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怪奇解決株式会社  作者: カエル
二章
15/82

三首村

「すまないが、今日はお前の仕事はないんだ」

 やる気満々だったが、出鼻を挫かれてしまった。

「じゃあ、今日何をすれば……」

「う~ん、そうだな。掃除でもしておいてくれ」

「……分かりました」


 最初は仕事に夢中で気が付かなかったが、この部屋はかなり汚れている。机も窓も汚れており、特に窓は酷かった。

 曇っており、サッシには埃やゴミが溜まり、開かなかった。いつから掃除してないんだろう。おそらく、業者に払う金がもったいないのではないだろうか。

 まず、机を雑巾で拭く。しばらく拭くと綺麗になった。と思ったら「キュー」という気持ちよさそうな鳴き声が机から聞こえた。引き出しを開けるが何もいない。もしかして、この机も生きてるのだろうか。しかし、それっきり声は聞こえなかった。

 次は窓を拭く、曇っていた窓を拭くと外の景色が、拭いた箇所だけ見えた。しかし、外の景色は僕が知っているものとは違うものが見える。さらに拭いてみる。外には見たこともない建物、馬に似た何かが引いている馬車、人かどうかもよく分からないものが歩いていた。

「ああ、ナナシ窓は開けるなよ!」

 僕が見えてるかのように、社長室から社長の声が飛んできた。大丈夫です「開けろ!」と言われても多分、開けません。

 窓掃除は程々にしておいた。


 掃除も終わり、本格的に何もすることがなくなってしまった。

 今、オフィスにいるのは僕と野上さんだけだ。社長は「何かあったら声を掛けろ」と言ったきり、社長室に籠ってしまい、森野さんはいつの間にか仕事に出掛けてしまっていた。岡島さんは休み。野上さんは僕が掃除をしている間も全く動かなかった。どうやら眠っているようだ。

 時間を持て余す。この会社は自分から売り込む営業のようなことはしないようだ。つまり、仕事は依頼してくる客次第なので、忙しい時は死ぬほど忙しいのに暇なときは死ぬほど暇なのだ。正直どちらもつらい。


 勉強するようなものは何かないかと事務所を探すが、何もない。諦めて机に座ったとき、突然「バン」と引き出しが開いた。その中にはさっき開いた時にはなかった一冊の本があった。

 もしかして、汚れを拭いた礼だろうか?その本の表紙は真っ黒でタイトルも何も書いてなかった。とりあえず読んでみようと本を開き掛けた時、キンコーンカンコーンと音がした。確かこれは昼休みの合図だ。時計を見てみると針は十二時を刺していた。

「休憩してきていいぞ~」

 と社長室から声が聞こえた。今日は外で食べようと思っていたので弁当は持ってきていない。本は帰ってきてから読むとしよう。僕は「分かりました」と社長に返事をした。野上さんを誘おうと思ったが、まだ寝ている。起こしても悪いので何も言わずに外に出た。


 昼食は岡島さんが連れて行ってくれた「オウマ」にでも行こうかと思った。しかし、実際に行ってみるとそこは空き地になっている。

 場所は間違っていない。時間もこの時間にだった。他にも出現する条件があるのだろうか?

 仕方がないので、近くにあった定食屋で昼食をとる。そこは味が悪い上に値段も高かった。

 昼食から戻り、会社のドアを開けると野上さんが立っていた。同じようなことが何回かあったが、全く慣れない。何かと聞こうとしたら、野上さんは僕の手をとって歩き出し、社長室の前まで連れてきた。

 そして、ノックもせずに社長室のドアをいきなり開き、僕の手を引っ張って中に入った。僕は慌てて「失礼します」と叫ぶと社長は片手を上げて「悪いな」と一言った。


「実は、さっき仕事が入ってな。急で悪いが、お前達に頼みたい」

「僕達にですか?」

「ああ、依頼は二つあってな。片方は岡島にやらせようと思っている。森野は今、別の仕事を抱えているし、私も手が離せない。ある理由で野上が仕事をするにはパートナーとなる人間が必要になる。断ってもいいんだが、結構高額な報酬が期待できる。ぜひともやってもやって欲しい」

 野上さんと二人でというのが少しだけ不安だ。上手くコミュニケーションをとれるだろうか?でも、前の仕事では何もできなかった。今度は何かしたいという思いが胸に渦巻いていた。

「分かりました。やります」

 社長はニヤリと笑った。視線を僕から野上さんに移す。

「野上もいいか?」

 こくんと野上さんは頷いた。

「よし、決まりだな。本当に助かる。大変だとは思うが頑張ってこい」

「はい!」

 自然と気合が入る。頑張ろう。


「ところで……」

 社長が不思議そうな顔をして、僕と野上さんを見た。

「お前らはいつまで手を繋いでいるんだ?」

 それは、僕も聞きたかった。さっきから野上さんが離してくれないので、手が痛い。


「場所はここだ。三首村」

 何とも不思議な名前の村だ。しかし、それよりも疑問な点が一つあった。

「あの、ここから大分離れているんですが……」

 とても今日一日で仕事を終わらし、日帰りできる距離ではない。

「大丈夫だ。宿は抑えている。宿代は依頼者が払うから心配ないぞ!」

 社長はとても嬉しそうだった。どうやら一泊決定らしい。いや、それどころか事件が解決するまで何日も泊まる必要もあるかもしれない。引き受けたことを少し後悔した。

「事件の詳細はこれに書いてあるが、依頼者からも直接聞いてくれ。あと、三首村までの地図」

 社長に事件のことが書いてある書類と地図を渡される。腹を決めるしかない。

「分かりました。では行ってきます」

「うん、行って来い。あっ、それと言い忘れてた」

「何ですか?」

「三首村は、電波届かないから」

 社長はあっさり言った。


「そういえば、どうやって行くんですか?」

 三首村まではかなり遠い、新幹線や飛行機で行こうとしても予約を取らなければならないが、今から取れるとは思えない。まさか車で行けと言うつもりではないだろうな?

 社長はニヤリと笑う。

「ナナシ、野上に地図を見せてやれ」

 僕は野上さんに地図を見せる。野上さんは一瞬地図を見ると、僕に返した。そして僕に向けて手を差し出す。

 社長を見るが、心配ないというように一回頷いた。僕は恐る恐る彼女の手を取る。さっき、やっと離してもらった手をまた握った。

「目をつぶったほうがいいぞ」

 と社長が言うので僕は目を閉じた。


 室内にいるはずなのに生暖かい風が顔に当たった。周りからは木の葉が風揺れる音や土の臭いもした。思わず目を開ける。目の前には目を閉じる前と同じように野上さんがいた。違っていたのは周りの景色だ。僕と野上さんは外にいたのだ。

 僕は動揺しながらも辺りを見渡し、近くにあったバス停を確認する。


 そこには「三首村」と書いてあった。

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