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ここはどこ?

『えーとねー、よくわかんないなあー?大陸とか島とかー、名前ってわかんないー。ここ?ここは海だよー。名前?わかんないー。どこらへんにあるのか?わかんないー。だってわからなくても困らないしー。わかる人ー?いるかな?あ、いるかもー?呼んでくるー?いいよ、待っててねー?』


海面からひょっこり顔を見せた海蛇さんは、そう言ってスイスイ泳いでいってしまいました。。

なんとなく話せるかな?と思って話しかけたら、答えてくれたんです。


親切にも誰かを呼びに行ってくれたみたいで、野太い声(・・・・)が遠くから『すぐだからねー』と響いてきます。

雌なのか雄なのかイマイチわからない方です。

とても親切だというのは間違いないですけどね。


すぐ、らしいのでここで待っていましょう。

もちろんここは赤様が作った氷山です。何故か溶けない不思議な氷の地に腰を降ろします。

ドッコイショっ。


顔を上げれば一面の大海原。

お日様が氷に反射してキラキラ輝くのに目を細めます。


清々しい朝がやって来ました。気持ちいいですね。


波打つ海面に煌めく朝日。嵐が去った空は青く広がり、果てがないように高く高く。


朝がくるとワクワクするのは始まるからですね。

一日が始まる、今日が始まる。何かが始まる。初まりが始まる。

 

そんな訳で『遭難第一日目』が始まります。



頑張って生き残りましょう!



……。

……うん………頑張ります……。




◇◇◇





氷山の端っこ、海面に近い所で海蛇さんを待ちます。


希望の朝じゃなくて絶望の朝になるところでしたが、海蛇さんのおかげでなんとかなるかもしれません。

幸先良いかもしれませんよ?


せめて現在地だけでも知りたいのに、僕達はもちろん知りませんし……知っていそうな『偽者』さんも遭難したらしく解らないと言って困りました。


「……ぅぁぁぁぁぁーッ……」

【軟弱者がっ!この程度で動けんだとっ?それでも男かっ!】

「…ぅ、ぅぅ……」

「…フフッ……ほら、動かないと…潰れる…」


あ、その『偽者』さんは師匠達にしごかれています。


海面に向かって座る僕の背後では、壮絶な修行が展開されているのです。


正直、師匠と鬼姫様が『偽者』さんをイジメているようにしかみえないんですが、『偽者』さんを気遣う気持ちが湧いてきません。

タンポポさんを人質にした『偽者』さんですからね。

申し訳ないけど自業自得として、叩かれてもらって下さい。


タンポポさんは傷も無くて良かったですけど、師匠は自分のとり憑いたナイフがそういった事に使われたのが許せないらしく、『偽者』さんを改心させると攻めています。

それになんでか鬼姫様が加わってます。

すごく簡単に自己紹介して、意気投合してすぐさま偽者さんを叩きはじめたんです。


レベル200超えの師匠が本気出したら大変なので、かなり手加減はしているはずですが『偽者』さんはボロボロです。

死にはしないと思いますが。


《…なんだヘタレ。随分と冷たいな?甘ちゃんのお前らしくもない》

(だって赤様!あの人『勇者』だって嘘ついて、タンポポさんにナイフむけたんですよ!?いくら僕だって非道いと思いますよっ)

《ふーん?ま、それも成長だな。次はお前が制裁を下す成長を見せてくれればいいが……》

(いえ、僕手加減とか苦手……。そうだ赤様。僕レベル6ですよね?なのにタンポポさんや偽者さんよりステータス多くありませんか?)

《ああ、万単位だな。異常だ。加減が出来ないのはそのせいだ》

(?)


赤様の言う事には、僕の低いレベルでは万単位のステータスを扱いきれないらしいのです。

レベルは年齢と共に加算もされる、いわば経験値。

経験を積んでいないのに力だけあっても、そりゃ上手く出来るわけないと。


(……あの、そもそもなんで万単位なんですか?)

《……あーっ、……魔女がやらかしたから、だ……》


歯切れの悪い赤様に自分のステータスが恐くなります。

うすうすは気づいてたんですけど、やっぱり魔女さんの実験の賜物…いえ、結果ですか。

それにしたって万単位…。

魔女さん……僕に何をしたんですか?


切り替えるように赤様は妙に明るい声を出しました。


《ま、それはレベルを上げれば済むだけだ。経験値稼げ》

(稼ぐ…どうやって?)

《手っ取り早いのは"殺生"だな。命を奪う行為は様々な感情や自身の在り方、身体の動かし方武器の使い方を一気に学べる》

(……つまり、あの、殺す(・・)って事ですか?……)

《そういうことだ。魔物でもモンスターでも人間でもいいから殺せ。相手の経験を奪えるから効率もいいぞ》


…………いえ、やりたくないですよ、そんなの。

殺すなんて、しかもレベルの為、強くなるために殺すなんて……。


《毒でリスを殺しただろ?今さらじゃないか》

(あ、あれは事故で……)

《そう、事故だな。だから大して経験値が手に入らない。明確に"殺意"がないと経験値が呑み込めないんだよ。殺す気で殺せ!》

(怖い事言わないで下さいっ!生きるためならともかく……)

《殺されそうになっても、そんな甘い事言ってる気か?いざとなったら俺に全部任せればいい、とか考えてんのか?》


そんな事はないです。

赤様に嫌な事ばかり押し付ける気はありませんよ。


でも人間も魔物もモンスターも、知り合いがいるからか"殺す"のはちょっと……。

半殺し、ならなんとか……。ギリルさんにも反撃してましたから。

それでなんとか稼げませんかね?


《……半殺しとかフツーに言うお前も大概だな…?…死ぬ寸前まで痛めつけなきゃ経験値は入らないぞ。どっちにしろ加減が必要だな》


僕の力だとレベルが低い相手には過剰に攻撃(オーバーキル)してしまいますし、逆にレベルが高い方には加減できないので半殺しも難しい。

つまり、殺すか生かすかはっきりしなければいけないという事です。


(…あの、魚とか野生の獣とかではダメですか?)

《それじゃ日常生活と変わらない経験値しか入らないな。ある程度知能があるヤツは魂も熟成されてる。食料になる程度の動植物では微々たるもので、意味がないんだ》

(微々でも僕はいいんですけど……でも力の制御は必要ですよね…)


「…くっそーっ!…」

【甘い!甘いぞ!なんだその体力の無さはっ!】

「………ひ弱…」


後ろは後ろで盛り上がってますね。


でも、流石は師匠。偽者さんは虫の息ですが生きてます。力の配分が絶妙なんでしょうね。

僕もレベル200とかになればあのくらいの事はできるんでしょうか。

あ、ああなりたいからレベルを上げなければいけなくて、その為には手加減を覚えなきゃいけなくて…。

堂々巡りです。


(…うーん…ぐるぐるしてきた…)

《…あー、面倒だなっ。じゃあ幽霊との修行に励めっ!鍛練でも多少は稼げる》

(えっ!そうなんですかっ?それならそうと言って下さいよ赤様!)


俄然やる気が出てきましたよ!

赤様はまだ《チマチマ経験値稼いでないで一気にレベルアップ》とぶつぶつ言ってますが、他人を痛めつけてのレベルアップより、自分を鍛えてのレベルアップの方が気持ちも晴れやかですよ!


晴れやかになったので海に目を戻しましたが、まだ海蛇さんは来ません。すぐと言ったのに遅いですね。


じゃ、今のうちに出来る事をしておきましょう。

え~っと、水もあるし、砂糖菓子もあるからいきなり飢え死にはしないでしょうし…。あと鞄になにがありましたっけ?


「っ、殺せっ!いっそ殺せー!!」

【ハッ!死に逃げるかっ未熟者!】

「……死んだら楽になるなんて、甘い……」


《……後ろに参加したらどうだ?楽しそうだぞ?》

(楽しい?……いえ、なんか今の師匠怖いんです…ムキになってるというか。どうしたんでしょうね?まだ僕達の遭難の事も話してないのに…)

《……ま、それは仕方ないんじゃないか?だって…》


ん?なにがです?


赤様の発言に気を取られた僕は、腰にある鞄を何かに引っ掛けてしまいました。

何か、はあれです。魔女さんの短剣です。


《短剣か…。そういえばそれくらいしか武器がないな。この先大丈夫か?ヘタレ》

(大丈夫って、大丈夫ですよ?魔女さんの短剣すごいですよ?)


僕は短剣を鞘から抜いて薄く発光するような刀身に朝日を反射させます。キラキラして相変わらずきれいな短剣です。




《魔女の短剣(防)》 

魔女の改造武器。キノコ専用。

異界の製造法で産み出された忌むべき神鉄を魔法で練り上げ、血肉に浸して創り出された大剣『スッテーウェボロン』。それを素に魔女が鍛え直した奇跡の一振り。魔女の執念が凝縮されて短い刀身となったが、その分威力や硬度が跳ね上がっている。

斬撃、突撃に補正。防御に大幅補正。解魔法。

装備時に疲労回復。紛失無効。





………。


(……ね?)

《ね?じゃねぇよ。すごいはスゴイけどな、なんだこれ?やり過ぎだろあの女っ!神話級の業物を改造するか!?失敗したらどうすんだよっ!解魔法?魔法を無効にするって事か!?武器に防御補正ってなんだよ!盾としても大活躍なのかっ!?》


…うぅ…思った以上にデタラメですね。

いや、でも服もすごかったですし。こんなものじゃないですか?若干、僕も冷や汗が出てますけど。


僕専用なんて恐れ多い一品なのは解りますよ。キノコにこんなの持たせて良いんですかね?ねえ赤様っ?


《…菌類の所持レベルじゃねぇよ、こんなの…。魔神や『王』……いや、もういい、魔女がやることだ、所詮……》

(……でも、☆は一つですよ?良かったですね!?)

《一つだと良いのか?…それによく見ろ。★だ。黒いぞ》


あれ?本当ですね?黒いです。




(ブラックスター)

☆を超えた先、超えてしまったモノに告ぐ。

『存在してはならない、それは有り得ないカタチである』

手にするなら覚悟せよ。全てを以って示さねばその身が逆に喰われると心せよ。





(…………)

《……………》


す、捨てたいっ!


《無理だろ。紛失無効の効果がある…》

(イヤアァァー!!食べられるー!)

《売るのも無理か…なら忠告通りに示すしかないな。せいぜい根性出して使えよヘタレ》


根性出して短剣振るったら危ないですよっ!

ああ、緊張で震える…。取り落としたりしたら呪われそうですっ!


こんなスゴイの僕使わせて貰ってたんですね…。魔女さんの気遣いが嬉しいやら悲しいやら複雑です。 


洞窟でもギリルさん相手に使用してましたけど、一歩間違えば殺しちゃってたかもしれません。


《そうだな…。海で遮蔽物も無いし、一度性能見ていた方が良いかもな。ヘタレ、全力で振ってみろ》

(だ、大丈夫ですかね?爆発なんてしませんよね?)

《そんな機能は無いだろ。せいぜい海が斬撃で割れるくらいだろ》

(割れる!?)

《例えだ、例え。ほら、海に向かってビッと一撃》


剣術は正式には習ってないんですよね。

師匠の修行は防御がメインでしたし、ギリルさんは習うより慣れろな方でしたし。


だから構えなんて適当な僕は、腰を低くして片足を半歩前に出し、下半身を固定して短剣を上段から思い切り振り下ろしました。


ビュッ!


あ、良い音が鳴りました。


やっぱり魔女さんの短剣は扱い易いです。手袋越しでも吸い付くというか、長さも丁度良いせいか僕の腕の延長みたいに感じます。

軽くて疲れないし、存在感があるからか持つのも楽しいし、使うのが苦ではないのです。


ビュッ、ビュッと振るうと、楽しくなってきます。


「………」

【…うむ!見事な剣筋!】

「…キノコ、ステキ、キノコ…」


《……おい、おい!ヘタレ、待て!ちょっと止まれ!》


あ、夢中になってました。

ああ、体を動かすのは楽しいですね!


《…おかしい、おかしいぞ、その短剣…微弱だが魔力を放ってた…!っ、そうか"解魔法"?!それかっ?》

(どうしました赤様?海は…割れてませんよね?)

《海は、な……足元見てみろ》


足元、ですか?

………?おかしいですね?氷が溶けてますよ?

僕の前方がいきなり海になってます。ぼく、素振りしながら動いたのでしょうか。


《この氷山は俺の魔法の産物だ。短剣の効果で魔法が解かれた。だから無くなったんだな…。というか、やっぱりその短剣とんでもないな…》

(……魔法を、"解く"?…)

《多分正式な使い方をすれば、大規模魔法も解くぞ。お前の毒能力にも似たようなのあるが、これは瞬間的に作用しそうだ。…『毒で結界を侵食しながら、攻撃魔法を解く』…お前一人で攻城兵器だな…》


聞きたくなーい!!


やだやだー!なんで?何ででしょうね?

僕にはそんな気がないのに物騒な能力その他が積み上がってませんか?言っておきますが城攻めなんてする気もやる気も予定もありませんっ!


恐すぎる短剣は腰に戻して悶えていたらフッと風が巻き上がるような気配がしました。


嫌な予感に顔を上げ、海蛇さんが消えた方向に空気が吸い込まれていくような流れを感じます。

あ、これは『魔力』だ。

『魔力』を吸い込んでいる何かがあちらにいるようです。


『……ぉーまーたーせーー!…』


するとその方向から海蛇さんの声が聞こえてきました。

良かった、遅いから忘れられたかと思いましたが、そうじゃなかったようです。


「海蛇さーん!」


手を振って応えようとしたら、また『魔力』が吸われている感じがします。

大気中の微量な魔力だけですから、僕や鬼姫様には影響ありませんが、なんなんでしょう。


『ごめんねー遅くなったねー。でもちゃんと連れてきたよー!なんかねー、急に具合が悪くなっちゃってー』


説明しながらスイスイ向かってくる海蛇さんの後ろには、お鍋を逆さにしたようなモノが浮いています。

あれが現在地を教えてくれる方でしょうか?


「ありがとうございます海蛇さん!でも大丈夫ですか?具合が悪いなら無理しないで下さい」

『大丈夫ー、平気ー。魔力吸えば平気なんだー。でもねーいきなり"海の結界"が切れてー、ビックリしたー。だから、ほらー、この人も具合が悪いみたいでー』

『…私はお前ほど図太くないのだ…"結界守"なのだから影響も人一倍で…』

『あーもうーまた始まったー。長いよー話ー!』


逆さお鍋からは神経質そうな声が響いてきました。多分、おじいちゃん。


あと、話の内容が少し…なんというか、ひょっとして…。


《お前のせいだろ?》


やっぱり?
















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