第9話 地獄絵図 其の壱
相手は5人の傭兵団、こちらは世紀のスキルマスター(いまは田舎から来た右も左もわからない少年達)という鬼畜な組み合わせの試合が始まろうとしていた。
両チームは闘技場の東側と西側に対峙した。
試合の司会進行の声が会場中に鳴り響く。
『レディース エン ジェントルメェン ボーイズ エン ガァールズ、よくぞいらっしゃいました! 本日の第一試合が間も無く始まります!』
『本日の第一試合はなんとっ! 入り口を間違えて出る事になってしまった哀れな少年少女7人と、それを哀れみ殺しはしないと宣言したお馴染みリベウス傭兵団のスタメンの試合でございます!』
『おおっとぉ? 少年少女の装備はレンタル武器の鉄の剣だぁ! 防具もつけていませんがこれで大丈夫なんですかね。』
会場から野次が飛ぶ。 『さっさと殺っちまえ!』とか『リベウス猟兵団やさしいぃ!!!』など、様々である。
さきほどの男「おいおい兄ちゃんたち、いくら殺さねぇつってもその装備は舐めすぎじゃねえかぁ?」
尚矢「いやいや・・・・わいら重い装備つけるくらいなら精一杯の力を出して戦いたいんですわ・・・・。」
剣徒「それに、僕以外のみんなは6人がかりで村を襲ってきた魔物を1匹倒したことがあるんです! だから少しは剣を扱えるはずです!」
すると会場がどっと笑いに包まれる。
『ぎゃははは! 6人がかりで魔物1匹だとよ!』とか『早く終わって次の試合に行こうぜぇ!』などと叫んでいる。
『では時間がもったいないので1回戦行ってみましょう!!! 試合開始ぃっ!!!』
7人は念のため、女性陣を3人後ろに配置し、男性陣4人を前に展開した。
さきほどの男「まぁ当然の展開だねぇ! 俺達も女子供に剣を向けるのは気が引けちゃうからねぇ!」
男は先頭から突っ込んできた、後の4人も男の後ろから続く。
7人は敵があと10歩ほどのところに来たとき、男性陣4人は四方に、女性陣3人は固まって東ゲートのほうへ潰走する。
さきほどの男「おいおいついに怖気づいたのかぁ!? おい、お前ら1人ずつ男をマークしろ! 俺は女3人をやる!」
傭兵団の残りの4人が四方へ散った尚矢、守武、討魔、剣徒を追う。
初めに追いつかれたのは守武であった。
男が剣を振り下ろしてくる、守武は剣の経験が無いのでリアルに焦りながら受ける。
守武「うぁ・・・・ちょ、危なっ!」
男は容赦無く剣戟を放ってくる。
2発、3発と剣と剣がぶつかり合う金属音が響く。
ついに守武は剣を跳ね上げられ、へたりこんだ股の間に剣を突き立てられた。
猟兵団の男「殺しはしねえからこれでお前はゲームオーバーだなガキんちょ。」
守武「は・・・・はい・・・・。」
そのころ、尚矢も剣徒も討魔も、そして女性陣も防戦一方を装い、すでに限界が来ていた。
そこで尚矢が合図を出す。
尚矢が持っていた短剣を空高く投げる。
傭兵団の男は一瞬それに気を取られる。
戦意喪失のフリ、をしていた7人は一斉に東ゲートの前に集まり、さきほどと同じ陣を組む。
傭兵団は一瞬驚く素振りを見せるものの、すぐに追撃にかかろうとする。
すると一陣の風が傭兵団の持っていた剣やら槍を巻き上げる。
さきほどの男「な、なんだこの風は・・・・。」
傭兵団の男「うああぁぁ! 剣が風に巻き上げられた!」
尚矢「いやぁ・・・・。 そろそろお宅らの相手するんも疲れましてねぇ・・・・。」
さきほどの男「なんだと?」
剣徒「さすがに剣で弱いフリするのは骨が折れましたよ・・・・。 錬度が低いにもほどがありますね。」
討魔「カスだな。 お前ら。」
ひどい言われである。
さきほどの男は思った、なぜだ? こいつらはさっきまで防戦一方だったはず、なぜこんなにも強気なんだ・・・・?
そこで男は気づく、あの風の正体に。 しかし自分の意思はそれを認めようとしない。
さきほどの男「ははっ、てめぇら何を強気になってんだぁ? カスだと? てめえらなんざ素手でも小ざかしい虫けらのように扱ってやるよ!!!」
そういって傭兵団5人が殴りかかってくる。
尚矢「ククッ・・・・遠い、遠すぎるで・・・・。」
さきほどの男「なにがだぁ!? おらぁ!!!」
尚矢にむかって鋭い右ストレートをかます。
しかし当たらない、なぜだ?
尚矢「お前らザコとわいらとの実力差が離れすぎっつっとんのじゃ!!!」
尚矢は殴りかかってきた男の後ろに既に周りこんでおり、聖なる槍を首元に突き付けていた。
さきほどの男「お・・・・おおおお前らスキルマスターッ・・・・!!!」
会場全体がざわつき始める。
『スキルマスターだと?』『あのガキ共が!?』『そういえば今年のスキルマスターはまだ成人にも満たないって聞いたぜ。』などと動揺の色が隠せない様子だ。
『おおっとぉぉ!!?? これは一気に形成逆転だぁ!!! まさかこの少年達はスキルマスターという事を隠して戦っていたようです!』
尚矢「じゃあお兄さん、たあぁっぷりと楽しもか・・・・。」
尚矢が飛びっきり悪く、禍々しい笑顔を放つ。
すると槍を突きつけられている男以外の傭兵達が一目散に潰走しはじめた。
地獄絵図 其の弐 に続く。