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怪奇解決株式会社  作者: カエル
一章
8/82

調査

 僕と岡島さんは「イカイ」の地下に降りた。「イカイ」の地下一階は駐車場になっている。地下も一階までは変化することはないらしい。そこには社用車が止めてあるそうだ。

 地下には見たこともない車がたくさん並んでいた。年代物から近未来のSFに出てくるようなものまで、多種多様な車があった。車にはさほど興味はないがこの光景には圧倒されてしまう。

 エレベーターを降りて少し歩くと一台の車の前で岡島さんは止まった。これだけ珍しい車ばかりあるのだから、どんな車かと期待した。だが、そこにあったのは、ごく普通の軽自動車だった。僕が少々落胆していると岡島さんが車の前にでると屈む。

「こんにちは、調子はどう?」

 岡島さんはそう言うと、車を撫でた。何をしているのか聞こうとした時、車が「ブルン、ブルン」とエンジン音を立てる。そして、ユラユラと揺れ始めた。それは、まるで撫でられて喜ぶ犬のようだった。

 僕は目をぱちくりして、バカみたいに口をポカンと開けていた。そんな僕を見て、岡島さんはクスッと笑う。

「驚きましたか?」

 声が出ない僕は首を縦にぶんぶん振る。

「この子の名前は『マツ』と言います。とてもいい車なんですよ。マツ、この人は今日入社した『ナナシ』君、とってもいい人なんですよ」

 『マツ』と呼ばれた車はヘッドライトを二回光らせた。それが挨拶だと気付き、僕も慌てて礼をした。そんな僕たちの様子を岡島さんは微笑みながら見ていた。


「マツ、この住所は分かりますか?」

 一通りあいさつが終わると岡島さんは依頼者の住所が書かれた紙を車……いや、マツに見せた。マツの車体を小刻みに動かす。そして「バン」と運転席と助手席のドアが勢いよく開いた。どうやら乗れと言っているらしい。

 岡島さんが運転席、僕が助手席に乗る。二人が乗り、シートベルトを締めるとエンジンが掛かり、マツはゆっくりと動き出した。運転席のハンドルは勝手に回っており、ブレーキとアクセルもひとりでに動いていた。

 マツは渋滞にも信号にも引っかからないルートを選択して運転することができるらしく、依頼者の家には思っていたより早く着くことができた。

「じゃあ、ここで待ってて」

 マツを家の前の駐車場で待たせ、僕達は家に向かう。


 依頼者である小村さんの家は、古いの一軒家だった。

 彼女の話によるともともと彼女は父、長男、次男、長女、末っ子である彼女の4人で暮らしていたという。母親は彼女を生んでしばらくすると亡くなったそうだ。

 それから長男、次男、長女が就職すると同時に相次いで家を出た。小村さんも地元の企業に就職したが、家を出ることはせずに父親と暮らしていた。 しかし、その父親も2年前に病気で亡くなった。それから彼女はずっと一人暮らしだそうだ。現在、長男、次男とはあまりそりが合わず、疎遠になっている。

 長女とは今も時々会っているらしい。怪奇な事件に巻き込まれていることも話したが、残念ながら信じてもらえないらしい。


「では、そことそこをカメラで撮ってください」

 岡島さんは大きなカバンを持っているため、撮影は僕の役目となった。僕は言われた通りに玄関前をカメラで撮影する。

 一通り辺りを確認すると岡島さんはこの家の鍵を使い中に入る。調査とはいえ本来なら一人暮らしの女性の家に入ることはないそうだが、彼女は事件が解決するまではこの家に近寄りたくないらしい。だが、家の中を調べないことには先に進まない。

 岡島さんがそう言うと彼女は家の鍵を預けてきた。

「勝手に入ってもよろしいのですか?」

「構いません。事件を解決してくださるのなら」

 彼女は、家の中を見られる羞恥や物を盗られる危険よりも一刻も早く事件を解決してほしいと言ったため、僕と岡島さんの二人で家の調査することになった。

 家の中はごく普通だ。初めは一階を見てみる。台所、トイレ、居間は異常なし、次に彼女の父親の部屋を見て回る。

 本物か偽物か分からない壺や怪しげな古い本、日本刀、掛け軸、日本人形があった。部屋に入ってくる隙間風もあって不気味な雰囲気だが、怪しい痕跡はなかった。二回には彼女の寝室ともう出て行ってしまった長男、次男、長女の部屋があったが、どこも異常はなかった。

「ナナシ君、何か感じますか?」

「すみません、何も感じません」

 何かがこの家にいるならば、僕は胸にざわざわしたものを感じだろう。

 でも今はそう言ったものを何も感じない。つまり、この家には何もいない。いるとすれば存在がよっぽど小さい小物か気配を完全に消すことができる大物ということになる。

 しかし、小物なら彼女の首に痣を残すほどの力があるとは思えない。ということは、ここにいるのは大物だろうか?

「そうですか、分かりました」

 岡島さんは携帯を取り出し、どこかに電話をかける。

「もしもし、こちら小森様の携帯でよろしいでしょうか?私『怪奇解決株式会社』の岡島と申します。はい、はい、そうです。実は折り入ってお願いしたいことがございまして」

 電話をしながら、岡島さんは家中を歩き回る。そして彼女の部屋で中でピタリと止まる。

「はい、では何か分かりましたら、またご報告します。それでは」

 岡島さんはやや声を大きくして僕に言った。

「この家に監視カメラを設置する許可をいただきました。さっそく明日の昼にでも取り付けるようと思います。ですから今日はこれで帰りましょう」


 その日の深夜、不審な人影が家の前に現れた。人影は持っていた鍵で家のドアを開けると中に侵入した。 

 絶対に今夜中に見つけなければならない。そうしなければ自分は終わりだ。

 今まで探したが一番怪しいのはあそこだろう。人影は今は亡きこの家の主の部屋に入る。手に持っていた懐中電灯を点けようとした時、部屋の電気がついた。突然の光に思わず目がくら見ながらも、何が起きたのか確かめるために目を開いた。

 そこにいたのは楓と2人の見知らぬ男だった。男の一人が私に優しそうな笑顔を向け、こう言った。


「はじめまして」

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