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自分会議 ~赤いキノコのスパルタ魔法~

ちょっと魔法と赤様ステータス出ます。ちょっとです。

足元を掬う、風のように鋭い一撃を跳躍でかわします。


「っ!?」


ところがいきなり軌道を直角に変えたそれが、真下から切り上げて来ます。このままでは股から頭まで真っ二つです。

こちらは只今ジャンプ中につき体は空中なんです。自由にはなかなか動かせません。


でも。


体を巡る力を足先、爪先に集めて強固になるようイメージして、振り上げられた剣の軌道に乗るようズラシます。

するとどうなるか?

固くなった足は切られる事無く、僕は剣の圧力に乗り更に上方に吹き飛ばされます。

これで剣の攻撃範囲からは逃れました。

後は着地地点と体勢に注意すれば……。


《甘いぞヘタレっ》

「!?」


油断していた訳ではないのですが、確かに一瞬、相手から目を離しました。でも一瞬なんです。その間に範囲外の僕に届く攻撃なんてあるとは……。


《『炎之渦(フレイム・アズ)』》

「っ!ふえっ!?」


突如噴き出したかのような『炎』がグルグルと僕を下方から突き上げ、取り囲みます。


「っ火ー!!?」


火は嫌いですっ!

感じる熱も焦げる臭いも嫌いですっ!怖いっ!


《怖いのが多すぎるっ!》


無様にも焼け落ちた僕に赤様は激怒の声を上げます。


《あれが怖い、あれが嫌いっ!?そんなんで世間の荒波越えられるかっ!?》


這いつくばった僕は涙目で赤様を見上げます。


赤様はまだ黒い『悪意』を被ったままなので表情が見えません。でも、目を吊り上げて怒っているのが分かります。

『悪意』が怒ってる様子は恐ろし過ぎますっ!


『に、苦手なモノは誰だってあるでしょう?!』


ブンブンッと黒い剣を八文字に振り回し、肩に担いで赤様は一言。


《オレにそんなものは無いっ!》


言い切りました。


く、悔しい……っ!

ちょっとカッコイイと感じた自分が悔しい……。


でも、その自信が溢れる様は僕には到底出来ない格好良さで、惹かれるのは仕方ないんです。自分に無いものに憧れる、当たり前な事だと思います。

でも悔しいのでカッコイイとは言いません!

僕が赤様をどう思ってるか、赤様は分からないんですよ!


《……ここは精神世界でお前の"心の声"はダダ漏れなんだが……》

「…っ?!イヤアアアァっ!?」


そうでしたー!


《安心しろ。お前如きに憧れられてもオレのモチベーションには何の影響もない》

「サラリとヒドイですよっ!赤様最初からずっとヒドイですっ!」

《文句はオレを倒してから言えっ!『氷塊之雨(アイシャ・レウ)』!》


ドドドドッ!!


今度は氷の塊が僕に放たれました。

いきなりの事に反応しきれず、幾つか体にぶつかりよろめいてしまいましたが、倒れるまでではないダメージです。

火の方が怖いですからっ。


《だから甘いと言ってるだろうがっ!『氷雪の乱(アイス・ロウ)』!》


赤様の叫びとともに氷が粉々に砕け散り、突風を伴って僕を巻き上げました。

そうして空中に投げ出された僕に、もう何度目かわからない垂直落下の一撃。


ベチンッ!


「あいたー!!」


何度目かわからない僕の悲鳴が白い世界に木霊します。




◇◇◇




「なんでですか!?」


僕はちょっと怒っています。

何だか納得いかないからです。


立ち向かっても立ち向かっても赤様にブッ飛ばされて、実力差に挫けそうなりつつも、よく考えたらおかしいんです。


当初は『立ち向かえ』だったのが、『飲み込め』から『オレを倒せ』と難易度が上がってるのもおかしいとは思いますが!

それよりも、今の(・・)ですっ。


ボロボロになった僕を見下ろしている赤様は相変わらず仁王立ちで偉そうにしています。

もういい加減、黒いの取ってください。


「なんで火とか氷が出てくるんですか!?赤様、何したんですか!?」

《はぁ?》


心底呆れたような態度の赤様に僕は苛立ちます。


「いくら精神世界でもあんな非常識な現象起こすなんて反則ですっ!」

《…まぁ、反則みたいに見えるだろうな。『魔法』だし》

「………?…ま?」

《『魔法』》


魔法?


魔法って、あれですか?魔女さんが火を出したり、水を凍らせたりしていた……。

ああ、そういわれれば同じような感じでしたね。


………?あれ?でも。


「僕……魔法、使えませんよ?」

《そりゃそうだろ?お前、魔法関係の能力無いだろ?》

「あ、はい…無いです。でも、赤様と僕って融合しているのに?…」

《お前には"解放"してないからな、使えないに決まってる》


ああ、そう……。そうですね、それなら……。

……なんでしょう?ますます納得できないんですが…。


「なんで赤様だけっ……」

《あぁん?》


赤様の睨みがビシビシきますが、負けませんっ!


「だって、『魔法』でしょ?すごいんでしょ?僕だって使ってみたいです!そしたらもっと早く強くなれてたかもしれないしっ」

《……なんだその馬鹿な発言?『魔法』は能力に過ぎない。強くなるかは自分次第だろうが。言っておくがな、『魔法』は便利道具じゃないからな。夢に憧れる子供みたいな考えは止めろ》

「だ、だって……。…選択肢、だって、増えるし……?」

《選択肢ー!?『毒能力』でさえ持て余してるヘタレキノコが選択肢増やしてどうすんだよっ。混乱するだけだろうが!?それともお前は出来るのか?数多の『能力』からその場に最も適した能力を撰んで、使いこなして、状況変化にも機敏に対応出来るのかっ!!?ええっ?!》

「ごっごめんなさい……っ」


もう僕はプルプル震える事しか出来ません。


やっぱり赤様には逆らっちゃいけなかったんです……っ!怖いっ!


《だがまあ……そうだな。『魔法』が反則なのは認めようか。お前の精神世界なのに思った以上に動ける(・・・)のが、まあ楽しかったんだな。お前の経験もオレに結合はされてるが、『魔法』はその中に無かったし。試してみたくなったんだ》


ほんの少しだけ決まり悪そうに赤様は弁解してくれました。


そうでした。

赤様、ほんのついさっき目覚めたばかりでしたね。

初めて自分の意思で動けるようになったら、そりゃワクワクして色々しちゃいますよね。

僕も人造人間(ホムンクルス)の体で動くの楽しかったですし。


自分の能力を把握するためにも試してみたい、というのは分かる気がします。


「…赤様の能力って、どんなのがあるんですか?」


気になっちゃいました。

だって僕には使えない、僕の能力、でもあるわけですよね?

自分には隠された能力なんて、気になるに決まってます。


《オレの能力……か?》

「はい。能力は赤様の管理下にあるから、『毒能力』も赤様は使えるんですよね?他の能力はどんなのあるんですか?」

《……百単位であるから、説明めんどくさい》

「!?」


ひゃっ!?


「百!?」

《正確には……296、あるな》

「お、多い……ですよね?」

《多すぎる。普通ならせいぜい10、20だろうな。使いようがない生産系や航海系、飛行や商売、行政関係もわんさとあるからな……。魔女が適当に喰わせた結果だ》


魔女さん、赤様を何にするつもりだったんでしょうか…。


《芸術や文学、宗教に家事裁縫……後は、色事系もあるな。全部知りたいか?》

「……頭が痛くなりそうだからいいです…」

《ああ、『毒』を消すのは『神之血統(チスジタシカ)』って能力だ》

「どうせ使わせる気がないのにわざわざ教えてくれなくてもーー!」

《お前なんかを見下しても仕方ないが、嫉妬する様は見ていて楽しいからなっ!》

「し、嫉妬なんかしてませんっ!」


そりゃあ、魔法はカッコイイとおもいますよ?

絵本でも英雄譚でも剣と魔法は花形でしたし。

でも、男の子ならやっぱり剣ですよね!僕男の子らしいですしっ?


《剣技能力もあるぞ?》

「!?」


なんですって!?


《ああ、いいなぁ。その驚愕と焦りと悲観が混じった情けない顔っ!ヘタレとはこうあるべきだな!流石ヘタレ毒キノコ!》

「あ、赤様だって同じ顔なんですよー!」


もうイジワルやめて、黒いの脱いでくださいっ!


《じゃ、キノコが憧れながらも使えない能力を一部公開してやろうか?見たいだろ?》

「み、見たくなんてありませんっ!どうせ僕には分からない難しい能力なんでしょ!?見たって仕方ないですっ」

《どうせ見たって使えないんだ。見るだけ無料(ただ)だぞ?》

「何なんですか赤様っ!?自慢したいんですかっ!?」

《したい!》


すると赤様の背後にいきなり文字が浮かび上がります。しかも一文字が大きくて目が自然と引き寄せられます。




名前:  赤

能力:  完全吸収  完全融合  最適能力  身体支配  精神支配  魔力支配  戦神現世  術神現世  武神現世  三神一柱  

  


戦神現世

《あらゆる武器、道具を用いて戦う事が可能。また"剣""槍""弓"を用いる場合は十倍の威力補正、それ以外は五倍の威力補正がかかる。他神との併用不可。例外有り》


術神現世

《全属性魔法を全ランク使用可能。無詠唱可能。四大属性のみ合成可能。"杖""魔法石"を媒体にした場合は五倍の威力補正がかかる。他神との併用不可。例外有り》


武神現世

《素手による格闘、肉弾戦が可能。肉体の武器化可能。硬化可能。対魔法の場合は十倍の威力補正、対武器の場合は五倍の威力補正がかかる。他神との併用不可。例外有り》


三神一柱

《戦神・術神・武神の力を結束させ行使可能。時間制限有り。一時的に五感及び感知能力の向上可能》




…………。

うわぁ………。


《なんだよ、『うわぁ』って。もっと驚けよ》


驚けといわれても、多分凄いんだろうな?くらいしか分からないんです。

比較対象がないんですから。

僕の毒能力とは全く違いますし……。難しい事書いてあるし……。やっぱり分からないし……。


「戦神とかって、凄いレベルなんですか?」

《ああ、そうだ……。そうかお前能力のレベルを知らないのか……偏った成長してんな》

「とりあえず赤様の魔法が凄いってのは分かりましたよ?」


だって全部の魔法が使えるなんて、大魔法使いですよね?多分。


《いや、それだけじゃないだろ……まぁいいか、ヘタレだしな所詮》

「むっ!?だから見たって仕方ないって言ったじゃないですかっ!それなのになんで僕が怒られるんですかっ!?」

《怒ってない。呆れてるだけだ。バカキノコだなって》

「……バカじゃないです!モノを知らないだけですっ!世間知らずなだけですっ!」


ハァハァと呼吸を調えます。こんなに叫んだの始めてじゃないでしょうか?

誰かに怒ったりしたのも……。


さっきまでは怖くて怖くて、黒い『悪意』が怖くて。

震えて動けなくなっていたのに……。


赤様と話して、怒られて、なんでか戦って、バカにされて。


あんなに震えてたのに……、今は…震えて、ない?


《少しは慣れて(・・・)きたか?》

「え?……」

《ずっと『悪意』を纏ったオレと対峙してたんだ。嫌でも慣れるだろ?最初よりは怖くなくなったんじゃないか?》

「あっ、そういえば……」


直視するのさえ怖かったのに、今はそんなに……。怖いは怖いんですが、何故か見つめても震えるほどの忌避感は浮かんできません。

慣れた?

これが、慣れるって事ですか?

でも、やっぱり怖いですよ?平気にはなれません。


《慣れと平気は違うだろ。飲み込めば(・・・・・)平気になるだろうが……まあ、今のままじゃ無理だろうな》

「無理なんですか?」

《戦って確信したが、お前には決定的に『攻撃意思』が足りない。守りの心でどうにかできるほど『悪意』は簡単じゃないからな。攻めて食い殺すくらいの気概がなきゃ身を滅ぼす。だからまぁ、慣れただけでも良しとするか……》


食い殺す、ですか……。

そうですね、僕、そういった攻める考えは苦手です。キノコだったので肉食でもなく縄張り争いもしたこと無かったですし。

師匠の教えも『守り』でしたからね。


でもそうすると、赤様への『証明』は失敗でしょうか。


現実世界で赤様の身体を僕が借りる……その決意には足りなかったということになるのかもしれません。


《いや?それは大丈夫だ。ちゃんとお前は立ち向かった。恐怖に相対して挑んだ。本当(・・)の恐怖も理解した。なら、現実でまた同じ事にはならないだろう》

「えっ!!?」

《なにより戻っただろ?あの森から。もう逃げ込まないと自分で決めたなら大丈夫だろ?》

「っ……はいっ!」


もうあそこには、逃げません。

逃げる為に貰った足でも、僕は逃げません。今度こそ。


「僕、ちゃんと歩きます!」

《そうかそうか。まあ、頑張れ。で、だな。少し聞きしたいんだが》

「はいっ、なんですか?」

《例えばだが、『森の中で助けを呼ぶ声』が聞こえたらどうする?》

「助けにいきますっ」

《……その相手が『お金が無くてお腹が減ってる』と言ったら?》

「僕が持っているなら、お金も御飯もあげますっ!」

《…………そうか……優しいな、ヘタレ……》

「え?えへへっ…」


赤様が誉めてくれました!

やっぱり『困っている人には優しく』しなきゃダメですからね!


ただ若干、赤様の声が震えています。どうしたんでしょうか?

何かを堪えているようです。


「赤様?」

《…なぁヘタレ?なんで今回、こんな事になったか本当にわかってるか?なんで腹に剣なんか刺されたか。なんでオレが出てきたか。わかってるよな?わかってるんだよなっ!?ああっ?!》


急に赤様が怒り出しました。

なんでですか!?僕、間違った事言ってませんよね?


今回の事だって、あの人間さんがウソを言わなければ……


《"ウソ"以前に"疑わない"お前が悪いんだよっ!『紫操之炎風(グランダ・ドゥーダ)!!』》


赤様の雄叫びが響くと、ゴウゴウと猛り立つ炎の塊が出現して、案の定僕を黒焦げにしようと襲ってきました。


「なんでですかー!!?」


やっぱり僕は納得いきませんっ!



◇◇◇



頭痛がする。


意識が芽生えて、こんなにも早く頭を抱える事になるとは思わなかった。


精神世界で頭痛もないだろうが、目の前で焼け焦げたアホをみると本当に頭が痛い。なんでこんなにもアホなんだろう。

ポッカリと穴が空いたように『悪』というものが無い。

無い故に"間抜け"で偏った"善性"がコイツを象っている。


"善"自体は道徳観や社会的には良いモノと言えるだろうが、"悪"を知らないのは危険過ぎる。

疑い、騙し、欺くというのは会得するべきスキルだ。

正直で遠慮がなく、信じ込むというのは時に軋轢を産む。

集団になればなるほどそれは顕著で、人間という種族はより複雑な心理を持って動くのだ。


(なんでそれを知りながら……解らないのかね……)


融合した赤にはキノコの全て(・・)が解る。


この精神世界に存在する赤は、いわばキノコの『心』の一部だ。

キノコすら解らない『心』を見渡せる。

だからキノコが知識としてそういった『悪』があることや、それに嫌悪を抱いていながらも『必要』だと認識しているのも分かる。

分かるから、解らない。

キノコがいつまでも『白い』ままな訳が。


(……それとも、そう(・・)でなきゃいけない理由が在って?……)


赤はその本質から全てを吸収(・・)する事に特化した異生物体であった。故に解らない事を解ろうと、謎解きをして答えを得ようとする。


(理由、"善"である、理由……善悪、正邪、聖………ん?『聖』?)


その時、赤の思考に何かが引っ掛かる。


(『聖樹』……そういえば魔力の影に隠れて……)


融合した赤とキノコは全てが一つであるので、魔力も二人で一つだ。

赤が先程から使っていた魔法は、精神世界なので本物ではないが同じモノだ。魔法には魔力を使う。

魔力は"魂"や"心"との結び付きが強いのでこの世界だとより現実感をもって感じられる。

その魔力にちょっとした違和感があったのだ。


赤は魔力を集めてみる。

キノコが『月』と形容した美しい魔力。

魔女の力を継いだ赤の肉体をキノコが意思で鍛えた結果得た、静かで冷えきった力だ。

それに少しだけ混じる気配。


(……?)


感じたのは"暖かさ"。

優しく包み込む温もり。日だまりの抱擁。

小さく消えそうだが、色濃く廻る美しい力。

()』の魔力。


(そうか……護って(・・・)るんだな。ずっと…今も)


赤は納得した。

赤が魔女から魔力を継いだように、キノコも継いでいたのだ。


見ればその魔力は"清浄過ぎる"。

キノコがこれを継いでいるなら、確かに"悪"には染まらないだろう。

逆にキノコの中でその"聖"を維持しているのかもしれない。


キラキラと輝く『陽』の魔力は、赤に語りかけるように動くと、願うように点滅しはじめる。まるで火急の用事のようだ。


黒い『悪意』を脱ぎ去り、赤髪の子供の姿に戻った赤は、その訴えに耳を傾ける。

そうして嫌そうなシワを眉間に刻み、深い溜息とともに言う。


《いいだろう。ヘタレはあのままの甘ちゃんで許してやるよ。オレがその分『悪』を喰えばいいさ。その代わりオレにも能力を使えるようにしろよ?》


チカチカッ。


了解とばかりに『陽』の魔力は『月』の魔力から離れた。

スルスルと倒れる白いキノコに近づき、労るように全身を包む。

母親が赤子をあやすような光に、赤は目を閉じた。


(『悪』になるオレには関係ない優しさだ)


あれでキノコには『陽』の魔力が定着し、新しい能力が目覚めただろう。

『聖』であるあの力は、本来キノコにしか使えない。

能力の支配は赤にあるが魔力からして違うモノは扱えない。

だが、了承は得たので赤の能力にもなるはずだ。


全てを喰う赤に呑まれず、抵抗していた為に小さくなったようだが、最後に役目を果たしていったようだ。


(キノコは『善』のままで、か。汚いことは全部オレ。さて、損か得か、どっちだろうな?)


現実に歩くのはキノコであり赤は寝ている気なのだ。

酷い目にあっても、泣いても、傷つくのはキノコ。赤はそれを見ているだけ。

けれどそれは一時的なものであり、本当の傷は赤が飲み込む。

憂鬱にはなるだろうが、キノコは『悪』にならない。


《まあ、どうせ全てを喰らうのがオレだ。傷でも悪でも"喰って"やるがな》


二人で一人。二つで一つの人格。

清濁併せのむのなら、キノコが『正』で赤が『邪』になればいいだけだ。


何とかなるだろうと目を開けた赤は、焦げから回復してニヤつきながら気絶しているキノコにしばし絶句した。

知らず眉間のシワは深くなる。

どこにニヤつく要素があったのか蹴り上げて問い質したい。


自分と同じ顔で堂々と『助ける』宣言をしたあのドヤ顔。

あれを思い出すと……


(…アホは勘弁してくれっ!……)


絶望しか湧いてこない。


何度でもキノコは騙され、裏切られ、また同じ事をするんだろう。


それは世界を歩くには些か厄介な性分となる。


キノコが受け継いだ能力とともに足枷として重く引きずることになるのだ。





聖樹空身

《大地の清浄を託された聖樹の固有能力。分身を作り大地の悪素吸引を遠隔操作する。また、聖気邪気も吸引可能。放出は必須》


聖邪逆転

《聖気と邪気を反転させる。基本は取り込んだエネルギーに対しての能力だが、対物、対人で可能。純エネルギーであるほど振り幅は大きい。悪魔を天使に、天使を悪魔という根本逆転もレベルにより可能。神格保有者も条件により可能。いずれの場合も本人には負荷がかかる》


樹之護法

《植物を操る属性外魔法。資格保有者限定魔法。植物の発生、成長、増殖、操作が可能。レベルにより品種改良、品質改善、新種開発が可能であるが、生態系に多大な影響を与えるので要注意》



(これを背負わせるか……。母親は厳しいな)


露見すれば世界が群がる『能力』だ。


人間、魔族、妖精、精霊……。力を無くした『神』すら求める『世界』の能力。

流石は世界の『楔』の力といったところか。


『毒』を作り、『善悪』を飲み込み、それを『聖』にも『邪』にも換えて振り撒く。


《それでもお前は『外』に行くんだろうな》


世界は輝いている。世界は濁っている。

歪んで欠けた世界は、それでも色濃く全てを受け入れる。どんなモノ(・・・・・)でも濁りに溶けこます。


この白い世界よりは、優しくない世界で。


《最後まで立ってられるのか?》



人造人間(ホムンクルス)の問い掛けは白い中に消えていった。






赤様の魔法は精神世界では簡単に威力調整出来ますが、現実世界では少し難しいです。

体に不慣れな事もありますが、威力補正がハンパないのと不安定な『世界』のせいで、災害級のレベルに簡単になります。

赤様も要訓練なのです。

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