実験と実践
「一つ尋ねたいのだが、魔法を使った後、果物や甘いものが欲しくならないか?」
と私は尋ねた。
「それはあります。魔法使いは甘党が多いです」
とクリスは答えた。
もしかすると、魔法を使うとブドウ糖が消費されるのではないだろうか?
この世界だと手っ取り早いのが果物だな。
「魔力の回復薬などはあるのかな」
と私は尋ねた。
「ありますが、高価です」
とクリスは答えた。
「もし手軽に回復できる方法ができたら、クリスはうれしいか」
と私は尋ねた。
「それはもちろん」
とクリスは答えた。
「では、協力してもらえるか?」
と私は尋ねた。
「もちろん。仰せのままに」
とクリスは答えた。
私は侍女に果物を用意させた。
そしてクリスに限界まで魔法を使わせ、
その後、
果物を食べることで回復するかどうか試させた。
すると30%程度は回復することがわかった。
この結果にはクリスも驚いていた。
「30%では使い物にならなそうだが、どうだろうか?」
と私は尋ねた。
「いえ、そんなことはありません。この発見だけでも画期的なことです」
とクリスは答えた。
「そうか……。
わかった。
ではこの発見は国防に役に立つのかな」
と私は尋ねた。
「もちろんです」
とクリスは答えた。
そうか……。
思わぬ収穫だった。
「クリスは軍部に近いのかな」
と私は尋ねた。
「はい」
とクリスは答えた。
「では、この話を持ち帰って、魔法使いたちで研究してくれるか。
たとえば、完全に魔力切れする前よりも、半分くらい残っている方が回復率が高いとか。
そういうデータが取れれば、ずいぶん有利になるだろう。
そして、話を伝えたら、またすぐにここに戻ってきてくれ」
と私は言った。
「わかりました」
とクリスは図書室を出て行った。
私は再び考え出した。
”生贄として動物を捧げることはある。
しかし魔法の安定性が悪い”
これはなぜだろうか?
そもそも古来より、なぜ生贄が大事なのだろうか?
肉か? 内臓か? 皮か?
いや、やはり血だろう。
生贄の血を捧げるというしな。
しかしだ。もしかしたら、血ではなくてもいいかもしれない。
たしか、うろ覚えだが、母乳は血の成分と似ているって話があったよな。
ということは、牛やヤギの乳を捧げるというので、いいのではないだろうか。
待てよ。
糖が有効だとしたら、砂糖入りの牛乳、ハチミツ入りの牛乳などでも代替が可能ではないだろうか?
まあいい。
これは私だけの機密にしておこう。
……
次に私は、本を広げ、複数の魔法陣を横に並べて考え始めた。
これは単に再現性のあるシステムだと。
つまり、
魔法陣とは、仕様書やマニュアルの存在しないアプリであり、
解読とは要件定義の逆算となる。
そして、詠唱がコードによる入力条件であり、発動とはアウトプットのこと。
魔法陣を解析するのは、アプリの解析と同じと考えればいい。
つまりは、ブラックボックス解析。
まず、
・円がいくつあるか
・分割はいくつか
・記号の総数
・左右対称か
・中心があるか
についてデータを取り始める。
おそらく、この魔法陣は工程図と考えて間違いないだろう。
同心円はレイヤー構造。
放射線は分岐・条件分岐。
そして中央が実行トリガーになっている。
構造がある程度分析できたので、次はコードの分析をしてみよう。
まずは頻度分析から始まる。
シンプルに
・一番よく出てくる記号
・円の外周に多い記号
・中央付近にしか出ない記号
を洗い出した。
私の推測が正しければ、
外周に多いのは初期条件。
中央にしかないのは実行命令だ。
逆に、
どこにでも出るのは接続子(AND / OR)だ。
ここまで理解したので、
私は、火・水・風・土の属性の攻撃魔法の本を横に並べて、
それぞれの違いを書き出した。
すると、火・水・風・土それぞれの魔法でしか使われない固有のマークがあることに気が付いた。これを仮に精霊のマークとした。
あとは、それぞれの出力の強さを表すと思われるマークもあった。これを仮に数字とした。
しかし、まったく意味がわからないマークもいくつかある。
その魔法だけのものなのか、まったくわからない。
わからないので、私は仮に作者の署名だとした。
そして、その作者の署名らしきマークを削除した魔法陣を一つ作った。
初級の火魔法だ。
ちょうど、クリスが戻ってきたので、この魔法陣で魔法を使ってみてくれないかと言った。
「これだと、魔法が発動しないですよ」
とクリスは答えた。
「そうかもしれないが、一応やってくれ」
と私は言った。
「わかりました」
とクリスは答え、魔法を実行する。
すると、想像通り魔法は実行された。
「これはどういうことですか」
とクリスが尋ねたので、
「詳しいことはまだわからないが、魔力の減りはどうかな」
と私は尋ねた。
「そういえば、少し消費量は減っています」
とクリスは答えた。
やはり、コードは減らせば簡易化ができ、魔力の消費量も少なくなるのだろう。
私は、その後もコードを書き換え、その度にクリスに試してもらう。
途中でクリスが魔力切れを起こしたので、別の魔法使いを呼び、さらに試してもらった。
細かいところは微妙であるが、とりあえず8割方うまくいくことがわかった。
あとは、魔力を使わないで魔法が使えるかだ。
私は侍女に、動物の血液と牛乳、そしてハチミツを用意するように言った。
そして、魔法使いたちを帰らせ、試していく。
多少リスクがあったが、王にもらっていた装備に、魔法耐性があるものがあったので、それを使いながら試した。
数時間ひたすらに試し、やはり血液は必要ではなく、ハチミツ入りのミルクで事足ることがわかった。
私はあまりのバカバカしさに、呆れてものが言えなくなった。
しかし、このことは誰にも言わないでおこう。
確実に争いの種になる。
とりあえず出していいのは、
・省エネ型魔法陣
・糖分で魔力の回復を促せるという知識
この二つだろう。




