見つけます、あなたにぴったりな病名を
短編です。
現代の「弱さ」と、その扱われ方について書きました。
気楽に読んでもらえれば十分です。
とあるクリニック。
一見、健康そうな男性を、医師が診察している。
「まだ全快には遠いですねえ」
「いや、そんなことないですよね。
5個のうち、4個は治ってるんじゃないですか?」
「と言われてもねえ、こればかりは。
まだ自覚症状があるっておっしゃってましたよね、前回。
ああ、昨日でしたね。
毎日来るというのはね、心が悲鳴をあげているんですよ。
助けを求めて、ね。本人だけがそれに気付かないんです。
ええ、ええ。不安になるのはわかります。大丈夫です。
我々がついていますからね。心の病は根気よく。
そうですね、今日はちょっと強めのお薬、お出ししておきますね」
「先生…」
「では、そうですね、この一つは”寛解”ということにしておきます。
大丈夫です。お気をつけてお帰りくださいね。
では…。
じゃ、次の方お呼びして」
過酷の一途を辿る現代社会。
ピンチなのに隠されたスキルが発動しない、教育係の悪役令嬢にざまぁが起こらない、といった現代人特有の深刻なストレスに、人々はその幼気な心を傷つけられ、誰に相談することもなく、憔悴の闇に落ちていった。
診療内科クリニックは、そんな「傷ついた片翼の天使」達で繁盛、…もとい溢れていた。
彼らは求めた、万能のグリモワールを。そう、診断書という名のそれを。
神経症について、新たに数多くの病名が追加されていった。
増えていく病名に比例して、多くの人々にその診断が下されていった。
診断書を提出した被雇用者に対し、企業としては不労を認めざるを得なかった。
不労を認めなかったある企業が訴えを起こされた裁判、今月末に結審の予定だが、企業側の敗北が濃厚だ。
GDPは5年前の前年度比プラスを最後にマイナスへ転じ、今年度は前年度比-12%を見込んでいる。
<法律改正(即日適用)>
下記の疾病を特定準々々々疾病とし、治療に当たっては自己負担の割合を10割とします。
また、特定準々々々疾病の診断を受けている国民の皆様からは、特定準々々々疾病名使用税を徴収いたします。
--特定準々々々疾病(一覧)--
・このオレがヨエエエエエのは前世で間違えて封じられた
魔王のそっくりさんだったからだ症候群
・パーティー(同期)で俺だけレベルアップ(昇進)しないのは
モブだからなのかもしれない不眠症
・1000年前の悪役令嬢だけど糾弾も婚約解消もされない
そもそも婚約も申し込まれてないんだけど強迫症
……
国営放送では30分をかけて、すべての特定準々々々疾病名を放送した。
民放のナナフシテレビではCMの都合上、3分の駆け足放送となったため、視聴者から「速すぎて自分の病名と照らし合わせられない」等のクレームが数千件、寄せられた。
件の裁判においても原告側が訴えを取り下げ、近く示談に合意する方向らしい。
そして数年が経過した。
この国は108個くらいの煩悩、もとい病気の根絶をWHOへ報告、世界から称賛を浴びた…のか?
読んでくださり、ありがとうございました。
現代の「弱さ」について、少しだけ角度を変えて書いてみました。
どこか一行でも引っかかるものがあれば幸いです。




