記録の残る場所
数日後。
東区の砂時計塔は、基礎部分だけが残っていた。
崩壊したはずの街は、いま静かに再建を始めている。
「本当に、止まったんだな」
ルノが肩をすくめた。
「時間も、議会も」
「議会の方は、止めたというより“凍った”かな。証拠が全部出たから」
測量局の新しい地図が風にめくれる。
東区と北区、両方の塔の座標が再び記されている。
赤と青の線が、ぴたりと重なっていた。
「石橋ひとつ分、戻ったわけか」
「ようやく、地図が世界と合ったってこと」
私はロッドを手に取った。
傷だらけだけど、まだ動く。
「ねえ、最初にここで測ったとき、覚えてる?」
「そりゃ覚えてる。塔が崩れて、おまえが真っ先に走っていった」
「あのときの私は、考えるより先に足が動いてた」
「で、今は?」
「今は——ちゃんと見たい。世界がどう変わっても、正確に測りたい」
ロッドの針を軽く弾く。乾いた音がして、砂がふわりと舞った。
あのころの焦りが、もう胸の奥では静かに沈んでいる。
「ミリア、また無茶する気か?」
「しないよ。今度は計画的に」
「ふうん……おまえがそう言うときは、大抵ろくなことにならない」
ルノが肩をすくめた。その仕草が少しだけやわらかく見えた。
「でも、今のおまえなら、信じられる気がする」
「そっちこそ、油断しないでね」
「そこは任せろ。慎重さが俺の唯一の長所だ」
二人で顔を見合わせ、苦笑を重ねた。
風が頬を撫で、砂の匂いが懐かしく感じる。
「測る。今度は、未来を」
「……いいな」
ルノが少し笑った。
「最初のときより、ずっと落ち着いてる」
私は笑ってロッドを握り直した。
ルノと目が合う。何か言いたげで、でも言葉を飲み込むその仕草に、少し笑ってしまう。
やがてルノが息を吐き、ようやく口を開いた。
「でも、芯は変わってない」
「何が?」
「止まらないってことさ」
「ちゃんと追いついてきてよね」
ルノが目を細めた。少しだけ困ったような、でも楽しそうな顔。
「そいつは厳しいな。なら、俺は止める役でもいいか?」
「それも無理でしょ」
「はは、やっぱ無理か」
私が笑うと、ルノも笑った。
「まあ、引き離されないように、努力はするよ」
「期待してる」
崩壊の跡に立つ影が、夕陽に伸びて重なる。
「そういえば、議会の連中、処分どうなった?」
「全員尋問中。時間改竄罪で、長いお説教コース」
「それ、測る仕事より疲れそうだな」
「ね、だから、私は現場がいい」
ロッドの針がゆっくり回り始めた。
測量データが空に浮かび、光の線が街を描いていく。
崩れた塔の基礎の上を、風が通り抜けた。
砂の粒が一つ、きらりと光って宙に舞う。
……あのとき止まった砂。
今は、ちゃんと流れている。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
ミリアとルノの関係や、〈砂時計塔〉の仕組みなど、どこまで描くか迷いましたが、今回は「時間を測る」という一点に絞りました。 短くまとめようとしたので、わかりにくい部分もあったかもしれません。もっと精進が必要だなって感じました。がんばります!
ブックマーク・評価を励みにしています。
もし楽しんでいただけたら、次は「時間の向こう側」を、描いてみようと思います。
ありがとうございました。




