第9話 霧の盟約
ネブラは一瞬、何が起こったのかわからなかった。
大量の氷の刃を創り出し、秋水を刺し殺そうとした刹那、自分の全身に衝撃が走った。
それはどうやらあの妙な剣から放たれた稲妻のようで、氷の刃を作り出した直後の自分を司る素材、空間と言ってもいいが、『霧』そのものへのダメージだった。
一瞬の出来事で集中が切れ、空気中に創り出していた氷の刃が派手に割れ、ばらばらと床にちらばる。
その瞬間、霧に身を隠していたネブラの姿もほんの数秒だが具現化する。
秋水はその一瞬を見逃さなかった。
刀に水のさらに上位、氷のイメージを強く練り込み、ネブラに向かって突きの要領で刀を一閃した。
刀身から激しい冷気がネブラを包み、氷に包まれる。
その氷の塊を秋水は瞬時に千切りにした。
そこにはもはやキラキラと光る小さな氷の破片しかない。
『どうやら勝負あったみたいだな。』
試合を見ていたもう一人の秋水が口を開く。
氷にされ、千切りにされ、ちりぢりになったネブラは瞬時に元の姿に戻ったようだ。
ネブラ「なにを言ってやがる! 俺はまだまだやれるぜぇ!? 勝負はこれからだ!!!」
『馬鹿かお前は、ほんとにどちらか死ぬまで決闘を続ける気じゃねえだろうな?』
ネブラ「あたりめえじゃねえか! こいつは俺がぶっ殺す!」
『はぁ・・・・全く、熱くなりすぎだ! これからお前はそこの秋水と手をとりあってもらうんだ!』
ネブラ「あぁん? 手をとりあうだぁ? 一体どういうことだ!」
『まぁよく考えてみろ、煉獄での闇との小競り合いのせいで、お前はいま宿主を失い、この霧の森の中でしかまともに存在も出来ないんだろう?』
『そこで、お前を一瞬たりとも戦闘不能にするような見事な剣の使い手と契約でもしてみろ、お前は自由だ、お前の強力な霧の力を合わせれば世界も見えるぜ?』
と、門の主はどこぞの裏セールスマンのような口調でネブラを口説く。
秋水はこんな門の主の思惑がバレバレの話に誰が乗るんだと思っていたら、違った。
ネブラ「契約・・・・自由・・・・世界・・・・いいねえぇ!!!」
至極単純である。
秋水「契約? どういうことだ?」
『さすがに、妙な剣を使うお前ほどの達人でも、剣一本でこの世を渡るのはちょっとキツいってことさ。』
『そこで、いま俺はお前のことを試した、そしてお前は合格したってことだよ。』
秋水「合格? なんかくれんの?」
『力だ。』
秋水「力?」
『任せておけ、めんどくさい契約は俺が全部やらせてやる。』
秋水は状況が全く読めなかったが、もう一人の秋水が淡々となにか意味ありげなことを言い始めたので黙っておとなしく見ていることにした。
『我、世界の果てに在りし霧の門の守護者ネーベルヴェヒター、霧の盟約の元、これより精霊契約を執り行う。』
『契約人、異世界より出てし剣の達人、その剣は霧の精霊との盟約の一戦にて灼熱を纏い、凍てつく風で一閃し、稲妻を放った。』
『契約せしは霧の精霊ネブラ、此の世界における霧の理を統べる者。』
『我、霧の門の守護者がここに両者の契約認め、霧の盟約を結ぶ。』
守護者であり、もう一人の『秋水』が盟約文を言い終わると秋水の体が輝き始める。
秋水「うわっ!? なんだ!?」
『あわてるな、すぐに終わる。』
そう言うと、すぐに光は瞬いて収まった。
秋水の頭の中に、霧の精霊の『全て』が流れ込んでくる、それは頭から、全身に馴染むように秋水の体を流れた。
秋水「すげぇ! これが精霊の力・・・・。」
ネブラ「つまりそういうこった、これからよろしくな、秋水!」
秋水「こりゃあ、これから先が楽しくなりそうだ! 旅や冒険はやっぱり一人じゃだめだな、仲間がいねえと!」
『仲間っつーか、お前らはもはや一身同体だ、ま、頑張って組織潰してくれや。』
もう一人の『秋水』が笑顔でそう言う。
秋水「任せろ! どんなやろうもぶっ潰してやる!」
ネブラ「こいつ・・・・完全にこの世界のことナメてる。」
『・・・・だな。』
秋水「なんだとぉ!? 舐めてなんかねえよ!」
ネブラと『秋水』が笑う。
秋水「わ、笑うんじゃねえぇ!!」
それから暫く、門の中は笑い声が響き、賑やかな時が過ぎていった・・・・。
・・・・いま此の瞬間、この世界の果ての霧の森に闇が迫っていることも露知らず。
~ここは霧の深い迷いの森~
更新!
ここは大事なシーンだったので時間をかけて、なんども文章読み直して、直し等を入れて最終調整しました^^
一つ一つのクオリティーをどんどん上げていけたらいいなと思いますねぇ。
いつも、ご愛読ありがとうございます!
更新頻度をあまり空けないように、努力します!