ぼくはキノコなんです
思い付きで書いたら楽しかったです。思い付きって大事ですね。続かないという不安もありますが…
ぼくはキノコです。
大きな森の深い場所、とても立派な樹の幹からヒョッコリ出てきたキノコです。
お母さんだと思ってた樹は本当のお母さんじゃないそうだけど、お母さんだと思って良いといわれたのでお母さんです。
ぼくはお母さんの幹でじっとしながら森の空気を浴びて育ちました。
お母さんの足元には他にもキノコが育っていますが、ぼくとは違うキノコみたいでした。
『人間』というのがたまにやってきてキノコ達が拾われていっても、ぼくは無視されます。高い所にいるから見えないのかと思いましたが気づいても無視されます。
お母さんと離れたくはないから拾われなくてよかったです。
お母さんは優しくて暖かいです。
寒くなると木葉で隠してくれるし、雨が降らないでカサカサになると水を分けてくれます。
お母さんはよその木よりも大きくてキレイです。葉っぱもたくさんだし枝も広がっています。
お母さんは昔々『エルフ』という方々に育てられ、森を護る役目を貰ったと聞きました。『エルフ』さんはもうずいぶん前からいなくなって、お母さんはさみしいと言います。
森の端の方から仲間の木々が『人間』に切られて行くのも、止める事ができないと悲しそうです。
そして、ある日。
森が燃えました。
夏の暑さよりも熱い空気が押し寄せてきて、鳥も動物も皆逃げていくのをお母さんは静かに見ていました。
仲間の木々が燃えて湖が枯れて、みんなみんな死んでいきます。
お母さんは動けないのでにげられません。ぼくもキノコなので動けません。
でもお母さんは、ぼくを逃がそうと必死になってくれました。『エルフ』の忘れ形見だと、ぼくに"力"をくれました。
お母さんの"力"で動けるようなったぼくは、お母さんを助けようとしましたが怒られました。早く逃げなさい、生きなさいと怒られました。
赤い木の実や夕日よりも真っ赤で乾いた火の中を逃げました。
熱くて悲しくて怖くて逃げました。
ぼくは歩くキノコになりました。
お母さんの森は無くなって、ぼくは歩きました。
初めて地面に触れたんだと後でビックリしましたが、歩くキノコというのにまたビックリしました。不思議ですが、下のほうに足?が出来ていたのです。お母さんがくれた"力"のおかげでしょう。
森に帰れないのでどうしようかと落ち込んでいたら、『魔物』に会いました。
森にも何匹か住んでいた『スライム』さんで、ぼくと同じように逃げて来たそうです。
ぼくらは歩いて行きました。
スライムさんは優しい魔物で乾いてしまったぼくの為に水辺に寄ってくれたり、他の魔物や人間から守ってくれました。
傷ついてもスライムさんは分裂?とかで平気そうに元通りになり、とても頼りがいがありました。カッコイイってスライムさんの事ですね。
ぼくらはまた、住める場所を探して歩いて行きました。
お母さんの森のような場所はなかなか無くて、悲しかったけどスライムさんと一緒だったので我慢しました。
ある森にたどり着きました。
でもなんだか不思議というか、イヤな感じがしました。お母さんの森とは違う暗さもイヤでした。
でも疲れていたのでしばらくはここに居ようとスライムさんと決めてしまいました。
止めておけばよかったんです。無理してでも歩けば良かったんです。
不思議な森にとても気持ちの悪い空気が流れ始めて、スライムさんは徐々におかしくなってしまいました。
イライラと当たり散らし何かに抵抗するようにぼくを攻撃したりして、最後には一人で何処かに行ってしまったのです。
置いて行かれたぼくは、それでもスライムさんを待っていました。
でもずっと帰ってきてくれなくて、ぼくは哀しくなりました。
お母さんもスライムさんもいなくなって、歩けるキノコでも歩くのが嫌になりました。
不思議な森はイヤだったけど、足を地面に根付かせて、ここで眠ろうと思いました。
お母さんがくれた足でしたが、なんだかとても疲れたのです。
「……あっらー?何なに?あんたなに?」
どのくらいたったのかわかりませんが、なんだか聞こえてきます。
シトシトと雨が降っているようで、体は乾いてませんがぼくはカラカラです。ずっとカラカラなんでしょうか?
「ようやく『聖樹』の気配がしたと思ったらキノコ?どゆことー?」
人間の声がしますがぼくには理解できません。
お母さんやスライムさんなら会話が出来たんですが、しかたないです。ぼくは一人です。
「なになに?暗くなってるわねー?ジメジメしてるなんて流石キノコねー」
はい、キノコですからジメジメが好きです。ほっといてください。
「あははー!『魔床の森』で引きこもるキノコ!面白ーい!」
ブチブチッと音がします。何の音でしょうか?
「……?!な、なにー?しかも足があるって……いや、これ足?こういう形のキノコ?」
失礼な。足ですよ。お母さんから頂いた足です。これで歩いてきたんです。
「ふーん?………楽しいキノコねー……」
楽しくないです、キノコですから。
何も出来ないキノコなんて楽しくないです。お母さんも助けられない、スライムさんも愛想を尽かすキノコなんて腐っていればいいんです。
「あれー?やだやだ、後ろ向きな菌類なんてヤダー!」
そうでしょうね、イヤでしょう。
だから皆いなくなったんですね。ぼくがいなくなれば全部終わります。
あれ?なんだかブチブチッが立て続けにきこえます。
それに、変です。
さっきから人間の声が理解出来ているようではありませんか?
というか、人間がぼくの言葉を理解しているような…?
「………その悲観しすぎて投げやりな性格、いやだわー…」
途端、雷が落ちました。
シトシト雨なのに雷が落ちるなんて珍しいです。木に当たったのか地響きがして倒木を知らせます。
「その性格、修正してあげるー!…この『語られる魔女』シルドレス・バイハーバンがねっ!」
ぼくは魔女のキノコになりました。
魔女と名乗った方の家にぼくはやって来ました。
誘拐とかいう行為でしょうか。
「キノコに誘拐はないわー!採取?かなー?」
魔女さんはぼくを植木鉢に差し込んで収まりを確認すると、部屋中を物色し始めました。
ぼくには"目"はありませんが、何故か昔からわかるのです。
「『聖樹』のせいじゃないー?」
『聖樹』ってなんですか?
「あんたに足をくれたっていうの、おっきな木だったでしょー?それが『聖樹』よー。あれねーかなり特殊な木なのよー。キノコの生い立ちはしらないけど、その木と共生してたんでしょー?」
そうですね、お母さんはとても立派でキレイでした。ぼくはお母さんから生えていたキノコです。
「てことは、『聖樹』の内部にもある程度侵食していたって事ねー。ならキノコはキノコだけど『聖樹』の一部分として水分や養分が循環していた。つまり"力"もキノコに廻っていたのねー。そのおかげで"気配"や"魔力"の感知が鋭敏になったんだー。ってことかな?」
え?でもぼくだけでしたよ?
お母さんの足元にいたキノコ達はあんまりおしゃべりしませんでした。
「循環をかなり長い間甘受しなきゃ、"力"は定着しないわよー。あんたかなり大きいキノコよ?ずいぶん『聖樹』といたんでしょー?」
そうですね。時間とかよくわかりませんが、他のキノコは人間に拾われて行きましたが、ぼくは無視されてて。
「ああ、仕方ないわねー。あんた『毒キノコ』だもの」
………え?
「今はすこし形が変わってるけど、笠の広がり方に筋の入り方、色は青みがかった白。致死性麻痺毒及び幻覚作用のある毒キノコ『ロムスーキノコ』。一応幻のキノコよ、あんた」
毒ー!?
ど、どく?ぼ、ぼばぼほはぼくくけくぼく、毒なんですか!!
どうしよう!知らないでお母さんとずっと一緒にいいぃぃ!お母さんが毒にー!
「…『聖樹』にキノコの毒なんて効かないわよー…。笠揺らして動揺しないで、胞子が飛ぶでしょー」
でもでもっ!
あっ!!?まさかスライムさんがおかしくなったのもぼくのせい?
「スライムー?なにそれ、あんた魔物と知り合いー?」
ぼくは魔女さんにスライムさんの話をしました。
スライムさんが変わってしまったのがぼくのせいなら、ぼくは……っ!
でも魔女さんは難しそうに考えてから否定してくれました。
「…それは、違う要因ねー。あの『魔床の森』はもともと邪気が強いし、更に『魔王』が活発になった影響で世界中に邪悪な気配が漂ってるからー…。その気配に当てられて凶暴化したのよー。魔物はそういう"力"に影響されやすいのよね」
それじゃあ、スライムさんは……ぼくのせいじゃなく?ぼくが嫌いになったんでもなく?
よがったああぁぁー……!良かったよー………。
「笠揺らして喜ばないでよー。ほんと変なキノコねー……。『聖樹』の落としたキノコ、面白いわー」
色々ビックリして慌てているぼくの鉢植えを魔女さんは持ち上げ、しげしげと見てきました。
そうして沢山の物が乗っている台に降ろすと、何だか異様な雰囲気でぼくに話しかけます。ちょっと怖いです。
「…さて、キノコはこれから私の修正作業の実験体になるわけだけどー、言い残した事はある?」
は?ええ?
実験体ってなんですか……?というか、言い残した事って、死んじゃうみたいな……。
「切り刻んでも菌類なんだから平気でしょ?でも火で炙ったりしたら、死んじゃうのかなー?と思って、一応ね。遺言があれば聞くわよー?」
イヤアァァァぁぁぁぁぁあっ!!!
やだやだやだー!死ぬのイヤだー!!許して許して止めてしないで止まってー!
「胞子飛ばしてもダメー。あ、私に毒は効かないからねー?」
そ、そんなつもりはないですけどっ!ああっ、ごめんなさい、胞子飛ばして不快にしてごめんなさいっ!
でもやめてくださいっ!お願いですっ!なんでもしますからっ!
「なんでもするなら実験体ねー。まずは笠を剥ぎ取ってー………」
ぼくは実験菌にされた毒キノコになりました。
キノコはシメジが好きです。