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怪奇解決株式会社  作者: カエル
一章
14/82

徴収

 小村楓は何が起こったのか分からなかった。

 日本刀で襲いかかったと思ったら、自分の体は宙を舞って数メートル後ろの壁に叩きつけられていた。叩きつけられた衝撃で息止まり、日本刀を落としてしまう。

 だが体は落ちることなく、そのまま見えない力で壁に押し付けられている。息ができない、骨がミシミシとなる音が聞こえる。激痛が体を駆け抜けた。


「まったく、面倒くさいな」


 岡島の口調が変わった。口調だけではない声も表情も雰囲気がまるで別人のようになった。

「面倒くさいが仕方ない、トラブルを解決するのは上司の役割だからな」

 岡島はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

「あ……な……た……だ……れ?」

「ん?ああっ、そうか、そうか、君は私とは初対面だったね」


「川鳥鷺、社長だ」

 岡島の姿をした別人はそう名乗った。


「話はこの男を通じて、聞かせてもらっていた。君は支払いを拒否したばかりか、あろうことか襲いかかってきた」

 川鳥鷺は壁に貼り付けられている小村楓に話しかける。彼女の苦痛などまるで無視していた。

「まあ、襲いかかった件は不問にしていい。私は、この後も仕事が立て込んいてね。チャッチャと終わらせてしまいたい」

 散らばっていた書類から一枚の紙が空中に舞う、紙はヒラヒラと川鳥鷺の元に来た。川鳥鷺は空中の紙をとり、小村楓に見せる。

「ここにサインしてくれ、それでこの家の財産は私達のものになる」

小村楓に怒りが満ちる。怒りで体の痛みなど吹き飛んだ。

 

「ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!」


 血走った眼で小村楓は訴える。その表情はとても人間には見えなかった。

「これは私のものだ!誰にも渡さない!渡さない!渡さない!渡さない!」

 川鳥鷺は「やれやれ」と首を振る。

「私は、支払いを拒否した人間から強制的に徴収することができる。それに加えてペナルティの支払いをさせることもできる。それは、君のためにならない。素直にサインしたほうが……」

「黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れ!黙れーー!」

「やれやれ、何を言っても無駄か、ならしかたない」


 川鳥鷺は小村楓の頭を鷲掴みにする。そして何かを唱えると鷲掴みにした頭が光りだした。

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 小村楓の悲鳴が家中に響いたが、すぐに止んだ。



「おはようございます!」

 と僕は元気よく挨拶をする。一日休んだおかげか、疲れはすっかりなくなっていた。

「おはよう」

「おはよう!」

「……」

 それぞれ個性的な返事が返ってきた。森野さんが僕に近づき肩をバンバンと叩いた。かなり痛い。

「一昨日は大変だったらしいな!でも元気そうで何よりだ!」

「はぁ、ありがとうござ……」

「困ったことがあれば何でも相談しろよ!俺達は仲間だ!」

「は、はい!」

 森野さんはまた肩をバンバンと叩くと自分の席に戻った。


 僕は自分の席に戻ると辺りを見回した。そういえば今日は岡島さんは休みだったなと思う。仕事のことが気になっていたので社長に聞いてみた。

「社長、あの後どうなりましたか?」

「ん?ああ、仕事は全部、岡島が終わらせてくれたよ」

「そうですか」

 何もかも岡島さんに任せてしまった。明日お礼を言っておこう。

「小村楓さんの様子について何か言ってませんでしたか?」

 彼女は今回のことで傷ついただろう。ずっと心配だった。

「ああ、岡島の話ではだいぶ元気になったと言っていた。お前にも礼を言っておいてくれってさ」

「そうですか!」

 元気になったのなら良かった。彼女はひどい目にあった。これからは幸せになってもらいたい。

 なんだかこっちまで元気になってきた。僕は社長に聞く。


「社長!今日の仕事はなんでしょう?」



 あるところに一件の空き家がある。その空き家は十何年も前に建てられたものだ。初めは男女二人が住んだ。

 その二人の間に子供ができ、家族となった。家族はどんどん増えたが、あるとき母親が死んだ。母親が死ぬと家族はバラバラになり始めた。

 やがて成長した子供は一人また一人と家を出た。父親も死ぬと娘が一人だけとなった。そして、最後に残っていた娘も消えた。

 今、空き家の中には何もない。家具も本も掛け軸も日本刀も壺も、そして蓄えられた財産も何もない。

 やがて、その空き家は呪われた家として近所の人間に噂される。何もなくなった空き家は取り壊されるその時まで、そこに在り続ける。

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