた魔法布の中に居住空間を収納した簡易化住居。手の平サイズの布から寝袋サイズまでに広がるが、中に入ると館一軒分の施設が出迎える。

熱源水源確保済、上下水道処理施設完備、空気と魔力循環能付き。執事メイド常駐。

キノコに野宿はさせられないと改造改装を繰り返した魔女の怨念渦巻く呪いの館。

キノコが招いたモノは入室可能。

紛失不可。盗難撃退(重)。防犯完備(聖)。





慌てて鞄を閉めます!

見なかった事にしましょうっ!そうしましょう!


ふうっ、危ない危ない!

見てませんよ、何も!

☆6のすごいアイテムなんて見てません!


《……それがあれば宿に泊まらなくても済んだんじゃ……》


ダメですよ、そんな後の祭りを語っちゃ!


話を戻しましょう、話してないけど戻しましょう!

なんでしたっけ?

あ、雨です雨。

何か雨避けになるもの……。


ふと胸元の人形が目に入りました。

魔女さんを模した布人形さんです。このままじゃこの子も濡れてぐしゃぐしゃになっちゃいますね。


(そういえばこの人形、『反射』って機能がありましたね?反射って、跳ね返すんですよね?雨も反射してくれますかね?)

《『キノコが願った時』ってあるからな……お願いしたらしてくれるんじゃないか?》


お願いですね、試してみましょう。

名前は『魔女人形・チビ』ですから……チビさんでいいでしょうか。


「お人形さん?チビさん、チビさん?雨に濡れないようにしてくれませんか?お願いします」


……キュピルーーン☆


!?

鳴った?なんか鳴りました?


すると人形の周りの魔力が瞬時にざわめき『膜状』の何かが僕を包みます。

この『膜』が結界でしょうか?

一瞬で形成された結界は人形を中心に水の膜のように展開されました。


《お?……凄いな……。極小結界なのに濃密度…。なんだこの人形、気持ち悪いくらい性能良すぎるだろっ》


赤様が誉めてますよ。

てことはチビさん、かなりレベル高い魔法使いなんですね。


腕だけ軒下から出してどうなるか調べたら、なんと雨が肌に触れる前に弾かれています。まさに『膜』が張った状態!?

全身を雨に晒しても全く濡れませんし、水溜まりに足を浸しても靴は乾いたまま。

不思議だけどなんて便利!


「スゴイ凄い!チビさん凄いですね?ありがとうございます!」


人形の頭をナデナデして御礼をいえば、心なしか照れているように感じられました。

生きてはいないはずですが、魔女さん制作の人形ですから意思はあるやもしれませんね。


では防水も完璧ですから捜索に移りましょう。


まずタンポポさんは昨日の朝、出掛けました。

『郊外のモンスター討伐』『薬草採取』をしてくると言ってましたね。


《『明日の朝には戻る』とも言ったから、遠出する気だったんだろうな》

(いつもはゴブリン退治に森に入るらしいですけど、今回はもっと遠くまで行ったのかな?でも帰る時間が分かってたんですから突発的に決めたわけじゃないですよね?)

《…幽霊が一緒だから危機的状況には為りにくい…が、そのせいで他の問題が起きるって事もあるよな》

(師匠が何かしてしまうって事ですか?)

《あれは『悪霊』だろ?聖職者に見つかったらどうなる?普通の『幽霊』ならまだしも『悪霊』じゃ見逃してくれないだろ?》

(…え?師匠、やっつけられちゃうんですか?)

《レベルが高いし『聖気抵抗』があるからまず無事だろうが…。封印とかされたら厄介だ。…それを解除するために帰れない、とかもあるかもな》


タンポポさんだけじゃなく師匠まで危ないかもしれない?そんな…。


《そういうケースも想定しとけって事だよ。どのみち本人達を見つけなきゃわからないし、対処のしようがない。さっさと『臭い』を追え》


そうですね。

心配だから捜すのに、捜す前から更に心配しても仕方ないです。


「……キノコー…」


赤様にハッパをかけかれて踏み出そうとしたのですが、僕を呼ぶ声があがり振り返ると、雨の中を走ってくる人がいます。


「っお前!キノコっ、待て!ちょっと、待て!」

「…はい?」


通りの向こうから走って僕を呼び、荒い息でギルドの軒下に入ってきた人はどちら様でしょうか?

ずぶ濡れの男の人。

筋肉ムキムキじゃない、でもそれなりについている……。

錆色の髪に青い瞳……。


「……どなたですか?」

「っ?!わ、忘れた、のか?」

「?お会いしたことありましたか?」


《……偽勇者だろ》

(偽勇者?)


…ああ、あの?

タンポポさんを人質にしたりお礼も感謝も告げないで金銭を要求して勇者と嘘をついた…。

あの人ですか。


なんでしょう…記憶から消去したい人から話しかけられても迷惑なんですけど。

というか、この人何処にいたんでしょうか?

この街に住んでたんですか?やだなー。


僕の嫌なモノを見る目に怖じけづいたのか、一歩下がりながらも口を開く『偽者』さん。


「お、お前、牧場の娘が行方不明になってるの、知ってるだろ?」

「…は?なんで貴方が知ってるんですか!?」

「俺、今は保安部の手伝いをしてるんだよ。さっき牧場主が捜索願いを出しに来て、俺も駆り出されたんだ」


はぁ、保安部で…。

保安部!?え?本当?


あんなに素行が悪そうだったのに改心したんですかね?良いことです!

心なしかカッコよくなったような、ならないような。

もともとマイナス値だったのでまだまだプラスにはなりませんねっ。


僕の生暖かい視線に首を傾げながら偽者さんは続けます。


「それでだな…。このところ旅人が襲われたり誘拐がポツポツ起こってるんだ。多分、奴隷商人が暗躍していて、牧場の娘もそれに関係するんじゃないかという話になった」

「奴隷、商人ですか?」

「お前達三人、目立つし狙われるだろうから単独行動は控えるように忠告に来たんだ。ギルド内は安全だから出来るだけ外出はしないように…。街の外には行かないようにしろ」


…タンポポさん、街の外に行きましたよね?


帰ってこないのは、その奴隷商人さんに何かされたんでしょうか?


「あの、奴隷商人さんって何者ですか?」

「…人間を商品として売り買いする奴、かな…。誘拐してまで商品補充をするのは流石に犯罪なんだが、奴らには大抵強力な後援者がいるから捕まえきれないんだ」

「わ、悪い事をして商売してるって事ですか?」

「そうなるな。そんなのに捕まったら最悪だろ?分かったら外出は控えろ」

「た、タンポポさんが帰ってこないんです」

「…え?」


あまり話したくない人なんですが、保安部に関係するなら色々知ってるだろうとタンポポさん不在の旨を伝えました。


眉間に皺をよせて顎に指を添えながら偽者さんは呟きます。


「牧場の娘と同時期に行方不明?……同一犯、組織的犯行だとしたら……。やっぱり根城があるんだ…あの島に…」

「島?」

「怪しい舟が出入りしてるって離れ小島があってな。保安部もなんとか浸入しようとしてて……。どうやら秘密の地下道があるみたいでさ、そこからならなんとか行けるんじゃないかと……」


秘密の地下道?なんてまあ……。

なんというか……。


《胡散臭ぇなっ!》


ですよね?

見つかってしまうなら秘密じゃないです。多分、偽物ですよその道。

偽者さんが偽物を語ってます。


《違う違う。胡散臭いのは偽勇者、こいつの話した内容》

(偽者さんは胡散臭いんじゃなくて小者臭いんじゃなかったですか?)

《難破して身分証も金もない小僧が保安部とか、しかも部外者に内部情報を話すなんてありえない。嘘だろ、全部》

(…全部?でもドンチャさんの話は?)

《こいつが『奴隷商人』か『誘拐犯』の仲間なら知ってておかしくない。…次は『島に一緒に行かないか?』みたいな事言うんじゃないか?》


「…ひょっとして、そのタンポポって女捕まってるんじゃないか?……よし、報告は俺がするから、お前は外出するなよ?仕事もあるだろうけどせめて今日は大人しくしてろ」

「…」

《……》


…………赤様?言いませんよ、偽者さん。

それどころか仕事の心配までしてくれました。

え?てことは本当?胡散臭いけど、本当に保安部の手伝いしてる?

そうなの?

信じていいの?


「偽者さん……立派になったんですね……」

「な、なんだ?いきなり」

「だって、タンポポさんを人質にしたり、お金要求したり……盗賊みたいでしたから…それが今じゃ…」


それが今では保安部(手伝い)!

人の役に立ってるなんて偉いです!


僕の尊敬の視線に苦い顔をした偽者さんですが、


「おーい!新入り!」


と、彼を呼ぶ声に走って行ってしまいました。


通りの反対側の軒下でローブを着た数人と話しています。保安部の方でしょうね。

なんだか険悪な雰囲気になってますが、何かあったんですかね?


(……赤様、偽者さん、変わったんですね!)

《……》

(あれ?推測が外れたから悔しいんですか?)

《……いや?まだ偽勇者がシロだと判定したわけじゃないだろ。常に疑ってろよ?ヘタレ》


そんな疑ってばかりじゃ疲れますよ。


ほら、あんなに真剣に話し込んでるんですよ?

ぎらぎらした鋭い目、強面で強そうな体躯。

治安を守る保安部で頑張ってるんですよ。僕も何かお手伝いしたいくらいです。


《…ハッ!どうだかな?何を話しているやら…ますます胡散臭い》

(赤様捻くれ過ぎですよ?信じるのも大切……あ、お話終わったみたいですね)


難しい顔をしながらこちらに戻ってきた偽者さん。


「…地下道が雨のせいで水没する可能性があるらしい。…もしかしたら、島に行けないかもしれない。そうしたら犯人達を捕まえるのは難しい。その、タンポポの事も、一応…覚悟しておけ…」


言いにくそうに告げられた内容は衝撃です。

覚悟?何を覚悟しろというのですか?


言い聞かせるように真摯な青い瞳。見つめ返すと視線を逸らす事なく僕を睨みます。


決意、覚悟、それが宿るかのように燃える瞳。


本当に、変わったんですね。


オドオドして顔色を伺うような瞳だったのに。泣きたいのに我慢している瞳だったのに。


思わず笑顔になった僕に三度戸惑う偽者さん。

なんだか少しだけ偽者さんに親しみが湧いてきました。


「じゃ、俺は行くけど…いいな?外出はするなよ?」


踵を返し雨の街を走り出すその後ろ姿は、頼りなく感じます。

それでも、しっかりと前を向いて走っている姿は。

情けなくは見えません。

…カッコイイんじゃないですか?


「チビさんチビさん。雨に濡れないようにお願いしますね」


胸元のチビさんが了解とばかりに鳴るのと同時に僕も飛び出します。


雨で走りづらいはずなのに結界のおかげで滑る事もなく、一気に偽者さんに追いつき、その手を引き寄せます。


「っ!?なっ、何っ!!?」

「急いでるんでしょう?地下道はどっちですか?」


偽者さんを引きずり、僕は走り出しました。


タンポポさんを捜す。それが僕のすることです。


その手掛かりになるなら、タンポポさんを助ける為なら覚悟を決めましょう。

危ない事に首を突っ込む『覚悟』を。





◇◇◇




雨で煙るような森に隠れるように、その洞窟の入り口はありました。


沈むように下る道は海底を横切り、とある小島に繋がっているそうです。

スンと鼻を鳴らすと潮の匂いがするような…。


「ここでいいんですか?」


振り向いて聞いたのですが返事がありません。

見れば偽者さんがゼーゼー言いながら大の字で転がっています。

どうしました?


「っ…は…ばか、やろう……速すぎ…だ…!…」

「?速かったですか?そんなに?」


全然本気を出してない走りだったんですけどね。


ヒューヒュー言ってる偽者さんは何とか立ち上がり、ヨタヨタしながら洞窟の入り口を確認し始めました。


「よし、ここで間違いない…。こっからは俺だけで行くから、お前は帰れ」

「えっー…」 

「この先は危険なんだよ!…ほら、これをもって保安部に行けば保護してもらえるから、もう一人と匿ってもらえ」


差し出されたのは小さなメダルです。保安部の証か何かですかね?


受けとろうと差し出した手に、偽者さんの手が重なりました。

泥で汚れた顔を涙のように雨が流れています。


「すまないな…」

「…いえ…」

「…助けてもらったのに…こんな事ばかり(・・・・・・・)して…すまない…」


プツンッ!


僕と偽者さんに挟まれたメダルから何かが突き出て、僕の手の平に刺さりました。


(っ?!何?)

《…ハハッ、引っ掛かったなヘタレ。さあ、何を仕掛けてきたのかな?偽勇者は》


ああ、ということは。

やっぱり偽者さんは僕を騙したのですか?

赤様の言う通り、嘘だったんですか?


痒いくらいの痛みでしかありませんでしたが、手の平から滲んでくるのは『毒』です。

麻痺毒。

生物の神経を一時的に麻痺させる毒が注入されてしまいました。こんなモノを打ってくる保安部員さんなんていませんよね…。

なんてひどい。


……まぁ効きませんけどね、僕!


《ばーか!効いたフリしとけよ。この後どんな展開があるのか気になるだろ?『覚悟』決めたなら最後まで見届けろ!》

(赤様…楽しそう…)

《胡散臭い偽勇者が何処までやるのか(・・・・)、見物だからな。最初から疑ってりゃ防げた罠に掛かったヘタレの馬鹿っぷりも楽しいけどな!》


鬼のような赤様の高笑いにガンガンする頭を揺らすように、僕はドサリと倒れて麻痺した『演技』をしました。


この毒成分は視神経にも作用するので瞼を閉じる事にします。

要は寝たふりですね。


ザアザアと降る雨に混じり草を踏む複数の足音が聞こえます。


やや?お仲間さんが登場ですか。




《虎穴に入らずんば虎児を得ず。さて、どんな『虎』が待つのかな?》










魔女人形・チビは基本キノコしか護りません。

キノコが御願いしても他人は知らんぷりします。レベル(愛情)が上がれば自動発動するらしいです。


魔女屋敷・携帯版には食糧庫や庭もあるので自給自足が可能です。

マジで『王』と張り合える品々をキノコは持たされています。


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