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怪奇解決株式会社  作者: カエル
二章
16/82

三猫

 状況を理解するのにそう時間はかからなかった。三首村まで僕達はテレポーテーションしたらしい。野上さんは元神だ。その凄さは理解したつもりだったが、まだまだ認識が甘かった。

 そのとき、あることに気づき「あっ」と声を漏らす。もし、今のを誰かに見られていたとしたら。僕は慌てて辺りを見渡したが、周りには誰もいない。良かった、誰にも見られてないようだ。ほっと胸をなでおろす。

 さて、次はどうしたものだろうか?宿は抑えてあると言っていたが、周りには宿らしきものはない。地図を見ても宿の場所は書いてない。とりあえず社長からもらった書類を見てみる。

 <事件について、野上について、宿について>と書類は三つに分かれていた。<宿について>と書かれている書類を見てみる。


 <お前達の近くにバス停があると思う。そのバスに乗って<三猫>という場所で降りてくれ、その目の前にに宿がある。そこに宿泊してくれ>

 いっそ宿の近くにテレポーテーションしてもいいと思ったが、宿の近くでは人目につくと考えてのことだろう。この場所なら人気はまったくないし、安全だ。しかし、<三猫>という場所で降りろと言われても、どこ行きのバスに乗ればいいのだろうか?僕はバス停をもう一度確認する。

 すぐに理解した。ここのバスの行先は一つで<三猫>も必ず通る。分かりやすくていいが、問題がある。時刻表を見るとバスは一日に三本しか通らない。次のバスが来るのは約二時間後だ。


 ようやくバスが来たのは二時間四十分後だった。一日に三本しか通らないため、そこらへんの時間の感覚もおおざっぱらしい。しかも、あろうことか通り過ぎようとしたので僕達は慌てて(正確には慌てていたのは僕だけだったが)バスを追いかけた。

 なんとかバスに乗ることはできたが、さらにそこから<三猫>まで一時間も掛けてようやく到着した。書類に書いてあった通り、目の前に宿がある。良い言い方をすれば年季の入った、悪く言えば古い宿だった。

 僕達は宿に入る。中は薄暗く、照明はチカチカと切れかけていた。「すみませーん」と大声で叫ぶ。ゆっくりと奥から番頭と女将と思われる男女が現れ、嬉しそうに「よくおいでくださいました」と三つ指をついた。彼らの様子を見るに久しぶりの客なのだろう。

 書類には僕の名前で予約したと書いてあったので、「予約しておいたナナシです」と言った。この名前を自分で言うのはまだ慣れなし、恥ずかしい。女将はニコッと笑顔で返した。


「お待ちしたおりましたナナシ様。おひとり様ですね」


「え?」という小さな声が口から洩れた。

 野上さんを見て、再び女将と番頭を見ると二人は不思議そうな顔をしていた。間違いない二人には野上さんの姿が見えていない。僕は慌てて「そうです」と答えた。妙な間ができたが、女将は笑顔で「こちらです」と部屋に案内してくれた。

 なるほど、野上さんは普通の人間には見えないのか。社長が「野上には人間のパートナーがいる」と言っていたのはこのことだったのだ。待てよ、確かこの宿の宿泊費は依頼者負担だった。まさか社長、二人分の宿泊費を請求するつもりではないだろうな?あの社長ならありえる。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 部屋に案内されたが、部屋の中も薄暗く、日の光もあまり入っていない。 それよりも問題だったのが部屋中を見たこともない妙な生き物がたくさん歩き回っていることだ。女将は気にしている様子がなかったのでおそらく、現実の生物ではない。妖怪とか精霊とか呼ばれている怪奇生物の類だろう。このような、人になかなか使われていない場所は怪奇生物にとって絶好の住処になる。

 百足やゴキブリのような虫に似ているもの(大きさは実際の倍はある)ネズミと蛇を合わせたようなものなどが、うようよいる。小型で低級のものは人間を襲うことはまずないが、気持ち悪い。ここで寝泊まりするのは正直つらい。

 野上さんは平気なのかと彼女の様子を窺ってみる。彼女は部屋を歩き回る生物達をじっと見ている。不意に彼女はかがみ、足元の怪奇生物をガシッと掴んだ。

 

 そして、それを口に放り込むとそのままゴクリと飲んだ。


 野上さんはニヤリと笑った。いや、笑ったのではない。両頬に切れ目が入り口がガバッと開いた。さらに目が三倍ほど大きくなる。髪は変化し、イソギンチャクの触手のようになった。触手のような髪が伸び、一匹の怪奇生物を捕まえた。

 それに野上さんは齧り付く、そのままゴクンと丸呑みした。その後も捕まえては飲み込む、捕まえては飲み込むを繰り返す。

 唖然として動けない僕を野上さんは一瞥した。そして、触手と化した髪で捕まえた怪奇生物を目の前に差し出した。

「……べ……る?」

 野上さんの問いに、僕は全力で首を横に振った。


 二分もかからず部屋の怪奇生物はすっかり野上さんが喰いつくし、いなくなってしまった。満腹になったのか、野上さんは部屋の隅で体育座りで眠っている。その姿はすっかり元に戻っていた。

 僕は<野上について>と書かれた書類に目を通す。<事件について>、<宿について>と書かれたものはバスを待っている間に目を通していたが、仕事のことを頭に叩き込むことに夢中で、野上さんに書かれた書類を読むのをすっかり忘れていた。

 書類には野上さんのことが、いくつか書かれていた。まとめるとこんな感じになる。


①野上さんは普通の人間には見えないが自分の意志で見せることもできる

②野上さんは小型の怪奇生物が大好物なので用意すると喜ぶ。

③様々な能力(念動力、未来予知、透視、テレポート、変身能力など)を持っているが、すべて把握できていない。

④何を考えているかよく分からない、しっかり見張ってくれ。 


 あまり役に立たない。でも、読んでおけば少なくともさっきの驚きは少なくて済んだだろう。とりあえず<事件について>と書かれた書類をもう一度読む。野上さんのことについては後回しにすることにした。

 書類の冒頭には<依頼者は十九時に宿を訪ねてくることになっている。それまでに事件のことを頭に入れておいてくれ>と書いてあった。

 僕は部屋の時計を確認する。テレポートしたのが十三時過ぎ、バスの待ち時間とバスに乗ってここまで約三時間四十分、時刻はもうすぐ十七時になる。依頼者が来るまであと二時間だ。もう一度事件を頭に叩き込むことにした。

 

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