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怪奇解決株式会社  作者: カエル
第四章
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39/82

妖艶

「おっ、仲がいいな」


 会社に着くなり、社長にそう言われた。

 まぁ、当たり前だろう。女性と手を繋いだまま出社したのだから。

 

 すでに出勤していた森野さんは「ひゅーひゅー」とまるで小学生のように冷やかし、岡島さんは(怪我も治ったらしく、前以上に仕事に励んでいる)優しい目で僕達を見ている。

 ランさんは、相変わらずニコニコしている。


「やめてください」

 恥ずかしい。

 野上さんを見ると、そんな先輩方のリアクションを完全に無視し、僕の手を握ったまま、自分の席を見たり、僕の席を見たりしている。

 どうやら、どちらの席に行こうか考えているらしい。

 もしかして、勤務時間中もずっと手を握っているつもりなのだろうか?

「あの、野上さん」

 僕が呼ぶと、彼女は僕を見つめ、問いかけてきた。

「どっち?」

 どちらの席で仕事をしたいのか?と言っているのだろう。

 しかし、まさか手を繋いだまま仕事をする訳にもいかないだろう。

 僕は、もう一度、お願いしてみる。


「いいえ、あの、手を放して欲しいのですが……」

「だめ」


 僕のお願いは、瞬時に断られた。

「いえ、あの、さすがに手を繋いだままでは、仕事ができません」

「……」

 野上さんは考え込んでしまった。

「そもそも何で、手を繋いだまま来たんだ?」

 森野さんが僕達に尋ねる。野上さんは森野さんを無視し、考え込んでいる。

 僕が答えるしかないようだ。

 本当は、僕が教えてほしいのだが。

「分かりません。出勤途中で会ったんですが、突然手を握られて……」

 それで今に至る。誓って、僕は何も知らない。

 森野さんは、眉根を上げる。そして、視線を野上さんに移した。

「野上、なんでだ?」

「……」

 森野さんの問いを、野上さんは完全に無視する。

「ぶー」

 無視された森野さんは、頬を膨らませる。


「野上、離してやれ」


 社長の低い声が社内に響く。

 森野さんを完全に無視していた野上さんが顔を上げ、社長を睨む。

 あまりの迫力に息を呑む。

 その時、社長がニヤリと笑った。


「ほら、ナナシが怖がっているぞ」


 野上さんの視線が社長から僕に移る。

 その目はなんだか、悲しそうだった。

「大丈夫ですよ」

「……」

 慌てて否定したが、その目は悲しい目のままだった。

 どうすればいいのだろう?

 僕が頭を巡らせていると、社長がこちらにやって来る。


「離してやれ」


 野上さんが再び、社長を睨もうとした時、社長は野上さんの耳に顔を近づけ、何やら耳打ちした。

 とたんに、僕の手を握っている野上さんの手の力が弱くなる。

 一本ずつ、ゆっくりと指が離れてき、名残惜しそうに手が離れた。


 野上さんは僕の顔をじっと見た後、自分の席に戻った。


「やれやれ」と社長は漏らし、社長室に入って行った。

 岡島さんと森野さんは、しばらく野上さんを見ていたが、やがて自分の仕事に戻った。

 僕も自分の席に座る。


 隣の席のランさんが小声で話し掛けてきた。


「大丈夫?」

「ええ、まあ……」

「野上さんって、何考えてるか分からないのよね」

 ランさんは困ったように言った。

 僕は、野上さんをチラリと見る。彼女は自分の席で寝ていた。

「えっと……」

 返事に困る。

 確かにその通りだが、後輩である僕が言うことではない。

 それに……。

「そうでもありませんよ」

 分からないばかりでもないのだ。初めは分かりにくかったが、よく見れば表情も変化しているし、振舞いからも、ある程度推測できる。

「ふーん」

 ランさんはニコッと笑う。

「ナナシ君って、野上さんのことどう思う?」

「どう、と言うと?」

 質問の意味が分からないので聞き返す。


「好き?」


「……」

 絶句してしまう。

「ほれほれ、どうなのよ?」

 ランさんは肘で何度も突いてくる。答えるまで諦めてくれそうにない。

 野上さんをもう一度チラリと見る。スヤスヤと変わらず寝ていた。

「嫌いではないです」

 彼女には命を助けられたこともある。嫌うはずはない。

「そうじゃなくて」

 ランさんは面白くなさそうは顔をする。

「異性としてはどうなの?」

「……」

 二度目の絶句。

「性格は難しい所もあるけど、美人だし、スタイルも意外といいし、いいと思うよ!」

 三度、野上さんをチラリと見る。スヤスヤと無防備に寝ている。

 野上さんの持つ気配や力に、つい目が行ってしまい、あまり意識したことはなかったが、確かに彼女は美人だと思う。

 綺麗な黒髪に澄んだ目、整った顔。とても妖艶な雰囲気を醸し出している。

 もし、彼女が姿を見せたまま町にいれば、何人もの人間に声を掛けられるだろう。

 そんなことを考えていると、野上さんの目がゆっくりと開いた。首が動き、こちらを向く。僕と野上さんの目が合った。思わず目を逸らす。

 ランさんは、そんな僕をニコニコして見ている。少しカチンときた。


「ランさん」

「なぁに?」

「セクハラです!」


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