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怪奇解決株式会社  作者: カエル
一章
9/82

真相

「はじめまして、小村茜さん」

「……姉さん」

 部屋の明かりに照らしだされたのは、依頼者の小村楓さんの姉であり、この家の長女である小村茜だった。


「『怪奇解決株式会社』の岡島と言います。こちらはナナシ君」

 「どうして?なんで?どうして?」

 岡島さんは丁寧にあいさつするが彼女には聞こえていないようだった。彼女は顔色が悪く、僕達にというよりは独り言のようにぶつぶつ呟いていた。そして、はっと何かに気づいたように顔を上げて僕達を睨んだ。

「騙したの?」

「はい、申し訳ありません」

 岡島さんはいつものように笑顔で彼女に答える。

「じゃあ、気付いて……」

「はい、この家に盗聴器が仕掛けられていることは予測がついていました。試しに携帯で妹さんに電話を掛けたときもノイズがしましたので、ほぼ間違いないと確信しましたが、どこに仕掛けられているのかまでは分かりませんでした。そこで、家中を歩き回って一番ノイズがひどかった妹さんの部屋に仕掛けられている可能性が高いと思い、一芝居打ちました」

 

 小村茜はギシリと歯ぎしりをした。彼女は犯罪がばれた恐怖や後悔はなく、罠にはまってしまったことに対する怒りでいっぱいのようだった。

「私の勝手な予想ですが、あなたの目的はこの家にある<何か>だ。楓さんと一緒に探さなかったのはその<何か>独り占めしようとしていたからだはないですか?だから、邪魔な楓さんを家から追い出して目的のものを探そうとした。そして、楓さんを家から追い出すことに成功したあなたは、何度か家に侵入し目的の物を探そうとしたが、今まで見付からなかった」

 小林茜の表情から怒りが消える。目が泳ぎ視線が定まらず、親指の爪を噛み始めた。明らかに動揺している。それは岡島さんの推測が当たっていたことを意味していた。

「そう思った私達は、まず『明日監視カメラを設置する』と嘘をつきました。監視カメラを仕掛けられたら、もうこの家に侵入できなくなる。チャンスはもう今日の夜しかないときっと考えるはずです。そこで、私達は一旦帰った振りをして妹さんを呼び、物音を立てないように家の中にいました。長くなるかもしれないと考えましたが予想より早く来てくださって助かりました」

 小林茜は何も言わない。ただじっと聞いてている。


「妹さんが目撃した影の正体は式神の類のものですね?」


 岡島さんが指摘すると小森茜は目を伏せた。岡島さんは一冊の本を掲げる。それは彼女の父親の部屋にあった怪しげな古い本だった。

「この本には呪いなど様々な術が書いてありました。これには黒い影の式神を操る方法も書いてあります。あなたはこの本を見ましたね?」

 僕が何の気配も感じなかったのもそれが原因だ。式神を自在に操れるようになるには長い修業が必要となる。素人同然の彼女が作り出した式神は存在はとても弱いものだったのだろう。

 しかし、疑問も残る。それは岡島さんが解説してくれた。


「式神を操るには高い集中力と体力が必要です。訓練した人間ならいざ知らず、あなたにはかなりの負担となった。だからあなたは式神を使うのは必要最低限にして、妹さんが家にいるかどうかは盗聴器で確認していた」

 妹さんの様子は普通なら式神で確認すればいい。しかし彼女にはそれができなかったため、盗聴器と併用することでその問題を解決した。妹と仲が良く、家を訪れていた彼女にはそのチャンスがいくらでもあった。

「貴方は少し脅せば妹さんは出ていくだろうと考えた。しかし、妹さんは約一年以上耐えた。業を煮やしたあなたは式神に妹さんを襲わせるという強引な手段に出た。ですが、生きている人間の首を絞めえるという行為を式神にさせることは、あなたにとってはかなりの負担だったはすです」


 小林茜の顔色が悪いのは緊張のためだけではなく、式神を強引に操ったためでもあるのだろう。低い存在のままでは人を襲うことはできない。小村茜は強引に式神の存在を上げ、妹を襲わせた。表面上は分からないが内臓などにダメージを受けている可能性は高い。


「……姉さんどうして?」

 小村楓さんが姉に訪ねる。その目には涙が浮かんでいた。そんな妹を小村茜は睨みつける。

「どうして?決まってるじゃない。この家の遺産を貰うためだよ!」

 怒声が家中に響き渡る。怯える妹には構わず、彼女は続ける。

「この家のどこかにきっと隠し財産がある。お父さんが自分のお気に入りのあんたに継がせるためにね!」

「隠し財産?」

「とぼけるんじゃない!お父さんは生きてた頃、かなりため込んでたはずだ。悪いことも沢山してきたことも知っている。その本を使ってね!」

 小村茜は岡島さんが持っていた本を指差す。確かに式神を他人の秘密を暴き、それをネタに脅迫したりというように金を稼ぐ方法はいくらでもある。

「私は、お父さんが嫌いだった。いっつも厳しくてすぐ暴力を振るって、いつもビクビクしてた。やっと死んでくれて遺産がもらえると思ったのに、あんなにお金を貯めこんでいたお父さんの遺産があれっぽっちの訳ないじゃない!私にはもっと遺産をもらう権利がある!」

 激しい形相で彼女は訴える。そんな姉を楓さんは悲しそうに見ていた。


「……ごめんなさい、お姉ちゃんがそんな風に思っていたなんて知らなかった。でも、私隠し財産なんて……」

「うるさい!あんたはいつもそうやってお父さんに取り入って、私ばかり我慢して……遺産だってきっとある!だからお父さんは私達を追い出したのよ!あんたにだけにやるために!」

「お父さんは追い出してなんかいない、それは姉さんの思い込……」

 楓さんは必死に訴えたが、姉の耳には届かない。

「うるさい!」

 小村茜はカバンの中から、ナイフを取り出し、その刃を実の妹に向ける。

「いいから隠し財産を出しなさい!あんた知ってるんでしょ!」

 僕と岡島さんは茜さんを庇うために彼女の前に出る。

「どきなさいよ!あんた達には関係ないでしょ!」

 岡島さんは首を横に振る。

「それはできません。依頼者の身の安全は最優先ですので」


 小村茜は「チッ」と舌打ちをする。そして今度はカバン中から人型の紙を取り出した。その紙に息を吹きかけると、空中に放った。床に落ちたそれは、黒く覆われ、二メートルほどの人型となった。それはとても強い力を発していた。

「早くそれを消しなさい。ただじゃ済みませんよ!」

 岡島さんは厳しい口調で彼女に忠告するが彼女はそれを無視した。

「あんたは男どもをやりなさい!」

 彼女が式神にそう命令すると、式神は僕達目がけて襲いかかってきた。


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