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家の周りで修業しようと思います



「キノコー?今日はこれを着ましょうねー!」


ブワァッと魔女さんが服を被せてきます。


柔らかい布地にしっかりした縫い目の上等な服は手触りも良く、僕も嬉しいです。

しかも僕の毒を防いでくれるのだから着ないはずがありません。


「はい。いつもありがとうございます」

「いいのよー?さ、リボンも結びましょう!髪はもう少し伸ばしたら編み込んだりできるかしらねー?」


魔女さんが楽しそうに服のリボンを結んでくれます。


人間ってこんなに色々飾りが付いた服を着るのですね。慣れましたが大変だといつも思います。

魔女さんに言わせると「服飾は見栄よー!」って事ですが、自分を飾りつけて見栄を貼る?のがやっぱり理解出来ません。


先日、漸く僕の毒の循環法にこぎつけました。


時間がかかったせいで僕の本質と人造人間の体が馴染んでしまい、完全に毒人間になったのが悲しかったですが、そのおかげで目処もつきました。


血や魔力のように体を巡る毒なら、今までと要領は同じです。なんとかなるはずです。


ただ、より僕の本質の力なので本能に逆らう事になり難航しそうではあるのですが…。


というか、この体はキノコではないのに何処から毒が来るのか?不思議です。

魔女さんに質問してみると、


「ああ、食事からかなー?どんな食べ物でも毒素はあるのよー。微量過ぎて、蓄積しても耐性がつくから死なないけどねー?たまに過剰反応で死ぬかなー?とにかくその毒素を作り替えて自分の毒にしてる、ってとこかなー?」


こう返されました。


毒物製造人間。

もうとんでもないものに成ってしまった自分に乾いた笑いしか出ませんでした。


まさか生命維持の為の食事でそんな事してるなんて……。

食事といっても僕の体は『人造人間』なので普通よりは食べなくても平気で、スープとかを飲むくらいなのにそれすら毒製造への道だなんて!


制御を一日も早く習得しなければ!




天気が良いので家の外で修業しようと思います。


足からも毒が出るので、特別な靴を履いて外に出なければいけません。


ちなみに魔女さんの家は彼女の力で守られていますので、僕の毒位ではびくともしません。

逆にいうと守られていない場合、僕の毒は無機物すらも腐食するレベルだそうです。…僕も色々知恵をつけてレベルアップしてますから、毒もレベルアップしてるんですね。


手袋をした手で重い玄関扉を押せば、後ろから魔女さんが声をかけてきました。


「キノコー、今日はこれ、使ってみてー?」

「?なんですか?」


渡されたのは鞘付きのナイフでした。

派手な装飾はなく、実用的なナイフ。


「鞘から出したらそれで使えるからー。修業に役立つわよー?」

「はい、わかりました」


お礼を言って外に出ます。


魔女さんは僕の修業にはアドバイスだけくれます。

たまに監督もしてくれて、たまに魔法の実験体にしてきます。





◇◇◇





泉の側まできました。


やっぱり湿気があるところは落ち着きます。

菌類の性ですね。

リスを殺したことは苦い思い出です。ですが所詮は弱肉強食の自然界。僕の糧にはできませんでしたが、土に埋めて大地に還しました。

そうして虫や細菌が食べたリスが巡り巡ってこの場所を潤すでしょう。


それでいいはずです。


(あ、キノコ)

(あ、ホント)

(おはようキノコ)

(いいお天気ねキノコ)


相変わらずきれいな泉を眺めていると、キラキラ光る綿毛のようなものが話しかけてきます。


ここら辺に棲む『妖精』です。


「おはようございます。お天気で良かったですね」

(あら、雨もステキよ) 

(あら、曇りもスキよ)

「そうですね、自然は自然のままがステキですね」

(そうよ自然はステキなのよ)

(そうねステキ)

(でもでもキノコは自然じゃないわね)

(キノコでニンゲン)

(でもキノコよ)

「はい、僕はキノコです」


サワサワと話かけてくる妖精さん達は僕の周りを飛び周り、おしゃべりをします。


気ままに生きる自然界の魔力結晶、それが妖精です。


魔力の濃い場所程、つまり自然が濃い場所ほど妖精は多く、お母さんの森にも沢山存在していました。


ただ、昔の僕は妖精を見るための自身の魔力すら無いキノコでしたから、お母さんから聞いていただけでした。


しかしこの体で循環法を会得したら、すんなりと彼等に気付けたのです。

魔力が多くても効率良く動かす事が出来ないと、余程の幸運でもない限り妖精は見えないと言われるそうです。


また自然界の力である彼等は、それを蔑ろにする存在を許さず敵対することもある正に自然の脅威なのです。


(でもキノコは『聖樹』の匂いがする)

(でもニンゲン、でも安心)

(キノコはキノコよ)

(キノコはキノコ、『聖樹』のキノコ)


彼等はお母さんの森にいた妖精ではありませんが、お母さんの事は知っているのだそうです。

大地を旅する妖精や風が教えてくれるのだそうです。


(キノコ、遊ぼう)

(遊ぼう遊ぼう)

「ごめんなさい、修行がまだあるんです」

(しゅぎょう、なら仕方ない)

(魔女様の言い付け、仕方ない)

(しゅぎょう、しゅぎょう)

(キノコしゅぎょう)


魔女さんは妖精にも尊敬されているようで、なんでも妖精の国を救った英雄なんだそうです。

『人造人間』なんて造れるのも当たり前な、凄い魔女なんだと妖精さんが喋っているのを聞きました。

英雄、と言われても僕にはピンときませんが……。


さて、修行を開始しましょう。


魔女さんの言い付け通りに渡されたナイフを取り出します。

とたん妖精さんが騒ぎ出しました。


(キノコ!なにそれ!)

(キノコそれ捨てて!)

(やだやだ!イヤな感じ!キノコ嫌!)


パーっと彼等は飛び去って行きました。


なんでしょう?ただのナイフじゃないのでしょうか?妖精が嫌がるナイフ……?


……呪われてるとか?


実はナイフじゃなくて魔物とか?鞘から抜いたら勝手に動き出して襲ってくるとか?いきなり燃えるとか?


いやいや、そんな危ない物を魔女さんが渡すわけ…………、渡しそうです!


ナイフのせいでボロボロになった僕を観察して実験過程を記す魔女さん!目に浮かびます!


危ないところでした!ボロボロになるところでしたよ!

妖精さん、危険予告ありがとうございます‼


さあ、こんな危ないナイフは遠くに捨てて来ましょう。

……捨てたら怒られますかね?


じゃあ、魔女さんに返してしまいましょう。

…………受け取ってくれますかね?逆に怒られますかね?それで実験という虐待が起きるんでしょうか?


……………。


覚悟を決めて、ナイフの鞘を抜きました。


どうせボロボロになるなら、まだ怒られないほうがマシですから。魔女さんに逆らっちゃ駄目というのが僕には刻みこまれているんです、数々の実体験を経て。


ナイフは良く切れそうな鋭さでキラリと日光を反射します。

綺麗な刀身だと顔を映り込ませると、僕に重なって誰かが見えるではないですか!


ビックリしてナイフを取り落とすと、ナイフの人影はやがて目に見える靄となってナイフから立ち上ぼります。


イヤアァァ!なんですか、これ!この現象っ!こわいっ!

ナイフってこんな珍現象が起こるのですか!!?キノコ初めて知りました!


靄は徐々に人影を濃くし、ぼんやりとした影は鎧の形を成していきます。


刺のような突起で埋め尽くされた背丈程もある盾に甲冑。

傷だらけのマントはユラユラ漂い、三本角の兜から覗くのは青白い焔の目。


間違いありません、騎士の幽霊さんです。


キノコのときには知りもしませんでしたか、人間は幽霊さんになったりすると本に書いてありました。

キノコは死んだら食料か森の腐葉土ですが、人間は複雑な心理状態で死んだりすると幽霊さんになってしまうんだそうです。

本に書いてありました!


なるほど、これが有名な幽霊さんなんですね!


登場の仕方は怖いですけど、幽霊さんは怖がられるのも仕事と書いてありましたし、この方は職務に忠実なんでしょうね。立派です!


それにその鎧も立派です。絵本の騎士様そのもの!

確かあれは…


「……『蔓と棘騎士団』の刺鎧?」


ぽつりと零した僕の言葉に、幽霊さんの形が揺らぎます。

なんだか反応したみたいです。


【……左様、ワシは騎士団の棘騎士……】

「あ、話せるんですね」

【……ワシの声が聞けるか……何者だ?……】

「キノコです。あ、今は人造人間キノコです」


自分でも自分の正体があやふやなので伝わるか心配しましたが、気にしないで欲しいです。

僕も気にしないようにしてますから。


というか幽霊さんと会話出来てますが、これって普通なんでしょうか?


【……ではキノコ…騎士団を知っているのか?……】

「本で見ました。400年前に実在した騎士団で、絵姿も書いてあったので覚えています」

【……400年?……死んだのは分かっていたが…そんなに昔に……】

「……えっと、すみません。現在の年代が分からないので、もっと昔の可能性もあります」


実在、僕はキノコなので年とか考えたこともありません。


お母さんがとても長生きだとは知ってましたが、年齢?は知りません。

一日は何時間とか一年とか時間の感覚なんてあんまり無いんです。キノコですから。


人間になってからも魔女さんの家にしかいませんし、朝と夜だけ解れば大丈夫な生活なんです。


【そうか……魔女殿に会ったので、それほど時が経っていようとは思わなかったのだが……。考えてみれば魔女殿なら時すら超える術を持っていたとしても、不思議ではない……】

「魔女さんとお知り合いなんですか?」

【……左様……あの方には恩義がある……】


既に幽霊さんは靄で揺らぐ事もなく、はっきりと実体化していました。

それでも生きている気配はやはりしなくて、向こう側が透けるようですが、存在感はかなりあるのです。

なんでしょう?気迫?


【…この度はあの方の養い子に…手ほどきを…と頼まれてな……】

「そうなんですか?魔女さんが頼むなんて、幽霊さんはすごい騎士様なんですね!」

【……フッ…はてさて…どうであろうかな?……答えはその身に教えてやろう、キノコよ……】

「……え?」


幽霊さんは大きい盾を振りかぶり、地面に叩きつけるように刺し立てます。

実物だったら僕まで衝撃で飛ばされているような力だとわかります。


というか、養い子って……僕ですか?


【…『ロナイ王国』王家直属『蔓と棘騎士団』…初代団長『荊騎士』アビナス・コンカッタ……キノコの指南役、引き受けた……】


惚れ惚れするような仁王立ちになる幽霊さんに逆らう勇気は、僕にはありませんでした。




僕、毒の制御したいだけなのにっ………!!








アビナスさんは巨漢のフルアーマーで、剣より盾でぶん殴ったり防御したりする守りの騎士をイメージしてます。

ナイスミドルでナイス髭の厳ついおっちゃんです。かわいい幼妻がいました。


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