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三題1

作者: のぺ

挿絵(By みてみん)

ほろびゆく珊瑚礁を背にセフィアは考えた。このままでは種族は滅んでしまうだろう。

海の水は汚れ死んだ魚が浮かんでいる。あんなに色とりどりの珊瑚で埋め尽くされていた海の楽園は、とうに灰色で染まってしまった。セフィアの水色の尾は汚れ、鱗も光を失っている。

海面から顔を出した彼女は、空に浮かんだ飛行機雲を眺めた。海を離れた遠い世界には、私たちの知らない世界が広がっているという。そこに住む人々は機械を操り、科学を支配し、何もかもを思い通りに操っているという。誰もが丸い硝子を顔に装着し、慌ただしく生活しているらしい。8本の足を持つ大ばば様がおっしゃっていた。その世界では、人の生き死にも思いのままなんだとか。


「セフィアさん、お客様ですよ」

店番のキルが海面から顔を出した。少し不機嫌な顔をしてセフィアが応える。

「材料がないから無理。珊瑚はみんな死んじゃったし、真珠も何もかも黒く濁ってる。作ってほしけりゃ、材料を持ってこいって言ってきて。まぁ無理だろうけど」

小首をかしげキルが言う。

「それが持って来てらっしゃいます。しかもお客様、見た事のない姿なんですよ」


お客は見た事もない姿をしていた。いや正確に言えば、遠くから眺めた事なら2、3度ある。全身黒ずくめのぴったりとしたスーツ。大きなボンベを背中に乗せたお客のひれは、体の真ん中から2つに分かれていた。

「めずらしいヒレをお持ちですね」

「ははっ、これは足と言うんですよ」

お客の口から泡がこぼれた。

「世にも見事な装飾を作られると聞いて、はるばる遠方からやって参りました。若と申します。装飾品の作成をお願いしたい」

そういってお客は小さな箱を取り出した。中に入っていたのは、赤く大きな水晶と小粒の金、そして淡い桃色の小さな珊瑚だった。

「今は—作れない。とてもそんな気になれないわ」

「どうしてですか?」

「見ればわかるでしょ、この海。すっごく汚くなっちゃって…このままだと私たち死んじゃうわ」

セフィアは水色の尾を揺らし項垂れた。キルはそっぽを向き、黒く汚れた自身の鱗をなでた。

「どうしてこんなことになったんでしょうね、ソフィアさん。昔はきれいな海だったのに…」

お客は何も言わずに下を向いていたが、おもむろに口を開いた。

「しかし、困る。私の花嫁は世界一わがままな女性なのです。名はかぐやと言って、世界一きらびやかな髪飾りを差し出せという。差し出せなければ、私と結婚しないと言うのです。お願いです、この宝石たちを使って、髪飾りを作ってください」

「そんな馬鹿な娘、やめとけば?」

「お礼ならいくらでも出します。お願いです」

「そうね…私たちの海をきれいにしてくれるっていうなら、考えるけど」


数日後、お客は見た事もない大きな船にのり、見た事もない大きな銀色に光る機械を持って来た。

「これは転移装置です。これであなた方はきれいな海に住めるようになるでしょう」

「転移装置…?よくわかんないけど、海を浄化する機械なの?」

セフィアはお客を眺め、一つの考えにいたった。そうか、この客人は遠い世界から来た人なのか。とすれば、もしかしたら海をきれいにすることも可能かもしれない。

「いいですか、機械を発動させますよ。あ、ぽちっとな」

—ぽぽぽぽーん!—

奇妙な音と共に、周囲の景色が一変した。美しいビビッド色の珊瑚礁、澄んだ海。

喜んだソフィアは材料を髪飾りに作り替え、クジラの宅配便に頼んでお客まで配達してもらった。

本当は、何も根本的な解決になってないことを知らずに。


「きれいな海ですね、ソフィアさん!」

「そうね、ところで私の店はどこにいったのかしら?」



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― 新着の感想 ―
[一言] 40分で書き上げてこれはなかなかすごい。 楽しんで読ませてもらいました
2011/09/03 01:22 退会済み
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