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怪奇解決株式会社  作者: カエル
第四章
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病院

「よう、お帰り」


 誰かに声を掛けられる。

 暗い、どうやら目を閉じているらしい。

 僕は、ゆっくりと目を開けた。


「社長」


 目の前に社長である川鳥鷺がいた。

 周りの様子を見る。真っ白なベットのシーツ、枕、布団。左斜め上にはテレビがある。

 左腕には針が刺さっており、そこから伸びる管を辿ると、ポタポタと液体が管に送られている。

 これは点滴か、ということは………。


「此処は、病院ですか?」

「そうだ」

 ズキンと頭痛がした。思わず頭を押さえる。

「大丈夫か?」

「は、はい、大丈夫です」

「それならいい」

 社長はニヤリと嫌な笑みを浮かべる。


 僕は、大事なことを思い出した。

「社長!野上さんは?」

 社長は暗い顔をして、目を逸らす。

 まさか、そんな、嘘だ。


「野上はな………………………………………………無事だ」


「へ?」

「だから、野上は無事だよ。なんだ、無事じゃないほうが良かったのか?」

「紛らわしいですよ!」

 思わず怒鳴る。

「静かにしろ。此処は病院だぞ」

 誰のせいだと思っているんだ。しかし、言っていることは正論だけに何も言い返せない。それよりも、野上さんのことを聞かなければいけない

「本当に無事なんですね」

「ああ、無事だ」

「良かった」

 ほっと胸をなでおろす。

 それを見た社長は僕にデコピンをした。かなり痛い。

「自分の心配をしろ。野上より、お前の方が重傷だったんだぞ」

「え?」

 あの時、瀕死だったのは野上さんだ。僕の傷と言ったら、腕の怪我だけだろう。

 僕は、腕を見た。腕の傷は綺麗に縫合されている。


「お前が気を失ってから、一カ月経つんだぞ」

「一カ月!?」

 また、叫んでしまった。

「そんなに寝てたんですか?」

「ああ、当然その間のお前の給料はカットだからな。それと此処の病院代も立て替えておいたから、後で払えよ」

 社長はとんでもないことを言った。周りを見るが、此処には僕しか怪我人がいない、つまりは個室だ。当然ながら、個室は高い。

「ちょっと、待ってくださいよ!こういうのって労災が下りるんじゃないんですか?」

「馬鹿か、下りるわけないだろう。そもそも、うちは労災には入っていない」

「はい?」

「求人の加入保険にも、労災なんて書いてなかっただろう」

 確かに書いていなかった。しかし、それは違法ではないのか?

「はっ」と社長は鼻で笑う。

「うちの会社に法律が適用されると本気で思うのか?」

「………………」

 無理だろう。分かっている。この会社は、法律などと別次元にあることぐらい分かっている。それでも、言わなければならない。

 だが、社長はそれを予期していたように言った。

「なんなら、労働基準局にでも相談するか?億が一、労働基準局が動いて、うちが潰れでもしたら、その時点でお前は、ジ・エンドだぞ?」

「くっ!」

 その通りだ。この会社がなくなると僕の命に係わる。

 完全に僕の負けだった。

 社長はそんな僕を見て、「ケタケタ」と実に楽しそうに笑った。


 お金は、友人などから借りるしかないだろう。こうやって、借金がどんどん増えていくのではないだろうか?お金を稼ぐための労働なのになぜ、お金が逃げるのだろうか?この世は理不尽だ。

 この件は、後で考えることにしよう。僕には、まだ社長に聞かなくてはいけないことがある。

「社長」

「なんだ?」

 社長はさっきから機嫌がいい、何かいいことでもあったのだろうか?

 気になるが、それよりも大事なことがある。僕は社長に単刀直入に聞いた。


「ランさんは何者ですか?」


機嫌が良かった社長の顔が不満に染まる。

「悪いが、寝ている間にお前の記憶は見せてもらった」

「記憶をですか?」

「ああ、問題あるか?」

 問題は大アリだが、口で説明する手間を省くことはできた。

「僕が入社した日、社長は確か、ランさんのことを『運が良ければ会えるよ。いや、運が悪かったらかな?』と言っていましたよね。それに、会社に来ていないことを認識できないよなことも言っていました。あれは、どういうことですか?」

 社長は僕を見た。

「驚いた。よく覚えていたな」

 子供を褒めるような口調で、そう言った。

「ランは、相手が自分に対する認識を操作する力を持っていた。この力は相手に自分の存在を知覚させなかったり、逆に自分の存在感を強くしたりすることができた。記憶まで操作できるとは思わなかった」

 社長は、溜息を吐く。

「その力を使って、いつの間に帰ってたり、いつの間にか其処にいたりした」

 意外だ。仕事に支障をきたす社員を雇うなんて、強欲な社長らしくないように思う。

「そんな人をよく雇っていましたね」

「仕事はできたからな。出勤日数は社員の誰よりも低いくせに、社員の誰よりも稼いでいた。だから、多少のことには目を瞑っていた」

 前言撤回。実に社長らしい。

「口には出さなかったが岡島が、かなり迷惑を受けていた。正直、社員の間ではあまり好かれていなかったな。会えば、お前もかなり迷惑を受けると思った」

 実際かなり迷惑を受けた。だが、僕が受けた迷惑などどうでもいい。野上さんを傷つけたことはやはり、許せない。


「それで、彼女は今どこに?」

 また、野上さんを狙ってくるかもしれない。

「分からん」

「……そうですか」

 社長の答えに僕は肩を落とした。そんな僕を見て社長は明るく言った。

「奴がまた襲ってくるかもしれないと考えているのなら、しばらくは大丈夫だ」

「どういう意味です?」

 社長はニヤリと笑う。

「復活した野上が、奴をかなり痛めつけたらしい。両腕を千切り、腹を深く抉り、目玉を……」

「もういいです」

 思わず社長の話を制する。社長は面白くなさそうな顔をした。

「ここからが面白いんだがな、まあいい。奴は深手を負ったが、野上の隙をついて逃げ出したらしい。野上も復活したばかりで体力的に奴を負うのは無理だった。だが、奴のダメージも大きい。完全に回復するには時間が掛かるだろう」

 少し、ほっとする。それは、彼女がしばらく襲ってこないことにだろうか?それとも、彼女が生きていることにだろうか?自分でも分からない。


「社長は、ランさんをこれからどうするつもりなんです?」

 僕の質問に社長は、また溜息をつく。

「私は、社員同士の争いには口を出さない。殺し合おうが、喰い合おうが、基本的に干渉しない。だが、今回は別だ」

 社長の声は怒りに満ちていた。

 窓がカタカタと震え、電灯もチカチカと点滅する。

「奴は、依頼主である市の人間を一人、身代わりで殺している。しかも事件自体、奴が引き起こしたことだ。今回はうちに全責任がある。依頼料は当然、パー。しかも事件を揉み消すための金も、全額うち持ちだ。大赤字だよ。許すことはできんな」

 社長にとっては、社員を傷ついたことよりも損害が出たことに怒っている。

「当然、奴はクビだ。もし見つけたら、それ相応の報いを受けてもらう」

「それ相応の報いというのは?」

 僕は、恐る恐る尋ねる。

 社長は、ニヤリと笑っただけで何も答えなかった。

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