僕は元気ですよ
明けましておめでとうございますm(__)m
元日の奇跡か、本日二回目の投稿です。
白い世界。
僕の心の世界。
果てが見えない、上も下も分からない世界で僕は…。
《さて。じゃ、宣誓してもらおうか?》
正座させられています。
僕の目の前には赤様が上等な椅子にふん反り返っています。
対して僕はピッチリと正座を強制させられました。なんというか、"力の差"?を感じずにはいられない構図です。
「宣誓?ってなんですか?」
《現実世界に帰るにあたってのお前の心構えを聞かせろ。ヘタレなりにどう頑張るか、どう生きるか、話せ》
「ど、どう?」
どうするもこうするも、何も考えてませんよ?
もちろん赤様の身体は大事にします。怪我とかしないようにしますが…。
《……また、最初から叩き込むか?それともやっぱり、お前ここで眠ってるか?》
赤様の背後が黒いっ!
雷雲みたいのが見えますっ!
考えるんですキノコっ!
赤様が"指導"という名のイジメで僕に叩き込んだ名言をっ!
「ひっ、一つ!『無闇矢鱈に話さない』!」
《そして?》
「一つ!『無闇矢鱈に近づかない』!」
《さらに?》
「一つ!『無闇矢鱈に信じない』!」
《そうして?》
「『本当に大切な事はちゃんと赤様と相談して決めます』!!」
挙手しての宣言に赤様は一つ一つ頷いて返してきました。
僕と同じ顔なのに凄い迫力なのは何ででしょうか。怖いです……。
《よし。ちゃんと覚えておけよ?アホな行動したら意識刈り取って封じ込めるからな》
「怖いっ!赤様怖いっ!」
《黙れよヘタレ。こっちはお前のアホに巻き込まれて迷惑してんだ。これ以上なにか面倒起こしたら最上級魔法と各種奥義でボコるからな》
「っ!……イヤアあぁ!あれはもうイヤアーー!!」
一度味合わされた激痛が蘇ってきます。
ヤダヤダ!あれはもう嫌です!
《なら慎重に生きるんだな。……ま、世界に出たら外的要因でのトラブルも続発するんだろうが……なんにせよお前がしっかり対処すればいいだけだ》
「が…頑張ります……」
《……期待はしない方が良さそうだな…》
溜息を一つして赤様は椅子から立ち上がり、腕をクルンと回しました。
すると椅子がスウッと消えて、代わりに真っ黒い"穴"が現れました。
"穴"です。
覗き込んでも底が見えないような、黒い黒い"穴"です。
《じゃ、帰れ》
「……ぅえ?」
《この中に入れば現実世界に戻れる。さっさと行け》
「あ、赤様は?」
《オレは行かないって言っただろうが。……ああ、お前の精神の一部がオレの場所だから、別に今生の別れじゃない。残念ながらな》
「ざっ、残念じゃないです!ならいつでも赤様と一緒なんですね?嬉しいです!」
《……チッ……ほら、さっさと行け》
少し照れたような赤様に嬉しくなります。怖いだけじゃないんですね、赤様!
……でも、この"穴"、なんでかスッゴく、怖いんですけど。
底なしで飲み込んで、もがいても出られない泥沼の穴みたいです。
ちょっと覗き込んだら吸い込まれそうになりました。
「……怖い…」
《現実は怖いんだよ。そこにあえて飛び込むヘタレの為に、わざわざ作ってやった。通過儀礼だな。まさしく》
「……良いこと言ってるようなのに、なんでそんな悪い顔で……」
《楽しいからさ。オレはそういう風に生きていく。攻めて虐げて荒らして、それを楽しいと感じて生きていく》
「…っ…」
《お前は逆に行けばいい。お前の嫌な事は全部オレがやるよ》
「赤っ……」
ドガンッ!
穴を覗き込んでいた僕のお尻を赤様が思いっきり蹴り飛ばしました。
「…様ー!??」
頭から"穴"に飛び込んでしまった僕の視界には、逆さまの赤様が映りました。
ニヤリと口の端を上げた赤様。
「悪い顔ーー!」
清々しいまでに、悪人面でした。
◇◇◇
「…ぁいたー…」
痛い痛い。
お尻痛い。蹴られて痛い。尻餅ついて痛い。
赤様ヒドイ。わかってたけど荒い。あ、涙が……。
「…キノコ…?」
あれ?何だか久しぶりに聞いたような声ですね。
振り返ると魔女さんが呆然としたように僕を見ています。
髪の毛がボサボサで、相変わらず透けるような服です。寝起きですか?
「…魔女さん?また泣いてるんですか?」
怖い夢でもみたんでしょうか?
うなされたんですかね?声も掠れてましたよ。
「キノコ……」
あ、ますます泣き出しました。珍しいです!
魔女さんが泣くなんて滅多にないですよ!
「キノコっ!」
「…っぁうっ!?」
真っ赤になって駆け寄ってきた魔女さんに抱きしめられました。
僕は魔女さんの胸くらいしか背がないので、簡単に捕獲されました。
ぎゅうぎゅうです。く、苦しい……!
「キノコ!キノコ…!……キノコーー!」
「っ!っ!?」
ま、魔女さん!キツイっ!背中痛いっ!
胸っ!魔女さんのオッパイで僕の顔がっ!顔が圧迫されて……っ!
「……ゴメンね!ゴメンねキノコっ!私、わっ、わたしーー!!」
「ま……まじょ、さん……」
「うああーーんっ!!」
「…ぱ、オッパ…イ……いたい……」
抱きすくめられて背中がボキボキいってるし、顔は魔女さんの大きなオッパイでぐにゃぐにゃされて……。
せっかく帰ってきたのに、早くも意識がなくなりそうに…。
ううっ…………。
◇◇◇
僕がボロボロになる寸前で我に返った魔女さんから解放されました。
びっくりしました。魔女さん力すごく強いです。
細い腕なのに不思議です。
「…キノコー?……大丈夫ー?ゴメンねー……」
眉を寄せて申し訳なさそうに魔女さんは謝りますが、大丈夫ですよ。
僕、というか赤様の身体は丈夫です。
あのくらいじゃ壊れませんよ!
「はい!大丈夫です。…ビックリは、しましたけど…」
「うんー。ゴメンね、本当にー。キノコが戻ってきてー嬉しくてー…」
「……僕も……本当の魔女さんに会えて……うれ……」
「キノコーー!!」
ポロリと泣いちゃった僕はまたもや魔女さんに捕獲されました。
あ、でも今度は優しい力加減です。
死の恐怖はないです、安心です。
水槽に入っていたずぶ濡れの僕は、大きなタオルを巻いて水気を拭き取っていきます。髪の毛もビシャビシャで、魔女さんがゆっくり優しくタオルで拭いてくれます。
「…ん~?やっぱりお風呂入らなきゃダメねー。薬品臭いわー」
「お風呂、ですか?魔女さんの魔法でキレイにすれば…」
「ダ~メ~っ!キノコはお風呂に入るのー」
問答無用で抱き上げられた僕は、その強引さに赤様と魔女さんの共通点を見たような気がします。
「…!そうだ、魔女さん。実は…」
「?」
魔女さんに赤様の事を伝えなくてはいけませんね。
赤様、魔女さんの子供みたいなものですし。
そう思って口に出そうとしたらー。
《その必要はない。黙ってろ》
急に頭に"赤様の声"が響きました。
「あっ!?」
《喋るな。オレとは意識で会話が出来る。魔女にはオレの事は言わなくていい》
「…どしたのー?キノコー?」
魔女さんが不思議そうに聞いてきますが、僕は焦ってしまって魔女さんの腕の中で固まってしまいました。
《……いいな?魔女には……いや、誰にもオレの事は言うな》
(なんでですか?魔女さん、赤様のお母さんでしょう?)
《はっ?馬鹿な事言うな。制作者かもしれないが、すくなくともオレは魔女と馴れ合う気はない》
(え?だって……)
《いいから、余計な事は考えるな。オレの存在は秘密だ。わかったな?分からないなら……》
(わ、分かりました!分かりましたからっ!お仕置き止めてください!!)
《…フンッ》
こ………こわい……赤様、こわい……。
赤様の脅迫に今度は僕がボロボロ泣き出してしまいました。
身体もカタカタ震えているようです。
不思議です。精神世界より、肉体の制御が効きません…。
肉体の所有権も赤様でしたね、そういえば……。
「…こわいよー……」
「っ!……キノコっ……」
頭を抱えた僕を魔女さんが抱きしめてくれました。
赤様の事を知らないのに、慰めてくれるんですね…。優しいです。
赤様とは全然違う……。
《……全部聞こえてるからな?ヘタレ…》
「っ!……うわあぁぁぁんっ!」
「キノコ?大丈夫よー?大丈夫!泣かないでー?」
「ま、魔女、さんっ!こわいっ!」
「ウンウンー。怖いねー?ゴメンねーキノコー?もう大丈夫よー……」
魔女さんが頭を撫でて、背中をさすってくれますが、僕の涙は止まりませんでした。
魔女さんの暖かい胸に抱かれていても、何故か寒いです。
赤様がそこまでの恐怖になってしまったのでしょうか。
濡れた身体が寒いのでしょうか。
それとも、季節が寒いから?
《自分が殺された世界を暖かく感じる大物なら、オレも苦労しないんだがな……》
赤様の囁きは僕には届きませんでした。
止まらない涙が後から後から出てきて、しやっくり上げながら魔女さんに縋り付いていた僕には、自分でも何を言ってるか分からなかったのですから。
「いい子ねーキノコー。泣かないでー……」
「うっ、うえっ……ええぇぇー……」
魔女さんはずっと僕を撫でてくれていました。
僕はずっと泣いていました。
泣かせてください。何だか分からないけど泣かせて下さい。
泣いたら、元気になります。
泣いたら、笑います。
そうなるように、今は泣きます。
ゴメンなさい赤様。
赤様の身体なのに、泣きすぎてカサカサになっちゃうかもしれないけど。
《……そのくらい、いいさ……泣きたきゃ泣け。………だがな》
《『魔女』には気を許すなよ?》
魔女の家には立派なお風呂があります。あったかくてジメジメしてるのでキノコは大好きです。
キノコと一緒に入るのが魔女は大好きです。
この後、たまに赤様に精神でイジメられたキノコはパニックを起こしたりしますが、皆は事件の後遺症だと思っています。
後遺症は後遺症ですが、原因は赤様です。




