本当の勇気
私は何も作戦が思い浮かばず、
当たって砕ける覚悟を持った。
騎士団長との面談をヒナに頼み、
30分後、執務室で面談することが決定した。
騎士団長は見覚えのある顔だった。
「あなたは、私を抱きかかえた方か?」
と私は尋ねた。
男はうなづいた。
「この方が騎士団長です」
とヒナは言った。
「騎士団長殿……、盗賊の件だが」
と私は言った。
騎士団長は目をそらす。
あぁ、職務を全うできないことに、憤りを感じているのだろう。
「騎士団長殿、私はあなたが羨ましい」
と私は言った。
騎士団長は私を見る。
「騎士とは勇敢だ。国を守るために、自らの命だって惜しまない」
と私は言った。
「当然だ、それが我々の存在価値だ」
と騎士団長は答えた。
その言葉には自信と決意がみなぎっていた。
「それに引き換え、私は勇者と呼ばれながら、勇敢ではない。
卑怯で狡猾なことばかり考える。
自分の身を守り、仲間を一人たりとも亡くしたくない」
と私は騎士団長の目を見た。
「卑怯で狡猾な勇者様か、それは面白い。
だが、仲間を一人たりとも亡くしたくないというのは、私も同じだ」
と騎士団長は私の肩を叩いた。
「私には策がある。
この策を使えば、おそらく一人の犠牲も出さずに、盗賊団を崩壊させられるだろう」
と私は言った。
「どんな手だ」
と騎士団長は尋ねた。
「勇者らしからぬ
卑怯な手だ」
と私は答えた。
「いいから、言ってみろ」
と騎士団長は言った。
「まず、盗賊出身者でも兵士に雇用すると知らせを出し、そして兵士になった場合、過去の罪は免除すると知らせを出す。
その後、盗賊団の頭と幹部数名を殺した者、もしくは盗賊の情報を提供した者に褒美を出すとする」
と私は答えた。
騎士団長は考え込んでいる。
「なるほど。確かに狡猾だ」
と騎士団長は鼻をかいた。
私は騎士団長をじっと見つめた。
「それで……、勝手にすれば良いではないか。
王の直轄でもあるのだし」
と騎士団長は言った。
「騎士団の名誉は傷つけないか?」
と私は尋ねた。
「騎士団の名誉。そんなことを気にしてくれたのか」
と騎士団長は苦笑いをした。
「もちろんだ。騎士団は国の要。
私の愚策で、笑いものにされては、夜も眠れない」
と私は言った。
「そうか、そうか。
案外勇者殿は良い奴なのかもしれんな」
と騎士団長は笑った。
「それで、私に配慮できることはないか?」
と私は尋ねた。
「では質問をしたい。
盗賊を雇えということだな」
と騎士団長は言った。
「下っ端の手下連中から雇用する。
食事と寝るところを保証してやれば、彼らはなびく」
と私は答えた。
「しかし、騎士団の連中が納得するかどうか、正規兵でも納得させるのは困難だぞ」
騎士団長は顎髭を触った。
「元盗賊兵は、斥候や工作部隊に回し、勇者の直轄部隊とする。
正規兵には、正規兵を傷つけさせないための配慮だと伝える」
と私は答えた。
「なるほどな。盗賊であれば、斥候・工作部隊はお手の物というわけか。勇者の直轄なら、どこの部隊も文句は出まい。それに他の部隊からも何も言われないだろう。
しかし、信用をしてもいいのか?
盗賊だぞ」
と騎士団長は頭をかいた。
「盗賊という動物がいるわけではない。
盗賊も人だ。
ただ……、
一定条件を備えた時、適性のある人間は盗賊へ変化する。
腕っぷしの強い男が、兵士になるように、
頭のいい男が、商人になるように。
盗賊が生まれ続ける条件が存在する世界である限り、
盗賊は生産され続ける」
と私は答えた。
「なるほどな。
よしわかった。
盗賊雇用のための予算と賞金、それから張り紙の手配はうちがしてやる。
これで騎士団の面子も立つだろう」
と騎士団長は私の背中を叩いた。
「ありがたい。では細かいことはヒナと調整をする」
と私は握手を求めた。
「わかった、じゃあ調整役は副団長に任せるよ」
と騎士団長は握手をしながら言った。
私とヒナは副団長としばらく打ち合わせをして、
騎士団長の執務室をあとにした。
別れ際、
騎士団長は言った。
「お前さんは、勇敢ではないと言ったが、
本当の勇気ってのは、案外お前さんのような奴を言うんだと、
思うけどな」
と……。
私たちは執務室に戻った。
時計を見る。
20:00を回ったところだった。
城の外を見ると、真っ暗だった。
ずいぶん早いな。
私はそう思う。
ヒナはあくびをしている。
「この国の人たちは、何時くらいまで仕事をしているのだ」
と私は尋ねた。
「だいたい17時頃くらいまでです」
とヒナは答えた。
「今は20時だが、ここまで仕事をするのは、あまりないのか?」
と私は尋ねた。
「ないこともないですが、珍しいのは珍しいかもしれませんね」
とヒナは言った。
「とりあえず、今日は案件を二つ片付けたから終わりにしようか?」
と私は答えた。
「そうですね。また明日やればいいですし」
とヒナは笑った。
「そうしよう」
と私はうなづいた。
「では寝室に案内します」
とヒナは私の前に立って先導する。
寝室は執務室の近くだった。
十畳ほどの広さに、
大きなベッド、ソファー、テーブルが置かれたシンプルなものだった。
「湯浴みをするためのものを手配しますね」
とヒナは侍女を呼び指示をした。
洗面器が二つ運ばれてくる。
そうか。この時代では風呂は王侯貴族しか使わないのか。
「どうぞ、こちらです」
とヒナは言った。
生暖かいお湯の張られた洗面器が目の前に差し出された。
「あぁ、ありがとう」
と私は言った。
ヒナはそれをテーブルに置くと、
何食わぬ顔をして、服を脱ぎ出す。
「ちょ、ちょっと待った」
と私は言った。
なぜ?
なぜ服を脱いでいる。
「どうか、されました」
とヒナは不思議がっている。
「今、なぜ服を脱いでいるんだ」
と私は尋ねた。
「なぜって、湯あみをするためですよ」
とヒナは答えた。
「それは、そうだろうが。なぜこの部屋で?」
と私は尋ねた。
「それは、もちろん夜伽をするためですよ」
とヒナは少し恥ずかしそうに答えた。
「夜伽っていうのは、一緒に寝るってこと?」
と私は尋ねた。
「そうですよ」
とヒナは答えた。
「なぜ夜伽をする?」
と私は尋ねる。
「勇者様のお世話全般をするために、私は呼ばれていますから」
とヒナは答えた。
「あぁ、そうか……、いや、しかし。まずいのだよ」
と私は答えた。
「私がお嫌ですか?」
とヒナは泣きそうになっている。
「嫌ということはない。むしろ好みというか……」
と私は答えた。
ホント……、
何を言ってるんだ私は




