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初めて見ました




頭があって、手と足が二本ずつ。尻尾も角もない。毛むくじゃらじゃなくて服を着ていて靴を履いている。

そういう人が倒れています。


人間、ですかね?


いえ、多分おそらくほぼ間違いなく人間だとは思うのですが、僕の周りで人間というと、ギリルさんしかいないので参考にならないんです。他は幽霊さんとドワーフさんと鬼さんと悪魔さんとドラゴンさんですから。


ギリルさんは大きくて頑丈そうですが、この人は小さくて弱そうです。僕と同じくらいの背丈でしょうか。

ギリルさんはほぼ裸で走り回ってますが、この人はヒラヒラした服を着ています。


なんとなく魔女さんを小さくしたような感じがしますが、魔女さんは人間じゃないですよね?本人も違うって言ってましたし。



えーっと、とすると……?


あ、もしかして?


「女の子?」


なるほど!

成人前の女型人間族ってやつですね!?初めて見ました!

僕ったら、性別に頓着しないからそんな簡単な事もわからないんですね。要勉強ですね。


で、この女の子どうしたんでしょうか?こんなところで寝て。

人間は毛皮がないから風邪を引きやすいって魔女さんが言ってましたし。お布団でも掛けた方がいいと思いますよ?


あれ?でも何だか具合が悪そうな…?息が細くて荒いし、肌も白くて汗かいてますね。

いえ、これが女の子の普通なのかもしれません。

何せ僕、男の子ですから詳しくないですし!


なんにせよ、このままだとドラゴンさんに踏まれたり蜘蛛さんのご飯にされてしまいます。それは流石にこの人も嫌でしょうから起こした方がいいでしょう。

まずは挨拶ですね。


「こんにちは。僕キノコといいます」

「……………」


………。

……。

蜘蛛さん以来の無視をされました。

寝てるにしたって気づいていい声量だったと思うんですが……。僕、声小さいですかね?

それとも、立ったままで声をかけたので目線が上ですから失礼だったのでしょうか。不愉快に思ったのならお詫びしなきゃいけません。

よし!僕も倒れて目線を合わせましょう!


俯せに寝ている女の子から少し距離を開けて僕も横になります。

女の子は顔をこちらに向けて荒く息をしていますが、起きる気配はありません。疲れているんですね。

でもここ、洞窟ですから寝心地良くないですよ?結構擦り傷とか出来ますし……。

と、そこまで考えて僕は気づきました。

女の子の手が血だらけなのです。


そこで漸くわかったのです。

ケガをして倒れている、そういう事もあるのだと。


ケガなら治療しなくては、と身じろいだ僕の気配にノロノロと女の子が瞼をあげました。

ボンヤリした感じでしたが、綺麗な碧の目は僕を見つめます。


「ケガしてるんですか?」


僕の質問に一度瞬きして彼女は答えます。


「…あなた……だれ?」

「僕はキノコといいます。あなたが寝ているのを見つけました。ケガのせいで寝てるんですか?」

「…ケガ…?そう、ね。……痛いわ……」


大変です!痛いのは大変ですよ!

魔女さんに見せて治してもらう……前に、止血とかしなきゃいけませんね。


プランお婆ちゃんが治療や病気に詳しくて、色々教えてくれたのが役に立ちます。


まずはケガの状態を見て、患部を清潔にして……。

そういえばお婆ちゃんに薬草を煎じたのを貰ってましたね!あれが使えますよ、多分!


僕は腰に巻いている小物入れ付きベルトに手をかけます。


あっ!ミトンが邪魔です。外しても……大丈夫ですね。『毒性支配』はしっかり発動してます。

僕の手から毒が出ることはないでしょう。


「ケガはどこですか?僕、薬草持ってますから」


そう言って女の子に触ろうとしたら、彼女は目に見えて動揺しました。


「さっ…触らないでっ……!」

「あ、すいません。いきなりでビックリしましたか?大丈夫ですよ、僕は治療出来ませんが、止血くらいならなんとかなりますから」

「触らないでって……言ってる、でしょうっ!!」


女の子は叫びます。

僕がビックリしました。弱っているでしょうに、凄い声で拒絶されました。ジリジリ離れようともしています。


もしかして女の子には触ってはいけない決まりとかあるんでしょうか?

緊急事態なんですから多目に見てほしいです。


少し離れて女の子は余計ぐったりしてしまいました。辛いのに動いたから息もあがってますよ。

心なしか睨まれてますね。そんなに警戒されると悲しいです。僕、ひどいことしませんよ?

こういう時は……。

………。


どうしたらいいんでしょう?


わ、わかりませんっ!

警戒する相手にはどういった対処が正解なんでしょう?


落ち着くんですキノコ!今まで頑張って来た中に答えがあるかもしれません!考えるんです!

今まで出会った人達を!彼らに教わった事を!


魔女さんはよく『撫でて』くれます。

師匠は『言葉で油断を誘うのも戦術だ』と教えてくれました。

ギリルさんは『頭を潰したら大体勝てる』ってさわいでましたね。

プランお婆ちゃんは『相手が弱ってたら速攻で攻めな』と言いました。


つまり!


「……だ、大丈夫ですよ?僕、悪いキノコじゃないですよ?」


言葉で僕の無害〔だったらいいな〕を申告し、彼女が疲れて動けないのを見定め、隙を付いてその頭を、


『なでなで』


「さっ…っ…!さわらっ…」


撫でてあげる!


これですね!?


「大丈夫、僕、怖くないですよ?酷い事も痛い事もしません。大丈夫です」


『なでなで』


女の子の頭は汗で湿ってますが、キノコは湿気が好きですよ?それに綺麗な髪です。


「タンポポみたいに綺麗な髪ですね。目の色と合わせて春みたいです。もう少ししたら貴女の季節ですね」

「…っ!?……?………?!?」


思い出しましたが、悪魔さんが『相手を褒めるのも油断させる術だ』と言ってました。


褒めるってどういうものなのかわからないですが、悪魔さんは『キノコが素敵だと感じた事を言えばいい』と教えてくれましたから、これでいいはずです。


多分……。


女の子はビックリした顔のまま固まって、次いで赤くなりました。

白かったり赤かったり、女の子って大変ですね。擬態ですか?


ゆっくり撫でて、彼女が落ち着くのを待ってからできるだけ優しい言います。


「ほら、僕、危ないキノコじゃないでしょう?だからケガ、見せて下さい」


女の子は僕の手をじっと見ています。


大丈夫です。『毒性支配』はしっかり働いていますから、彼女に害はないはずです。納得いかないような顔をしていますが、それより何よりケガをなんとかしなければいけません。

何だか呼吸も更に荒くなってますよ、この人。


でも、睨むのは止めてくれたみたいです。不思議なモノを見るように僕と目を合わせます。


「あなた……何?…」

「キノコです。悪いキノコじゃないですよ?」

「……キノコって……言われても……」


あ、そうですね。僕、見た目は人間ですからキノコって言っても変ですよね。でも名前がキノコですから。ややこしいですかね?


「えっと……、っ?……ん?」


やっと会話が出来てきた、と思ったら、『気配』を感知しました。


突然、すぐ近くに反応が三つ。


本当にいきなりの感知です。驚いて振り向くと、洞窟の通路を塞ぐように三人の人影が現れました。


じわりと空間に滲むように。歪むように現れました。


「……っ!?」


女の子が息を呑むのが聞こえました。


ビックリしたんでしょうね。僕もビックリです。姿を隠す、までなら僕でも出来そうですが、気配を完全に消す(・・・・・)なんて魔女さん位しか出来ないんじゃないでしょうか?


なんなんでしょう?この三人!


「……驚いたな、この子供、気付いたぞ……」

「目標は一人のはずだ、誰だ?」

「モンスターが化けたのではないか?」


口々に囁いていますが、僕には聞こえてますよ。

それに僕はモンスターじゃありません、キノコです!


「……あの、どなたでしょうか?僕はキノコといいます」


とりあえず挨拶は礼儀ですよね。


三人は頭からローブを被っているので種族はわかりませんが、僕より大きいし体格も良さそうです。


あと多分強いですね。師匠やギリルさんよりは弱いですけど。


『見透かし』は人に対して行うのは失礼らしいので、許可がなければ使わないようにしています。

それでも体内の魔力循環のお陰か、感知で分かるくらいにはなりました。


僕の挨拶に少し戸惑ったようですが、三人のうちの一人が対応してくれました。


「…すまない、私達はその後ろの娘の保護者だ。目を放した隙に迷子になったようでね、心配していたんだ」

「え?」


保護者、ということは。


「お母さんですか?」

「……いや、男はお母さんじゃない…」

「あ、男の人なんですね?じゃ、お父さんが三人ですか?」

「…………」


あれ?なんだか空気が重くなりましたか?なんででしょう。


ともあれお父さん達が来てくれたなら安心ですね。


「彼女、ケガしてるみたいなんです。僕、薬草持ってますから……」

「…ああ、そうか。処置はこちらでしよう。連れていくからどいてくれるか?」

「わかりました。良かったですね、お父さんが来てくれて……」


そう言いながら振り返った僕の目に、ガタガタと震える女の子が映ります。


大きく開かれた碧の瞳と震える唇が何かを訴えかけているようです。寒いのでしょうか。痛いのでしょうか。


彼女は僕を見て……いえ、僕の後ろを見ていました。


お父さん達を見て、震えています。お父さん達に震えています。何故ですか?


震えながら、漸く一言。僕に言いました。


『にげて』


にげて。


逃げて。逃げて?


何故逃げるのでしょうか。不思議な事を言う女の子です。さっきから震えも止まりませんし、体調が酷くなってるんですね。


ドスンッ!


……あれ?何の音でしょうか。


すごく近くで聞こえました。女の子から?僕から?何処からでしょう。


女の子がまた口を開こうとして、クシャリと顔を歪めます。

そうして目線を落とし、また上げた表情は、痛いのを我慢して我慢して、泣きそうになっている顔です。


痛いんですね、ケガが酷いんですね。


でも大丈夫ですよ。お父さんが来てくれたんですから。

大丈夫、安心してください。僕にはお父さんじゃなくてお母さんがいましたが、ずっと安心でした。


優しいお母さんと一緒だと何でも大丈夫でしたよ。


お父さんだって、同じです。

心配して助けにきてくれたんですから、優しいんですよ。だから泣かないで下さい。


僕ハンカチ持ってますよ。今出しますから。泣かないで下さい。


……? 体がおかしいです。


腕が上がりません。指も動きません。


僕、僕の体が、何か変です。お腹が、 何だか。


変です。


僕は目線を下げます。


僕の身体。人造人間ホムンクルスの身体。


そのお腹から、銀色の塊が突き出しています。


鋭く突き出して、そのまま目の前の女の子のお腹に、刺さって。


刺さった彼女は、また小さく一言。


『ごめん』


よく聞こえませんでした。


すみません、僕、耳までダメになってしまったようです。ダメなキノコでしたから。


だから泣かないで下さい。


謝らないで下さい。


「…二人とも串刺しに、ならなかったな。小娘は内蔵までいってない」

「この子供が盾代わりになったのか?大した固さじゃないか」

「やはりモンスター、魔物か」


ああ、やっぱりよく聞こえません。

誰が話しているんでしょう。


「このダンジョンなら化ける魔物もいるだろう。どのみち終わったがな」

「油断するな。まだ生きているかもしれない」

「これはミスリル銀に魔法加工をした最高級品だぞ?しかも胴体貫通だ。死んだよ、即死だ」


楽しそうに話していますが、どんな話をしているのでしょう。


できるなら彼女も交ぜてあげて下さい。


僕の目の前の女の子。


泣きそうで辛そうで、我慢して折れそうで。

でもしっかりと僕を見つめる彼女を、笑わせてあげて下さい。


僕には少し、無理みたいです。

身体が上手く動かないんです。やっぱりキノコだったから、不具合とか出たんでしょうか。


それとも『お腹を串刺し』にされたら、そうなるものなのでしょうか?

キノコの身体なら大丈夫だったのに、人間の身体はダメなんですね。


「正体はなんだろうな?解体してみるか?」


……ゾワリッ……


僕の背筋を不気味な悪寒が駆け上がります。


な、何ですか?

この感じた事のない、厭な気配っ!


森で狩りをする動物は『殺気』を持ちます。

縄張り争いには『敵意』があります。

そういう理由で、攻撃して力を固持するのです。生きる為、奮う『暴力』です。


でも、これは、『違う』。


敵対でも焦燥でも怒りでも悲しみでも労りでも、無い、『殺意』。


気持ちが悪い……っ!

心が悲鳴をあげそうな忌避感。


これは、あれです。

一度感じました、あの時、森で。

森を逃げたあの日、あの森に充満していた気配。あの時とおんなじ。


おぞましい『愉悦』の殺意。


意味が無く壊し、潰し、焼いて、追い立てて殺して、見下して笑う。わらう…。


人間の………。



人間の『 』。






……ゾワリッ……









こわい。





いやだこわい、たすけてこわい、こわいこわいこわいこわいいやだいやだいやだ、いや、こわいよ




おかあさん、  こわい、たすけて


たすけて スライムさん      こわいよ



ぼくこわい こわい こわい いや いや にんげん




にんげんが もりを おかあさんを     ぼくを










『怖い?……なら…… ?』





ぼくの なかで、 チカチカと ひかる


まりょく 、 ではない 、 もうひとつ の、 ひかり





だれか、 いるんですか?






『…… ……』










答えを聞いた気がしました。


でも、僕は聞こえなかったような気がするのです。



だって、もう真っ暗で、全部が見えなくて。



何も感じないんですから。














キノコは皆さんのお陰で、順調に偏った成長を続けています。


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