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怪奇解決株式会社  作者: カエル
一章
13/82

請求

「やばい」

 家に帰った時には疲れですぐに寝てしまった。休みなので二度寝、三度寝と繰り返す内に、もう昼に近くになってしまった。よほど疲れていたらしい。このままでは寝るだけで休みが終わってしまう。僕は遅めの朝食を食べることにした。


 <ピンポーン>とチャイムが鳴った。小村楓はドアを開ける。そこには見知った顔があった。

「おはようございます」

 その男はニコリと微笑んだ。「岡島」、事件を解決してくれた会社の社員だった。


「具合はどうですか?」

「ええ、大丈夫です」

 本当はまだ疲れている。普段ならこんな時に来られては不機嫌になってしまうが、今はとても気分が良い。

 居間に通し、お茶を出す。岡島は礼を言ってお茶を一口飲んだ。

「事件を解決していただき、本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げる。岡島は慌てて手を振った。

「いえいえ、仕事ですから」

 岡島はまた一口お茶を飲んだ。

「それで今日は?」

「ああ、それはですね」

 岡島はカバンから書類の束を取り出し、テーブルの上に置いた。

「本日は、料金の見積もりに参りました」

 小村楓は、そういえば、その話をまだしていないと気付く。

「おいくらでしょう?」

「こちらになります」

 書類の束から一枚の紙を取り出し、彼女に差し出す。それを見た瞬間、小村楓は自分の目を疑った。

「何かの間違いでしょう?」

「いいえ」

 岡島は首を横に振る。


「今回の事件の解決料は、三億八千六百万円です」

 岡島はいつものようにニコリと微笑んだ。


「ふざけないでください!」

 小村楓は激怒して、書類をテーブルにたたきつけた。

「別にふざけてはいませんよ」

 岡島の笑顔は変わらない。彼は駄々をこねる子供をあやすような口調で優しく言った。

「書類を見ていただければわかりますが、わが社では請求させていただく金額は一律ではなく、お客様の財産によって変動します。これはわが社のホームページにも記載しています」

 確かにホームページの料金の欄にはそんなことが書いてあった。しかし、到底納得できない。

「まことに勝手ながら、この家の全財産は調査済みです。詳しいことはそちらの書類に記載されてあります」

 書類を片っ端から確認する。そして書類を強く握りしめる。書類が彼女の手の中でクシャと歪んだ。

「この家の財産がこんなにあるはずないでしょ!」

 小村楓は怒り狂う。もう初めて事務所に来た時の様子はみじんも残っていなかった。


「何なんですかこの金額!うちにこんな額のお金……」

「ありますよね」

 岡島は床を指差す。

「この下に、隠し財産が」


「な、なんのことですか?あなたまで姉の妄言を信じるというのですか?」

 小村楓は怒り心頭と言った様子だったが、わずかに動揺している。

「家の中を調査していた時、ある一か所だけ妙な部屋がありました。その部屋だけ隙間風が吹いていたんです。他の場所はそんな隙間風は吹いていませんでした。ということはどこかに大きな空間がありそこから風が入り込んでいる可能性が高いということです。そう、今私達がいるこの部屋のことです」

 小村楓の目には、もう怒りはなかった。動揺からか視線が泳いでいる。


「昨日の夜、三人でお姉さんを待っている間に少し調べました。すると部屋の畳の下に一種の結界のようなものが張り巡らしてあるのが分かりました」

 いつの間にそんなことを調べたのだ?小村楓は思わず唾を飲む。

 その時、岡島が立ち上がり、部屋を歩き回る。そして、掛け軸の前でピタリと止まった。掛け軸に触ろうとする。

「かっ、勝手に触らないで!」

 制止の声を無視して、岡島は掛け軸に触れた。しかし、何も起こらない。

小村楓はほっと息を吐く。それを見ていた岡島は小村楓の腕をつかんだ。

「なっ、何するんですか?離してください!」

「ちょっと、こちらへ」

 腕を引き半ば強引に掛け軸の前に立たせる。そして掴んだ腕を掛け軸に触らせようとする。

「いや、離して」

 小村楓は抵抗したが、岡島の力は強く振りほどけない。やがて、小村楓の指先が掛け軸に触れた。


 小村楓の指先が触れた瞬間、部屋全体が揺れだした。そして畳の一枚がバンという音とともに浮き上がった。岡島は浮き上がった畳を剥がす。そこには、この部屋にはとても不釣り合いな、黄金の金塊と宝石がぎっしり詰まっていた。


「この掛け軸に特定の人物が触れたときにだけ、仕掛けが発動するようになっていたんですね?お姉さんがいくら探しても見つからないわけです」

 小村楓はがっくりとうなだれる。

「これを隠していたのは独り占めするつもりだったんですか?」

 小村楓の顔に再び怒りが浮かぶ。


「そうよ!私はいつもいつも兄や姉にいじめられていた。叩かれたり、お気に入りの人形を壊されたり、悪口を言われたり、もうたくさんだった!でもお父さんだけは助けてくれた」

 小村楓の目から涙が溢れ出す。

「姉はお父さんはいつも暴力を振るっていたって言ってたけど、それは私を助けためだった。兄や姉が私をいじめたら、それを叱ってくれた。兄や姉をこの家から追い出したのだって私のためだった。やっとお父さんと二人だけで暮らせると思っていたのに!なんでお父さんが死ぬのよ!なんで!」


「なるほど、あなたは欲に目がくらんだのではなく……」

「そうよ!ここにあるのは全部お父さんが一生懸命貯めたもの。お父さんは自分に何かあった時のために私に残してくれた!だけど私はそれを使うつもりはない。お父さんの宝物と生きていく!邪魔する奴は許さない」

 岡島はいつものように笑顔で問いかける。

「もしかして、お姉さんが犯人だとあなたは気づいていました?」

 小村楓はニヤリと笑う。

「『死ね』、『殺す』だの小さいころからさんざん言われていたからね。声は変えてあったけどあの言い方は絶対、姉のものだった!」

「気付かない振りをしていたのは、復讐からですか?」

「そうよ、姉は頭が悪くて、短気だから何も知らない振りをして被害者ぶってればかってに自滅するのは目に見えていた。ちょっと危ない目に合う可能性は高かったど、思い通り姉は見事に自滅した。住居不法侵入とおまけに殺人未遂!しばらくは刑務所だろうね!ざまあみろ!」

 小村楓は愉快そうに笑った。笑いが収まると小村楓は居間にある日本刀を抜き、岡島に向ける。

「さあ、お前も出ていけ、でないと……」

「殺しますか?」

 岡島は笑う。

「今のあなたの姿……」

 そして、哀れなものを見る目で言った。


「お姉さんそっくりですよ」


 その言葉を聞いた小村楓は、はっとしたように真顔になった。その顔は絶望、羞恥と変わっていき、最後はまた怒りに戻った。


「うるさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!」


 逆上した小村茜は日本刀を手に岡島に襲いかかった。

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