机上の空論
先輩からよく言われた。
「机上の空論ではダメ。私たちは実行可能な形を、机上で作るの」
と……。
今回のプロジェクトは『ただ穴を掘る』だけだ。
しかし、
・根回し
・誰が?
・予算(ボランティアor雇用)
・いつ?
・どこに?
・どんな穴?
・なぜ掘るのか?
ここまで決めなければ、プロジェクトは動かない。
今回の場合、
根回しは完了した。
掘るのは農民を主体に、農業大臣の配下と、私の配下が指導に加わる。
予算は農業大臣の所からと、一部負担することとした。
穴を掘るのは、農地に近い低めの山。
この山の等高線上に穴を掘っていく。
一つの穴が直径約1.5mで、深さは50㎝。
掘り出した土は、穴の上に空間を開け、囲うように盛る。
つまり降雨時に山の上から流れてきた水が、
そこでキャッチされるように掘り出した土を利用するわけだ。
私は粘土を用意させ、
山を模した模型を作り、そこに小さな穴を等高線上に配置した。
それを乾燥させ、兵士たちに村々へ持っていかせ、実演させる。
現場では、実際に上から水を流す。
水が穴に溜まる様子を見せれば、それで十分だ。
人は、理屈よりも先に、目で見たものを信じる。
それがたとえ、お化けの類であってもだ。
説明用には、こんな文を一文用意した。
『乾燥地帯でも、湖の近くなら葦が生え、木が育つだろう。
水が留まる場所があれば、土地は生き返る。
ならば、小さな湖をたくさん作ればいい』
あとは、実行させるだけだ。
ヒナは配下に指示し、プロジェクトを実行させる。
「勇者殿は食事も取られないのでしょうか」
とヒナは心配そうな顔をして言った。
あぁそうか。
完全に忘れていた。
「いや。食べます。この世界ではどのようなものを食べるのでしょうか?
手軽に食べられるモノが良い」
と私は尋ねた。
ヒナはいろいろ食事について説明をした。
手軽に食べるなら、パンとチーズ、卵、鶏肉が妥当そうだ。
「それでは、それらを気軽に食べられるように準備させましょうか? お好みのものがあれば、明日からそれにすれば良いのですし」
とヒナは言った。
「それで頼みます」
と私は答えた。
私は商社での食事を思い出していた。
私は食事も先輩の真似をしていた。
先輩の食事ルールは独特だった。
・コンビニ飯+コンビニデザート+プロテイン+サプリメントで構成。
・出社前にコンビニにより、一日の食料を全部購入。
・1日1650kcal?プロテイン分をマイナス。
・カロリー計算も単純化して計算。1650kcalなら165ptとして計算。仮に586キロカロリーのオムライスなら58pt。
・常に未経験のモノを選ぶ(新商品が多い)。
これにより、
今どんなモノが人気があるのか?
どんなモノを売りだそうとしているのか。
理解できる。
体形と健康の維持がしやすい。
判断コストが下げられる。
食事に関わる時間を減らすことができる。
この方法にしてから、食事に時間がかかったことがないし、体調が常に一定だ。
それにスーツのサイズが合わなくなったことがない。
私は運ばれてきた食事を取りながら、仕事をこなす。
身分関係の事があるらしく。
ヒナや配下の者達は共に食べるのを躊躇していたが、
「私は変わる気がないから、このスタイルに慣れてくれ」
と言った。
「つまり命令だ」
と、私は命令するのは嫌いだが、こういう場面では命令するに限る。
「これで飢饉の問題は解決するだろう。当面の問題は、そっちでなんとかしてくれ。
あとは魔王軍の侵攻と、内乱だが、内乱の問題は飢餓問題が解決すると多少緩和するだろう。
となると、あとは魔王軍の侵攻だな。
なにが問題なんだ」
と私は尋ねた。
「人・物・金が足りていません」
とヒナは答えた。
人・物・金か……。
テンプレートのような悩みだな。
そう思った。
「兵站に問題はないか?」
と私は尋ねた。
「ご存じなのですか」
とヒナは眉を上げた。
戦争で人・物・金が足りていないパターンで多いのが、兵站の失敗だ。
「いや。知らないが、どこの世界にも同じパターンはあるんだなと……。
それで理由は横流しか? それとも盗賊か?」
と私は尋ねた。
「街道に出没する盗賊団の仕業です」
とヒナは答えた。
「では、その盗賊団を掃討できれば、魔王軍との戦いも少しは有利になるのかな」
と私はヒナを見た。
「それはそうですが、騎士団を何回も派遣していますが、逃げ足が速くて……」
とヒナは口を濁した。
「騎士団もプライドがあるしね。私がすんなり解決しては、問題だろう」
と私は言った。
「はい」
とヒナは目を伏せた。
「そうだな。
まずは作戦を説明する。
まず、盗賊出身者でも兵士に雇用すると知らせを出し、そして兵士になった場合、過去の罪は免除すると知らせを出す。
その後、盗賊団の頭と幹部数名を殺したもの、もしくは盗賊の情報を提供したものに褒美をだすとする。
私の行うことはこれだけだ」
と私は言った。
「すると、どうなるのですか?」
とヒナは尋ねた。
「考えてみてくれ」
と私は椅子にもたれかかった。
ヒナは顎に手をあて、歩きながら考えている。
「盗賊出身でも兵士になるとなれば、現役の盗賊でも寝返る者が出てくるかもしれません」
とヒナは答えた。
「そうだね。では盗賊団の人数が減れば、盗賊達はどう思う?」
と私は尋ねた。
「俺も早く出ないと、こんなチャンスはないかもしれないと動くかもしれません」
とヒナは言った。
「そうだね。盗賊団の頭と幹部数名を殺したもの、もしくは盗賊の情報を提供したものに褒美をだすとした場合、盗賊団の頭や幹部数名は部下を信じるか?」
と私はヒナの目を見た。
「なるほど……。それは盗賊団の詰み確定でしょう」
とヒナはうなづいた。
「まぁそういう事なんだよ。ただこれを実行するにあたって、騎士団の面子を守らねばいけない。どうしたら良い」
と私は尋ねた。
「勇者殿が農業大臣にされたように、敬意をもって、あとは利益誘導でしょうか」
とヒナは呟いた。
「騎士団は、このような方法は好むだろうか?」
と私は尋ねた。
「そうですね。抵抗はあるでしょうね」
とヒナは目を伏せた。




