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名前は書けるんですが

大変ですっ……!


まさかこんな初めからつまずくなんてっ!


どうしましょう?どうやって切り抜けましょう?


僕の手には一枚の紙。極めて簡潔に要点だけ書いてあるそれを睨みます。




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


組合(ギルド)会員(仮)発行書◎


名前 「 」※必須

年齢 「 」

レベル 「 」


得意技術 「 」※必須

得意武器 「 」

得意魔法 「 」


※は必ず記入する事。

職員による代筆も可。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄




必須なのに、僕、得意な事がないから書けません!!

どうしましょう?!


「……おい、大丈夫か?」


項垂れる僕に声をかけてくれるのはイザシュウさん。

頼れるギルド職員さんです。


「読めないとこがあるか?字が書けないなら代筆するぞ?」

「……あの、得意な技術の欄が……」

「ああ、それな。なんでもいいぞ?手先が器用とか力が強いとか、足が速いとかな。それによって斡旋する仕事の種類が変わるんだ」

「……」


何も誇れるところがない僕はなんて書けばいいでしょう。



御飯を食べて三度(みたび)イザシュウさんに挑んだ僕達は、見事この『組合(ギルド)会員(仮)発行書』を手に入れたのです。


タンポポさんはまだ身売りを考えていたようですが、割りの良い仕事もあるとイザシュウさんに説教されて、とりあえずギルドで仕事を探す事になりました。


僕も赤様に言われましたから便乗したら、まずは(仮)の会員になる必要があるらしいです。


一つでも仕事を成功させたら(仮)ではなくなり正会員に昇格。

正会員になると討伐や宝探しの仕事もあるので、やり方によっては一財産稼ぐのも夢じゃないそうです。


さて、そんなわけでこの発行書。

(仮)とはいえ重要な物には違いありません。

なのに僕はそれに書き込む事ができないのです。


《なんだよ。『どんなモノでも毒せます』って書けば?》

(赤様……。いくら僕でも、それを書いたら大変だってくらいはわかります……)


カリカリと淀みなくペンを滑らせるタンポポさんは、なんて書いてるんでしょう?




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


名前 「 タンポポ 」※必須

年齢 「 13 」

レベル 「 」


得意技術 「 薬草の選別 、武器の手入れ、北方語の読み書き」※必須

得意武器 「 ナイフ、投擲系 、小弓 」

得意魔法 「 魔法か分からないが毒が効きにくい体質 」



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



……わぁ、しっかり書いてある!

多才?何か色々出来るんですね!タンポポさん。


しかも体質を上手く隠しながらアピールするなんて技まで出していますよ!


「ほうっ?薬草に強いのか?なら医療関係に斡旋しやすい。それに小弓が使えるなら狩りも得意か?」

「はい。ナイフと合わせて鹿くらいなら狩れます」

「ふんふん、なるほど。字も綺麗だな。代筆屋も出来そうだ。なんだ嬢ちゃん、身売りよりこっちで充分稼げるぞ?」


書類を受け取ったイザシュウさんがタンポポさんを誉めています。

幾ばくか嬉しそうにしたタンポポさんに、僕もホッとしました。これなら奴隷なんかにならなくても良さそうです。


「……むぅ……」


あれ?鬼姫様は紙とにらめっこしてますね?

鬼姫様こそ書くこと豊富にありそうですが。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



名前 「 」※必須

年齢 「 キノコよりすこしうえ 」

レベル 「 いいたくない 」


得意技術 「 こわす、ころす、つぶす、もやす、なぐる、ける、かじさいほう 」※必須

得意武器 「 ぱんち、つめ、むね 」

得意魔法 「 ひ、つち 」




 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「…………」


あっさりした内容ですね……。


ひとの事言えない僕ですが、得意武器の「むね」ってなんですか?

オッパイは武器ですか?

確かに何かを叩けそうに大きいオッパイですけどね、鬼姫様。


「こっちの嬢ちゃんは……ん?まず名前を書かなきゃな」

「……名前、書かなきゃダメ…?…」

「ダメだ。……だが、本名じゃなくてもいいぞ?あだ名でもいいが、ギルドではその名前で呼ばれるから慎重にな。変な名前だと笑われるぞ」

「……むぅ……」

「嬢ちゃんは……喧嘩が強いのか?武術でも習ってたなら討伐にも行けるかもな。魔法は、『火』と『土』か。程度にもよるが魔法使いは歓迎されることが多い。大丈夫だろう」


イザシュウさん、オッパイにはツッコマないんですか?


「名前……どうしよう……」

「?鬼姫様、名前がないんですか?」

「ある、けど……隠さなきゃならない……」


長い睫毛を伏せて溜め息をつく鬼姫様。

隠す名前なんてなんですか?


《……この女は『鬼』だぞ?しかも魔女が保護してた一族だ。知られたら面倒になるだろう》

(はぁ……?面倒?)

《ステータス見て調べろ。それが簡単だ》


えー?名前を隠してる鬼姫様のステータスを見るんですか?嫌です!


《じゃ、見て良いか聞け。おそらく嬉々として承諾するぞ》


いえ、見るのが嫌だと僕は言ってるん……、すいません、怒らないでください、見ますから…。


「あの…鬼姫様…あのですね?…鬼姫様のステータス、見てもいいですか?」

「…え?…キノコ、見えるの?…」


ひそひそと鬼姫様に聞いてみますが、案の定ビックリしたようです。


「考えて見れば僕、鬼姫様の名前知らないんですよね。話したり書いたりしたら隠してる意味がないですから、ステータスを見れば…ダメならいいんですが」

「…キノコなら良いよ…全部見せるっ……私の全部、見てっ」


なぜ鼻息が荒くなってるんでしょう、鬼姫様。

全部見えるかはわかりませんが、了解を貰ったので見てみますか。





名前:  シャピド・アイフェイオン・リュ・トリスバッツァール・ロロザム

種族:  鬼  

クラス:  鬼姫

レベル:  179

体力:  60000

心力:  58000 

技力:  53000

能力:  破壊之力  身体剛化  神之血統(チスジタシカ)  火神魔法  土神魔法  鬼神之技  怒之倍増  鬼之覚醒

称号:  ロロザムの一族  純血の鬼  隠される者  復讐者  恋する乙女  勉強家  キノコ信奉者 




《ロロザムの一族》

始祖鬼の正統な血統の一つ。圧倒的な戦闘力と魔力の為に迫害され、子供の出来にくい種であった為に激減した。現在は魔女の保護下にある。






迫害…。 

だから鬼姫様の家族は洞窟に住んでたんですね。

そりゃ、名前も隠しますよね。


「……名前、長いですね。…愛称というか、家名以外のところだけなら大丈夫になりませんか?」

「……『シャピ』…」

「『シャピ』様、ですか」

「っ!…」


僕が愛称を呼ぶと途端にワタワタしだす鬼姫様。あ、違いますね『シャピ』様です。


「おにひ……シャピ様って呼んでもいいですか?名前を隠すなら今までみたいに呼ぶと……」

「呼んで!……もっと呼んで!」

「……し、シャピ様?」

「……フフ……」


あ、ニヤニヤしてますよ、無表情なのに。

書類にも『シャピ』と名前を書いてイザシュウさんにオーケーを貰いました。

これで二人とも(仮)会員ですね。良かったー!


……。

……良くないです!あ、いえ良いんですけど、僕がまだです!


名前と、武器は短剣、レベルは6。

やっぱり技術が空欄になっちゃいますね。


好きなことは身体を動かす事ですが、得意、とかじゃないですよね。得意って、他人に自慢出来る事柄でしょう?または自信がある事。


僕が自慢出来るような事はないし、自信があるのはやっぱり『毒』関係ですけど、それを自信に繋げ難いし……。


「ちびっこはどうした?得意な事が思いつかないか?」

「はい…。僕、人より上手く出来る事…ないかもしれません…」

「そんなに難しい事じゃない。上手くできなくとも、長年やってきた事とか、頑張ってきた事でいいんだぞ?」

「頑張って……修行してました。歩いたり、走ったり、防御したり…」


毎日師匠と修行してましたし、ギリルさんに追いかけられたりしてましたから。やっぱり身体を動かすことしか出来ませんね、僕。


「修行?……誰かに師事してたのか?」

「えっーと、師匠は、騎士様でしたよ?」


生前ですが。


「騎士?本当か?」

「…本当…なかなか話せる年寄りだった…」


ビックリしたように聞いてくるイザシュウさんにシャピ様が答えています。


「なら剣とか扱っただろ?それを書けばいい」

「…いえ、師匠の修行は防御特化だったので……あっ!『逃げる』『避ける』が得意です、僕!」


そうです、そうでした!

避けながら逃げるのなら、僕は大抵の方より上手いですよ!多分。


ところがイザシュウさんは難しそうに眉を寄せて腕組します。


「逃げる、か?…。そういう仕事はないだろうな…。攻撃は出来ないのか?」

「…あんまり、得意じゃないです…出来ないことはないですけど…」

「うーん……まぁ、子供に護衛や討伐の仕事を回すのもな。だが戦力になりそうな奴は把握しときたいんだよな…」


戦争があったりモンスターが暴れたりしたときに過不足なく戦力提供を行うのもギルドの役目なんだそうです。

だから会員じゃないけど強い人間や魔法使いを把握しておき、有事の際には救援要請を行い被害を食い止める。なるほどです。


「…キノコ、強い」


ポソっとシャピ様が呟き、タンポポさんはウンウンと首を縦に振っています。

僕強くないですよ?レベル6ですし。


「強いのか?このちびっこ」

「…小さくても強い…強いしかわいいっ……」

「多分、職員さんが思う以上に強いですよ?」


二人の意見にますます眉間を寄せてから、イザシュウさんはガタガタと何かを確認しています。

そうして奥の職員さんに何か話して、何かの書類を渡してから僕達を呼びました。


「……よし、じゃあどの程度動けるか確認させてくれ。ここには訓練場があるから、そこで実演をしてほしい」

「…え、実演?ですか?」

「ちびっこは自分の特色が分からないようだし、そういう新人は少なからずいるんだ。そういうのにアドバイスするのもギルドの一環でな。拒否してもかまわないが、無料だし受けても損はないぞ」

「つまり、僕に何が出来るか教えてくれるんですか?」

「そこまではっきりとは言えないまでも、方向性くらいは示唆出来ると思うぞ」


『毒』以外で僕に有るもの。

それを教えてくれるなんて、すごい所ですね、ギルド!


《斡旋業なんて信用が無けりゃ成り立たないからな…。にしても、協力的過ぎないか?見た目子供のヘタレにここまで言うものか?》

(いいじゃないですか、イザシュウさんがいい人だからですよ!優しい人で良かったですね!)

《見た目は不気味な黒ずくめの筋肉人間だがな》


口が悪いですね赤様は。


それに見た目だけならギリルさんの方が迫力ありましたよ?


一つだけの瞳を細めて、僕の返事を待つイザシュウさんは全然怖くありません。

むしろ、僕達を遠巻きに見ている人間達が嫌な感じです。


カウンターに並ぶ人間。

本を読みながらチラチラ見てくる人間。

食事をしながらひそひそしている人間。


僕達を見ている、そしてイザシュウさんを見ています。


嫌な感じなのです。


職員の方達や一部のお客さんはそんな気配はしないんですけどね。



人間の世界は不思議ですね。













タンポポはけっこう色々出来ます。暗殺術以外にも仕込まれました。

洞窟に逃げる直前まで王族教育も叩き込まれたので、付け焼き刃ですが上流階級の礼儀もそこそこあります。


次はキノコがやらかします。

チートの王道展開にしたいと思っとります。

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