世継ぎ失格
私は皇太子をしばらく観察した。
服の上からでもわかる筋肉の盛り上がり、
ずいぶん鍛錬を積んだのだろう。
しかし、どう言えばいい。
言葉は意図通りに伝わらないことが多い。
これは説明スキルの問題もあるが、実のところ、相手側の心理的・環境的状況が影響することが多い。
だから、言葉で意図を伝えるのではなく、意図を伝えなくても良いシステムにする努力をすべきなのだと、私は思う。
もちろん、カンタンなことではないが、意図通り伝わらずに、分断が起こるよりも、その方がよっぽどマシである。
「殿下のおっしゃっているのは、代替え可能性の問題です」
と私は切り出した。
「代替え可能性?」
と皇太子は眉をひそめた。
「ここでは仮に兵力差の話をします。
仮に兵士の数が少なくとも、断崖絶壁の場所に城を建てれば、防備は強いですよね。
兵士の数が多くとも、四方八方開けた土地であれば、防備は弱い。
つまり地形によっては、兵力は代替え可能である」
と私は答えた。
「なるほど、地形によっては兵力がいらない場合もあると。
それは面白い見解だ」
と皇太子はうなづいている。
「能力とは、つまり運用次第で、無能にもなり、有能にもなるのです」
と私は答えた。
「そうか……、断崖絶壁の場所など、不便極まりないが、城を守るとすれば、これほど有利な土地はない」
と皇太子は呟いた。
「左様にございます」
と私は言った。
「では、仮に敵の居城が断崖絶壁なら、勇者殿はどう攻める」
と皇太子は尋ねた。
「なかなか、意地悪な質問ですね。
もし敵の居城が、断崖絶壁にあるのなら、ムリに攻めぬことです。
居城から少し離れたところに、砦をつくり、ムリに責めず、居城から出てきた時だけ攻めればいい。
断崖絶壁の居城に籠城していれば、命は守れるが、地域の統治ができない。
だから、敵が籠城している間に、統治を進めればいい。
そうすれば、兵糧攻めしている間も、収益が得られます。
城を落とさねば、攻略ではないという観念を捨てるとよいのです。
つまり、城はあとから落とし、街や村を先に配下に置く」
と私は答えた。
「はははははは……、
勇者殿、それは実に愉快だ。
あなたは異世界で軍師だったのか?」
と皇太子は尋ねた。
「似たようなものかもしれませんね」
と私は顔を緩めた。
「つまり、あれだな。
周囲が描いている勝利条件に左右されずに、
自分で絵を描けばいい。
そういうことだろうな」
と皇太子は尋ねた。
「そうですね。
勝利条件など、人によるのですから、
私は殿下の好きなように、
されると良いと思いますが」
と私は言った。
「もう一つ聞きたい。
必要な能力がどうしても足りない場合、
どうすれば良い?」
と皇太子は尋ねた。
「殿下は、
早く移動したいときは、何を使います?」
と私は言った。
「馬か馬車に決まっておろう」
と皇太子は不思議そうに言った。
「それは、殿下の足の代わりになってくれるからではありませんか?
足りない能力があれば、その能力の代わりになるモノを探せばいいのでは」
と私は答えた。
「なるほどな。全部自分でやらなくていいのか」
と皇太子はうなづいている。
「王というのは、代替え可能な道具を使いこなす専門家だと私は思います。
今回のように、わからない事があれば、わかるものを探せば良いだけなのですよ。
つまり殿下のされている事が、つまり殿下の能力。
王の能力とは、代替え可能な道具を使いこなす能力なのですから」
と私は答えた。
皇太子は黙って、言葉をただ噛みしめていた。
「勇者殿、礼を言う。この借りは必ず返す」
と皇太子は私の肩を叩き、去っていった。
「あんなに元気な皇太子殿下は、初めて見ました」
とヒナは言った。
「そうか……、それはよかった。
で今どれくらい問題解決してるんだ」
と私は尋ねた。
「昨日の事で、実際に進行していないので、問題解決とは言えませんが。
・飢饉問題。
・兵站問題。
・内紛問題。
は、もしかすると、根本的に解決できるかもしれませんね」
とヒナは答えた。
「これで全体の問題の何割くらいだろうか」
と私は尋ねた。
「これで解決しているとすれば、6割くらいでしょうか」
とヒナは答えた。
「あとの問題は?」
と私は尋ねた。
「あとは戦力差ですね」
とヒナは答えた。
「どれくらい戦力差がある?」
と私は尋ねた。
「なんとも言えません。ただ無尽蔵にわいてくると言われています」
とヒナは答えた。
「無尽蔵か……、終わりが見えないのは厄介だな」
と私は呟いた。
「さすがの勇者殿でも、難しいでしょうか」
とヒナは尋ねた。
「私は戦闘経験がないからね。経済や物流、システムでの戦い方は知っているが、魔物との戦い方など経験がないのだよ」
と私は答えた。
「それでも、私たちは勇者殿しか、頼れないのです」
とヒナは言った。
勇者殿しか頼れない……、
その言葉に疑問を感じた。
なぜ私が戦う事になっているんだ。
そもそも、私の問題ではなく。
彼らの問題ではないのか。
私は王に処刑されるのが嫌で従っているが、
魔物に殺されるのも、王に処刑されるのも。
同じだろう。
「今この国にいる民のうち、戦闘要員はどのくらいだ」
と私は尋ねた。
「1割です」
とヒナは答えた。
「ヒナ、軍事の事はわかるか?」
と私は尋ねた。
「もうすぐ騎士団の副団長が来られるので、ついでに聞かれては?」
とヒナは答えた。
(こんこんこん)
ノックの音がする。
「失礼いたします。騎士団の副団長が来られました」
と侍女は言った。
「こちらにお通しして」
とヒナは答えた。
副団長と、ヒナは打ち合わせを始めた。
30分ほどで打ち合わせは終わり、
「勇者殿、打ち合わせは終わりました」
とヒナは言った。
「勇者殿、私で答えられる事ならお答えしますよ」
と副団長は笑みを浮かべた。
身長は180㎝ほどはあろうか、
肩まである金髪で、美しい顔をした男だった。




